ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
同刻、坑道内にて。
アレクサンドルがアグナコトル亜種を倒した頃、ノヴィスは「撤退」の2文字がちらりと頭をかすめた。
しかしそれはできない。
すぐに打ち消した。
こいつが村に出たらとんでもないことになる・・・ ・・・と。
ジルは、ギギネブラの鞭のように振り回される首を回避。
それはいい。
だが、僅かな予備動作だけで体内から噴出される毒霧。
ジルはそれに包まれた。
呼吸が乱れていた為、思いっきり吸い込んだ。
ノヴィスは“ゆがけ”とへっどふぉんを外し、ジルの救出に向かった。
ジルの襟首を掴み、引きずり出しながら叫ぶ。
「クム!援護してくれ!注意を惹くだけでいい!」
クムはニャンテツケンを尾に突き刺し、ギギネブラを振り向かせると、わざと目の前でギィギをいたぶり殺した。
(これでいいニャ。あとは逃げまくるだけニャ)
ギギネブラとの距離を出来るだけとらなければならない。
「ジンベイ、ジルがやばい!解毒薬を用意してくれ!」
ノヴィスに言われずともジンベイは、既に解毒薬を取り出し飲ませようとしていた。
一刻を争う。
ノヴィスも毒に触れているが、ジルはその数倍危険な状況だ。
全身に毒が回り始めている。
「僕が装備を脱がせている間、ジルにホットドリンクを!」
上半身、下半身の装備を外し、服を脱がせる。
それをジルの下に敷く。
凍傷を防ぐ為だ。
手持ちにあるだけの毒消し草をからだ中に貼り、再度ジンベイに指示を飛ばす。
自らも装備を脱ぎ、解毒薬を飲む。
「貼り終えたら僕の装備をジルに着けてくれ。ジンベイ、君にはここでジルの救護措置を頼む。もうクムが持たない。」
「分かったニャ。任せろニャ。先生の弟子を甘く見るニャよ?」
「頼んだよ。応急薬は全部ここに置いていくから」
ノヴィスはホットドリンクを飲み“ゆがけ”とへっどふぉんを着けクムの援護に向かう。
コンラートから貰ったホットドリンクは、それぞれ後4回分しか残っていない。
村に同じような効能の物は無いかも知れない。
だが、出し惜しみは出来ない。
ノヴィスはより威力の高い矢を射るため、特殊なビンが付いた矢をつがう。
強撃ビン。
このビンはめったに使わない。
嵩張って本数をあまり持ち運び出来ないからだ。
高熱を発するニトロダケの成分により矢の威力が格段にあがる。
弓を引き絞り、矢を放つ。
クムが惹きつけてくれているおかげで、ギギネブラの尾はノヴィスの正面にある。
絶好のチャンス。
これを逃さない手は無い。
連射 連射 連射… …
ギャアアアアア
体内で焼け付くような傷みがギギネブラを襲う。
反撃はおろか振り向く隙すら与えない。
ジルを守る。
それだけがノヴィスの頭にあった。
連射 連射 連射… …
同時に湧き上がる高揚感。
狩る者と狩られる者。
ハンターという特殊な職に就いている者だけが得られる報酬。
ノヴィスは自分が何でハンターをしているか長年分からなかったが、今わかった気がした。
(僕はジルの様には成れないな… …)
「ノヴィス、どうしたニャ?戦闘は終わったニャ」
「ううん。早くジルを村に運ぼう」
(ジルが変わったんじゃない。自分が変わってしまったんだ)