ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
波止場のポポの小屋。
草食種のポポは温順で、凍土において飼育や農耕、荷物の牽引と幅広く人々に重宝されている。
ジルはハンターになりたての頃、時間が空くとモンスター図鑑をよく眺めていた。
ハンターなら誰しもする事だが、特にジルは草食種が好きだった。
つぶらな目、草をもぐもぐする口。
中でもポポはとても家族思いの優しい動物で、特に子供を大事にする。
ジルはポポの目だけを何度も絵に描いた程だった。
ここの係員は2人だけ。
「荷車4台ならポポ2頭で足りるよ。こいつは力持ちなんだ。俺らもまたここへ戻らなければならないから、移動費が往復で2000zだ」
「この方たちはギルド直令のハンターさんっすよ?通達来ているはずっすよね?」
「ああ、そうだった。忘れてたよ。俺ってうっかり屋さんだなあ」
シモンスキー・コンスキーと顔なじみな筈なのに、男はがめつかった。
つまり、2重に金を取ろうとしていたのである。
「こいつ… …」
クムとジンベイは武器に手をかけた。
クムは自分達に対して舐めた態度をとったこの男に対して、純粋に怒りが沸き、ジンベイはサラやジルの金が、悪党に1zでも渡るのが許せなかった。
「まあまあ、落ち着くっす。こんなの世界では当たり前のやりとりっすよ。クムならわかるっすよね」
「だから毎回喧嘩になるニャ… …」
「俺が悪かったよ。いつもの癖が出ただけだって」
ノヴィスとジルは終始?だった。
それだけユクモ村民が皆、優しい証拠だった。
ジンベイは今初めて、コンラートがユクモ村を選んだ理由が解った気がした。
荷車の車輪をソリ板に換装し、早春村へ向かう。
ユクモ村での季節は秋。
この土地の季節はもう冬だ。
足元は既に雪が積もっていて、北へ行けばそれはさらに深くなる。
凍土のモンスターはユクモ村周辺に比べ、遥かに強力で狡猾である。
昏睡させて生きながら獲物を食べる者。
氷漬けにして獲物を食べる者。
捕らえた獲物の血肉をもきゅもきゅして食べる者。
雪上での戦闘はクム以外、皆初めてだ。
しかし、野山で足腰を鍛えていた為、慣れればそれほど苦ではなくなった。
ジルには雪で遊ぶ余裕すら出てきた。
現在戦闘中。
6匹のバギィに囲まれていた。
オトモたちはポポ、荷車を護衛。
バギィは口から催眠性のある唾液を出し、獲物を眠らせる厄介な相手だ。
しかしジルはそれらを利用し、足運びを学んでいく。
ノヴィスは真面目に矢をヒットさせていく。
目標を3つ倒した時点でジルからお咎めが入った。
「駄目だよ。まだ倒しちゃ」
「なんで!!!」
「雪の重さに慣れないとこの先たぶん死んじゃうよ。ねえノヴィス」
「あん?」
ぴんしゃか動くバギィに対し、ノヴィスは若干イラッとしながらジルの方へ振り向いた。
バンッ
ジルの投げた雪球をモロに顔面に食らいノヴィスは尻餅をついた。
オトモたちはゲラゲラ腹を抱えて笑っている。
「なにすん… …」
急いで顔の雪を払い見ると、血の花びらが咲いた雪の上にジルは立っていた。
3匹のバギィは全匹、首をかき切られ息絶えていた。
ジルとは約5年ぶりに一緒に狩りをしたが、まるで別人のように思える。
時間が合うときはバーで一緒に酒を飲み、診療所で会話はするが、まるで別人だった。
「今度は遊びじゃない。ポポを私達から遠ざけて!全力で護衛!」
ジルの叫びにオトモたちは素早く行動する。
ノヴィスが村への方角を見ると、氷のいびつな帽子を被った何かが遠くからこちらを凝視していた。