ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
村で唯一のハンターがいなくなった事で、村長シーラ・ステルヴィアは少し焦っていた。
村中の戦えそうな若者をピックアップしたが皆、難色を示した。
村民はサラの強さを知っていたし、「憤怒を狩る者達」の名声はこの村にも届いていた。
そのサラがやられてしまった。
立候補などするわけが無い。
外部のハンターは話にならない。
数は多いが、村の為に命をかけてくれると到底思えない。
そんなある日、1人の男が少年を連れ、シーラ家を訪れた。
村外れの猟師小屋に、肺を患っている少年の母親と3人で暮らしているのだが、シーラはあまりこの男が好きではなかった、
猟師としての腕はいいのだが、金使いが荒く、いつも酒臭かった。
暴力は振るわないようだが、妻に薬も買ってあげない有様だ。
「それで本日はどのようなご用件でしょう?」
「あんた、ハンターの成り手を募集しているんだって?俺の息子をと思ってよ」
男の言い方は何か引っかかる物言いだったが、シーラは努めて冷静に聞いた。
「ええ。確かに。でもそれには本人が望む意思が無ければ駄目ですわ」
「勿論あるさ。なあ!」
どんっ
男は少年の背を叩いた。
「う、うん」
(なるほど、「怯え」ですわね。暴行は受けていないけど言葉によるって所かしら)
「条件があるのだけれどよろしいかしら?」
「なんだ?」
「依頼料の取り分はすべてこの子のもの。この子を独立させる事、今後この子に関わらない事。それが守られないようなら無理ですわ」
シーラは賭けに出た。
以前から、ろくに食事を与えられていない少年を気にかけていたが、口実を得られなかった。
これはチャンスといえる。
「勿論、貴方には紹介料をお支払いいたしますわ」
男は数分考えた。
邪魔な食い扶持がいなくなり、病気の女がいずれ死ねば自分は自由になると。
さらに金までもらえる。
こんな旨い話は無い。
顔をにやけさせている男に村長の殺気は気づいていなかった。
「それともう一つ。この子の母親の入院治療費をこの子から出します。いいですわね?」
有無を言わせない眼光の鋭さに男は一瞬たじろいだ。
元トップハンターの殺気が男を射抜く。
「わ、わかったよ。後はまあ頼んだ」
男はそれだけ言うとそそくさと村長宅を後にした。
「さて、改めまして。私は村長のシーラ・ステルヴィアと申します。貴方の事をお聞かせくださいな」
少年の名はノヴィス。
歳は16歳。
猟師の父親と髪結いの仕事を持つ母親との間に生まれた。
父親は、少年がどんなにがんばってもほめる事はしなかった。
父親の狩りの手伝いの傍ら、ノヴィスは森で母親の病気に効く材料を自発的に採取していた。
父親は村へ獲物を卸す時、家族にほんの僅かな金しか渡さなかった。
ノヴィスは採取した材料を村長やコンラートに渡し、その薬を母親に与えていた。
彼はその閉鎖された家族の中で自分を内側へ閉じこもるようになった。
話し相手は母親しかいなかった。
シーラは家族の事に踏み込めなかったが、今回は好機だった。
少年とその母親は確実に村の人間である。
何とか助けたかった。
この日、ノヴィスは村のハンターになった。
シーラ・ステルヴィアが現役時代後半に使っていた「霊弓ユクモ〔破軍〕」を譲り受ける。
「この後、コンラート先生の所へ一緒に行きましょう。お母様の入院の事です」
「あ、あの僕は何をすれば… …」
「最初の一ヶ月は、私と村の教官が貴方に対人、対モンスター訓練を施します。キツいですが音を上げないように」
「は、はい!」
「そして、その後二ヶ月間、実際に依頼を受け、実戦訓練です。キノコ、薬草など採取して頂きつつ、モンスターが出れば討伐して頂きます。その時無理に倒す必要はありません。依頼料はあなたが8割、村へは2割ですわ。専門ハンター様への村各施設割引や、待遇については後でご説明いたします。何か気になる事があれば、遠慮なくご質問下さいませ」
「はい!がんばります」
猟師・・・鳥や動物を専門に狩る者
ハンター・・・全ての動植物の採取、全モンスターの討伐者