ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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復讐という名の八つ当たり

強撃ビンが全矢に装着されているとはいえ、イビルジョーは体力がありすぎる。

決定打に欠けていた。

 それは鼻先に突き刺さっただけだった。

 イビルジョーはうっとおしそうに、首をぶんぶんと振り、落とした。

 その隙に、クムが3個目の爆弾に点火。

が、直撃するも効果なし。

表面の皮膚が、少し焦げた程度。

相手の火に油を注いだ。

「うっぐぅぅぅぅ… …耳がっ!」

 

 イビルジョーの巨大な咆哮はノヴィスの全身を硬直させ、クムを転倒させた。

「なんで!???」

 

 

 なんでって湿気ていたからだ。

 

 火薬の保管は難しい。

火気厳禁は勿論のこと、湿気にも気をつけなければならない。

しかし今回は、そんな保管庫なぞとっくに壊されて、別の半壊した納屋にあった物だ。

湿気る可能性は高い。

2つ爆発できたのは幸運だったぐらいだ。

 

 

 ノヴィスは思った。

 手持ちの矢、45本で足りるか不安だった。

 全て強撃ビンが装着されているが、それでも不安だった。

 

 現実は絵本の物語とは違う。

弓使い1人で0分針だの5分針だの出来るわけがない。

Anger hunter〔憤怒を狩る者達〕のように、強力な前衛がいないと話にならない。

と。

 

 そして、尻込みした。

一瞬だけ。

本当にびびったのは一瞬だけ。

ハンターを始めた時の性格の名残はあるけれど、ノヴィスは変わってきていた。

不適な笑みが顔に張り付く。

意図的に、ではない。

窮地に立たされたアドレナリンの異常分泌が、ノヴィスの高揚感を高ぶらせていた。

 

 恐暴竜イビルジョーは今にもノヴィスの頭に食らいつこうとしていた。

そこを、思い切り横に転がり避ける。

恐暴竜はバクバクと何度も噛み付いてくる。

前後左右、ごろごろと転がり避ける。

大顎が空を切る。

 

 クムは恐暴竜の足に思い切りニャンテツケンを突き刺した。

突き刺すたびに、蹴られるものだから、クムの体は傷だらけになった。。

左手は最初の一撃で骨折している。

それでもクムはやめない。

 

その隙にノヴィスは、矢をつがい、最大限弓を引き、放つ。

 

 キュンッと高い音を立てて、矢は恐暴竜の目に吸い込まれた。

連射… …

ここでやらなければクムの行動は、全て無駄になってしまう。

ノヴィスは目を狙い続けた。

そして弱点の胸。

 

 目、胸、目、胸、目、胸… …

あまりにしつこいノヴィスの攻撃にイビルジョーは切れた。

再び大咆哮が雪原に轟く。

体色が瞬時に緑から赤に変化した。

 

 ブレスを吐くモンスターほどやっかいなものは無い。

手、足、尾の攻撃はある程度読む事は出来るし、不慮の事故で無い限り、即死は免れる。

が、ブレスは別だ。

動作が読めても、立ち位置が悪いと、不可避だ。

恐暴竜から吐き出された、まがまがしい色をしたブレス。

 

 ノヴィスはその初手を這いつくばって避けたが、連続する2撃目をもろに食らった。

 

これは炎ではない。

恐暴竜独自のブレスだ。

「ご主人!!!」

 

 後ろに吹っ飛ばされたノヴィスは、地面に後頭部を思いっきり強打した。

装備の胸部もえぐれ、肌が露出し、そこから出血している。

どこかの骨が折れているらしい。

(肋骨か?体… …動かないな… …)

 

 ノヴィスの目が閉じようとしているその先で、クムは恐暴竜が持つ鋭い牙で身を切り裂かれていた。

 

 ここで、おねんねしている場合じゃない。

寝たら確実に全滅する。

ノヴィスは、唇を強く噛むと立ち上がった。

頭がズキズキして、目の焦点が定まらない。

足元はおぼつかない。

それでもノヴィスは、更に唇を強く噛むと、目を瞑り、右目だけで標準をつけた。

 

 どこに当たるかは関係ない。

とにかく、こちらに注意を惹かないと、クムが確実に殺される。

きたない涎をクムの頭上に垂らしながら、今にもその口の中へ入れようとした、恐暴竜の、それに矢は偶然当たった。

 

 ぐりんと、顔がこちらを向いた。

 

 矢をつがえる。

 放つ。

この動作をあと何回出来るだろうと、人生の終わりを覚悟した時、恐暴竜の後方から、赤い発光した何かが、向かって来るのが見えた。

「なんだ?あれは… …人?ジル?」

 

 ノヴィスは最初、それが何かわからなかった。

ジルだと分かったのは、言葉を発しながら、こちらに近づいてきたからだ。

「ジンベイ、クムをお願い!まだ生きていると思うから!」

「承知!」

「ノヴィス動ける?」

「あ、ああ… …」

 

 ジルは、恐暴竜の目からうまくノヴィスを離し、距離を稼ぎながら言った。

「じゃあ下がって」

「え?… …でも… …」

「下がれって言ってんの!」

 

 ジルはノヴィスに怒鳴りながらも、すさまじいスピードで恐暴竜の腹部を切り刻んでいた。

「ノヴィス、こっちに来るニャ。ジル坊の邪魔ニャ」

 

 確かに、言葉は乱暴だが、このままノヴィスが戦場に突っ立ってても邪魔にしかならない。

(ジルの体から出てる赤い光… …あれはなんだ?)

 

 鬼人化。

ジルは、怒りのあまり気が狂いそうだった。

母親を殺した相手。

それだけでも万死に値する。

あまつさえ、自分の大好きな仲間を2人も屠ろうとした。

断じて許せない。

 

 サラの残した形見「憤怒の双刃」

それに宿っている思念体とジルの感情が合わさって発光しているのか、ノヴィスとジンベイには分からなかったが、これだけは言える。

『勝った(狩った)』と。

 

 恐暴竜イビルジョーは焦った。

天敵のいないこの世界、自分が最強だと思っていた。

勝てる者などいない、史上最強の生物だと。

この世の全ては自らの食料だと思っていた。

ついさっきまでは。

 

 胸の出血が看過できないほど、おびただしい量になってきた。

骨がせりでて、内臓が垂れ下がっていた。

先程のネコもどきと明らかに違う。

目がつぶれているせいで、見えにくい。

いや違う。

動きが早くて捉えきれない、

足を上げ。踏み潰そうとしたときには反対側に回っていた。

 

 交差した足が、恐暴竜の転倒を促した。

息は荒く、体が痙攣し始めている。

ジルは、生き絶える寸前のそれを、冷ややかな目で見下ろしていたが、次第に落ち着きを取り戻したのか、ジルの体から出ていた赤い発光は薄れていった。

(すっきりしないな… …こいつ倒したのになんで?)

 

 目標を倒したのに何故かすっきりしない。

到底納得できないが、今はそれどころじゃない。

「ジンベイ、クムの容態はどう?」

「出血は止めたニャ。左腕は折れているけどくっつきそうニャ」

「ノヴィスは?胸の傷はどう?」

「大丈夫。ジンベイの処置のおかげで助かったよ」

「… …良かった… …」

 

 そう言うと、ジルはノヴィスに歩み寄り… …

 

 思い切り頬をひっぱたいた。

「ばか!心配したんだから… …先、行かないでよ… …」

 ノヴィスは正直、冗談で「痛いなあw」と言えないくらいビンタの衝撃が肋骨に響いたが、ジルに対して何も言えなかった。

 ジルは泣いていた。

幼子のように、冷たい雪にうずくまって泣いていた。

「ジル坊は泣いたり、怒ったり忙しいニャ」

 

 それを聞いたジルは照れ隠しに、ジンベイの頭を叩き、場は和んだ。

 

「ご主人… …」

「ん?」

クムが苦悶の表情でノヴィスに尋ねる。

 

「おしっこ… …」

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