化けさせる化け狸   作:一般人A

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お久しぶりでござる。エタることはないであろうが投稿が無茶苦茶遅い小説です。遅れてごめんなさい。


捕らぬ狸のディスガイザー

 白南風が軒先を走り、チリンチリンという深みのある涼しげな音が短く鳴る。ぎらぎらと照りつける太陽と突き抜けるような青空の下に彼女はいた。

 名を二ッ岩マミゾウ。化け狸の大妖怪である。彼女の赤み掛かった茶色で染まった髪にのった青葉が髪に沿って流れ落ちた時、彼女の容姿は未だ"人間"そのものであった。

 

 

 

「マミゾウ様、朝餉の準備が整いましたよ」

 

 

「うむ、今ゆく」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日も今日とてお勉強の時間である。千恵子殿が仕度した朝餉を平らげ、山の麓へと向かう。勿論、目的は儂自身の力を熟知するためである。

 到着し、まず行うことは行使している力の維持。力…『妖力』というべきエネルギーを全身へ張り巡らせ、循環させ続ける。

 

 

 それから幾分か経ち、彼女の波打つ臙脂色のスカートからは臙脂と黄土色の目立つ尻尾が瞬きより早く現じた。頭頂部寄りから真上へと二つのお山もである。

 

「やはり自身の化けの維持は難しいのう…」

 

 儂のやっていることは偏に『自身を化けさせ続けること』じゃ。

 

 村へ降り立ち、中村殿の家に半月ほど居候する中で色取り取りなものを化けさせてきた。勿論、中村殿だけでなく村の仕事はしておる。単なる脛齧りではない。

 犬の外形を猫にしてみたり、鴉の姿をヒトにしてまるで人間が飛行しているようにしてみたりと。じゃが、それは全て自身の力を発現させているだけに過ぎなかった。

 つまるところ能力を行使するだけでコントロールをしていなかったということよ。

 

 まぁ得た力に驕っていた事に半月経ちようやく気がついた儂はまずは化けさせた状態を維持しようと考えたわけじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 第一に手をつけたのは葉を石に化けさせ続けること。

 これは思いの外簡単じゃった。拍子抜けだの。石を葉と認識し続けることはこの化け狸となった身体、脳みそでは簡単なことであった。しかし意識するとなると話は別。

 

 『葉を石に変えた』、『葉を石に変えている』と頭の隅に常に留めておかなければ、化けは解けてしまう。

 

 これは随分と神経を使う。気づいたら忘れておって、周囲に緑のない錆色な地面にポツンと緑葉のみがある中々にシュールな光景が出来上がってしまうからの。

 これは今後の課題、いや永遠の課題であろうな。

 

 

 

 次に着手したのは人間の容姿を別の人間の容姿に化けさせ続けること。

 これは童っぱどもに力添えしてもらった。化けさせ方は至ってシンプル。

 

 どの様な容姿にさせるか全体像を頭ん中で描いておいて、それを化けさせる対象(小童)に重ねる。妖力で童っぱの全身を覆うイメージじゃ。

 

さすれば、あら不思議。童っぱが立派な好青年に。まぁ体重は変わっておらんから簡単に持ち上げられるし、本人の力も変化しないので力仕事もてんで出来やしないことに変わりはないがの。

 

 問題はここから、此奴の状態を維持することじゃ。勿論この羊頭狗肉な容姿端麗美青年を念頭に意識することに変わりはないが、石と比べると意識する量が段違いに多い。

 

 人間と比べ、儂の脳の出来が数段優れていようとも、未だこの身体が自身のものであると認識してから一月も経っていない。

 儂はこの原因を人間であった頃の精神とこの肉体が噛み合っていないからではないかと考えておる。こればっかしは慣れかのう。

 

 

 話が逸れたが、要するに化けさせるものの大小の差が激しいほど維持は難しいという訳じゃ。そしてもう一つ、『葉を石に化けさせながら別の石を葉に化けさせ続ける』ことも単純に労力が増えて、逆のことをしていてキツいの。

 

 

 

 そして最後は儂の姿形を人間にし続けること。儂が朝餉の前からやっていたやつじゃな。

 要は儂のこの可愛らしい焦げ茶色のお耳と圧倒的な存在感のあるもふもふ尻尾を化けさせることで消してしまい、誰もが見ても"人間"と思う姿になるということよ。

 

 当然ながら難易度はピカイチなのだがな…。

 

 自身を化けさせる為に必要なことは何か。儂は考えた。そして出た答えは自分を知ることであった。…当たり前である。

 

 そして儂は弄った。着ていた服を綺麗に畳み、産まれたての姿となった自身の身体の隅から隅まで弄った。

 

 赫赫たる夕焼けに染まる雲のように豊かで美しい髪にキノコのように生えている赤みがかった茶色のお耳。

 雨上がりに差す光芒のような輝きを迸っている煉瓦色の瞳に彫刻品のように整った鼻。

 柔らかく膨らんだ唇、華奢な鎖骨、乙女の秘密のまるい果実の乳丘に白玉のような白い手足。そして臙脂と黄土色の二色が交互に並んだ模様をした少し太めのアライグマのようなもふもふとした尻尾。

 

 上から下へと、改めてこれが自分なのであると自身に言い聞かせるように儂は触った。

 

 かくして儂は想像した自身の思う人間へと化けた姿を自らへと重ねて化ける…ことができたら話しは早かったのじゃが。そう上手くはいかん……

 己に重ねることができんかったのよ。童を化けさせるのと違い、化けさせる対象がこの眼で捉えることが出来ぬが故に。

 「鏡とか使え!」などと思うかもしれんが、反転しているため重ねることが難しいんじゃて。

 

 

 

 

 状況は難航しておった。時間は腐るほどあるものの、これといった成果がでないことに儂は憤りすら感じておった。

 そんな時1人の小童っぱが言ったのよ。

 

 

「マミゾウ様は葉っぱを頭に乗っけてなくても変化できるの?」

 

                     とな。

 この小僧は絵本か何かで見たのであろう。狸が頭に葉をのせて、一回転して煙と共に変身する場面をの。

 子供が何となしに疑問視したものを思わず質問してしまったように、単純で陳腐な疑問によるものであったのだろう。じゃが、儂にとってその質問はまさに青天の霹靂であった。

 

 

 

 

 

 

 そして今現在、頭に葉をのせて自身への変化の持続中である。

 

 頭に葉をのせることでそこを起点とし妖力を円を描くように全身へと巡らせる。自身の身体を通暁していたのが役に立った。妖力を循環させる。起点となる葉が髪から流れ落ちてもなお維持、維持、維持。

 

「ムムム ムム………」

キツいが我慢じゃ、忍耐こそ成長の糧なのよ。

 

「マミゾウ様ぁ〜昼飯の準備が整いましただ〜っ!!」

 

「えっ?……………………あっ」

 

化け続けてかれこれ三刻…六時間ほどのことであった。 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、今までの最長記録じゃしヨシとするかのぉ…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしても、今日は風が強いのお」

 

 団欒の暖かい空間とは相反する冷たい夜の空気が隙間を通り、儂の肌を粟立たせる。外では寒風に吹き荒ばれた木々が独特の音色を奏でている。早朝の空は嵐の前の静けさであったか、そう二人へと聞こえぬよう独白する。

 

「千恵子や、今日は風呂には入れそうだべか?」

 

「…いえ厳しいでしょうねぇ、この風ですもの薪で焚くことも難しいでしょうし……」

 

 風呂に入れんのか…。それはちと嫌じゃのお。儂の尻尾がゴワゴワして気持ち悪くなってしまうではないか。

 

 風呂というのは所謂『五右衛門風呂』のことじゃ。築かれたかまどの上に釜を乗せ、さらにその上部に桶を取り付ける。底板を浮き蓋にして、それを踏みつけて入浴するタイプの風呂のことじゃよ。

 その繋がりじゃと、世紀の大盗賊・石川五右衛門が、秀吉の暗殺を企てた罪として鉄の大釜で釜茹でにされたという伝説が有名じゃの。まぁ儂としては全体が鉄製の長州風呂でなくて良かったということであるの。(尻尾が当たって火傷してしまうからの)

 

「そうか…今日は風呂はお預けか」

 

「すみませんねぇ、マミゾウ様。御客人であるのにおもてなしできず…」

 

「何を言っておる、居候させてもらっておる儂はとやかく言える立場ではないわ。気を使わんでよいぞ」

 

 千恵子殿とは未だに距離が空いておる。儂は妖怪であるし、居候であるから距離を縮める必要は別にないのではあるが。

 儂個人としてはこの村に定住するまで考えておるから、なんとかして距離を詰めておきたい。

 

「「「ご馳走さまでした」」」

 

             寝るとするかの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにも激しい雨風に上下の瞼が離れ、世界に再び時間が流れ始める。思わずして彼らの方を盗み見るように顔を出す。

 

「何故こんなにも五月蝿いというのにこの夫婦はピクリとも起きる気配を感じさせないのじゃ?」

 

 呆れ具合に口元がひくつく。闇をも切り裂く強風が寝所を揺らし、儂は刺すような冷気を紛らわすために蒲団の中へと潜り込んだ。

 

「台風じゃな」

 なんとなくわかっていたとぼそりと呟く。

そして思うはこの村のこれからの安否。

 

「まあ、ダメじゃろうのぅ」

 

 猛り狂う烈風と横殴りの雨と共に村の人間の心の昂りと抑えきれない焦りが混じった狂乱が儂の耳をこじ開ける。

 儂の脳内ではここが小さな島であることから既に逃げ道のない監獄の中に閉じ込められていることを想起させていた。

 

 

 

 

 儂の中で疾うにこの場から逃げ失せるという選択肢は消え失せていた。身体を起こし、重圧のしかかる腰を上げる。

 

「……儂はまだ己が人間であったのではないかという疑問を捨て切れていないらしい…」

 

 この状況を愉しむかのように笑みが溢れる。視界の端に映る老夫婦を尻目に儂は一歩を踏み出した。

 




続きはマミゾウ殿に化かされました。
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