ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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生理的嫌悪

 早春村西にある崖。

切り立った崖で、頂上は雪の浸食により、大型獣(ティガレックス、イビルジョー、ベリオロス)が寄り付かない刃岩になっている。

崖は補強されていて、崩れる心配は無い。

坑道を掘り、長年ここで鉱石を採掘している。

しかし、近年採掘量が伸び悩んできた。

そこで新規開拓を。

毒怪竜ギギネブラはそこにいた。

 

 毒怪竜ギギネブラ。

人はこの名前を聞くと三者三様の答えが返ってくる。

 

生理的嫌悪。

毒の怪物。

洞窟の主。

 

ヒルの様な胴体に前後足が生えていてその間にムササビのような翼がある。

 勿論ジル達は相手が毒怪竜と聞いて解毒薬は忘れていない。

あまりにも毒のことが頭にあり、応急薬を忘れ、慌てて取りに戻ったくらいだ。

毒、毒、毒… …

 

 ギギネブラの毒は、この世界のどんな生物よりも強力だ。

 毒腺は口、腹、尾まで伸びている。

毒を吸い込んだ場合、処置しなければその場で死ぬ。

10秒経たずに死に至る毒だ。

 だから洞窟内を進むジル達は足取りが重かった。

 

規則正しく掘り進められた網の目のような坑道。

その一番右奥にぽっかり大きな穴が開いていた。

へっどふぉんを着け気を引き締める。

ここからは手信号での会話になる。

 

 氷の回廊。

松明をかざし足を踏み入れる。

 

ぐちゃ ぐちゃっ

 

 と嫌な感触が足裏に伝わった。

白い何かが地面一杯にあるようだ。

 

雪?… …ありえない。何かが… …

 

 天井の氷柱が松明の炎を反射し、辺りはこれまでより若干明るくなった。

足元の白い物体は雪なんかではなく、卵だった。

円錐形の卵のうから、うようよと幼体(ギィギ)が出ている箇所もある。

 全身にぶわっと鳥肌が立った。

全員がぞっとした。

 クムでさえこんな光景は初めてだ。

松明を地面に刺す。

 

 

 2人はそれぞれ卵のうの破壊と、ギィギの殲滅を指示した。

 

(奥に何かいる?)

 

 

 ギギネブラの目は退化して見えず、匂いと音、そして温度を頼りに獲物を探り当てる。

 巨大生物が天井を這いずり回る音。

それが洞窟内で反響している。

 ノヴィスは全容が見える前に、弦を最大限まで引き絞り備えた。

 距離がだんだん近くなる。

 

 30… …20… …10メートル。

 

 ふぅと息を吐いた時、それはシャカシャカと素早い動きでノヴィスに迫ってきた。

吐いた二酸化炭素に反応したのだ。

ノヴィスは目前に迫った目標に対し、慌てることなく矢を放った。

 

 ちくわのような形状の口に沿ったぎざぎざの歯。

その歯が長い喉の中にもびっしり生えている。

矢は喉奥へ吸い込まれるように刺さった。

 

ビッターン

 

 衝撃と痛みに耐えきれず、ギギネブラは落下した。

 

(チャンス!)

 

ジルはギギネブラに向かってダッシュ。

 

 起きようと、もがいている所へ、とどめを刺さんばかりに刃をなんべんも突き刺した。

ギギネブラの柔らかい肉質は、簡単に剣を通す。

 

「ジャンプしろ!!」

 

 ノヴィスの声は聞こえないが、本能的に跳んだジルの足元を、長い首が通り過ぎる。

鞭のようにしなる首が、ぶんぶんと襲い掛かる。

 ジルはたまらず距離をとる。

 

 グオオオオォォォォ

 

 ギギネブラの咆哮で洞窟内が震えた。

高級耳栓をしていなければ鼓膜が破れていただろう。

天井の氷柱が“この場にいる全員”を襲う。

 

「自分が生んだ卵にも当たっているニャ。にゃに考えてるニャ」

 

 何も考えていない。

ギギネブラの頭の中は目の前の餌を食べることだけだ。

氷柱はギギネブラ自身にも降り注いでいる。

が、黒く変色し硬化した皮膚は、氷柱を意に介さない。

剣もはじかれた。

 

(ここまで硬くなるものなの?なんで!!)

 

 通常時、頭部は柔らかく、尾は硬いが、興奮時は逆になる。

まことやっかいな生き物なのだが、問題はこれじゃない。

 尾、腹、頭の毒腺から猛毒煙を吐き出し、それはジルを包み込んだ。

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