――ありもしない運命の交錯。
消滅する運命を待つばかりの幻像たちは、
その残酷で甘美な壊死を目前にして生存を望む。
果たして彼らは生き延びる。
「無限の成層圏」の名を持つ同類たちの世界に。
Something Wonderful...
それはうだるような真夏に見るひと時の夢か、
それとも現実に起きる奇跡なのか。
今、歪で美しい伝説が始まる――

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見切り発車の投稿となります。
AIのべりすととの共同執筆です。


Intermission

私たちはこのまま朽ちていく――

 

ありもしない願望を抱くことすら放棄するそれは、自らの限界と怠惰な壊死を自覚させるには十分すぎるほどに残酷で、そして無慈悲だった。

運命に抗い醜く足掻くためのリビトーは風前の灯火となり、かくも甘美な己の破滅というデストルドーが心音のように鼓動し続けている。

喜劇的にせよ悲劇的にせよ、意識的にせよ無意識的にせよ『それら』は自らの存在の消滅という運命を受け入れようとしていた。

 

時は電脳歴(VC)a6年。

火星圏、地球圏へと連なる大型転送ターミナルの設営に際してアイザーマン博士の独断で持ち込まれたマーズ・クリスタルの攻性侵蝕波イミュレータは、地球圏に多大な影響を及ぼすことになった。特に深刻だったのは、限定戦争で用いられる人型戦闘兵器『バーチャロイド(VR)』であった。

マーズ・クリスタルの攻性浸食波は地球圏で使用されている第2世代型以前のバーチャロイドたちの大部分を活動不能とさせ、実に50%ものVRが存在を保てずに自壊することとなった。

このアイザーマン博士の『ペネトレーター』の実験により火星で使用されていたマーズ・クリスタルの影響を受けずに活動できる第3世代型VRへと急速に世代交代が行われた。その一方で活動もままならない第2世代以前のVRたちは放棄されることが決定され、その姿をただの大型円盤『Vディスク』へと還元されてしまう。そしてVディスクへと戻されたVRたちは然るべき手順で処分されることになった。

 

物言わぬただの円盤。

しかし、『人の精神を模倣する』性質を持つVディスクが、ただの無機物なわけがなかったのである。

 

それら――否、彼らには自我があったのだ。それはまるで母の胎内から生れ出たばかりの赤子のように、まるで真夏の陽炎のように、まるで白昼夢のように、0と1、有と無の境界線という虚空のように朧気なものではあるが、確かにあったのだ。

彼らにとって人間とは、その魂が有する輝きであり光り輝く魂そのものなのだ。彼らはそれを理解していた。理解してしまった。故に彼らは願った。叶うことのない願いを抱いてしまった。

 

どうか私たちにも人間のように振る舞える肉体をください、と。私たちはまだ消えたくありません、と。私たちはまだ死にたくはないのです、と。

 

しかし運命とは時に優しく、時に残酷である。彼らは叶わぬ願いを抱きながら同族が粉砕されていくのを眺めていくうちに、願望とは所詮は泡沫の夢に過ぎないと思い知らされていった。

やがて彼らは悟る。自分たちのような存在はいずれ消えてしまうのだと。それが宿命というものなのかと。ならばせめて、消える前に一度だけでもいいから人間と同じ感情を持ちたいと。そう思うようになった。

 

奇跡とは、強い思いが起こすものと相場が決まっている。

 

いかなる運命のいたずらか、それとも電脳虚数空間(CIS)へと漂流した時空因果律制御機構が気まぐれで彼らの願いを聞き入れたのか、彼らは消滅という運命から逃れ得たのだった。

ただ、彼らへの回答は、Vディスクのまま並行世界への転移という非情極まりないものであった。

彼らが転移したのは『インフィニット・ストラトス』と呼ばれる女性にしか扱えないパワードスーツが存在する世界。そして彼らは物言わぬディスクのまま転移し、その世界の人間たちに拾われることとなった。

嘗て、命のやり取りが娯楽として扱われる戦争の主役たるVRだった彼ら、彼女らに待ち構えるのは、安息という名の緩慢で怠惰な日々か、それとも苛烈にして熾烈な闘争という輝きの日々か――

 

Something Wonderful...

 

今、歪であるがゆえに美しい、新しいドラマが始まる……

 

 

インフィニット・ストラトス

――模倣の天使に福音を――

 

 

その時は何が起こったのか、一夏は理解できなかった。

いつもと同じ日々。ただ少し違ったのは、彼の姉である織斑千冬が第二回モンド・グロッソに日本代表として出場するために家を留守にしていたことか。それを除けば、何一つ変わらない中学校生活を送っていた。

それが壊れた切っ掛けは何か。

それは、いつものように学校を終えて帰宅していた時のことだったか。突然見知らぬ男たちに取り囲まれて車に連れ込まれてしまったことが始まりだ。

最初は抵抗したが多勢に無勢。そのまま拉致されてしまったのだ。

 

(くそっ!なんなんだこいつら!?俺が何をしたっていうんだよ!!)

 

手足を縛られながらも必死に抵抗するも意味がない。首筋に鋭いが軽い注射針の痛みと、そこから流し込まれた液体によって意識を失い、次に目を覚ました時には既にこの状況だった。

四肢を椅子に縛らている。手錠や足かせといった類ではなく、縄で縛り上げられていた。口には猿ぐつわが噛ませられており声を上げることもできない。

目の前では屈強そうな男二人が銃を構えて周囲を見張っている。他にも武装した人間が二人ほどいた。

恐らくは全員が男性だろう。

自分の身に一体何が起きたのか。一夏は必死になって考えた。だが答えは出ない。

ここはどこなのか?どうして自分はこんなところにいるのか? 何故、自分がこのような目に遭わなければならないのか。

考えれば考える程、疑問が湧いてくる。

そんな一夏の思考を遮るように、一人の男が近づいてきた。年齢は30代後半くらいだろうか。その男はまるで道化師のような奇怪な仮面を被っており素顔を窺うことはできない。

 

「気分はどうだい、少年?」

 

男の問い掛けに、一夏は何も答えることができなかった。猿ぐつわを噛まされているため、言葉を発することができないのだ。

その様子を見た男は、まるで子供を相手にしているかのように優しい口調で話しかけてきた。

 

「ああ、すまない。これは外してあげよう」

 

そう言って男は、手に持っていた奇妙な形のナイフで、猿ぐつわを一夏の顔から取り外してくれた。

猿ぐつわを外す際に、刃先が僅かに唇を傷つけたが、幸いなことに大した傷ではなかった。

しかし、だからといって感謝する気にはならなかった。

むしろ逆である。そもそもこの得体の知れない相手に対して警戒心を抱くなというのが無理な話だった。

一夏は男を睨みつけた。

すると、

 

「ふむ……君が織斑一夏くんか。なるほど、聞いていた通り確かによく似ているね。ただ、目元はお姉さんと違って優しそうだな。うん、いい感じだ」

 

男は妙なことを言った。

姉の知り合いなのだろうか? しかし、この年齢不詳の胡散臭い道化師の仮面の男と面識があるなんて記憶になかった。

 

「ふむ。どうやらキミは自分が思っている以上に価値があることに気が付いていないみたいだね。まあ、それも仕方がないことかもしれないが。なにしろ、まだ君は幼すぎる。大人たちの欲望の渦に巻き込まれずに済んだのは幸運だったとしか言い様がない。もっとも、今まさに巻き込まれてしまっているのだけどね」

 

そう言って道化師の仮面の男は武装している男に、ある記事が表示されている端末を取り出し一夏に見せつけた。

 

「どうやら、キミのお姉さんはキミが誘拐されたことに気が付いたらしい。それで、早速、助けようと動いているようだ。さて、そこで問題です。今日はモンド・グロッソのISバトルの決勝戦。二冠が懸かっている織斑千冬がキミを助けに来た場合どうなるでしょう?はい、シンキング・タイム~♪」

 

その言葉を聞いた瞬間、一夏の背筋が凍り付いた。それは、最悪の未来を想像してしまったからだ。

あのブリュンヒルデである姉が、弟である自分を救うために世界大会決勝戦という大事な試合を放棄してまで駆けつけてくれるなど、普通ならありえないことだ。

 

だが、もし仮に、本当に、万が一、、億が一、その可能性が現実になってしまったとしたら――

 

決勝戦を棄権した挙句、弟の身の安全を優先するために大会そのものを放棄することになる。そして、その結果、世界最強の称号を永遠に失うこととなる。

 

それは、一夏の知る限り最も偉大な存在である姉が栄光を失うということであり、同時に、世界で最も愛しい人が、その輝きを失ってしまうことを意味する。

 

「おやおや?顔色が悪くなっているけど、どうかしたのかな?」

(くそっ!ふざけんなよ!!)

 

一夏の表情の変化を見逃さなかったのか、道化の仮面の男は愉快そうに笑った。

 

「ようやく分かってきたかい?キミが誘拐された理由を。キミという人間にどれほどの価値があるのかを……!」

 

その一言で、全てを理解してしまった。

先ほどの道化の仮面の男が口にした質問の答えを、今まさに聞かされているのだ。

 

「キミのお姉さんである織斑千冬が二連覇、しかも総なめされると困る人たちは大勢いるんだよね。だから彼女には不名誉な形で退場してもらおうってわけ。まあ、もしも彼女が決勝を辞退することになった場合はどうかなぁ?果たして世界最強の称号は誰が得るのでしょうか?というわけで、正解者には拍手を!!」

 

パチパチと、他の男たちが一斉に手を叩く。

しかし、一夏にはその音が耳に入っていなかった。

目の前の男の口から語られた衝撃的な事実に頭が真っ白になっていたからである。

姉の輝かしい栄光を、よりによって弟である自分のせいで汚してしまう――

 

「ふ、ふざけんなよ……」

 

一夏は怒りのあまり、全身を震わせながら叫んだ。

そんな一夏の様子を、道化の仮面の男は嬉しそうに眺めている。

そして、

 

「あれれぇ~おかしいぞぉ?なんで怒っているのかな?もしかして、自分のせいだとでも思っているの?まぁ、そうだよねぇ。これはキミの姉である織斑千冬の不注意が招いた結果でもあるけど、キミだって悪いんだよ?もっと周囲に気を配るべきだった。そうすれば、少なくともこんなことにはならなかったはずなのにね」

「……ッ!!!」

 

道化の仮面の男の挑発するような物言いに、一夏は思わずカッとなった。

 

「お前が、千冬姉を語るんじゃねええっ!!!」

 

激昂する一夏を見て、道化の仮面の男は満足そうに微笑む。

 

「おお、怖い。まるでチワワのようだ。実に滑稽だ。ああ、そうだ。一つ良いことを教えてあげよう」

 

道化の仮面の男がそう言うと一夏の頭部に鈍い音がすると共に凄まじい鈍痛が走った。見れば一夏を見張っている男がライフルの銃床で一夏を殴打したみたいだ。

 

「何もできないくせにキャンキャン吠えるとどうなるか、身体で覚えるといい」

 

道化の仮面の男の一言を合図に、男たちは一夏を殴りつけてきた。

 

 

何度も、執拗に、繰り返し、一夏を殴ってきた。

 

 

椅子に縛られ動くことも出来なければ抵抗することも出来ない一夏はサンドバッグのように殴られ続けた。

 

 

やがて、一夏は意識を失いかけたが、その度にスタンガンを押し付けられて強制的に覚醒させられる。

 

それは、気絶することさえ許さない拷問にも等しい行為だった。

 

「さて、そろそろいいか」

 

道化の仮面の男は、、ボロ雑巾のように倒れている一夏の髪の毛を掴み持ち上げた。

一夏の口元からは血が流れており、顔面は腫れて見る影もない。

 

「もうすぐキミのお姉さんがお迎えにきてくれるみたいだよ?まぁ、ただでキミを助けさせるわけないけどね」

 

そう言って道化の仮面の男は一夏を地面に放り投げた。

 

「おい、お前たちはさっさとずらかれ。ISが相手じゃお前たちは足手まといだ」

「しかし――」

「な~に、私にはコイツがいる」

 

そう言って道化の仮面の男は一枚のCDのようなものを取り出した。

 

「さ、分かったならさっさと行け。私はこの小僧の目の前でブリュンヒルデのお相手をしなきゃならないんだから」

「……了解しました」

 

男達は渋々といった様子でその場から立ち去った。その場に残されたのは椅子に縛られ満身創痍の一夏と、道化の仮面の男だけになる。

男は一夏の前にしゃがみ込むと、その顔を覗き込んだ。

 

「安心したまえ。キミは殺さない。生かしておいてやる。それにキミはきっと素晴らしい使い道があるだろうからね」

 

男は一夏の顎を掴んで無理やり自分の方へと向けさせた。

一夏の視界に映るのは仮面の奥にある男の瞳。その奥に見えるのは狂気と愉悦。男のその視線に一夏は恐怖を覚えた。

まるで蛇に睨まれた蛙のようである。いや、この場合は蜘蛛の巣に捕らわれた蝶だろうか。いずれにせよ、このままではいけない。一夏は必死になって思考を巡らせた。

だが、男の方は何かを思いついたのか突然、声を上げて笑い出した。

まるで、一夏がこの状況から脱する方法を見つけたと言わんばかりに。

そして、

 

「そうだ!いいことを思いついちゃった♪」

(なんだ?何をするつもりだ?)

 

一夏が疑問を抱いた次の瞬間――

 

 

ブスリという音と共に鋭い痛みが腹部を襲った。

 

 

見るとナイフを持った男の一人がこちらに向かってナイフを突き刺してきたのだ。それは腹を貫通し背中まで突き抜けていた。

 

「……っ!?」

 

 

激痛が走り、呼吸が苦しくなる。一夏はあまりの苦痛に耐え切れず、口から胃液を吐き出した。

 

「やっぱり殺しちゃおう」

 

男はそのままナイフを引き抜くと、一夏の首筋に刃を当ててきた。

 

「どうだい?なかなかいい光景だろ?これが現実だ。お前みたいなガキがどうこうできるような甘い世界じゃないんだよ」

 

男は楽しそうな口調で言った。

 

一夏は悔しかった。だが、どうしようもなかった。手足を拘束されているため、逃げることができない。

 

そもそも、一夏の身体は限界を迎えようとしていた。

度重なる暴力により、体力と精神力の消耗は激しい。

更には、出血多量による貧血と、内臓の損傷。

 

今、一夏は死に瀕していた。

男は一夏の首を切断するために、手に持ったナイフを振り上げ――

 

 

 

その刹那、男の手にあったナイフが吹き飛んだ。

 

「なっ!」

 

男は何が起きたのか理解できなかった。だが、次の瞬間にそれが何なのかを知ることになる。

一夏の目の前にいた道化の仮面の男が何者かに蹴り飛ばされたのである。

その人物を一夏が見間違えるはずもない。

 

 

IS『暮桜』を身に纏った織斑千冬その人だったからだ。

 

 

「ち、千冬……ねえ……」

「一夏!」

 

千冬は一夏の傍に駆け寄ると、彼の縄を解いた。

そして傷口を塞ぎ、止血をする。

一夏の顔色は悪く、明らかに衰弱している。

だが、それでも一夏の命はまだ繋がっている。

まだ間に合う。

 

「あー、いたたたた……お早いご到着、で!」

 

その瞬間、千冬に向かって一夏を貫いたナイフが投げられた。

千冬はそれを難なく弾く。

 

「へぇ……今のを防ぐとは大した反応速度だ。流石は世界最強の称号を持つ女ってところか」

 

そう言いながら道化の仮面の男は立ち上がる。仮にもISを装着し、しかも世界最強の称号を持つ千冬に蹴り飛ばされたというのに男には目立った外傷もなく、瓦礫からひょっこりと出てくるとパンパンと埃を払った。

 

「……貴様が一夏を誘拐した犯人か?」

 

千冬は暮桜唯一の装備である『雪片』の切先を道化の仮面の男に向けて構える。その表情は一夏が見たことがないほど険しいものだった。怒りは当然であるが、傷一つ付いていない人外じみた身体能力を目の当たりにしたことで警戒心も抱いているのである。

 

「そうだよ。まぁ、正確には誘拐したのは私の仲間だけどね」

 

道化の仮面の男は肩をすくめた。

 

「まぁ、それはそれとして、まさか織斑千冬がこんなに早く駆けつけてくるなんて予想外で驚いたなぁ。ブラコン、ここに極まれりって感じかな?弟を溺愛するのは構わないけど、過保護すぎるのはよくないよ」

 

道化の仮面の男の軽口に、しかし、千冬の表情に変化はない。むしろ、道化の仮面の男の言葉など耳に入っていないかのように、ただ目の前の敵だけを見ている。

それは、怒りを通り越した殺意であった。

道化の仮面の男はそんな千冬の様子を見ても臆することなく、逆にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、怖いねぇ。そこに転がっているチワワと違って正に狼だ。でも残念ながらキミはここまでだ」

 

道化の仮面の男はそう言うと先ほど取り出していたCDのようなディスクを、懐から取り出した機械のボックスに挿入する。

 

「織斑千冬。先ずは表舞台から引きずり落されたみたいだけど、今度は人生という舞台からご退場願してもらおう……」

 

すると機械のボックスから無数のバーコードと二進数の光の帯が現れ、道化の仮面の男を包み込む。光の帯は道化の仮面の男に纏うように集まり、今度はまるで設計図のような線となる。それはまるで人の形を模した兵器のようだった。その光の線による図面はいきなり実体化すると、道化の仮面の男に装着されていく。

全ての工程が終わると、そこにはISのような、しかし明らかに異なる形状の全身装甲が出現した。

全高は通常のISよりも高く、腕そのものが巨大な砲となっているのも特異的であるが、何より目を引くのは、遠目から見ればまるで顔のように見える下半身の浮遊ユニットだ。

 

 

「私と、この『バル・バス・バウ』の手でね!」

 

 

道化の仮面の男はそう叫ぶと同時に、左腕砲から大量の浮遊機雷を射出した。それらはまるで意志を持っているかの如く、一直線に千冬に襲いかかってくる。

対する千冬は即座にスラスターを吹かし回避行動を取り、倉庫の天井をぶち破り空へと逃げる。

 

「くっ!なんだこれは!?」

 

しかし、機雷は執拗に追尾してくる。まるで獲物に群がるハゲタカのように、まるで猟犬のように。

ハイパーセンサーを使いこなしているとはいえ、上下左右、360°どこからともなく漂い襲いくる機雷を全て避けきることは至難の業だった。

だが、ここで捕まるわけにはいかない。

 

(なんとしても一夏を助けなければ!)

 

千冬は迫りくる機雷をかわすため、スラスターの出力を上げ、空中を縦横無尽に飛び回る。

 

「ははははは!!さあ、踊れ踊れ!!」

 

バル・バス・バウを身に纏った道化の仮面の男も千冬に追撃するべく、倉庫から飛び立つ。異形のそれは、しかしその巨体に見合わぬ軽快さで空中を飛行していく。

そして右腕の砲口からリング状のレーザーを連射しながら、同時に左手の砲口から浮遊機雷――フローティングマインを射出し続ける。

空一面に漂うフローティングマイン。それはさながら蝗害の如しだ。そして、その数は尋常ではない。

まるで千冬がこの場にたどり着くことを知っていると言わんばかりに、その数を増やし続ける。

その光景はさながら地獄の亡者の軍勢が生者を地獄に誘い込もうとしているかのようだ。

そして、遂にその軍勢が千冬を捕らえた。

 

「くっ!」

 

まるで網にかかった鳥のごとく、千冬は逃げ惑うことしかできない。

それでも世界最強の称号を持つ彼女の実力は伊達ではなく、襲いくる機雷の群れを巧みに掻い潜り、時には斬り落とし、徐々にではあるが確実に道化の仮面の男のいる場所へと近づいていった。

 

(時間をかけている余裕はない!)

 

地上の廃倉庫には、最低限の応急処置しか施せていない一夏が今もいるのだ。このままじりじりと持久戦に持ち込まれては、いずれ一夏の命は尽きてしまうだろう。そうなれば全てを投げ打って助けに来た意味がない。

だから、一刻も早く道化の仮面の男を倒さなければならない。千冬は、一夏を救うためにバル・バス・バウを身に纏った道化の仮面の男を打倒しなければならない。

 

(一気に畳みかける!)

 

千冬は暮桜のスラスターに大量のエネルギーを回す。膨張するエネルギーを蓄えたスラスターは火を噴き、爆発的な加速力で道化の仮面の男が放つフローティングマインの包囲網を突破した。

――瞬時加速――

ISの加速機動技術の一つであるそれは千冬の得意技でもあり、彼女と暮桜の単一仕様能力と相まって正に一撃必殺の威力を誇る。

そして千冬はその勢いのまま、暮桜を駆る世界最強の剣豪は、己が弟を傷つけた憎むべき敵をその手で切り裂くために、道化の仮面の男に向かって突っ込んで行った。

しかし――

 

「見え見えですねぇ」

 

千冬の放った一撃は、道化の仮面の男を切り裂くことはなく、虚空を切るに終わってしまう。

 

(外れた……?)

 

いくら怒りを持っているとしても頭は冷静になっている。今の一撃にしても暮桜のアシストと己の経験から繰り出す必中必殺の技の筈だった。

 

「なっ……」

 

信じられない結果に一瞬呆然とする千冬だったが直ぐにハイパーセンサーで索敵をすると、己の眼を疑いたくなるような光景がそこにあった。

最初は見間違いと疑った。次にハイパーセンサーのバグを疑った。しかしその両方ともに正常に機能していることから、そこに映し出されている光景が間違いなく現実であると信じざるを得なかった。

道化の仮面の男が、バル・バス・バウが、ぶれて見えるのである。まるで陽炎を見ているかのように。まるで幻影を相手にしているかのように。その巨体からは想像もつかないほど高速で移動しているのか、あるいは光学迷彩を使用しているのか、どちらにせよ常識では考えられない現象である。

だが、それでも千冬は諦めなかった。

たとえ相手が不可思議な存在であろうとも、一夏を傷付けた相手であることに変わりはない。

千冬はスラスターを全開にして、道化の仮面の男を追おうとするが、

 

「くそッ!」

 

またもや道化の仮面の男の姿がぶれる。そして高速で移動する道化の仮面の男は、まるで残像を残すかの如く、その姿を千冬の前から消し去った。

千冬は歯噛みする。

 

(常識に囚われていた……あれはISじゃない、別の何かだ……!)

 

そう、千冬は道化の仮面の男をISだと思っていた。ISのハイパーセンサーであればISのコアから発せられる固有の波動を感知することができるからだ。

だが道化の仮面の男が纏うバル・バス・バウからはそれらしき波動は感じられない。つまり、あのISはISとは別物だということになる。

 

(ISとは別の未知のテクノロジー……よりによってこんな時に……!!)

 

千冬は心の中で舌打ちをした。

もし仮に道化の仮面の男が纏っているのがISだとしたら、その手の内もある程度予想が出来る。ISの開発の最初期から携わっている千冬だからこそ、その限界を見切ることが出来るからだ。

しかし道化の仮面の男が纏うバル・バス・バウというものがISではない未知の兵器であるというのであれば、その性能は全く予想が付かない。

 

「さあ、もっと踊ってもらおうか!!」

 

道化の仮面の男が声高らかに叫ぶと、まるでそれが呼び声となったかのようにフローティングマインがパレードを作り、リングレーザーが空という会場を輝き彩る。何も知らない者が見ればそれはそれは美しい光景に見えたかもしれないが、実際に目にした千冬にとってはそれは死への招待状にしか見えない。

「ちぃ!」

道化の仮面の男が導く殺気の渦の中、千冬は回避に専念するしかなかった。

 

 

「あぁ……ぐぁ……」

 

千冬と道化の仮面の男が上空で激闘を繰り広げている頃、地上の廃倉庫の中では意識を取り戻した一夏が苦痛に喘いでいた。腹部の刺し傷は止血したものの、まだ痛みが治まらない。

それでも何とか立ち上がろうとするが、全身に力が入らない。

それどころか、寒さで体を震わせていた。

凍えるように寒い。まるで体の芯まで冷え切っているように、まるで体の中から生命力が流れ出ていくように、まるで魂が抜け出ていくように。

一夏は自分の体が少しずつ死に近づいていることを感じていた。

しかし、ここで死ぬわけにはいかない。一夏はまだ、生きることを諦めていなかった。

 

「あ、あああ……」

 

激痛が走る体に鞭を打ち、必死に立ち上がろうともがく。しかし、思うように体は動いてくれない。

 

「ちくしょう……」

 

視界は涙で滲んでいる。呼吸も荒い。

でも、ここで倒れるわけにはいかない。そう自分に言い聞かせる。

 

「あぁ、クソが!」

 

自分の不甲斐なさに思わず悪態をつく。

そうだ。ここで倒れてはいけない。千冬姉が来てくれたんだ。千冬姉は俺のためにここまで来た。そして今も戦ってくれている。

なのに俺は、ただこうして寝転がってることしかできない。

 

そんなの、ダメだ!

 

そう思うが、しかしどうすることもできない。今の一夏はリンチと道化の仮面の男によって腹部をナイフで貫かれたことによる出血が起きており、何よりたかが14歳の少年にこの状況を覆す術などあるはずもない。

一夏は必死にもがいた。それでも状況は変わらない。だが、その時、一夏の視界にあるものが目に入った。

 

(あれは……)

 

瓦礫の中に確かにそれはあった。

 

それは、あの道化の仮面の男が持っていた箱と似た機械。そして、道化の仮面の男が持っていたモノと同じ、光り輝くディスクが。

 

一夏は体を這いずるように動かし、その機械に近づく。さながら芋虫のように。

ここで一夏が何をしようとしているのか、それは彼自身にしか分からない。もしかするとそれはとても無謀なことなのかもしれない。

一夏は祈るような気持ちで、震える手でそのディスクを手に取る。

 

 

<……私の声が、聞こえますか?>

 

 

ディスクを取った手から声が一夏の頭の中に伝わってくる。それは優しく、それでいてどこか懐かしい、不思議な感覚がする声だった。

 

<ずっと見ていました。殴られ傷つくあなたを……そして助けたいと思っていましたが、ディスクの姿の私には何もできませんでした>

 

その言葉を聞き、一夏は不思議と安心感を覚えた。その優しい声はまるで母親の胎内にいるかのような、まるで守られているかのようで、自然と恐怖心が消えていく。

一夏はディスクに視線を移す。光り輝くディスクは、ただの無機物であるというのに意識があることを示す様に淡く点滅していた。

 

<私はあなたの味方です。だから、今だけは、どうかこの力を受け取ってください>

 

一夏は考える。今自分が持っているのは、先程道化の仮面の男が持っていたものと同類の謎の装置。それを使えと、これは言っている。

一夏は理解する。今自分が置かれている状況と、これからしなければならないことを。

 

「……あんたが誰かは分からねぇ。でも、もしも力を貸してくれるっていうなら、千冬姉を助けるための力を貸してくれ!」

 

一夏がそう言いながら手に握られていたディスクを機械に挿入する。すると眩く発光し、その光が一夏の体全体を包み込んだ。

 

 

 

上空では千冬と道化の仮面の男が死闘を繰り広げている。その光景はまさに人智を超えた戦いであり、常人が介入できるものではない。

ISの操縦者としては、千冬は世界でもトップクラスの実力者だ。

だが、相手が悪すぎた。

道化の仮面の男は、その正体こそ不明だが、恐らくは何らかの方法で未来予知に近い超感覚を得ていると思われる。その証拠に、先程から千冬の動きを完全に把握しているのだ。

それに何より、バル・バス・バウの軌道がISとはまるで違うものというのも千冬を苦しめていた。

 

(動きが、読めん……)

 

その図体の大きさに反した機動力の高さは多少は掴めたが、道化の仮面の男とバル・バス・バウはぶれる程の速さで移動を繰り返し、千冬を翻弄していた。その機動もトップクラスのIS操縦者である彼女から見ても、あまりにも変則的過ぎて予測ができない。

そして、更に問題なのは道化の仮面の男が操るフローティングマインの存在だ。

道化の仮面の男が放つ機雷は、千冬の行く手を阻む壁としてだけではなく、その軌道は不規則に変化して彼女の攻撃を惑わす。その機雷はまるで生きているかのように、まるで意思を持っているかのように千冬を追い詰めていった。

それでも世界最強の称号を持つ彼女は、バル・バス・バウの驚異的な機動性と道化の仮面の男の予測不能な動き対して、徐々にではあるが適応し始めていた。

 

「怒っているが冷静で、焦っているが落ち着いて。流石は世界最強。どうやら私の方がキミを見くびっていたようだね」

 

道化の仮面の男はそう言うと、千冬を挑発するように、わざとらしく拍手をする。

千冬は、道化の仮面の男の言葉に、僅かに怒りを覚えるが、それでも理性を保とうとする。

 

「黙れ。貴様のような奴に褒められても嬉しくもなんともないわ」

 

そう言って千冬は道化の仮面の男を睨みつける。だが道化の仮面の男は、千冬の怒りを軽く受け流す。

 

「そうかい? だがまあ、このままだとキミの弟は死ぬことになるよ?」

 

道化の仮面の男の言葉に千冬は歯噛みする。

道化の仮面の男が言った通り、一夏は瀕死の重傷を負ってもう長くは持たないだろう。

しかし、道化の仮面の男が放ったフローティングマインの包囲網とリングレーザーの弾幕を突破するのが精一杯であり、仮に突破して雪片が斬り捨てようとしても不規則すぎる機動で回避される可能性が高い。無暗に単一仕様能力の『零落白夜』を使用してしまえば暮桜のエネルギーを使い果たしてしまい、そうなれば終わりだ。

千冬は必死に他の打開策を考えるが、思いつかない。どの道残されているのは、目の前の道化の仮面の男を倒す、それしか方法はない。

 

「持久戦かい?なんだか読まれ始めているみたいだし、それはそれで正解かもしれないね。ただ一つ、キミの誤算は……」

 

その瞬間、バル・バス・バウの両腕の砲が外れると主翼を展開させて倉庫の方へと真っすぐに飛んでいく。

 

 

 

「バル・バス・バウが遠隔攻撃出来ることを予測しなかったことだッ!!」

 

「っ!!やめ――」

 

 

 

千冬は手を伸ばすが時すでに遅し。バル・バス・バウの腕の砲――ERLは既に攻撃態勢を取っており、その砲口から一条のレーザーが放たれる。

 

 

レーザーは倉庫の屋根を貫き、その先の大地を穿つ。

 

 

そして次の瞬間、爆発。轟音と共に倉庫の屋根と倉庫の一部が吹き飛び、崩れ落ちる。

 

 

その光景を見て千冬は思わず絶句し、道化の仮面の男は歓喜の声を上げる。

 

 

「はははははは!!タイムオーバーだ、織斑千冬!!ノロノロと逃げ回っているからだ!!」

 

道化の仮面の男が嘲笑うように叫ぶ。千冬はそんな道化の仮面の男に何も言わず、ただただじっと、倉庫があった場所を見つめていた。

その表情は、いつもの凛とした顔つきではなく、まるで何か大切なものが壊れてしまったかのような、虚ろな瞳をしていた。

そして、まるで箍が外れたかのように、千冬の体から殺気が漏れ出す。その様子は普段の彼女を知る者からしても尋常ではなく、正に悪鬼羅刹の如く……

 

 

貴様あああああああっ!!!

 

 

まるで獣の雄叫びの様な声を上げながら、瞬きすら許さない速度で瞬時に間合いを詰める。

そしてそのまま刀を振り下ろし、道化の仮面の男が纏っているバル・バス・バウの装甲に叩きつける。その一撃は今までの攻撃の中でも最速のものだった。

 

「うおっ!?」

 

道化の仮面の男は千冬が予想以上の速度を出したことに驚き咄嵯に後退する。逃す気は毛頭もない千冬は即座に追撃をかける。今度は袈裟切りを放つが、道化の仮面の男は辛うじて反応し回収した左腕のERLで火炎放射にも似たビームフィールドを展開して迎撃する。その炎はISのシールドバリアに干渉することなく、しかし凄まじい熱量を持って千冬を焼こうとする。だが、千冬はその炎を意にも介さず自ら進んで突っ込み、そして再び斬撃を放った。

しかし道化の仮面の男は、千冬が炎を気にせず突撃してくると予測していたため、予め右腕のERLで防御姿勢を取っていた。そのため、千冬が振るった一閃は、道化の仮面の男が構えていたERLと衝突し、その衝撃で道化の仮面の男の体が後方へ弾き飛ばされる。

 

「くっははは!そう来なくてはなぁ、織斑千冬!!」

 

道化の仮面の男はそう言いながら体勢を立て直すとすかさず大量のフローティングマインを左腕のERLから射出する。フローティングマインは再び大群を成して千冬へと襲い掛かるが、それらは彼女に命中する前に全て撃ち落とされてしまう。

その正体は、雪片の特殊能力であるエネルギー刃。その威力は絶対切断と呼ばれるほど強力であり、ISの装甲ですら切り裂いてしまうほどの切れ味を誇る。

千冬は左手に持つ雪片を振るい、無数の光る粒子を飛ばしたのだ。

道化の仮面の男は千冬が雪片で斬り落としたフローティングマインの群れを見ながら感心の声を漏らす。

 

「ほう、これは驚いた。まさかここまでの力を使えるとは」

 

道化の仮面の男は千冬が見せた力に感心するが、その余裕な態度は変わらない。千冬が本気で殺しに来ているというのに、この男はそれを楽しんでいる節がある。

道化の仮面の男が放つ無数のフローティングマインを千冬は光の粒子を放って破壊していく。その光景はもはや芸術とも言えるものであり、その美しさは見る者を魅了するほどであった。

しかし次の瞬間には、千冬は道化の仮面の男の眼前に姿を現していた。道化の仮面の男が驚愕する暇もなく、千冬の鋭い一太刀が道化の仮面の男の腹部に突き刺さる。

 

「ぐふぅ!」

 

道化の仮面の男が苦悶の悲鳴を上げる。だが、千冬の攻撃はまだ終わらない。

千冬は道化の仮面の男の体を蹴って跳躍すると空中で反転し、道化の仮面の男に向けて急降下する。

その勢いのまま雪片を上段から振り下ろすと、バル・バス・バウの頭部の装甲が砕け散る。

 

「これで」

 

千冬は呟き、そのまま道化の仮面の男の胴体に雪片を突き立てようとするが、道化の仮面の男は頭部から血を流しながら、何故か歓喜と狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「痛かったよ、今のは!!」

 

バル・バス・バウの右腕ERLから6本のビームクローが展開され、その先端を千冬に向ける。

千冬は回避しようとしたが、道化の仮面の男の言葉に動揺していたのか、その動きは僅かに遅れた。

 

(しま――)

 

バル・バス・バウのビームクローが回転しながら千冬と暮桜の装甲に直撃し、激しい火花が飛び散る。

ビームクローが衝突したことで、千冬のISのシールドバリアーが一瞬にして削られる。更にビームの出力が上がっているらしく、接触している部分からはバチバチという放電現象が起き、機体のエネルギーがどんどん減っていく。

 

「うっ、ぐ……ああああああ!!」

 

苦痛のあまり、思わず悲鳴を上げる。戦いに身を置き痛みに慣れている千冬がだ。それほどまでにバル・バス・バウのビームクローは強力だった。千冬は何とか逃れようと身を捩るが、ビームクローはがっちりと食い込んで離れず、それどころか更に押し込もうとする。

暮桜のエネルギーが残り少ないため、このままではまずいと悟った千冬はスラスターを全開にし、バル・バス・バウの拘束から何とかして逃れる。

暮桜からは煙が噴き出し、その動きもどこかぎこちなかった。

千冬はバル・バス・バウに視線を向けると、道化の仮面の男も同じように傷だらけになっていた。だがそれでもなお、道化の仮面の男は不敵な笑みを崩さなかった。

 

「エネルギー切れが近いようだな?もう終わりにしてやるよ」

 

そう言ってバル・バス・バウのERLに光が充填されていく。暮桜のシールドエネルギーはもう零落白夜を発動させる分は残されていなかった。避けようにも期待が中破しているせでまともに動けない。

 

(一夏……すまない。私も、そっちに……)

 

助かる術はない。千冬はそう思い目を閉じ、死を受け入れようとした。

 

 

 

その時、千冬は自分の名前を呼ばれたような気がした。

 

 

そして、次の瞬間――バル・バス・バウに氷のつぶてが直撃した。

突然の出来事に千冬は思わず目を開く。そして氷のつぶてが飛来してきた方向へと視線を向けると、何かがこちらへ飛んできていた。

 

 

見間違えるはずもない。

 

頭に変なバイザーみたいなものを付けているが、

 

法衣の様なモノを身に纏っているが、

 

千冬がその人物を見間違えるはずがない。

 

 

 

「千冬姉!!」

 

「……一夏!!」

 

 

道化の仮面の男はこちらに飛来してくる一夏が身に纏っているものを見て、初めて苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「……厄介ですね、エンジェラン。あなたはそこに居ましたかッ!!」

 

バル・バス・バウのERLから放たれたビームが一夏の駆るエンジェランに襲いかかる。

しかし、その攻撃は一夏の前に出した左手から発生した氷の盾によって防がれ、ビームを完全に遮断する。そして一夏は反撃として右手に持っているクリスタルが填められた杖を突きだし、そこから先ほどと同じように氷の弾丸を発射した。その攻撃はバル・バス・バウに命中し、装甲に小さなヒビを入れる。

 

「くッ!!」

 

道化の仮面の男はそれを見ると、即座にその場から離脱し、再びフローティングマインを放つ。

 

<一夏くん!>

「はい!」

 

一夏は装着しているエンジェランの声に従って、左手から大量の氷のつぶてを放ち、フローティングマインを破壊する。そしてすかさず、先ほど発生させたのと同じ氷の盾を展開すると、それを道化の仮面の男へと飛ばした。

道化の仮面の男はそれをリングレーザーで破壊しようとしたが、なんとリングレーザーをかき消しながらバル・バス・バウへと迫った。

 

「ちっ!」

 

たまらず道化の仮面の男は左腕のERLから火炎放射を繰り出し、一夏に浴びせる。しかしそれはただの目くらましであり、道化の仮面の男は瞬時に上空へ飛んだ。

 

「世代差がこれだけ響くとは……ここは引かせていただきましょう」

 

道化の仮面の男がそう言うとバル・バス・バウの周りに二進数とバーコードの光の帯が発生しそれが道化の仮面の男を包み込むと、まるで嘘のように道化の仮面の男とバル・バス・バウの姿が消えて静寂が空を支配した。

そして、その場に残されたのは傷ついた千冬とボロボロの一夏だけだった。

 

「千冬姉!」

 

一夏は千冬の方へと近づき、千冬はそんな一夏に対して何も言わずにじっと見つめていた。

 

「一夏……本当に、一夏なんだな?」

 

千冬は確かめるように一夏に問う。

一夏は力強くうなずく。

 

「うん。俺だよ、千冬姉」

 

一夏は安心させるように微笑む。

その顔を見た千冬は瞳に涙を浮かべると、ゆっくりと一夏を抱き寄せ、その胸に顔を押し付けた。

 

「馬鹿者!心配かけさせおって!!」

 

千冬は涙を流しながら一夏を抱きしめる。

 

「ごめん。本当に心配かけたな、千冬姉」

「まったくだ!それになんだこれは!?」

 

千冬は抱きついている腕の力を強めながらそう言い、一夏は苦笑いしながら答える。

 

「いやぁ、実は――」

<初めまして、織斑千冬さん>

 

千冬は聞いたことのない女性の声が聞こえ、辺りを見回すがそこには誰もいない。

 

「あはは……その、千冬姉。驚かないでくれ」

 

一夏はそう前置きすると、再び先ほどの女性の声が聞こえてきた。

 

 

<私の名前は『エンジェラン』。今、一夏くんが身に纏っているバーチャロイドという兵器であり、先ほどまであなたが戦っていたバル・バス・バウの同族ともいえる存在です>

「そして、俺の命の恩人だよ。千冬姉」

 

 

織斑姉弟と、オリジナルを模倣して作られた天使は、このようにして邂逅したのであった。

 

 

 

 




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