ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
天暦112年
サラが命を落として10年、ジル・ローレンツは15歳になった。
顔つきに若干幼さが残るものの、黒い髪、筋肉質だがすらっとした体型は母親ゆずりだ。
特に腰のくびれは曲線が美しかった。
勿論、コンラートはあまり見ないようにしている。
父親の手伝いの傍ら、ジルはジンベイと共に毎日走り込みをしていた。
将来は母親の夢だったお菓子屋さんを作りたいが、その前にすべき事があると分かったからだ。
サラのオトモだったジンベイは、ジルが生まれたときから世話をしてくれたもう一人の親だ。
彼は「ジル坊」と呼び、強い絆で結ばれている。
ジンベイは現在22歳。
アイルーの平均寿命が40歳だから、走り込みはかなり体に堪える。
それでも文句一つ言わず、ジルに従っていた。
内心では悲鳴を上げていたが… …
この頃のコンラートは口数がかなり少なくなってきた。
元々多い方では無かったが更にそれは少なくなってきた。
彼は時々、夜中に一人で泣いていた。
サラを失ったダメージは誰にも図る事は出来なかった。
スチュアート、カーライル達とはあれ以来疎遠になってしまった。
サラの「憤怒の双剣」は大事に仕舞って誰にも見せてはいない。
「お父さん!お母さんが死んだ理由、本当のこと教えて!」
ジルがそれを言うのは今回が初めてではない。
たいていはコンラートが言葉を濁し、ジルが怒って外に出る。
しかし、この日は違った。
「もうこんな気持ちで生活するのは嫌なの。大体は理解している。だからお父さんの口から直接聞きたいの」
コンラートは娘のジルに10年もの間サラの死を話せないでいた。
娘の口から次に出る言葉が分かっていたからだ。
「母さん… …サラは――」
「そいつまだ生きているの?」
「その場でスチュアートとカーライルが討ったよ。サラの敵はとってくれた」
「まだだよ。私はこんな思いになる人をこれ以上増やしたくない。平和な世界を作りたい。」
(口調がだんだん似てきたな)
コンラートはここで止めるべきだと思った。
反面、サラが残した娘への思いとコンラート自身、モンスターによる人間への被害がこれ以上出ない事を望んでいるのは、ジルと一緒だった。
結局コンラートは折れた。
床下の薬剤庫の一角から布に包まれた「憤怒の双剣」を取り出すとジルに手渡した。
「これを持って行きなさい。サラの形見だ。多少メンテナンスが必要だが、加工屋のゲンさんに… …」
「お母さんの匂いがする… …」
形見に顔を埋めるジルにコンラートは多少の恐怖を感じた。
でも自分に娘を止める事は出来ない。
(これで良かったのか?サラ、私にはもうわからない)
ジンベイもずっとサラと戦ってきた。
「10年前のあの日、自分はあの場所に居なかった」それをずっと後悔していた。
彼は今度こそ、自分の大切な人を絶対に守ると強く誓った。