ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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大事な人材

元トップハンターの訓練所の教官、そして15歳で初陣し、19歳で治癒不可の傷を受けるまで「暴姫」の異名を持つ村長、シーラ・ステルヴィアによる訓練は過酷を極めた。

シーラはサラの娘であり、女であり、自分と同じ歳でハンターになるジルに特別な思い入れがあった。

 対人戦闘訓練用に、ユクモの堅木より造りし斧を片手で軽々と持ち、構える。

隙の無い所作だ。

ジルにも勿論、同じ木で作られた武器が渡されている。

 

「お好きな所に打ち込みなさいな。私を殺す気で」

 

 そんな事を言われてもジルは今まで武器練習をしていなかった。

 

「やあぁー」

 

適当な箇所に打ち付ける。

それを“ひょい”と避けられ、おつりにシーラの左ひざがジルの腹に叩きこまれた。

 

「うぐっ… …」

 

「双剣を扱う時は、体を開かず連撃が出来るように、常に左右のコンビネーションを考える事―――」

 

ジルは腹の痛みでシーラの言葉は耳に入っていなかった。

シーラもハナから言葉で解らせるつもりはなかった。

戦闘訓練は座学ではない。

体に覚えさせる必要があった。

 打ちのめされてもジルは手を休めなかった。

しかし、ジルの稚拙な攻撃はシーラの武器にすら殆ど当たらない。

稀に当たったとしても、シーラは刃の直撃を避けズラしている。

 反対に教官は、ジルに好きなだけ打ち込ませた。

攻撃方法と、感覚を覚えこませる為だ。

 

「対人戦では、攻撃一辺倒だと手の内を読まれる。フェイントを混ぜ的確に相手の急所へ確実に入れろ」

 

首、心臓、頭、肝臓… …狙った箇所がことごとく弾かれる。

 

「ゆっくりやるからよく見ろ。フェイントとはこうやるんだ」

 

 それは全力の1/3のスピードだったがジルは受けることで精一杯だった。

上半身への攻撃で、下半身への防御がおろそかになっている所へ足払いをされ、ジルは転倒し、間髪入れず木剣を首に突きつけられた。

 

「人間はモンスターと違う。一撃入れられればそれ以外はフェイントでいい。他にもパターンがある。それらを全て頭に入れろ」

 

 ジルには何故ハンターの訓練で、ここまで徹底的に対人戦を行うのか分からない。

2人とも優しさは入れなかった。

人間は、時にモンスターより残酷に人を殺すからだ。

 そして訓練期間の3回程度、対モンスター擬似戦闘訓練が行われた。

ハンターが弱らせ、捕獲したモンスターをジルが倒す手はずになっている。

訓練所の広い敷地の中で、体は鎖で繋がれている上に、シーラと教官はモンスターが逃走した万が一に備え待機する。

こんな万全な環境で実地されているのに、ジルの頭は恐怖でいっぱいだった。

辺り一面立ち込める血と混ざり合った獣特有の臭い。

人間に対してのむき出した殺意。

これは試練だった。

クリア出来なければ実戦でより殺気立ったモンスターは倒せない。

それでも1回目より2回目、3回目になると足が震えながらも恐怖に打ち勝てた。

怪我をしている上に、鎖で繋がれて動きが鈍っているモンスターなど、いくら新米ハンターのジルといえど相手ではなかった。

しかも相手は全てアオアシラ。

 3度目の戦いの時、ジルは心の中に、1回目の時とは別の恐怖が芽生えた。

 

(このモンスターは、自分が私に殺される事を知っているんだ。私が一方的に命を奪う?そんなの嫌だ… …)

 

 

 青熊獣アオアシラの左腕が、ジルの右頬をかすめる。

鎖で繋がれている為振りぬけず、かすめただけだが、ジルは動けずにいた。

すかさずシーラは持っていた木剣斧を、アオアシラの首目がけて思いっきり振り下ろすと、一撃で両断した。

木剣斧はその付け根からポッキリと折れた。

 

「ふう。やはり痛みますわね」

 

 ジルは見た。

シーラが何の躊躇無く、アオアシラを肉片に変えた事を。

 

「あ、あの… …私… …」

 

 ジルは失禁していた。

 

「ジル、貴方は優しい子ですわね。この子の目を、怯えた感情を理解してしまったのでしょう?でもね、これが貴方のやろうとしている仕事、すべき事です」

 

「命を奪うのが私の仕事… …」

 

「少し違います。貴方の仕事は相手を殺す事では御座いません。貴方の夢がかなう。それが私達の村を救う結果に繋がります」

 

 そう言うと、シーラは地面に膝をつき、頭を下げた。

ジルが見た事もない所作だったが、ジルの心の芽を開かせるのに十分だった。

教官も深々と頭を下げている。

 

「どうか私達の村をお守り下さいませ」

 

ジルに対しシーラ・ステルヴィアは本心で願った。

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