ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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凍土で1番早く春が来る村

 ユクモ村北東約30里の地点に、霊峰と呼ばれる場所がある。

雷狼竜ジンオウガが縄張りを持つこの神域は、天暦20年嵐龍アマツマガツチが飛来し、周囲の集落や村に壊滅的被害が出た。

当時の村や集落は、現在全て残ってはいない。

そのアマツマガツチは被害を受けた村の一つ、バジル村のハンターが撃退。

戦闘でアマツマガツチは深手を負い、この地にはもう戻ってこないだろうと考えられている。

 天暦117年現在、霊峰周辺半径30里以内では村が二箇所ある。

 そのうちの一つが、霊峰北2里に位置するガザ森林公園内のコルト村だ。

周囲にあった村の生き残りたちがこの村を形成した。

森は整備され、外周は不可避の罠がいたる所に配置され、見張り小屋もある。

村長を含め、村民達は自然主義者の集まりで森と調和し、一体となっている。

だからこの村の者は、老人幼子を除くほぼ全ての人間がモンスターとの戦闘経験を持つ。

 

「俺はハリス。ハリス・キングラー。こっちは… …」

 

「カミーユ。よろしくね」

 

「時間がない。歩きながら話そう。ここは危険だ」

 

(カミーユ?女性?)

 

 ここでノヴィスが聞き返さなかったのは偉かった。

「カミ―ユが女の名前で何が悪い!!」

と怒鳴られて、殴られることはよもや無いだろうが… …

 確かに。

村近くのこの辺りで、モンスターが出現する事は異例である。

 ジルたちは挨拶もそこそこにシモンスキー、ラックと合流し、村へと急いだ。

凍土で一番早く春が来る村

 住民は意図的に春咲草を村中に植えている。

春咲草はピンク色の甘い香りのする、大きな花が特徴だ。

春になると村全体が桃色に覆われ幻想的な広がりを見せる。

綺麗な色合いだけではなく、収穫時期が短い為、寄って来る昆虫が野菜の受粉の助けにもなっている。

冬を越す為の収穫、備蓄。

極端に春が短い為、夏に春の祭典を。

毎年行われていた当たり前のことが今年は全くできていない。

 竜が村へ来襲するたびにバリスタ(据え置き式の大型弩砲)で村の男たちが応戦。

落ちたところへアレクサンドルが迎撃。

 ムロ(収穫した野菜を数ヶ月間保存できる室)は荒らされ、死傷者は増え、おまけに食料不足。

肉食モンスターの臭くて硬く、ゴムのような肉にまで手をつけている。

 村はさながら戦場だった。

正面門は高さ7メートル。

凍らないように油が塗ってあり、レバーを回して開く仕掛けになっている。

外周は緊急で作り上げたであろう、バリケードが幾重にも重なっていて、等間隔に見張り小屋が配置してあった。

 その見張り小屋からはバリスタを構える男たちがいる。

物々しい雰囲気だ。

 シモンスキーが照明弾を上げる。

“ぎぎぎぎぎ”と音を立て、正面門がゆっくり上がっていく。

 

「凄い武装してますね。襲撃頻度はどのくらいですか?」

 

答えたのはカミーユ。

 

「毎日よ。今日はまだ来てないけどね」

 

「毎日?」

 

今度はハリス。

 

 

「そう。毎日だ。正直言って君たちの装備は… …」

 

『貧弱ニャ』

 

 ジンベイとクムが口をそろえて言う。

 

「人間の装備は滞在中に替える事は無理だが、アイルーの装備なら端材から作れる。さっきの氷砕竜は君たちが倒したんだから好きに使うといい。」

 

「我輩のニャンテツケンは健在ニャ。あいつの氷に遅れをとっただけニャ」

 

「問題はオレの槌ニャね。早速作… …」

 

 門が上がりきった所に、2メートルは超える偉丈夫が立っていた。

体を覆いつくす盾とガンランスと呼ばれる身長より長い砲の付いた槍。

一目でジル達は分かった。

この男が英雄アレクサンドルだと。

 

「アレク。ただいまっす」

 

「お帰りシモン。積もる話は後だ。ハリスとカミ―ユは俺の屋敷へ。交代の手続きと全報酬を払う。荷車の君も一緒に来てくれ。部屋を案内する」

 

「ラックニャ」

 

「そうか。ラック君。君にはいろいろ手伝ってもらう事もある。よろしく頼む」

 

「ジル・ローレンツ」

「ノヴィスです」

「クムニャ」

「ジンベイニャ」

 

「アレクサンドルだ。この村の村長兼ハンターをしている。2人には到着早々悪いが、早速動いてもらう事になる。つい先程、村の西側の鉱山で新規の空洞を作業員が見つけた」

 

「・・・ ・・・」

 

「奥に続いているようだが全長が分からない。どうやらそこにギギネブラが巣くっているらしい。これを撃滅して欲しい。“へっどふぉん”と解毒薬は用意してある」

 

「へっどふぉん?」

 

「ああ、高級耳栓だ。注意しなければならない点は、これを着けると音が全く聞こえなくなる。耳栓とは一線を画す。戦闘前直前にしたほうがいい。何か質問は?」

 

「無いわ」

 

「僕も無いです」

 

「そうか。頼む。出張れなくてすまん。村から目が離せなくてな」

 

「ジンベイ、帰ってくるまでにジンベイの新しい武器、用意しておくニャね」

 

「ありがとニャ」

 

 全員、死地に行くことに慣れていた。

それはハンターを目指した時からかもしれない。

サラも死ぬ間際までハンターとして冷静に行動していた。

ジルはコンラートから貰ったホットドリンクを手に取りノヴィスに渡した。

 

「私が殺されたり崩落が起きても、助けようなんて思わず逃げてね」

 

「それは僕の台詞だよ」

 

 お互い、思っていることとは反対の事を言い合った。

二匹のオトモは黙って2人を見ている。

 空は晴れ、頬に突き刺す風が妙に心地よかった。

 

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