ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
ジルたちが坑道に入った一時間後、村東のバリケードを何者かが突破した。
監視塔の村民がかろうじて視認出来たが、鐘を突くその僅かな時間。
その間に、バリケードに一番近い家3軒が瞬く間に半壊した。
ハリス、カミーユの交代手続きが終わり、彼らは帰郷した。
そして、ラックと今後の行動について打ち合わせをしていた所… …
バガンッ
大きな音。
そして村中に鐘の音が響き渡った。
アレクサンドルにオトモはいない。
この地にモンスターが溢れたとき、しばらくしてから戦死してしまった。
今ここにラックがいるが、人様のオトモは従えられない。
もっともラックは戦えないが… …
急ぎ現場に向かう。
途中逃げる村人と何人もすれ違った。
顔や体に怪我をして、手当てもままならないまま逃げてくる。
到着する遥か前に鐘の音は止んだ。
おそらく監視塔が破壊されたのだろう。
凍伐竜。
それは翼の無い竜。
それは全身が氷に覆われている竜。
鋭いくちばしがあり、胸にある冷却器官より作られ吐き出されるブレス。
直撃したものは、瞬時に氷像と化す。
村に侵入した凍伐竜は若い固体だった。
自らにうぬぼれがあった。
人間を見た事も、建築物も見たことがなかった。
だから調子に乗った。
あまりに脆い。
簡単に壊れる。
「なんてチョロいんだ」と。
だから今、自分の目の前に現れたこの生物も簡単に屠れる。
そう思った。
「よう。化け物」
会敵早々アレクサンドルは、左手に持っていた盾を相手の顎に当て上に押し上げる。
放たれたブレスは、遥か上空へと軌道がずれた。
流れるような速さで、右手のランスを胸部に深々と突き刺す。
それを足で蹴り、無理やり抜くとトリガーを引いた。
ガチンと先端のギミックが外れ、砲身が露になる。
竜撃砲。
榴弾が凍伐竜の胸部の中で爆発する。
一発目で胸を完全に破壊し、間髪いれず二発目を発射。
それは凍伐竜のくちばしを砕いた。
2ヶ所とも自動回復で治るだろうが、この固体はたぶん… …
いや、その機会は訪れないだろう。
「ア、アレクサンドルさん、よ、予備の砲弾ニャ」
ラックは自分がすべき事を分かっていた。
こういうことでしか自分は役に立たないということが。
「気が利くな。だが見ろ。もう終わる」
凍伐竜は、使えなくなったくちばしを地面に突き刺そうと必死だった。
だが、曲がったくちばしでは上手く刺さらない。
この悪夢から逃げられなかった。
アレクサンドルは、落ち着いた様子で榴弾をガンランスに込めていく。
「下がっていろ」
逃げられないと悟った凍伐竜は、苦し紛れに体当たりを敢行した。
長い尻尾を使った物理攻撃。
重心を胸に置き、尻尾を振り回すようにスライドしながら向かって来る為、
「見た目は派手だが!」
頭側に移動すると、至近距離から竜撃砲を着弾させた。
後はもう一方的な攻撃だった。
砲で動きを完全に止め、ランスでめった刺し。
穴だらけになった凍伐竜アグナコトル亜種は最後、わずかに口をぱくぱくさせると完全に息絶えた。
「ふう」
「お疲れ… …さまでしたニャ」
「そう緊張するな。初めて戦いを見たわけではないんだろう?」
「あ、いや、ボクは」
「ああ、そうか、君は… …」
アレクサンドルは、こういったアイルーを見るのは初めてではない。
むしろラックより酷い症状の者もたくさん見てきた。
それは人間も含めてである。
「楽勝でしたニャ」
「いや、ギリギリだった… …」
時間にして5分ちょっと。
5分針だ。
しかし、最初の盾のタイミングがずれたら、逆に押し切られていただろう。
倒せたのは単にアレクサンドルが、何度も凍伐竜の討伐経験があったに過ぎない。
「それより心配なのは… …」
「ご主人サマ達、無事だと良いニャ」
「あ?ああ。そうだな」
アレクサンドルが心配してたのは、別のことなのだがそれはラックには言わなかった。