化けさせる化け狸   作:一般人A

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(テストが終わってやっと続きを書くことができたので)初投稿です。


化け狸と翁

なんじゃこの空気。儂何かやっちゃったかの?儂はただ頭の中にパッと浮かんだ名前を言って、妖怪らしい前口上を付け足しただけなのじゃが。鳥の囀りが余計に静けさを強調している。

 

「あ〜人間や、折角儂も名乗ったのじゃからお主も名前くらい名乗って欲しいのう」

 

 場の空気を断ち切るため、ただ心に思っていることを口に出す。人間の頃は思ったことを口に出すなんて出来なかったじゃろうに。いや、儂の元々の身体が人間であったと言う確証なんて何処にも存在しないのじゃが。漠然とした自信がある。「儂は元々は人間であったのだ」という根拠のない自信が。まぁ、自分が自分でないと感じることは立派な根拠にはなりうるかもしれんがの。

 

「おぉ、すまんかった。俺の名前は中村繁邦てもんだべ、宜しくおねぎぇします」

 

 そう言いながら彼は口角を上げた。歯が眩しく光っているような素敵な笑顔である。

 

「相分かった中村じゃな、ところでなのじゃがここは何処かの?ちいと旅の途中迷ってしもうての教えてくれんか」

 

 という設定にした。あれおかしいのう流離の旅になんて出てなかった筈なのじゃが。さてそんなことは置いておいて、まずは情報収集である。情報収集は未知の地に落ちて基本、古事記にもそう書いてある。知りたいことは山ほど、ホコリの数ほどあるが、一気に知りすぎても頭がパンクしそうなので大切なことに絞ることにする。

 

 「此処は何にもない辺鄙な山村たべ、旅途中のマミゾウ様には申し訳ねぇがなんもお出しできるものがないべ、すんまへん」

 

 違うそうじゃない。いや、合ってるんじゃけど聞きたいことはそういうことではない。

 

「言い方が悪かったのう、此処は何県の何処じゃ?」

 

「んぁ、そういうことだべか、ここは○○県ってとこの小さな島だべ」

 

…真か?いや儂が元々どこにいたかも分からんのじゃから嘘も真もなにもないんじゃが。

 

 

 ○○県のイメージがこれといって湧かんの、確か地元酒が美味しかったような気がする。何度も言うが儂には記憶はないぞ。そう心が叫びたがってるんじゃ。まぁ場所がわかったからよいとしよう。

 儂は此処が小さな島であることに驚きながらも顔に出さぬよう中村に問う。

 

「そうかそうか教えてくれてありがとうの、して中村は何をしておったんじゃ?」

 おそらく雑木林の手入れであろうが問うておく、現状では情報はいくら合っても足りないくらいである。

 

「おぉそうだったべ危うく忘れるところなんだ、今から生木を伐採しに行くんだべ」

 

 生木の伐採というと薪の入手が目的であろうか。しかし生木の伐採はノコギリかチェーンソーが必要であるはず。儂は隈なく観察すると丁寧に衣嚢に折込鋸が入っているのを見つけた。気づかなかった…

 しかし普通伐採は冬頃にやるのが主流であった気がするのだが、まぁ専門家に意見するのも憚れるやめておこう。

 しかしこれはいい機会だ。此奴について行って伐採後にそのまま山村まで押し入ってやろう。少し悪い気もしなくもないが、儂は人間じゃないし、何よりこのままでは食に有り付くことが出来ずに事切れそうだしの。

 ついて行く理由としては丸太を運ぶのを手伝うためなんかでよいだろう。

 

「ということは今から薪を作るのじゃな?ならば儂にも手伝わせてくれぬかの、久方ぶりに人間と話した故、これも何かの縁と思うての」

 

「……わかりました、畏れ多いんですがよろしくおねげぇしますだ」

 

 

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 「この村は山々に囲まれた辺鄙な場所であったが、皆が楽しく過ごせるところ」私の勝手な感想ではあるが、これでも何十年と過ごした場所、理にかなっているはずである。

 しかし何分にも若い頃はその辺鄙さが窮屈で暮らしにくかった。「大抵の遊びは遊び尽くした」「この場所で自分の知らないことはない」なんて思っていて、知識に飢えていたのを覚えている。だからか毎年訪れる商人から話をせがみ、いつしかこの自身を束縛する村を出て新しい世界を知ろうと躍起になっていた。

 それから暫くたちこれから始まる地獄なんてつゆ知らず、新しい生活を脳内に描きながら胸を弾ませ上京……したはいいものの世間は大戦の真っ只中。大戦景気によって段々と物価が上昇していきすぐにでも故郷へ逃げ帰りたかったが、ここで逃げては男が廃るとやせ我慢。しかし起こった米騒動には堪らずそのまま蜻蛉返り。帰郷後、父からは憤怒の相で叱られたが、風の噂で届いたシベリアへの出兵のことを知り、安堵したものだ。

 その後は変わったことなどなく、自身とは比べ物にならないほどの美しい嫁さんと一緒に平和な余生を過ごしている。だからか変わらぬ日常に現れた膿にはずいぶんと驚いた。

 

 

 

 

 その日は薪の補充のため村が管理する山へと、私は重い腰を上げて歩を進めていた。薪の補充・生木の伐採は重労働で私個人としても進んで行うものではない。だが私にも生活が掛かっているため渋々行っている。

 今思えば私も随分と歳をくったもので、今では息子もいる。アイツは俺と同じで知識欲が強く、いっぱしの年齢になると直ぐに上京しちまった。あの馬鹿息子は上京してから中々連絡を寄越さないので「何という親不孝ものか‼︎」と私が足を運んで怒鳴ってやろうと思ったが、よくよく考えると私も親孝行であると思ったのでやめた。親父よりも長生きできたのが唯一の親孝行ではないだろうか。しかし現在ではアイツはそこそこの名を挙げているらしく有名な大学の教授をやっているらしい。そろそろ子も産まれてくるとのこと。初孫だ。

 そんなことを考えていると何処からか、うめき声が聞こえてくる。獣ではなく人間らしい声で。

 

 そこに居ったのは美しい女性。まるで彼女のために美人という言葉が生まれたようであった。私の妻も勿論美人であるが、彼女と妻では違う。私の妻は美人というよりかは「可愛い」の部類に入るだろう。しかしながらその美しさよりも目につくものはなんといっても縞模様の尻尾である。

 人間でいう尾てい骨あたりにある筈の圧倒的な存在感を放つ臙脂と黄土色の二色の尻尾が示すのは彼女が狸であるという事実を物語っている。そう私が雑木林で出会った彼女は化け狸であったのだ。

 彼女が化け狸であるという事実は私を大いに驚かせたが、ある部分が私の知的好奇心を働かせた。それは狸の陰嚢についてである…

確かにとてもお下品極まりないがこれは決してふざけている訳ではない。狸の陰嚢は伸縮自在とされており、その陰嚢を使い人間を襲ったり、助けたりする様子が浮世絵に見られる。これが彼女とどう繋がるのかというとそれは間違いなく彼女には陰嚢が存在しないということである。人間を化かすことが化け狸の特徴ではあろうが、腹つづみを鳴らすことや、陰嚢を使うことも化け狸である証拠でなのだ。では陰嚢を持たない彼女は果たして本当に化け狸なのであろうか。いやふたなりという可能性も考えられるか………

 なんてことを考えていると彼女がこちらを観ていることに気がついた。もしかしてもなくとも声に出ていたのだろうか。これはヤバいかもしれん「陰嚢」なんて言葉はこんな美人には合わない。どうしようかの。

 

「ふぉっふぉっふぉ、人間、儂のことを化け狸と呼ぶでない。儂は満月の帝王大妖怪の二ッ岩マミゾウ。お主の名も聞かせてくれんかのう」

 

 どうやら杞憂だったらしい。

 

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 儂はやはり妖怪であった。薪を自然乾燥させるため日当たりと風通しの良い屋外に運び、風が通り易いように積み上げていく中で改めて思案する。どう考えても運べれる量でなくとも軽々と運べてしまうのだ。人間が運べられる薪の量を1とするならば儂は10ほどはある。この事実から鑑みるに筋力は人間の比ではないだろうし、他の機能も人間とは比べるまでもなく高いであろう。姿形が人間でないものであるということはわかっていたが、いざ人間との違いを知ってしまうと中々心にくるものがあるのう。

 改めて思うことは、生木を切り倒した後、そばの樹木に立てかけられていた斧で薪を作り出していた中村殿を手伝わなくて正解であったことだ。儂が斧を一振りすれば丸太を置く土台ごと斬れて、そのまま地面に直撃して斧が壊れていただろう。無一文なのに借金を背負うなど儂は絶対に嫌じゃ。

 

 

 

 

 

 さて、村に着いたはいいもののなんじゃこの空気。儂また何かやっちゃったかの?

 




初めて感想頂いたので続きを書きました。なおプロットは未だにない模様
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