(お久しぶり過ぎて何を書けばよいのか思い浮かばないので)初投稿です。
空気が重いのぉ。まぁ原因は儂であると分かりきっているんじゃがの。
少しばかり神様だとか崇められるのを期待しておったのじゃが、どうやら未知への恐怖が興味と崇敬の念を打ち砕いたらしい。
村へ向かう道中、先程話の流れに合わせて質問できなかったいくつかのことを問うた。
まず今は西暦1968年の昭和43年。かの高名な小説家"川端康成"が日本人として初のノーベル文学賞を受賞した年である。
儂は読書家なので作品を一通り拝読したことがあるが、やはり『雪国』が心に残っておるの。あれほど出だしが有名な作品はない。
そして中村はその名が示す通り村長とのことだ。元は村の中枢を担う一家の一つだったそうなのだが、中村……いや繁邦の代で村の長を受け持つことになったのだとか。
個人的には繁邦に付け入れて重畳であったが、本人は自身の立場に納得していないらしい。「息子一人を十分に育てられない私にその資格など…」と嘆いていた。
そんな夕日によって照らされている彼からは哀愁が漂っていた。
そんな談笑を終えて村へと入ると、儂を迎えるのは鋭い突き刺すような視線。手荒い歓迎である。
日が落ちていることが幸いし、人は少ない。しかし山の麓から見てもわかるようにこの村は狭い。明日には村中に儂の噂が広がるじゃろう。
そもそも儂の打算が上手くいくかも分からんのじゃ。参ったのお。このままでは最悪飢え死にしてしまう。力任せにことを起こすか?
儂の力は既に人知を超えた妖怪。目の前の老いぼれ程度一捻りじゃろう。中村には少しばかり感謝もあるしここは痛みも感じる間もなく…
殺してやろうか
…………
…………………
いかんのやはり儂はこの現状に焦っておるのじゃろう。この思想は危険じゃ。いや妖怪としては妥当な考えなのじゃが。
だいたいここで人間を皆殺しにしたところでどうなるというのか。個としての性能はともかく人間は集団となるとかなり面倒な奴らじゃし、食の供給元を自身で断つ馬鹿が何処にいる。
しかしこんな倫理観を無視した合理的考えをする時点で人間であったであろうころの『心』はとっくに無くなっているじゃろう。身も心も完璧に妖怪じゃの。ほっほっほ。
しかし中村殿への二人称が安定しておらんの、今後は中村殿と統一するとするか。
今ふと思ったのじゃが、なぜ中村殿は儂を嫌悪しなかったのじゃろうか。村の者どもは儂を睨みつけてくるというのに、周囲の目もある、此処で訳を聞くのも憚れる。ここを抜けてから聞くとするか。
「のう中村殿、おぬしは何故忌避せぬのじゃ?儂は妖怪、喰われてしまうのではないかと思わぬのか」
どのように問おうか逡巡していたが、この様なことで頭を回すのも馬鹿馬鹿しいと思い率直に質問した。
中村殿の思う妖怪としての理想を壊し、幻滅されてしまったらそれまで、此処を去るだけである。
「……俺はただ自分の興味の赴くままに行動しただけだ、でも喰われるのは流石に勘弁だべ」
そういえばそうであった。
人間という生物は未知を恐るがそれと同時に少なからずそれを探究しようとする生き物であると、その知的好奇心が彼らをここまで持ち上げてきたのだと。
探究心か。ふふ、記憶を失いこれからどうなることかと焦燥していたが、良いかもしれんな。妖怪として欲に好奇心に忠実に動くのも。
ここには沢山のカモがおる。今後の状況次第では化け狸"二ッ岩マミゾウ"として化かしてみるもするか。ふぉっふぉっふぉ。
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「さあさあ、どうぞ上がってくだせぇ。碌なもん出せませんが茶でもどうぞ」
儂の思惑は大成功を収めた。あわよくば山村に押し入ろうとは思っていたが、まさかここまで上手くいくとは思ってもみなかった。
儂の目前には一軒の村家。時代が時代であるからなのか木造である。村長の家とのことで大きなものなのかと思案していたが、そうでもなく、周辺の民家より心なしが大きい程度であった。
「ただいま帰ったぞ、千恵子や」
中村殿が引き戸を開けて挨拶する。千恵子というのは妻であろうかと考察するが、その考えは彼女の姿で決壊した。
「おかえり、あなた♡」
まごうことなき幼女、ロリであった。一瞬中村殿の娘か孫かと思ったが、「あなた♡」などと男を惑わす色っぽい声を吐いているのでこの時点で彼女が妻であることは確定した。信じたくはないが。
儂としては人の癖は自由であると思っているがこれは流石に擁護できるものではない。
二人は儂の存在など知りもしないと抱擁し、口吸い。正直勘弁してほしい。どう反応していいやらわからぬ。
儂はここにおっては迷惑かと自身の思惑など放り投げこの場を去ろうとした。
「おぉ、すいませんお見苦しいところをお見せしますただ。ささどうぞ中へ」
「あら、お客様?ごめんさいね気がつかなくて粗茶ですがお召し上がりになってって」
「千恵子は俺が浮気したとは思わないのか?」
「ふふ、あなたが不貞行為だなんてする筈ないじゃい。だって私がこんなにも愛してるんですから」
「千恵子…」「あなた…♡」
…………帰ってもいいだろうか
「あらあら、そんなことでしたらどうぞ滞在していってください」
儂は彼女、千恵子殿に予め予定していた内容を話した。
目的もなくぶらぶらと旅歩いていたらいつのまにか山奥にいたこと。迷って途方に暮れていたら中村殿と出会ったこと。久方ぶりに人間の仕事を手伝ったこと。ここの景色が気に入ったこと。出来ればある程度滞在していきたいこと。
千恵子殿は儂の話を真摯に聞いた上で二つ返事で了承した。
少しは村の住人の意見を聞かないのかと尋ねてみれば、「あまり気にしなくても大丈夫よ、うちの村のいいところの一つは柔軟性の高さだから」とハキハキと口を動かした。
因みに年齢を聞いてみたところ「ひ・み・つ」とのことだ。中村殿との親密さから嫁いで40年は経っていると思うのだが…
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この村に滞在して半月が経過した。儂はこの時間を通して自身の持つ力と自身という妖怪について知った。
邂逅時、中村殿が言っていたように儂は人を欺くことを生きがいとする狸。そして人間の理解を超える奇怪な異常現象を引き起こす非日常、非科学的な存在である妖怪謂わば"化け狸"。
儂は化け狸としての力を知り、振る舞うことのできるよう幾らか実験を試みていたのじゃが、その際に儂の力の本質は『変化する』のではなく『変化させる』であることに気がついた。
意外と解釈が悩ましい『する』と『させる』であるが、これを簡略化するならばある動作、行動を自主的に行うか仕向けるかである。
つまり儂の力は木の葉や石、ましてや自分自身も変化『させる』ということじゃ。
言うなれば『化けさせる』というものじゃな。まぁそれだけといえばその『程度の能力』なのじゃが、この力は中々に興味深い。
まず質量保存の原理を無視することができる。そもそも妖怪という存在自体が化学を否定するものなので当然といえば当然か。
そして性質を変えられないので変化させるものが元に近い物でないとすぐに見破られてしまうという厄介な特性を持っている。一見欠点にも思えるものだが見方を変えればこれも化かすのにはもってこいの特徴といえよう。
しかしながらこのような話を真摯に伝えたところで異常現象を引き起こす非科学の象徴ともいえる妖怪の存在を人間は信じるないであろう。
儂がこの村に滞在して一夜明けた日。儂という存在を知覚することができたのはごく僅かな人間のみだった。
その多くは子供や老人で、壮年のものたちは儂という存在を認識はできても知覚することは叶わなかった。
そこで儂が思う知覚することのできる者達の共通点は『未知を知ろうとする、または信じる』というところではないかと考えた。
儂の知る子供は好奇心旺盛で不思議に思ったことがどんなものであれ率直に質問し、その解を一方的に信じるものと見聞している。
それに比べ大人へと成長していくと好奇心の向けどころが絞られ、全方位に存在する未知への分散が難しくなる。
妖怪という存在は人生経験の少ない子供は兎も角、大人にとってはそれは既に解明された未知であり、信じられる存在ではない。つまり好奇心の向けどころではないのではないだろうか。
では老人は何故儂を知覚できるのかというとコレに関しては儂もよくわかっていない。ただこの村の中では知覚できる割合が高いだけだ。勿論知覚できない翁、嫗もいるのじゃが。それが余計に複雑にしておる。
なので暫定的なものと考えて良いじゃろう。儂としても懐疑の念を抱かないこの中村殿らについてはどうかと思うがの。
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《〜〜〜〜〜♪プツッーーーーーーー》
《ーーーーーーーーザーーザ》
《臨時ニュース、臨時ニュース》
《ーーー時にーーー近海の北緯24度ーーーーーーーーーーーで発生し、ーーー沖で停滞していた台風7号は進路を変えーーーーー》
彼女にとっての転換点はもうすぐそこまで迫ってきていた。
中村殿の一人称は「俺」。ですが心の中では「私」。
次回?期待しないで待っててください。