ユクモ村ハンター ジル・ローレンツの場合 作:繊細なゆりの花
サラはこの村唯一のハンターで前日、突然変異した青熊獣アオアシラの討伐以来を受け、一人森の中に入った。
通常固体の三倍の大きさのこの巨熊は振るう一撃も凄まじく、まともに食らえばすぐ肉片に変わる。
既に先発のハンター2人に死者が出ていた。
巨大な体は燃費が悪く、普段生活している山奥から人里に下りてきたというわけだ。
現在村長の命を受け、村内の全ハンターによる山狩りが行われている。
先ほどの青年ハンターは、現場に戻りたいのを我慢して村長に事情を説明している。
運び込まれてからすぐにコンラートはサラを見た。
(こいつはひどい・・・)
「皆、出て行ってくれ。今日は診察中止だ」
野次馬を追い出すと、コンラートはドアを閉めた。
装備品を外すと、巨大アオアシラに付けられた大小様々な傷は、顔を含め14に及び、特に腹部の裂傷が最も酷かった。
後数センチ深ければ腸が出ていたかも知れない。
(とにかく止血と縫合を手早く・・・ん?)
傍らで心配そうにサラの顔を覗き込んでいる若いアイルーがいた。
いや、最初からいたが、コンラートの意識の範囲外だった。
処置をしながら彼は話しかけた。
「そこにいると邪魔だ。手伝ってくれるのなら助かる」
アイルーは極度の混乱状態らしい。
コンラートの声が届いていない。
彼は少しイラつき、声を荒げた。
「おい!聞こえるか?お前がそこにいると助かるものも助からない」
コンラートはいっそのこと蹴り飛ばしてどかそうと思ったが、すぐ考えを改めた。
手元が狂う事だけは避けたかった。
コンラートの声で振り向いたアイルーの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
一刻一秒を争うこの状況でコンラートの脳がフル回転する。
努めてコンラートはなるべく優しい声で尋ねた。
「名前は?」
「ジンベイ・・・」
「歳は?」
「ぐすっ ぐすっ ぐすっ・・・2歳」
「そうか、ご主人をよくここまで守ったな。えらいぞ。私が必ず助けてやる。だからジンベイも私に協力してくれ」
絶望からジンベイの表情が若干明るくなった。
「分かったニャ。何でもするニャ!」
一番酷かった腹部の出血は止まった。
コンラートは増血作用のある薬草数種を調合、すりつぶし、サラの喉に管を通し、強制的にその汁を飲ませながらジンベイに指示を飛ばした。
「そこの一番小さい袋の中に大きい葉が詰まっている。その葉を20枚取り出しこれで擦りつぶしてくれ」
「わかったニャ」
返事をしながらジンベイは震えていた。
よっぽど怖い目に遭ったのだろう。
彼はサラが倒れた後、撤退用の道具を可能な限り使い続け攻撃をかわしていた。
そして先ほどの青年ハンターと合流後、撤退戦に移った。
もしジンベイが恐れをなして早々逃げていたらサラは確実に命を落としていただろう。
(凄い子達だ。特にサラはここまで傷を受けてまだ持ちこたえている。これなら助かる。助けられる)
「私が止血を終えた所からまんべんなく塗っていってくれ。最初は腹部だ」
「はいニャ」
国一番の腕を持つコンラートの処置は手早く、サラは一命を止める事ができた。
まだ予断は許さないがひとまず落ち着いた。
コンラートはドアを開けた。
「皆すまんが向こう2ヶ月は急病人以外診る事も出来ない。すまん。この娘も面会謝絶だ」
そう言いながら彼は困っていた。
サラをここに寝かせるとして、自分はどこに寝泊りしようかと。