ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
ユクモ村を南に行くと漁港がある。
村管轄の港に大型帆船が停泊していた。
ギルドが所有する2隻の船のうち、エメラルド号の姉妹船グリーン号。
動力源に火の国の火山から採れる強燃石炭を用いている為、風の無い時でもかまわず進める超高性能船だ。
ギルドが何故そんな資金を持っているのかと言うとモンスターの素材はそれだけ高く取引される。
その何割かがギルドに行く。
今回のようなモンスターの氾濫はギルドにとって人命より収益を大事にする。
勿論それを表立ってそれを言うことはしない。
あくまで「地域の平定に動く」を強調している。
港から船で北へ7日。
海はだんだん荒くなり、船体はがっくんがっくん揺さぶられる。
ジルにはそれが耐えられなかった。
立っていれば吐き気が怒涛のように押し寄せ、寝ていても気持ち悪さは治まらない。
ノヴィス達やジンベイが甲斐甲斐しく世話をしているが、ジルは受け答えが満足に出来ないほど苦しんでいる。
しかし船員達はともかく、ノヴィスやシモンスキー、それにアイルーたちは涼しい顔をしている。
ジルにはそれが少し恨めしかった。
ジンベイがジルのポーチをまさぐる。
コンラートから受け取ったポーチだ。
その中に酔い止めが入っていた。
全員分。
「ジル坊、これ飲むニャ。なんで早く言わないのニャ」
ジルがゆっくり体を起こす。
「うぷっ… …入ってるって知らなかったもん… …」
ジンベイからひったくるように薬を取ると口に放り込んだ。
「僕たちも貰っておこう。ジンベイ、いい?」
「勿論ニャ。」
「ハンターさん、船倉の真ん中の荷物片付けたから、そこで横になるといいよ」
船員がジルのために船で一番揺れが少ない場所にスペースを作ってくれたようだ。
「ありがとうございます。容態が落ち着いたら行きます」
答えられないジルに代わりノヴィスが答えた。
さすがにシモンスキーも船員も「船酔いするハンターを初めて見た」とは口にしなかった。
ジルがあまりにも苦しんでいたからだ。
因みに船酔いは体質的なもので、慣れもあるが、今まで乗船したハンターが平気だったのは、単なる偶然である。
「これからどんどん寒くなるっす。俺が御者した荷車の中に防寒具があるのでそれを着てほしいっす」
「我輩たちの分はあるのかニャ?」
「勿論アイルー用のも全匹分あるっす。ベリオロスとウルクススの素材で出来ているから暖かっすよ」
「助かります。ありがとうございます」
「一応貸し出しなのでボロボロになっても返却して欲しいっす。直せば使えるっすからね」
シモンスキーの話を半分聞き流しながらノヴィスはジルを見る。
ジルはスヤスヤ寝息を立てて眠っている。
(ジル、良かった。君の体力低下が心配だったけど、さすがコンラート先生。薬が効いているみたいだな。でも下船したらしばらくはみんなでジルを守らないと)
ジンベイとノヴィスの目が合った。
同じことを考えていたようで、無言で頷き合った。
到着までの間、ノヴィス、クム、ジンベイはひたすら模擬戦闘を行った。
たまにジルを交えて。
ジルは考えを改め直した。
凍土で苦しんでいる人たちがいる。
助けるのは当然だと。
見捨てたら自分の理想の世界とは程遠くなる。
ラックは武器、道具作りと装備点検、ガーグァの世話だ。
ガーグァは凍土を踏破出来ない為、下船後まもなくお別れになる。
しかし、ラックは愛情を持ってガーグァの世話をした。
大型帆船グリーン号はそれぞれの思いを乗せて荒波を北へと向う。