ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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無言の帰宅

商人達を、西の都まで護衛し送り届けた後、ユクモ村への岐路に就く2人の足取りは重い。

サラの遺体をどうするか迷った挙句、火葬にした。

コンラートにサラのこんな姿を見せるわけにはいかなかった。

 髪を束ね出来るだけ根元から切り取る。

それを綺麗な水で丁寧に血を洗い流し、乾かす。

 動物の糞や、自分たちの装備、荷車の木、枯れ木、都で買った藁、材木。

燃やせるものは何でも燃やして灰にした。

「コンラート先生になんて言おう」それしか頭に無かった。

 ユクモ村に着いたとき、ついぞ言葉は思いつかなかった。

 骨の入った木箱(商人たちの売り物の壺とその箱を買い取ったもの)を手渡されたコンラートは思考停止した。

そして、やや時間を置いて、発狂寸前にまでなった。

頭の中にサラの笑った顔、怒った顔、恥ずかしがった態度、年頃の女の子らしい可愛い仕草。

今までサラと過ごした思い出が一気に頭に流れ込んできた。

そして目の前の骨。

一瞬殺意が沸いたが、全ては自分の言葉から始まった。

サラを死地に行かせた自らの過ち。

 彼らはずっと謝っていた。

その後王都に戻り、貧困者の為ハンターを続ける云々言っていたが、コンラートの頭には入っていなかった。

彼は自殺を考えていたが、隣にいる娘を見て少しだけ正気に戻った。

ジルは母親の死を理解していないだろう。

母親が帰らない事に苛立ち、泣いていた。

 いつのまにか日は沈み、辺りは暗くなっている。

村長からの手紙と作って来てくれた夕飯がテーブルに置いてあった。

呆然自失のまま立っていたコンラートは2人が帰った事も村長が来ていたことも気がつかなかった。

当たり障りの無い内容だったがコンラートは涙が止まらなかった。  

人からの心配がこれだけ心にしみた。

 ジルはすやすやと寝ている。

可愛い寝顔だった。

「私はこの子を守らなければならない」そう強く思った。

 

「ジル、ジル、起きなさい。ご飯を食べよう。村長さんがご飯を作って来てくれたよ」

 

「んむ、んんん、お父さん?おかあさん帰って来た?」

 

「お母さんな、お仕事で帰るの遅くなるってさ」

 

「やだぁ。おかあさん、おかあさんと一緒がいい。うわああぁん」

 

コンラートは涙を堪えてジルを抱きしめた。

 

「お前の生誕祭は明日やろう。皆楽しみだって言ってたぞ」

 

人は近しい者が亡くなったとき、そうそう割り切れるものじゃない。

忘れる事なんて出来ない。

時間は解決してはくれないのだ。

でもジルにはこの後本当の事を話さなければならない。

その時に遺髪と遺骨は、村全体が見渡せる丘に埋めようとコンラートは思った。

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