ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
それからしばらくは何も無い日が続いた。
否、少し言葉に語弊がある。
正確には、モンスターの来襲はあるにはあるが、散発的なものだった。
村の外にある畑。
その畑の中にあるムロの野菜。。
通常、夏に獲れた野菜をムロに入れて冬季の食料にするが、モンスターが溢れた時、それらを村内のムロに殆どを移した。
残った僅かな野菜くずを、時折来る害獣、白兎獣ウルクススや、牙獣ドスファンゴが掘り起こし食べる。
お食事中は、隙だらけになる。
後は簡単。
バリスタを構える村人が、淡々と撃ち込んでいけばいい。
単純作業。
脅威レベル最大級の大型が減ってきているせいか、応援のハンターのジル達は暇になる。
ハリス・キングラーやカミ―ユ達のおかげだ。
シモンスキーを除いた他の観測隊員達は、他地方へハンターを集めに出向している。
増援はまもなく到着するだろう。
モンスターの数は確実に減ってきた。
その為、安静中のノヴィスはともかく、ジルは手持ちぶたさになった。
因みに、ノヴィスは骨が折れていなかったが、ヒビが入っていた。
透視装置など、この世界に存在しないが、触診で判明した。
その時のノヴィスが浮かべた苦悶の表情は筆舌に尽くしがたい。
ジルは懸命にノヴィスに尽くした。
アイルー達も看病したが、ジルはそれ以上だった。
この村では貴重な果物を、自腹で購入し食べさせた。
村人達から定期的に差し入れられるポポの肉。
村内で飼っているポポのうち、食用となる個体を解体し分けてくれる。
しかし、ジルはどうしても食べられなかった。
肉が嫌いなのではなく、ポポが食べられなかった。
だから、自分の分は仲間に分け与えていた。
自分が好きな動物の肉が食べられない。
この村に来て、ジルは自分のそういった、かまととぶった考えが、もの凄く嫌になった。
モンスターや他の動物は殺せるのに、ポポは無理。
なんだそりゃ?
聞いた人はそう思うだろう。
でも、やっぱりジルの意は変えられなかった。
ノヴィスやジンベイ、ラック、クムは、そんなジルに対して何も言わない
同じように彼らも他人だから、全部はジルの気持ちを汲み取れないが… …
家族であり、仲間だから理解しようとした。
そんなとき、いつもジルは気まずくなって外に出る。
早春村入り口より、ほんの少しだけ丘になっているこの小屋からは、天気のいい日、北のU字谷がうっすら見える。
その真ん中の、大きいオブジェ。
ウカムルバスの姿も。
そのウカムルバスは、まだ解体作業が遅々として進んでいない… …
――――
U字谷は、雪からの侵食で出来た谷で、かつてあった岩壁は現在、氷で覆われている。
その雪氷からは、稀に大昔に、この地に生息していた動物が、そのままの姿形で氷漬けになって出てくることがあり、収集家の間で、高値で取引される。
又、雪氷を掘り進めた先の地層からは、かつてここが海だった事を証明する化石がたくさん発掘される。
勿論、これも高値で取引される。
夏に、村の鉱夫が、U字谷にある簡易小屋に交代で寝泊りして発掘作業を行っている。
その作業も、ウカムルバスが疾風の雷槍「アレクサンドル」に倒されたことで、モンスターが活発化し不透明になった。
その露払いに、各村のハンターが派遣されていた。
そして現在。
ジル達が倒した、天敵のイビルジョーがいなくなった事で、ティガレックスの活動範囲が広がり、主に山岳地帯を根城とするベリオロスまで、平原地帯での目撃情報が、相次ぐようになった。
村の皆を集め、会を開いた。
そこで、両者を一網打尽にする方法をアレクサンドルが提案。
その方法とは… …
村と、ポポ小屋の間の平原に、ポポ数頭を鎖で繋げておびき寄せるというもの。
2頭同時でなくとも、1頭は殺れる作戦だと立案した。
これに対し、一部の村人から反対意見が挙がる。
「いくら食用とはいえ、貴重なポポを何頭も失うのは、村にとって致命的だ」と。
しかし、アレクサンドルの
「このままの状態が続けば、どの道村は全滅する。皆疲弊しきっている。それに、ただポポを犠牲にするのではない。奴らに差し上げるつもりはない」
この言葉で、反対意見を言っていた村人達は、皆黙った。
春までにこの状態が続けば、夏の収穫に確実に間に合わない。
この事態を一刻も早く終わらせなければならない。
農作物に影響が出るし、生活も、より厳しくなる。
ノヴィスが挙手した。
「なんだ?」
「増援のハンターが着任してからでも、その作戦は遅くないのでは?」
「遅いな。君はこの村の現状が、まだ理解していないらしい。敵は叩ける時に叩く。情報では現在2匹だが、今後どうなるかわからん。増援も、明日来るのか一週間後来るのか、来ないのか見当もつかない。どの村もユクモ村より遠いしな。1日でも早く、1匹でも多く敵を駆逐しなければならないのは、先に説明したとおりだ」
ジルも、勿論反対した。
個人的な理由は隠して。
しかし、当の村人達がそれ以上何も言わず、押し黙っている以上、ジルも黙るしかなかった。
「ジル… …」
ジルはこぶしをぎゅっと握り締めていた。
「皆は解散してくれ。ありがとう」
村人達が去った後、ここにいるのはハンターとオトモだけになった。
「俺が出よう」
『え?』
「ノヴィスのその傷では無理だし、ベリオロスと、ティガレックスは初見のジルだと厳しいからな。2人には村の防衛を頼む」
………… ………
『反対します』
2人の声が揃った。
アレクサンドルはため息をついた。
まだまだ若いなと。
いや、ノヴィスはそんなに若くないか。と思いながら彼らを見た。
まっすぐな目をしている。
迷いの無い目だ。
「理由は?」
ノヴィスは自分がお荷物だと理解していたが、それを口にはっきり出された事に苛立ちを覚えた為と、ハンターとしてのプライド。
ジルは、この仕事を他人に譲りたくなかった。
みたいなことを、2人は口にした。
しばし、長い沈黙。
「お前達、自分の役目を理解しているか?」
「… …」
「ルーキーみたいなことを… …長年ハンターをしている者なら、自分のすべき事が… …わかった。任せる。もう何も言うまい」
アレクサンドルはそれだけ言うと去って行った。