投稿間隔は長いでしょうが、エタることはありません。今後もよろしくお願いしますm(_ _)m
「勢いそのままに飛び出してきたはよいものの…どうするかのぉ」
山を下った儂を鋭い眼光でお出迎えして下さった村民らの譫妄・狂騒が、まるで始めからなかったかのように感じさせる程の暴風。そんな中、儂は思わず自嘲的に呟く。
もとより策などなかった。妖となり、記憶と過去の引き換えとして得た非科学的な力で天災を打ち破れるのではと何となしに考えなかった訳ではない。たとえ人知を超えたとて、その存在を超える超自然がこの世に在ることはわかっていたのだから。
にもかかわらず、なぜ逃げなかったのか解らない。人間であった疑問が捨てきれないからで片付けられるものではない。それが単なる恩義なのか利用価値を見出した故の判断なのか、儂は己の内が理解できない。
身を切るような夜嵐にその場にいるだけで息苦しさを感じさせる鬼雨が彼女を襲う。全身を押下させる大嶽丸の神通力の如き猛攻を一身に浴び、彼女は心のまま無我夢中で走り始めた。
目指すは一つ、元凶のもとへ。
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「千恵子、起きておるんじゃろう?」
布団の中、足を絡ませ暖を取りながら繁邦は、隣で背を向け寝ている千恵子へと口を開いた。
「どうかしましたか、あなた?」
そう、ぽつりと呟きながら繁邦と目を合わせた千恵子。雨夜の闇でぼやけたその輪郭がさらに淡く、溶け出してしまいそうな程の丸みのある声が辺りに響く。
「いや…う〜む、その……「ふふふっ」…千恵子よ笑ってくれるな…恥ずかしい…」
言い淀み、火を吹く頬の熱を部屋全体へと染み渡る隙間風が奪う。
「いえいえ、無理に言わなくても結構ですよ。マミゾウ様のことでしょう?」
「私は別にあなたのお客様だから、私たちの愛の詰まった住まいに宿泊を許している訳ではないのよ?」
「もちろん、それが疑いようのない真実かと問われれば嘘になるわ、私は愛を裏切れないもの」
暫くの沈黙の後、千恵子は続けた。
「…私はね、マミゾウ様が苦しそうに見えたの」
「彼岸と此岸を行き来してるみたい…なんというか居場所を探しているように感じたのよ」
「それが人間と妖怪、長い時を生きる者同士の違いって言われれば否定できないけど…」
「違う気がしたわ」
「路頭に迷ってるみたいで…私は…私達がマミゾウ様の居場所になることを身勝手に決めるのもなんだか違う気がして…」
ギシギシと家屋をゆすぶる烈風による木々の吠える声が山村を駆け抜ける。屋根を劈くような雨音が彼女の不安を増大させた。
「……俺はどんな明日が訪れようと、それを受け入れるべよ」
「選ぶことに人妖の違いはないからな…」
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唸る高波が岸壁を飲み込み、辺りに轟音が鳴り響く。地面が傾く錯覚を感じながら彼女は現状を打破する為の策をぽつぽつと浮かべ始めていた。
ぱっと思いつくのは台風に別の台風をぶつけ、互いに打ち消し合うことなのじゃが。どうやって別の台風を見つけるのかという話じゃし、現実的ではないの。
台風の原動力は凝結に伴って発生する熱であった筈じゃ。どうにかして海面の温度を下げて、水蒸気の供給を減らすか?いや無理じゃの。
大体どうやってこの母なる海に干渉することができるというんじゃ。超自然も超自然ではないか。
「……クソーーッ!こうなりゃヤケじゃ!!」
肌の表面をチクチクと針に刺されるような感覚を覚えながら、マミゾウは足元の転石を数十と握りしめ、海を割る暴風へと力一杯振りかぶった。
台風へ向かう飛礫が様々な突起や凹みを持った不可思議な三角形へと化ける。その形は非常に不恰好であったが、それ以上に大きかった。
彼女がとった選択は小石を山へと化けさせることであった。
台風は本来のエネルギーを失うと熱帯低気圧や温帯低気圧に変化するのだが、そのエネルギーを奪う一つの要因が移動する際の地表との摩擦である。ヤケになったマミゾウであるが、彼女がとった山のようなもので台風の力を削ぐという選択は、とれる選択肢の中では最良に近いものであったといえるのだ。
また、大観の描くような輪郭線のきっちりとしたものとは真逆の不安定な形、その雄大さのなさが摩擦力を高めるという点で功を奏したとも言える。
しかし、幾ら摩擦で台風の力を削ろうとも微々たるものであることは偽りなかった。
「…ハハっ、こう天災を目の当たりにすると笑いしか出てこんのぉ」
着々と滅びの足音が近づくのを肌で感じる。
「野の草を吹き分けるから野分と古くはいうが、そうは表すことはできぬじゃろうて、コレは」
白く冷たい皮膚を逆立つ尻尾で包む。
「じゃが、なぜじゃろうのぉ」
「諦めきれぬのよ」
中村殿と出会った時も、薪を運んだ時も、村民から忌避の視線を向けられ殺意を覚えた時も。儂はどこか妖怪、化け狸であることを自身に言い聞かせようとしておったのかもしれん。自分を無理に化けさせておったのじゃろう。
人知を超えた非科学的存在などと銘打っていたにも関わらず、儂は人の心を捨てきれておらぬ。身も心も妖怪であると哄笑しておったにも関わらずじゃ。中村殿らを助けたいとそう思ってしまった。恩を仇で返さず、恩で返そうとしておる。
「施された?」そう思い否定するこの夢想こそ人心なのではないか。
儂はチグハグじゃった。儂は妖怪としての心を持てぬ半端者よ。
じゃが…
なぜ人の心を捨てる必要がある?
妖怪は自由なのじゃろう?
身勝手でも良いのじゃろう?
なら………
「人の心を持った妖怪がいても構わぬよのぉ?」
人として生きること。妖怪として生きること。選ぶべきと使命のように感じていた彼女の顔持ちは、長年の胸の痞えが下りた天候とは似合わぬ晴々としたものであった。
「さぁて、始めようじゃないか!」
彼女の周りを滾る妖力が急流となり逆巻く。
『たわむれはおわりじゃ』
投稿遅れて申し訳ありません。前後編のタイプのため、次回は早めに投稿頑張ります!