6月。ニューホンコンの盛夏、日差しも高く、青空の雲もいっそう白く。
戦闘音楽だけが、蝉の泣き声のように騒々しい。
人の気配のしない港で、サイコガンダムは波を割りながらジャンプした。
攻撃はしない、ガンダムMk-Ⅱの背後の市街地に流れ弾が飛び込んだら困るから…
フォウは移動のみ念じて巨大な機体を軽々と着水させ、次に攻撃を祈りながら指先をMk-Ⅱに差し向け、イメージとして指を引く。
イメージ通り、指部に設置されたメガ粒子砲が光の尾を引いてMk-Ⅱの背後を空振る。
「このっ、ちょこまかと…」
『フォウ、今のあなたはサイコミュをよく扱えている、もっと攻撃に集中しなさい!』
「言われずとも!」
(と、口だけは勇ましく…ね)
ちらりと何も巻き込まないことを確認すると、ドダイ改で飛ぶMk-Ⅱに拡散メガ粒子砲を【意識して】放つ。
【意識した】通り、Mk-Ⅱはそれを難なく避けながらビームライフルを放ってくる。
Iフィールドジェネレーターがビームライフルをきれいに弾き、拡散したビームが波間を砕いた。
(よし、これなら私にもダメージ入らない!)
そう、私がMk-Ⅱと戦うのはこれが初めて。
サイコガンダムがビームライフルを弾くなんて彼は知らない。
だからMk-Ⅱの攻撃はこっちに効かないし、こっちが当てなければMk-Ⅱも落ちはしない。
これよこれ!
思わず口の端を吊り上げる。
私は死にたくない。とはいえ、カミーユたちを攻撃するのも、遠慮したい。
今回のブラン・ブルタークの作戦はオーソドックスだ。
部隊で最も目立つ、そして<使い捨てても構わない>サイコガンダムを囮としてニューホンコンを攻撃して、エゥーゴのモビルスーツ部隊を引きつける。
その隙にブラン・ブルタークのアッシマー以下、残存モビルスーツ部隊がニューホンコンを離れたアウドムラを強襲して制圧する。
これなら、私はガンダムMk-Ⅱ相手に時間稼ぎしてればいいし、アウドムラはアムロがいれば大丈夫だろう。
カミーユの殺気溢れるビームライフルがサイコガンダムに押し迫るが、右手を差し出すように振り仰いでIフィールドの傘を張り、撥ね除ける。
くそっ、と言いたげな…いや、【感じる】ガンダムの動きを見ながら、少しづつニューホンコンから遠ざかるように、サイコガンダムを沖合に向かわせた。
『フォウ!』
「やっている!」
口ぶりだけ勇ましく叫び返しながら、接近してきたドダイ改に拡散メガ粒子砲を浴びせる。
きらきらと光条が迸り、そのことごとくが獲物を捕らえることなく空振りしていった。
「サイコミュが当たらないんだ!火器管制システムと一致していないぞ!!」
『そんなはずはないわ、私が調整したサイコミュは完璧よ!』
当てるつもりなく撃ってますからね。
きちんと狙いをつけられる指部のメガ粒子砲は、あまり使わないように…
ランダムで複射される、熟練パイロットなら当たるべくもない拡散メガ粒子砲を街に被害が出ないよう、ガンダムMk-Ⅱに向けて撃つ。
もちろん、カミーユには当たらない。
(この調子でいくわよ!)
たぶん、このまま行けばブラン・ブルタークたちは撃破され、残されたベン・ウッダーは特攻を決意するだろう。
そこでスードリに飛び込んでナミカーを攫って、サイコガンダムで逃亡する。
所在を知っておきたかった人物たちについては、調べてある。
1人は、作中通りジャーナリストとして活動していた。
1人は…この世界に実在しているか自信はなかったし、連邦軍、ティターンズの軍籍にそれとおぼしき人は発見できなかったけど、アングラ情報で写真を見た。
その情報さえあれば、私はティターンズにも、エゥーゴにもいる必要はない。
「えぇっ…い!」
ありもしない気迫を込めて指先からメガ粒子砲を放つ。それは既に通り過ぎたガンダムの軌跡を穿っていった。
「当たらないよ!」
『そんなはずないわ!』
サイコミュは私の脳波を検出し、正常に動作している数値をナミカーに送っているだろう。
だが、当てないという私の意思までは送らない。
それに、次第にミノフスキー粒子が濃くなってきている。
ざざっ、ざざっとスードリとの通信が乱れてきていた。
(とりあえず、カミーユをもう少し時間稼ぎして…えっ!!)
などと考えていると、視界のど真ん中からドダイ改が急接近し、飛び込むガンダムがビームサーベルっ…!
咄嗟にサイコガンダムをフォートレス形態に変形させ、一気に急上昇する形でガンダムMk-Ⅱの機先を制する。
上昇するサイコガンダムにあおられたガンダムはドダイ改に再び降り立つと、空中に飛び上がったサイコガンダムに追いすがってきた。
「カミーユだもの、目論見通り、させてくれないねっ」
上がった息が言葉を途切れ途切れに中断させながら、後を追うガンダムを背中に意識しながら一気に雲の間を飛び抜けていく。
雲をビームライフルがかき乱し、メガ粒子の熱線が水蒸気の塊を蒸発させていった。
…
私は、エゥーゴに合流しよう、保護してもらおうとは考えていない。
確かに、劇中での彼らは正義の味方、主人公陣営だ。
だけど、私は作中ではない、現実に生きている。
ガンダムという作品には正義と悪というあやふやな概念は存在しない。
きっと、私という強化人間はティターンズにあって兵器、エゥーゴにあっても兵器として扱われる。
劇中のフォウやロザミアのように使い捨てられ、心を壊され、死んでいく。
それだけではなく………
「私、死んでも働かされるなんて、ぜったいにいやっっっ!!」
………劇中のフォウは、死んでなお、カミーユやジュドーの前に現れて彼らを導く。
なんていうブラック企業!
死んだら休めばいいと言ってたドイツの軍人さん、超ホワイト!
死にたくない、私は生きたい、普通に生きて普通に寿命を全うしたい!!
「いけえぇーっ!」
後を追うガンダムに反転してブーストをかけた。
突如、巨大な物体が反転してくる光景にガンダムの反応が一瞬止まって、その隙に私はサイコガンダムを変型させると、降下しながら腕を伸ばしてガンダムMk-Ⅱに掴みかかる!
「なっ!?この…っ!」
いきなり反転してきた黒いガンダムは俺の前で変型すると、落下しながら掴みかかってきた。
巨大な機体はそれだけで遠近感覚を狂わせ、俺はドダイ改をサイコガンダムにぶつけてしまい、その衝撃で空中に投げ出される。
黒いガンダムが、巨大な手でMk-Ⅱを掴んだ。
「くっ。この…!」
落下する2機のガンダム。接触通話で相手のガンダムファイター…じゃなくって、フォウの声が聞こえてくる。
「カミーユ、あなた、宇宙へ戻りたいんじゃないの?!」
「えっ」
「戻りたいんでしょ!」
機体に響く少女の声は、直接耳にしている訳ではないのに、なぜか腑に落ちる。
「あぁ…俺は、宇宙に戻らないといけないんだ」
「それなら、私に協力して!」
捕まれているこの感じ、サイコガンダムからは何か悍ましい冷たさを感じる。
しかし、このフォウの声は信じていい…信じたい、そんな気がした。
「わかった、…わかったよ、フォウ」
「…よかったー、正直、あまり逸脱したくなかったのよねー」
…逸脱?ガンダムファイターとか言ってた時点で、何か、大きくずれているような気がしてならないんだが…
まあそれはともかく、まずは、喫緊の課題として。
「俺たち、いますごい勢いで落ちてってるんだけど、これも計画なのかい?」
「あ」
サイコガンダムから離された俺は、オートパイロットで周囲を旋回していたドダイ改に飛び移り、同じくフォートレス形態に変型して飛行するサイコガンダムと並んで飛ぶ。
「カミーユ、あなた、宇宙にあがるってどうやってあがるつもり?アウドムラにシャトルはないでしょう」
そう話しながら、彼女は俺のMk-Ⅱと繋がるモニターに何かの黒い布を被せた。
「…ニューホンコンから民間のシャトルを使うか、ティターンズの基地からシャトルを奪うつもりでいた」
「行き当たりばったりね」
まぁ、確かに計画性ないかもしれないが…
…サイコガンダムの塞がったモニターの向こうからは、彼女の話し声と、なにか衣擦れの音がしていた。
さっきの黒い布の正体を考えないようにして、そして意識してモニターの向こうを見ないようにするが、正直、さっき黒のスウェットを縫いだときにちょっと見えたものを想像してしまう…。
「…アーガマが今日の昼から24時間、軌道上で待機してくれているんだ、このタイミングを無駄にできない」
「なら、こんな計画はどうかしら」
がさり、と音がするとモニターを真っ暗に塞いでいた彼女のスウェットが避けられ、ティターンズのパイロットスーツに着替えた彼女がこちらに話しかける。
「あなたに危険を強いることになるわ。それと、今更だけど、私のことを信じてくれるかしら?」
「いいさ」
その程度の危険、宇宙でエマさんと脱走するときに経験している。
そう承諾すると、一息入れた彼女は…息抜きのつもりなのか、明るく話しかけてきた。
「そういえば、なんで私の名前がエゥーゴにも伝わってるの、かしら?」
彼女は不思議そうにそう聞いてきくる。
そのきょとんとした声音に、俺は久しぶりに、自分が同世代の女の子と話しているのだと気づいて、心から笑った。
「だって君、アムロ大尉の手当をしたとき使った布に、身分証明がくっついていたよ!」
「あ」
強化人間なのに、彼女に普通の少女っぽさを見られて、俺は笑った。
グリプス2を出てから、初めて笑った。
「…スードリっ、聞こえるか…スードリ、ちくしょう!!」
「こちらはスードリ、どうした、フォウ・ムラサメ、命令もなしに戻ってくるなど!」
「ふざけるのは、そちらの方だ!…あぁ、頭が…蛇がのたうつような…っ!」
通信の向こうで苦悶の声を上げるフォウ・ムラサメに、ベン・ウッダーは怒りと困惑の声を上げる。
「エゥーゴのモビルスーツ部隊を引きつけていろと言ったはずだぞ、どうしたんだ!」
戦局は、一進一退だった。
ブラン・ブルターク少佐のアッシマーがうまくエゥーゴのアムロ・レイを押さえ込んでいるが、他のモビルスーツ隊は壊滅しており、覚悟を決めた彼は先ほど、スードリの乗員に退艦命令を出したところであった。
このスードリとアウドムラを引き換えにできれば、ニューギニアに引いた部下たちはティターンズの傘下として吸収され、身の立てようもあろう。
いま、スードリからはドダイ改が泡を喰ったように離艦しており、ベン・ウッダー自身は志願した少数の部下たちと共に、スードリをアウドムラへ特攻させようとしている最中であった。
「逃亡罪は銃殺だぞ、フォウ・ムラサメ!」
そこに、ここまでエゥーゴのガンダムMk-Ⅱを押さえていたフォウが帰還してきてしまうと、ガンダムMk-Ⅱがフリーになってしまうではないか!
「うるさい!私に指図するな!それよりナミカーはそこにいるか!薬を飲まないと…頭が…戦えないんだ!薬さえ受け取れば、すぐにまた出る!」
「さっき、部屋に戻ると言って出て行った!」
「なら薬だけ取りに行く、サイコガンダムで突っ込むからな!!」
「突っ込むとはなんだ、フォ…」
確認を求めようとするベン・ウッダーの発言の途中で、轟音と衝撃がスードリを襲った。
「こんな無茶、するなんてっ」
「これくらい無茶しないと誤魔化せないでしょっ」
サイコガンダムにしがみついたガンダムMk-Ⅱから、お肌の触れあい回線でカミーユの呻き声が聞こえる。
いま、私たちはサイコガンダムと、サイコガンダムにしがみついたガンダムMk-Ⅱでスードリに突っ込んだとこ。
繰り返し言うと、サイコガンダムの先っちょをスードリの格納庫に強引に突撃させたところです。
最後に離艦しようとしたドダイ改がぎりぎりでサイコガンダムの脇をかすめて飛び離れ、突っ込んだサイコガンダムとガンダムMk-Ⅱのコックピットを開放すると、私たちはスードリの格納庫へと飛び降りた。
そのまま私は、ナミカーの部屋へと格納庫から駆け上がっていく。
時間はあまり残されていないはずだが、私には確信があった。
…多くの人がいなくなった艦内は静かだが、それは私には船が最後の刻を迎えようとしている静けさにも思えた。
開けっ放しの扉の向こうにいる女性もそれは理解していたようだが、研究員としての義務か、個人的な研究への情熱か、あるいは災厄を前にした現実待避か。
ナミカーは大慌てで端末を叩き、データを手にスードリを脱出しようとしていた。
その背後から、私は静かに声をかける。
「ナミカー。」
一瞬だけ、動きを止めた彼女は引きつったように振り向き、私を見てヒステリックに声を上げた。
「あっ、あなたは何をしてるの、フォウ!サイコガンダムはどうしたの!」
「ナミカー。」
近づきながら呼びかけると、彼女は調子外れの歌を歌うように、声が裏返る。
「さっき、艦内放送でベン・ウッダーが言っていたわ…あなたの薬はこれよ、早く飲んでまた出撃なさい!」
手にした薬を私に投げつけ…いや、震える手から薬が床に散らばって転がっていった。
「ナミカー。」
彼女は、私を無視して手にデータ端末を握って部屋から駆け出そうとしたが、歩み寄った私は、握った手を彼女の腹へ打ち込む。
力を失った手から端末が、がしゃんと落ちた。
「そっちは終わった?」
気絶したナミカーを抱え、急いで格納庫へと戻ると、カミーユはスードリの格納庫からシャトルを引き出していた。
私の作戦、それは間に合わない(準備してる間にブラン・ブルターク、もしくはベン・ウッダーに撃たれる)なら、2人がかりで準備してとっととシャトルを打ち上げよう!作戦である。
小説版ではナミカーを確保しながらカミーユのためにシャトルを打ち出そうとしてたし。
そりゃ時間もかかるでしょう。
だから、私は自分でナミカーを確保してサイコガンダムに戻り、その間にカミーユには自分でシャトルを準備して出発してもらおうとしていた。
無人の格納庫で、サイドハッチの操作盤をカミーユが手早く叩いており、シャトルがサイドハッチからゆっくりと巨大な翼の下へ引き出されていく…
ガクン、とシャトルが揺れて動きが止まった。
「くそっ!」
「どうしたの?」
「シャトルが止められた!メインコントロールで止められたんだ!」
カミーユが操作盤を悔しそうに叩く。
そのカミーユの横顔を見ながら、私の背に冷や汗がつたった。
(えっ、まさかこの流れ、艦橋に行ってメインコントロールを解除してこいってこと!?)
1,メインコントロールでシャトルがロックされ、カミーユはシャトルで発進できない
2,シャトルを発進させるには艦橋に行ってシャトルのロックを解除しないといけない
3,カミーユはガンダムMk-Ⅱでシャトルに乗っていないといけない
4,艦橋に行けるのは私だけ
5,艦橋ではベン・ウッダーが待ち構えている
(同じじゃない!)
原作と同じ展開に目眩がする。
くらくら。
くらくら。
く…
…現実逃避できる時間的余裕はなかった。
このままでは原作と同じ展開になってしまう、なんとか変えないと…
急がないと、スードリはアウドムラに特攻する。
それまでになんとか物語を変えないと、どうにかしないと。
どうする…急がないとスードリがアウドムラへ…アウドムラへ…アウドムラ…
スードリと同じガルダ級空中輸送艦…アウドムラ。
そうだ、アウドムラ!
「カミーユ、急いでガンダムMk-Ⅱに乗って!」
私は、ナミカーをサイコガンダムのコックピットに放り込むと、急いでサイコガンダムを離艦させた。
カミーユはの乗るガンダムMk-Ⅱはサイコガンダムから離れてドダイ改へ飛び移る。
彼は一足先にドダイ改で飛び去り、私はサイコガンダムをスードリの上へ運び、変形させながらスードリを踏みつけるようにその上へ乗り、巨大な腕を翼の下へ伸ばした。
「フォウ・ムラサメ少尉!何をしているか!このままでは…」
なにかベン・ウッダーが叫んでいるが、気にしている余裕はないし、時間もない。
サイコガンダムが翼の下に引っかかっているシャトルをその手に掴むと、私はスードリを踏み台にして、サイコガンダムを飛び上がらせた。
ゆっくりとサイコガンダムが…巨大な機体が…浮かび上がり、速度を上げ飛んでいく。
ぐらりと揺れ、姿勢を大きく崩すスードリを背後に、黒いガンダムは交戦の煙が上がる空へと向かった。
「ええい、ふがいない!」
ドダイ改に乗ったリック・ディアスが構えたクレイバズーカは円盤状の機体のすぐ側に着弾し、炸裂すると弾片をまき散らす。
しかし黄色い機体は脚部に設置されたスラスターを大きく吹かせて急角度に転身した。
リック・ディアスが背部のビームピストルを連射するが、くるりくるりと弧を描いて器用に躱す。
「くそっ」
ドダイ改を彼の観点ではゆっくりと向けると、円盤を追撃する。
脇ではアウドムラが全身から対空砲火を撃ち上げて円盤状の機体を寄せ付けないよう、迎撃していた。
アウドムラから発進したモビルスーツ部隊は、ティターンズの部隊と交戦して、ティターンズの部隊の撃破と引き換えに戦力を喪失していた。
現在、あの円盤状の敵機を引きつけて戦闘しているのはアムロの乗るリック・ディアスのみである。
リック・ディアスがクレイバズーカを構えると円盤状の敵機は一見、ゆっくりと上昇すると頂点に達したところでくるりと反転し、急降下を試みた。
「くそっ、やるな、だがこの機体は!」
やるな、は敵パイロットへの賛辞。続けて、自分がリック・ディアスをうまく扱っていないことへの、自分への叱咤。
ドダイ改をかすめてアウドムラへ向かう敵機へ急いで照準を向けるが、円盤状の敵機は左右に機体をずらして狙いを定めさせない…
と、円盤状の敵機は急に脚部を前へ向け、スラスターを前に向け出力を上げる。
脚部を上へ跳ね上げるように反転すると、敵機の下部に設置された大口径のビームライフルがこちらを向いて、銃口が光った。
「っ!」
光が迸ると、足下のドダイ改が撃ち抜かれる。
咄嗟にリック・ディアスを跳ね上げると、蹴り飛ばしたドダイ改が火を噴きながら敵機に近づいて爆発した。
爆破にひるんだ敵機が離れる内にリック・ディアスのスラスターを噴かせると
「アムロ大尉!」
近づく声へと自然と機体が流れ、カミーユのガンダムMk-Ⅱの隣に、リック・ディアスは脚を下ろす。
「カミーユか」
あの黒い巨大なガンダムと戦っていたはずのカミーユがドダイ改で駆けつけ、リック・ディアスを回収した。
「カミーユ、あの黒いガンダムはどうした?」
「あの機体なら…!」
再び接近する黄色い円盤が大型ビームライフルを連射すると、カミーユは呻いて機体を引き上げる。
急角度をとって上昇するドダイ改の周囲を光条が走り抜けるが、躱しきると手にしたビームライフルを向け、撃った。
併せてアムロもクレイバズーカを撃つと、カミーユのビームライフルを左右に躱していた機体が至近で爆発する弾片を僅かに被弾する。
「彼女ならもうすぐ来ます、その前にあの機体をどうにかしないと!」
被弾は機体制御に影響を与えなかったらしい、空中で器用に変形した敵機は手に構えた大型ビームライフルを狙いを定め、撃ってきた。
2機のモビルスーツが乗るドダイ改は緩慢にそれを避け、それを見た敵機はすぐさま円盤に変形すると加速をかけ、2人の上空を取る。
「ちっ…!」
アムロが舌打ちをしながらビームピストルを上空へばら撒くように連射し、円盤に上空を取らせない。
(泣き言を言いたくはないが…!)
撃ち抜かれた腕の痛みが、どうしても【感じる】狙いに一歩、遅くなる。
忙しなく敵機を捜索して、クレイバズーカやビームピストルで狙い撃った。
だが、思ったようには狙えていない。
戦場から長く遠ざかっていたこと、腕の痛み、それらが併せてアムロを苦しめていた。
脇を飛びすさるクレイバズーカの弾を変形しながら避けた円盤は、モビルスーツに変形すると両手にビームライフルを保持し、狙いを定めて撃ってくる。
「くそっ!」
かつての自分と比べ、今の自分の不甲斐なさに舌打ちするが、カミーユはそんな間に、それを見つけた。
「アムロ大尉!あのモビルスーツ、変形するときにフレームが…!」
カミーユの声に、アムロが今まさに変形して飛び去ろうとする敵機を見る。
「…そうか!合わせるぞ、カミーユ!」
「ちっ…!」
変形と射撃、回避と上昇をアッシマーで繰り返すブラン・ブルタークは落ち着いて敵を見た。
ドダイ改に乗るガンダムMk-Ⅱとリック・ディアスはそれぞれ構えた武器でこちらを狙い撃つが、これをなんとか避けきる。
決して、その機動は楽なものではない、2人のニュータイプからの射撃は、いかにブラン・ブルタークが熟練したパイロットとはいえ、余裕とはいえない間合いであった。
利点は、彼の乗るアッシマーと比べ、彼らはドダイ改を足場に戦わなければいけないというハンデ。
「あのドダイ改をなんとか出来れば…」
ドダイ改がなくなれば、モビルスーツは落ちていくだけだ。
後はアウドムラをゆっくり料理するだけ…なのだが、あの2機を撃破することが極度に難しいことも、熟練のパイロットであるブランには理解できていた。
そして、対向してビームライフルの筒先を向けたとき、その隙に気付く。
僅かに、ドダイ改の飛行が直線コースをそのまま、直進する。
筒先の真正面目掛けて、突っ込んでくる…!
「うかつだな、Mk-Ⅱのパイロット…!」
にたりと精力的な笑みを浮かべたブラン・ブルタークは、変形してモビルスーツ形態になるとビームライフルの狙いを定めた。
「決めさせてもらう!」
「もらった!!」
それがどちらの台詞であったか、いや、3名とも口にした。
アッシマーが手にした大型ビームライフルを放つと同時に、ガンダムMk-Ⅱとリック・ディアスはドダイ改を蹴って空に飛び出す。
アッシマーの光条は2機の足下を空撃ちし、撃った隙を狙ってガンダムMk-Ⅱがビームライフルを撃つ。
それを変形して避けようとしたアッシマーに、ガンダムMk-Ⅱから一呼吸遅れて放たれたリック・ディアスのクレイバズーカが炸裂し、弾片が殺到した。
「ぬおっ!!」
高速で吹き飛ぶ弾片はアッシマーの胸に食い込み、機体に深刻なダメージを与え、さらに一部が十字型のメインカメラに飛び込むとそこを破壊し、アッシマーの全天周囲コックピットのモニターのほとんどを死滅させた。
一瞬で昏くなったコックピットの中で、ブラン・ブルタークはパイロットとしての本能で、操縦桿を上上下下左右左右とランダムに操り、機体を敵の射線から外そうと努力する。
…と、まだかろうじて生きているモニターに、ゆっくりと近寄ってくるサイコガンダムが映った。
サイコガンダムは、手にシャトルを…燃料を満載し、被弾すれば大火球となるであろうそれを手に、アウドムラへと接近するようであった。
「フォウ・ムラサメ少尉?アウドムラを足止めしようというのか」
アッシマーで戦闘続行するのは不可能…そう判断したブランは、急降下しながら海面すれすれで変形し、スードリへの帰還ルートを取って飛行する。
「アウドムラを撃破できればそれでよし、出来なくとも…まぁ、彼女の活躍だと報告してやろう」
そうすれば、協力してくれたムラサメ研究所への僅かばかりの恩返しともなろう。
そう判断したブランは、スードリへと連絡を入れた。
「ベン・ウッダー!聞いているか、これより帰艦する、我々は十分、アウドムラを足止めした!スードリはニューギニアへ後退するぞ、聞こえているか、ベン・ウッダー………」
黒い巨大な機体が接近してくると、アウドムラから対空砲火が幾条も走る。
カミーユは、慌ててアウドムラへと連絡を取った。
「ハヤト館長、止めてください、あの機体は敵対していません!ハヤト館長!」
すぐに砲火が止むと、サイコガンダムはアウドムラの機内にいるネモにシャトルを渡す。
そのネモが、受けとったシャトルをアウドムラの発射用ジョイントに据え付けた。
その間に、アウドムラの乗員たちがハヤトの指揮の下、発射準備を進める。
時間の余裕はない。
ガンダムMk-Ⅱは戦闘の損傷もそのままシャトルを掴み、発進に備えた。
「…発射前に、もう一度、君と顔を合わせたかったんだ」
そんな時間のない中、もう一度会いたいと言われ、フォウはサイコガンダムからアウドムラへと降りた。
カミーユの他には、警戒に当たる茶色の髪をしたパイロットスーツ姿の兵士が1人、脇にいるだけである。
他はシャトルの発進準備、モビルスーツの整備、負傷者への治療や生きている者は食事…軍隊につきものの喧噪が、機内を騒がしくさせていた。
(実は、私にはあまり話すことはなかったりするけどね)
カミーユの言葉に微笑みを返しながら、フォウはそう思う。
思うだけで、【伝わる】が。
カミーユと脇に立つ茶色の髪の青年が、揃って苦笑した。
ちょっとばつの悪い思いをしながら、カミーユを促す。
「…あぁ、君にお礼を。宇宙へ戻れるから」
「まだ戻ってないもの、アーガマに帰るまで、油断してはいけないわ?」
「帰る…帰る、か。そうだね」
ちょっと口ごもったカミーユは、この自分より少し年上で、どこか魅力的に感じる少女に何か話を続けたいと…でも話の接ぎ穂を見つけられず、最悪の質問を発した。
「ところで、なんで君の名前はフォウなんだい?」
言ってから、しまったと思う。
目の前の少女の眉が上がり、身にまとう空気も険悪なものになる。
別にニュータイプでなくても、不機嫌になった女性の空気なぞ、母親や幼なじみでいくらでも経験している…
しかし、少女はすぐに、まるで準備された質問に答えるように、正確に答えた。
「フォウ・ムラサメ…って、4番目って意味なの、ムラサメ研究所で4番目の強化人間という」
「あっ…ごめん」
フォウは…この強化人間の少女は、美しくあるだけに、怒ると【怖い】。
カミーユが肩をすくめて謝罪すると、フォウは溜息をつきながら続ける。
「そもそも、4って嫌いなのよ」
「どうして?」
怒っても話を続けてくれるらしい…
それに、話をできるのは、もう少ししかない。
少しでもこの少女と接点がほしくて、カミーユは強引に話を続けた。
「だって、4は死に通じるから」
むすっとした美少女がそんなことを言う。
「…え?あ、そうなの…そうなんだ……?」
ちょっとわからない、と首をひねる隣で、茶色の髪のパイロットスーツの男は、フォウが言うことに【わかる】と頷いていた。
「ところで、名前といえば…私からも尋ねていいかしら?」
「あ、あぁ」
「カミーユって名前、昔の芸術家の名前だと思ったわ。綺麗な名前だと思うけど、カミーユ自身はどう思ってるのかしら」
自分の名前のことを聞かれて…コンプレックスだった…ちょっとぎこちなく、カミーユは答えた。
「女の子みたいな名前だって、実は気になっていたんだ…」
「そう?でも有名な芸術家よ。お父さんは、あなたにそんな素敵な未来を送ってほしい、って思ったんじゃないかしら」
「親父が…?」
えぇ、と彼女はにっこり笑って、言った。
「子供のことが嫌いな親はいないわ?互いを理解しあえない時期があっても、いつか、親としてどんな気持ちだったのか、わかるときが来るかもね」
「…そうかな」
「そうよ」
きっと、とフォウは笑った。
『カミーユ、発進の時間だ』
拡声器からハヤト館長の声が聞こえると、カミーユは名残惜しそうにフォウを見ると、隣に立つ茶色の髪の青年に一礼して、ガンダムMk-Ⅱに向かった。
差し出されたネモの手からガンダムMk-Ⅱに移ったカミーユは、ハヤト館長直々のカウントダウンの下、宇宙へ向けて行った。
轟音の下、強引な角度をとって上昇するシャトルは、きっとアーガマに到着する。
それを見やり、フォウは今更のように、腰に吊されたままだった拳銃をホルスターごと、相手に渡しながら言った。
「あなた方カラバに投降します、アムロ・レイ」
頷いて拳銃を受け取るアムロを前に、私は力を抜いて両手を上げた。
…カラバに拾われちゃったけど、なんとか逃げれるかしら…?
ニューホンコンから急速に遠ざかるアウドムラの中、私は次なる死亡フラグを回避すべく、考えを巡らせるのであった。
だって、4は死に通じるんだよ!
『死んでれら・フォウ』なんて冗談じゃない!
ほんとに!
もう!
ここまでご覧いただいた方、ありがとうございました。
サイコガンダムがモビルスーツ形態でどこまで素早く動くのか、あるいは飛べるのか、については作中で撤退するとき(ホンコン・シティ)や小説中での活動から類推しました。モビルスーツ形態でIフィールドは…演出優先ということで…