幼女が道端に沢山落ちてるから金策しちゃおうって話 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
その日、全世界に一斉に速報が入った。
『人類はガストレアに勝利した』
『長い、永い地獄から解き放たれた』
『ガストレア災害は人災であり人が生み出した生物兵器であった』
『関係者も諸々粛清した』
『赤目の少女に対するガストレア完全消滅ワクチンも完成し無料配布になる』
とても膨大な数の情報が短時間で忙しなく流れ続ける。
街中では号外が配られ、人々は苦しみから、地獄から解き放たれた安心感からある者は泣き崩れ、ある者は抱き合い、ある者は武器を落とし晴天の空を見上げ涙を一粒流した。
そして人々は口々に英雄の名を呟く。
里見蓮太郎、と。
IP序列世界一位の黒き英雄、と。
世界中の勇気ある民警を引き連れ最後の一体のステージVをも倒し全てを暴いた青年の名を呟き叫ぶ。
速報を流した青年自体も涙していた。
青年だけでは無い、周りにいる立ち会った仲間達……青年と小学生の時からの旧友、彼の兄貴分だった人物、民警になってから出会った民警仲間、共に苦楽を過ごした会社の大切な人々、その仲間のイニシエーター達、そして『彼の彼女』であるツインテールが特徴のまだ幼さを少し残した顔立ちの少女。
全員、この世界に住まう人々と同じ様に泣いていた。
この世界に、もう恐怖も、差別も、必要無かった。
「……そっかぁ、あれからもう一年なんだ」
とある静かな休日の昼下がり。
可愛らしい制服が掛かった部屋で日課のスマホアプリをしていた少女は、ふと日付を見てテレビを付け、呟く。
テレビからは
『ガストレア大戦終結から一年、各エリアの今を描く』
なんて言う特別報道番組が流れ元民警で復旧作業員の男性が、延々と続く戦いの日々をインタビューされ語っていた。
今は元パートナーのイニシエーターを養子に迎え、学費を稼ぐ為に今は手に持つ物が愛用していたバトルアックスからスコップや猫車に変わり復旧作業を『新たな戦い』と称しながらも今を生きていられる事への感謝を話し作業へと戻って行った。
「当たり前だけど、最終決戦に行った人達も今は大体一般人なんだよねえ」
今話していた人物も、終戦当時最終決戦の最前線でステージVに刃を向け続けていた『最後の英雄』と語られていた超エリート民警であった。
そんな人間も戦争が終わり暫く経てばただの一般人だった。
本人がそれをどう思っているか、それは画面越しには正確には伝わらない、無論本人で無いならどうあろうと分からないのは当然の顛末なのだが。
だが、少女から見た率直な彼は、言葉通り、今を幸せに生きている。
少なくともそう思うには充分であった。
「ううーん、と。……顔、出しに行こっかな」
彼女はそう満足しテレビを消しひと伸び。
そして、思い出したかの様に、懐かしむ様な顔になりカバンを手に掛けた。
「おかーさーん、私ちょっと出掛けてくるねー」
「はーい、遅くならない様にね」
「分かってるよー」
とんとん、と靴を履き終え玄関を開ける。
外はこれでもかと言う程の青い、青い空が広がる晴天。
他の人間からしたらなんて事無い、ただの晴天だが彼女はこの天気に並々ならぬ思い出があった。
「思い立ったが吉日とは言うけど、ここまで同じになっちゃうかー」
仁王立ちし空を見上げ、笑みが零れる。
普通の人間がすれば多少なりとも不審者に見られる可能性もあるが、同年代と比べ比較的小柄で幼さが多く残り尚且つ元気が取り柄の彼女には寧ろピッタリ似合う仕草だった。
暫く見上げ目を細め、『よしっ』と一言呟くと前を向き直し迷いの無い歩みで進んでいく。
途中寄り道をした彼女は両手に体格に削ぐわぬ量の荷物を抱えていたが。
それはさておき、歩く事30分。
周りの建物より一際目立つ大きさの建物が見えてくる。
彼女は懐かしさに溜め息と微笑を零す。
「いつ見ても変わんないなあ」
とはいえここには一ヶ月に一度程のペースで通っているのだが、それはそれとして彼女から浮かぶ感情はそれとはまた別のものであった。
「んしょ、んしょ……おじいちゃーん、久しぶりー」
「おやおや君は……また遊びに来てくれたんだね」
「そりゃあもう! なんたって私の第二のお家なんだから! しかも今日は……」
「……ああ、そうかい、そうだったね。この日は君がここに来た日でもあったね。どれ中に入りなさい、お茶くらい出すよ」
「ありがとーおじいちゃん!」
入り口まで来ると、朗らかそうな老人がにこやかな笑顔で少女を出迎えていた。
『二神孤児院』そう、建物とは裏腹に簡素な看板の建つここは彼女の故郷だった。
「いつもありがとうねえ」
「ううん! 私はここで育てられたんだもん! ちょっとくらい恩返ししないとね」
『ふぬぬ……よいしょっ』と少し間抜けな声を上げながらテーブルの上に袋を乗せる。
中身はこの孤児院に住まう孤児達にプレゼントする、日持ちするスナック菓子や甘味類である。
ここに来るまでに、かつてこの孤児院で共に孤児として過ごしていた仲間達……今はここの正式なスタッフとして働いている、に、相変わらずだと苦笑されたり、同じくかつて共に育った仲間の一人で盲目のセラピストには同年齢のはずなのに妹の様に愛でられたりするのもいつもの事だったりする。
「みんな元気そうで良かったー」
「一ヶ月でそう変わりはせんよ……今だから言える事、だがね」
「……そうだね。戦争があった時はいつ死ぬか分からない様な事ばかりだったし……私やこの孤児院にいた子達なんて、ここに来る前はいつ死ぬかどころか今日を無事に生きられるかも分からない暮らししてた訳だしね」
和やかな空気が少ししんみりとしたものに変わる。
彼女はかつて、誰からも愛されずに生きていた。
それはただ単にガストレア因子を体内に持つそれだけの理由で。
実の血の繋がった人間達はまるで彼女をゴミの様に扱い、暴力で屈服させ、奴隷としてしか見ていなかった。
少女もまた、こんな人間達を家族とは到底思えなかった。
「拾われて……良かったって、思うかい?」
「当たり前だよ……最初は怖かったけどね。怖いおじさんに引き取られたと思ったら怖いお兄さんに引き取られて。でもここに来て、おじいちゃんの言葉聞いて、過ごしてみて。みんな私と同じ赤い目を持つ子達なのにみんな楽しそうで、幸せそうで」
少女はその日の事を、拾われた日の事を思い出す。
全身太い紐で縛られた両親に兄弟。
財布、通帳、金目の物全てタンスや棚の中まで洗いざらいひっくり返して奪っていく『怖いおじさん達』。
そして取る物取り切ったと言わんばかりの顔をしたそのリーダーっぽい中年の男が何かを発し、自分を連れ去っていった時の絶望感。
更にそこから如何にもな悪人面をした若い青年に引き渡された時の絶望の重ねがけ。
空は晴天なのに自分の心は絶望に染まっていて、あまりにも空が憎かった事を思い返し少女は苦笑する。
しかしその先に待っていたのはあまりにも幸せな空間だった、と少女はその珍妙且つ自分の人生を変えて行った日の事を思い出していた。
人間として生きていける、幸福感を持てる、生きていて良いんだと思える日々の事を。
今では晴天が一番好きな空模様になるくらいの、そんな日の事を。
「まー流石にあのおじさん達は慣れるまでに時間掛かったけどね。でも良い人達なのも分かったし、何だかんだここに関わってる人達みんな優しいよね」
「そうだねえ……私もね、あの人達と少し話す事があったんだけど不思議な事に最初は抱いていた君達への嫌悪感がブローカーを続ける内に少しずつ消えていって、いつの間にか進んで助けに行っていたって照れ臭そうに言っていたよ」
「……やっぱり、お兄さんの近くにいるとみんな変わっちゃうんだなあ」
事実この事業に関わっていた多くの集団は今、一纏めの企業として慈善事業や芸能プロデュース、警備団体の仕事を執り行っている。
「ほっほっほっ、やっぱりあの子は人を動かし、変える力を持っていたんだろうねえ。だから周りが彼の言葉に突き動かされ多くの人々が救われていった」
救われた人間、それは赤目の少女達だけでは無い。
非合法的な事でしか生きていけなかったヤクザや職を失い生きる事に絶望していた浮浪者、生きる希望を見失っていた奪われた世代、その全てを意味していた。
「やっぱりお兄さんは凄いなあ」
自然と出たその賞賛は、心からの賛辞だった。
「ねえおじいちゃん」
「うん?」
ふう、とお茶で一息を付いた少女は改めて、と言う風に老人に問い掛ける。
「お兄さんって不器用だよね」
「そうだねえ」
「お金儲けが一番だーって言うなら順位沢山上げちゃうのが手っ取り早かったのに」
「……本当、あの子はどこまでも素直じゃない上に不器用だよ」
「でも……そんなところも含めて優しくて、本当のお兄ちゃんみたいで安心出来たんだよね」
「それもまた、あの子が愛される理由かも知れないねえ」
ここの創設者である『とある民警』、その『お兄さん』と呼ばれる青年は非常に不器用だった。
金儲けの為に、副業の為に始めたここに自らが一生携わっていくその為にある時期を境にIP序列の昇格を全て断ったのだ。
この順位まで上がれば一度の仕事でこのビジネスの数ヶ月分の金が入るという水準の一歩手前まで来ていての話なだけに驚かされた、と少女と老人は呆れながら、にこやかに、懐かしむ様に話す。
「表向きは『この順位で働きながら副業してた方が儲かるから』とか言ってたけど、どう考えても無理あるからねー……ほんと、お兄さんってば不器用だし分かりやす過ぎ」
「彼もまだまだ子どもだったという事さ……大人になった今でもそう変わりはしておらんがね」
この老人は、彼の名誉の為に隠している事が何個かある。
深夜まで掛けて、眠い目を擦りながら彼が各ブローカーから集めた情報に目を通していた事。
深夜に数回、仕事とは別にプライベートで赤目の少女をここに連れ込んで引き取っていた事。
夜泣いていたとある少女に、子守唄を聴かせながら添い寝をしていた事。
そして何より、彼が金儲けと言いつつも彼女達が思う何十倍も彼女達の事を大切に想い守っていた、何よりも守りたいから海外に飛ぶ回数の増える高順位に上がる事を敢えて断っていた事。
「おや、帰ってきた様だね」
「あ、本当だー!!」
老人はそんな、本心は誰よりも優しかった彼を思い返し帰ってきたその人に目線を向ける。
少女はそんな事を知ってか知らずか、久々に会う『家族』に一目散に飛び付く為に走って飛び出して行った。
彼は咎めるでもなく、微笑ましいと言った様子で眺める。
「いやはや……若い子は元気が良い」
「おにいさーーーん!! あみちゃーーーん!! 久しぶりー!」
「どわっ、ってお前かよ。おうおう相変わらずチビの時と変わらずチビだなおい」
「お兄さんはいつまで経っても私のお兄さんだからチビで良いのー、ねーあみちゃん」
「そー言う事、という訳でだから私も抱き着くのだー」
「のわーっ!! あみまで引っ付くんじゃねー!! 重いんだよ!!」
「冬夜君。私はこの世は腐っているとずっと思っていた」
誰に語り掛けるでもなく、見つめていた老人は呟く。
「でもそれは違った、違ったと気付かされた……君に救われた人間の中には、私もいるんだよ」
「だから、私の残された時間の許す限り、今度は君の幸せを見守り続けていきたいと思っている」
「……幸せになるんだよ、冬夜君」
青年と、あみと呼ばれた少女の左薬指がキラリと光る。
それに気付いたもう一人の少女が二人の今日の買い物が何かを盛大に知って更にどんちゃん騒ぎになるまで、残り10秒の事であった。
誰視点から話が始まって誰視点で終わってるかとか、『今の家族』の事だとか、原作キャラの誰が救われてるとか、その辺は皆さんのご想像と察しにお任せします
この3話にブラブレにおける全てのやりたい事をやりたい放題詰め込んだ、後悔は無い