ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
ジル・ローレンツ実戦訓練4日目。
ここユクモ村周辺の森は通常、大型のモンスターは殆ど出現しない。
代わりにジャギィ種やファンゴ等、小型のモンスターが多く出る。
うじゃうじゃいる。
ジルの採取中、ノヴィスの仕事は護衛として、そいつらを排除する。
まだノヴィスがひよっ子だった頃、教官が自分にしてくれたように。
ジルの半径10メートルに近づく敵を、ノヴィスの正確無比な射撃は一撃で頭を射抜いた。
通常は、図鑑で調べながらその色や形を照らし合わせ、必要な素材を採取する。
なにせこのユクモ地方に生息しているキノコだけでも、アオキノコ科、マンドラゴラ科、毒キノコ科、など151種類もある。
しかしジルは、医者の娘である為、ほぼ頭に入っている。
幼い頃より培ってきた知識は伊達ではなかった。
群生場所を薬草師のレーナに聞くだけで済む。
「ジルは凄いな。僕なんてまだ全部覚えていないのに。あと何回か大型の依頼を受けたらひとり立ちだ」
先輩ハンターのノヴィスにお墨付きを貰ってジルは嬉しかった。
基本を忠実に毎日自主練しているし、大型もノヴィスにサポートを受けながらだが倒している。
彼は教え方が上手だった。
モンスターとの呼吸を背中で教えてくれる為、初見でも安心感があった。
ノヴィスはジルと11歳も離れているが、そう感じさせないほど穏やかな青年だ。
さらさらの金の髪、優しい目、笑うと男の子のようにくしゃっとなる顔は、村の一部の女性に人気がある。
ちょっと頼りないところがあるけれど、10年もハンターを続けている実力はある。
2人はひと段落すると、見晴らしのいい場所に移動し、昼食をとった。
「ノヴィスもシーラ村長からお守り貰ったんだね」
「うん。この村のハンターになる者全員にあげるらしいよ。何か不思議な力があるんだってさ」
「私もそれ説明されたけどわけわかんない。だって、この珠にそんな効力あると思わないもん。お母さんだって… …」
「僕はそうは思わないな。詳しく知らないけど、サラさんは誰かを守って亡くなったんだろ?普通誰かを助けたくても助ける事なんて出来ない。そのお守りの力で… …」
そこまで言ってノヴィスはジルの顔を見てしまったと思った。
ジルは泣きそうな顔をしていた。
ノヴィスは無理やり話を変えることにした。
彼がいつも腰に挿している刀がある。
「鉄刀」彼はこの刀を使えない。
せいぜい近づく小型モンスターに対してけん制に使うだけだった。
「何?」
「ジルにこの刀の話したっけ?」
「知らない。聞いてない」
ジルの機嫌はまだ直っていないようだ。
「僕の父さんは今じゃ殆ど会っていないくらい仲が悪いんだけどさ」
「うん」
「父さんから貰った唯一のもので、僕が小さい頃、行商人から気まぐれでこの刀を買ってくれたんだ」
「ふーん。刀なら私達の村にもあるけど違うの?」
『うん。なんか、ここから遥か東の島国の刀だってさ。「鉄刀」っていうらしいんだけど、強度はモンスターの素材から作った武器より劣るらしい』
『なんか「鉄刀」って見たまんまじゃん。名前とかないの?』
「よくぞ聞いてくれました!」
その言葉とノヴィスの顔を見て、ジルはプッと噴出し笑った。
「あははははは。ノヴィス子供みたい」
「笑うなよ。いいか?見てろ」
そう言うとノヴィスは目釘(刀の柄の上部にある、木で出来た杭)を外すと、ジルに銘(目釘を外した柄の中身、刀身とつながっている)を見せて来た。
「何これ。おもちゃみたいだね」
『「時雨一文字・金滝』たぶんこの刀の名前と人の名前?だと思うけど、僕らの言葉と違うから何が書いてあるか分からないんだ」
「じゃあ、ノヴィスがつけちゃえば?」
「いや、いいんだよ。別の名前付けちゃったら刀が怒るかもしれないし、それに… …」
「アオハレは?その刀の名前」
「変な名前だなあ」
「今、お父さんと仲悪いかもしんないけど、いつか晴れになる時がきっと来るよ。雨は必ず止むから」
この日の採取依頼は通常の半分程度で、失敗に終わったが、2人の心の隙間は埋まった。
シーラ・ステルヴィアは、何か感じ取ったのか、小言は何も言わなかった。