司会『う、打ち返しました!!それに、この音!!なんという音でしょうか!人間を叩いて出る…』
そこで司会の言葉が止まる。無理もない。勇次郎の全身がまるで剥き出しの筋肉の様になってしまったからだ。これには、長年共にいたグレイフィアでさえも驚きを隠せない。事態は明快単純。右手を叩いた痛みが左手を叩いた事で軽減されるように、鞭打で叩かれた痛みを全身に分散。目力をいっぱいに歯を食いしばり、拳を全力で握り同等の力で伸ばす。腕を伸ばし同じ力で縮める。脚を全力で踏みしめ引き上げる。それを腹、腰、胸、背も同じようにして動かぬままに全身の筋肉を総動員し痛みを分散。かろうじて無表情をキープした。
クローディア「(あ、ありない!!い、痛くないと言うの!?そ、それに今のはまるで剥き出しの筋肉…!な、なんなのよ、この人間は…!?)」
勇次郎「半人前ともならないお前が急所を狙わぬ愚行…。」
グレイフィア「…」
勇次郎「貴様…。それで俺の側に立ったつもりか?」
グレイフィア「…まさか。貴方ほどの人が私程度の攻撃で倒れては面白くないでしょ?試しただけよ。」
勇次郎「ならば、もっと試すがいい。お前の攻撃が俺に効くかどうかを。」
グレイフィア「当然よ!!」
そこからグレイフィアは攻撃する。顔を殴り、胸を殴り、金的を打ち、脚を蹴る。魔力は一切纏わない。誰もが生まれ持って備わっている手足。それだけで攻撃する。五体のみで攻撃する。この光景に観客達は無言となる。ただ一方的に殴られる。両手を大きく広げひたすらに殴られる。この光景に1番近くで見ていたクローディアですら言葉を失った。勇次郎は己を殴り続けるグレイフィアを突然、伸ばしていた両手で優しく抱きしめる。まるで我が子を抱きしめるかのように。まるで恋人を抱きしめるかのごとく。
グレイフィア「え?」
勇次郎「グレイフィアよ。お前はいい女だ。これからも俺の側に居ることを許してやろう。」
《メキャッ!!!!!!!!!!!》
先程の様に優しくでは無く、本気でグレイフィアを抱きしめる。たったそれだけの行為でグレイフィアの肋骨はほとんどイカれる。しかし、グレイフィアの顔は幸せそうだった。骨を折られたのにも関わらず満足そうな顔をしていた。
グレイフィア「ゴホッ…」
クローディア「ぐ、グレイフィア…?グレイフィア!グレイフィア!!」
審判「そ、そこまで!!勝者!は、範馬勇次郎様!!」
12年前と同じように立ち去る。観客達も声を発しない。それどころか逃げ去って行った。