ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合   作:繊細なゆりの花

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第6章 水没林編    国からの依頼

 ユクモ村で一番年代の経過している大きな屋敷。

ジルとノヴィスは大きな門をくぐり、大きな玄関の戸を叩く。

 

どん、どん、どん… …

 

「おはようございまーす。ステルヴィア村長、ノヴィスとジルです」

 

… …

 

 返事が無い。

「村長?」

 ジルも小首をかしげて、はてなの表情を作った。

引き戸を開けてみる。

つかえ棒は外れていた。

無用心過ぎるが、この村には悪人はいないし、なによりこの村長の家に、盗み入ろうとする輩なぞいるはずが無い。

誰だって命は惜しいから。

 

 屋敷に一歩入ると、匂いだけでお腹が空きそうな香りが2人を襲った。

導かれるままに足が奥へと進む。

「あら、お2人ともいらっしゃい。丁度支度が整いましたのよ」

「シェラ… …」

「はい?」

「私達に1日1食の方がいいって教えたのはシェラでしょ?野山で狩りをするなら空腹に慣れろって」

「ええ。でも今日くらいいいじゃないの。お食事は皆と一緒の方が楽しいわ。冷めないうちにどうぞ。」

「いつも、ブレないなあ」

ジルは呆れ顔でそう呟いた。

 

 白米に、採れたての山芋を摩り下ろしたとろろ、丸鳥のもも焼き、山菜、味噌汁。

シーラ自身の食事は、毎日決して豪勢な食事ではない。

むしろ村民達に比べて、かなり質素な食事であるといえる。

今回のもてなしは、シーラの、日頃のジル達に対しての感謝だ。

 

「それで話って?」

「ええ… …」

 

―――――

 

「―――というわけです」

「なるほど… …今後の行動は、2年後の厄災に向けて南方の水没林地方へのパイプを通す。

そして嵐龍討伐の援護、大まかに分けるとこうですね?」

 シーラとノヴィスのやり取りを、ジルは半分も理解できていなかった。

嵐龍の存在は、小さい頃から村の大人達や、コンラートから教え聞かされ、知っていた。

知ってはいるけど、実際見て、戦ってみない事には何ともいえないし、キテロ王国とそれがどう繋がっているのかも、ちんぷんかんぷんだった。

 

 ただ、シーラがわざわざ自分達を呼び出して、真剣な表情で依頼ではなく、個人の思いとして頼みごとをしてきた事。

ノヴィスの表情から見える、若干の緊張感。

とんでもなく、ヤバイことだってのは分かった。

それが分かればそれだけでいい。

だから、

「もう一度説明しましょうか?」

 

 シーラが、ジルの顔を覗き込むように聞いた、この問いかけに対してジルは、ぶんぶんと首を横に振る。

「私はノヴィスについて行く」

「ついて行く… …ね。あなた達の関係は存じています。でもこれから先この国で、特にここ東部地方は何が起こるか、想像がつき難いのです。未来は、私達の手で作り上げなければならないと思います。それを決めるのはあなた達です。どのようにお考えですか?」

 

 彼女は今回ばかりは、国やギルドの依頼で、意思を押し付けたくはなかった。

シーラの抽象的な問いに対して、2人は迷い無く答えた。

 

「全てが終わって、村に平和が訪れたら… …その時こそ未来を歩んで生きたいと思います」

 

 ジルはノヴィスを信頼し、ノヴィスはジルを支えていく。

そんな覚悟が見えた。

「わたくしは、あなた達にこの村の未来を託します。そして命を懸けます。共に… …」

 

――――――

 

 そして1ヵ月後、王都より正式な依頼書が、村の集会浴場受付に届いた。

 

親愛なるユクモ村ハンター諸君… …

「ハンター諸君って、2人しかいないじゃん。この人、私達の名前も知らないんだ」

「茶化さない。この村の人たちが、僕らのこと分かってくれればいいよ」

「そうだね。ごめん」

 

『親愛なるユクモ村ハンター諸君。

日々の任務ご苦労。

君達の活躍はこの王都にも届いている。

さて、本題に入ろう。

私の腹心と、外交官2人、会計局兼監査員6人が孤島より遥か南の島、キテロ王国へ出立する。

その護衛に軍が付くが、被害を極力減らしたい。

その為、王都から6名、村々から2名ずつ、計12名のハンターで、水没林のモンスターを出来るだけ掃除して欲しい。

 討伐終了後、軍が水没林を縦断。

その地域の安全に応じて、報酬の増減が決まる。

モンスターのなすり付けを防ぐ為、各ペアはそれぞれ、A B C D E F(別紙)の範囲の配置とする。

 経路防御日数は最大30日間。

 BC、DE担当者は、それぞれ担当エリアの掃討が終わり次第、A、Bの支援に回ってもらう。

これは我々の退国時の安全を、より確かなものにする為である。

我々が帰路に着くその時、会計局の者が報酬を支払う。

報酬は1人65000z。

生きていればの話だが。

 受け渡し場所はA 、Fのエリア地図を参照。

印のつけたポイントに作戦開始から30日後。

日の出から3時間経過しても現れなかった場合、報酬を支払う事は出来ない。

尚、エリアを指定する事は出来ない。

 諸君の検討を祈る。

      ガリム王国 国王カタ・リム2世 』

 

 

 実に簡潔な依頼書だった。

国の命運をかけるにしては、清清しいくらいに。

2枚目には、キテロ王国全体の地図に、左上に大きくDと書かれた文字と、赤く括られたエリアが記してあった。

3枚目。

Fエリアの地図。

そのDエリアとFエリアの境界に、小さく×印がついていた。

恐らくそこが受け渡しの場所だろう。

 

「このDエリアって… …山の中じゃん… …」

 

Aエリア 海岸線

Bエリア 沼地

Cエリア 密林・平野

Dエリア 密林山間部

Eエリア 小島密集地

Fエリア 王国正面門

 

これは、ランダムに選ばれたわけではなく、各ハンター達の実力に沿った配置になっている。 

受付嬢が退屈そうにあくびをしている。

依頼書にざっと目を通したノヴィスが質問を投げかける。

「出発の日時は?」

「教えられません。前日に、ギルドより通達致します。この村のハンター様なので、お部屋に投函させていただきます」

 

「派遣される村の範囲は?」

「王都から、ガザ森林公園内のコルト村までです。王都から6名、村々から6名、計12名です」

 

 受付嬢は、じと~っとした目線をぶつけてくる。

思っていることが、全部顔に出ていた。

書いてあるだろ?よく読めよと。

 

 

 ノヴィスはジルの為に、分かりにくい所を、一つずつ質問していこうと思ったが、相手はそんな事は知らない。

「他にご質問はございませんか?無ければ業務に当たらせていただきますので失礼します」

 

 しっしっと、手を振るそぶりを見せたこの可愛い受付嬢は、ノヴィスを面倒くさそうにあしらった。

 彼女が優れていたのは、顔だけだった。

 

 ノヴィスは思い出した。

彼が準ハンター(下位ハンター)の時、間違ってこの上位ランク受付に来て、かなりの嫌味を言われた事を… …

 

ジルは思い出した。

初任務のとき、この受付嬢の暇つぶしに、青熊獣と戦わされた事を… …

 

ガタン!

 

 ジルが受付嬢の胸ぐらを掴まんばかりに身を乗り出した。

「おい、お前!」

 

ジルが迫った時、「ひっ」と女性は悲鳴のような声を上げた。

「いいよ。ジル。この人は事務的に仕事をしているだけだ。僕らの事なんか分からないよ」

「わかった。いこ?」

 生真面目なノヴィスは、地形を完全に頭に叩き込もうと、地図とにらめっこしている。

 ジルがノヴィスの袖をくいくい引っ張る。

「おっ… …おい、まだ依頼書読んでるって」

「あっちでゆっくり読めばいいじゃん」

 ジルが指を示した方向は、酒場だった。

「まだ、昼間だよ」

「いいじゃん。… …じゃあ家来る?どっちにしろ作戦立てなきゃいけないし」

 いつのまにか買った、酒の入った竹筒数本を両脇に抱え、ジルは楽しそうに笑った。

 

 

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