ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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厄介ごとは順番に

 追跡者の到達時間。

それを考えると待ち時間はそんなに長くない。

長くないのだが、ノヴィスはそれが途方も無い時間に感じられた。

そして人も動物も、緊張感や興奮が高まると、尿意や便意を催す。

クムも例外ではなかった。

 

 そして地面も冷えている。

いくら装備を着けていても寒いものは寒いし、冷たいものは冷たい。

ノヴィスはクムにホットドリンクを渡し、自身も飲んだ。

(クム、寝るなよ?)

(うう… …おしっこしたいニャ… …)

(その場で… …いや、まずい。湯気でバレる。穴を掘ってそこにして、雪をかければ)

(ご主人頭いいニャ)

(!? しっ)

 

 小屋の中から2頭のバギィが出てきた。

鼻をひくつかせながら、こちらに向かって来る。

姿は隠せても、匂いは隠せなかったらしい。

 

 ノヴィスは、ゆがけを外すとクムと目配せし、腰のアオハレに、クムはニャンテツケンの柄に手をかけた。

バギィの目の前に煙玉を投げる。

突然現れた玉にバギィたちはたじろぎ、すぐに周辺は煙に覆われた。

効果時間、およそ20秒。

声を上げさせるわけにはいかない。

 

 ノヴィスとクムはダッシュで目標に近づくと、喉に一閃。

とどめの一撃に、頭頂部へ刀を突き刺した。

 

 その時、僅かな地面の振動と音を感知した。

規則性のある足音。

二足歩行の、大型獣脚類独特の足音だ。

 

 ノヴィスはアオハレを納刀すると、急いで2頭のバギィを両腕で前方に投げた。

そしてクムを引き、後方まで出来るだけ下がった。

音のするほうへは、顔を向けていない。

もしかすると見つかったかも知れない。

 

 伏せた時シルエットが見えた。

しかしそれは、ノヴィス達のほうに向かわず、血と死臭がする小屋へまっすぐ進んで行った。

貪食王、恐暴竜イビルジョー。

そのただならない気配と、イビルジョー独特の臭いや音に、小屋のバギィ全頭が気づいた。

 

 ノヴィスはバギィたちと、イビルジョーの丁度真ん中辺りに閃光玉を投げた。

まばゆい光が辺りを支配する。

その場にいるノヴィスとクム以外の全員の目が、一時的に眩んだ。

 

 この好機に、荷ソリの位置まで移動すると、その影に隠れ、様子を伺った。

視界がクリアになった、ドスバギィ率いる集団の目の前にはイビルジョー。

視界がクリアになったイビルジョーの目の前には、取るに足らない矮小な存在。

青と緑の晩歌。

第一ラウンドが始まった。

 

 群れに突っ込んだイビルジョーは、ギャーギャーと威嚇するバギィ達を全く意に介さない。

 8頭のバギィを率いる2頭のドスバギィ。

群れの長であるそれらですら、手も足も尻尾も出ない。

眠狗竜たちは尻込みし、戦意を喪失している。。

それを見てノヴィスは、自身の行動の過ちにようやく気づいた。

 

 群れはイビルジョーから逃げてここまで来た。

なら、今回も戦わず逃げる可能性が高い。

 しかしノヴィスは「逃げた先のことなんか知った事じゃない」と、そんな無責任な考えはどうしても出来なかった。

「ご主人、どうするニャ?」

 

 

 戦線を離れた2頭のバギィにそれぞれ矢を射抜きながら、ノヴィスは状況を整理していた。

「このままじゃやばいニャ」

「分かっている。今考え中」

 

 そして、しばしの沈黙のあと、口を開いた。

「クム、聞いてくれ。さくせn」

「考えがまとまったら手も動かすニャ。どんどん迫って来てるニャ!」

 ノヴィスはドスバギィの頭部に狙いを定めると、矢を放った。

矢は頭骨を貫通していたが、ドスバギィは生きていた。

 

ボスを攻撃されたバギィたちは、混乱しながらもノヴィス達を完全に敵と認識し向かって来ていたが、そのほうが好都合だ。

イビルジョーは動いている眠狗竜より、小屋内の肉片を食べている。

「僕がバギィを出来るだけ引きつけている間に、クムは大樽Gを等間隔で雪原に置いてくれ。残った奴を爆弾の所までおびき寄せる」

「でもこれはいざという時… …今は対イビル用ニャ。爆弾無しでイビルはどうするニャ!」

「その時はまた考える。いくぞ!」

「そんニャ付け焼刃… …」

 

 ほんの少しでも時間をかければイビルジョーが合流してくる。

戦いより食い気。

このモンスターの特徴だ。

食べる速さが尋常じゃない。

 

 実は、多くのモンスター、特にイビルジョーは、状態異常を引き起こす罠肉を食べさせれば、戦闘はもっと楽になる。

ジル達がそれに気づくのは後のことであるが、今は関係ない。

 

 ノヴィスは更に、2頭のバギィを屠ると、クムの首尾を見た。

ちょうど爆弾をすべて置き終っているところで、ノヴィスと目が合った。

互いに親指を立てる。 

 

短時間で決着を付けねばならない。

矢筒を胸の前に回し、左手に弓を。

右手にアオハレを逆手に持ちながら矢をつがう。

 迫ってくる4頭のバギィ。

それが爆弾付近に接近した時、クムが爆薬を投げた。

点火。

爆弾付近にいた4頭のバギィはバラバラになって、それを追従していた、頭に矢の刺さったドスバギィをも巻き込んだ。

 

 

しかし… …

 

爆弾の爆発の数秒後、小屋の壁が吹き飛び、イビルジョーがこちらに突っ込んできた。

危機的状況になった。

 

 2個目の爆弾まであまり距離が無い。

 

その手前で足止めする為、ノヴィスは迫り来る最後のドスバギィに対して、矢を放ち、アオハレを相手の鼻目がけて切りつけた。

けん制にしかならないが、その僅かな隙に、ノヴィスは後方にさがり、再度矢をつがう。

 狙いはドスバギィじゃない。

臭い涎を垂れ流し、こちらに向かって来る貪食王に対してだ。

 

 ドスバギィ、そしてすぐ後ろからイビルジョーが迫ってくる。

 

 クムが再度、爆薬を投げた。

 

 2個目の爆弾の爆発が、ドスバギィを巻き込んだ。

絶命はしなかったが、しばらくは戦闘不能だろう。

肉が飛び散り、もがいている。

 

 もうただの肉塊。

それに反応したのか、イビルジョーはそれに食らいついた。

 

 生きながらに食べられている眠狗竜は、最後のあがきに誘眠性のある唾を吐きかけるが、イビルジョーは構わず食べ続けている。

 

 ノヴィスは、その光景にたじろかず、矢を放った。

曲射放散。

後、間髪入れず連撃。

今度は思い切り弦を引くと、イビルジョーの頭目がけて放った。

 

 第二ラウンド開始。

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