ロドスに落ちたトランスポーターがケルシー先生に慰めてもらう話   作:クレジット

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ロドスに落ちたトランスポーターがケルシー先生に慰めてもらう話

 

 

 お祈りメール、というものを知っているだろうか。

 

『ローン様。お世話になっております。ロドス・アイランド製薬です。

 先日はロドス・アイランド製薬への直々のご足労ありがとうございました。二次試験での面談結果を下に社内にて慎重に検討させていただきましたが、今回の採用は見送らせていただくことになりました。弊社には多数のご応募を頂いており、非常に残念ではありますが、ご理解頂ければ恐縮です。

 末筆ながら、ローン様のこれからのご健勝をお祈り申し上げます』

 

 こんなヤツだ。

 うん、つまり俺が受け取ったメールのことだ。

 

 

 俺はトランスポーターだ。経歴はそこそこで、ロドスの中に少しパイプがあるくらいには頑張ってきた。いや、アイツはパイプなんて言えねぇか。

 まあそんなモンがなくとも、腕っ節で言えば相当だと自負がある。俺の道を阻んだ傭兵はウルサスだろうがヴイーヴルだろうが全員ぶっ倒してきた。

 

 俺は非感染者だから落とされてしまったのだろうか?いやでもそういうのは不問とするんじゃ……あれ?不問とするのは経歴だけだったか?

 だがそうだとしても、その落とし方は感染者と非感染者の差を助長することになる。あり得ないだろう。

 

 何が悪かった?何故落とされた?

 仮面男は人手不足がどうとか言ってたじゃん。コータスちゃんだって歓迎するとか言ってたじゃん。もうほとんど受かったと思って元の職場辞めちゃってるんだよ俺。

 

 トン、とガラスのコップをコースターに置いた。アスパラガスとベーコンのバター炒めをツマミに、またビールを流し込む。

 

「これからどうすっかなあぁ……」

 

「ライン生命はどうだ」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ、アレは真っ黒だろ」

 

「冗談だ。ビールを一つ」

 

「あいよ!」

 

 店長が中華鍋を軽快に振って皿に盛り付けた後、ビールを注ぐためか俺の前からは離れて行った。

 数ヶ月もすれば、俺はこの店で項垂れる金すらなくなる。他の所で良い感じの働き口を見つけるか、それともまたトランスポーターに戻るか。

 

「あー、ぜってぇ受かったと思ったんだけどなぁ」

 

「落ちたのか」

 

「まぁな──ってさっきから誰だお前!?」

 

 えっ、いやなにこれどういうこと!?まあ顔見知りではあるけど何の脈絡もなかったぞ!?っていうか割と最初から居たよなお前!あっ、俺のバター炒め食うなよ。

 

「忘れたか?」

 

「誰がお前のことを忘れられんだよ。あ、いやここ最近は確かに顔見てなかったな。ケルシー、お前今何してんの?」

 

「以前と変わらない。ただ組織の歯車をしている」

 

「かーっ、失業者になんてこと言いやがる!安定した職業なんざ俺が求めて止まないモンだっつーのによ」

 

 ビールを呷った。全く、これだからデリカシーのない研究者気質のヤツは困る。俺の気持ちなんか考えてないんだよアイツらは。

 まあいいけどな。って、バター炒め食うなっつってんだろ!

 

「なあ、今回俺が落ちたのってどこか分かるか?」

 

「さあ、分からないな」

 

「ロドスだよ、ロドス!俺、腕っ節は自信あったのによ、面接でも好感触だったのによ、落とされちまってよぉ……!」

 

「ロドスか。あそこは確かにお前にとって狙い目なんだろうが、腐っても大企業だ。すっぱり諦めることが一番だろうな」

 

 諦めるなんてできっかよぉ、クソが。

 ……ベーコン減りすぎじゃね?いやまあ、アスパラ好きだから良いんだけどよ。

 

「お前の働いてるとこは──」

 

「断る」

 

「……まあ期待してなかったから良いけどよ、なに、俺のこと嫌いなの?」

 

「ノーコメント。んくっ、んくっ……ふぅ」

 

「けっ、答えてんのと一緒じゃねぇか」

 

 研究者気質とは言え、これでもかなり改善された方か。少なくとも初対面の頃じゃ、酒なんか飲まねえヤツだったしな。

 

「そういえば、リュドミラはどうしている」

 

「まあ、最近自立し始めたな。月一でいいっつってんのに週一で帰ってきやがるのはどうかと思うが」

 

「いいじゃないか、それくらい」

 

「はあ?お前、俺はまだまだ現役だぞ?介護でもすんのかってくらいに俺の世話を焼きに来やがるのはどうかと思うね」

 

「……由々しき事態では、あるな。お前が失業したことも含めて、かなりの大問題だ」

 

「うん、まあ、それは言って欲しくなかったっす」

 

「リュドミラには、渡さない」

 

 どうにかして雇われなきゃなぁ。今のところはアイツも騙せちゃいるが、正直いつそれが崩れんのか分かりゃしねぇ。

 家の家賃もどうすんのか悩む。元居た職場は金払いが良かったからなんとかなっていたが、俺は結局収入ゼロのクソ野郎になっちまった。

 

「あの頃に家でも買っときゃ良かったな」

 

「なんだ、住む家にすら困っているのか?」

 

「働き口が見つかれば、ンなことにはならねぇがな」

 

「見つかるのか?」

 

「……ぷはぁ、酒がうめぇな!」

 

 そんな無粋なこと聞いてくれるなよ、マジで。

 

「おっちゃん、ビールお代わり!」

 

「あいよ!」

 

「ああ、私も頼めるか」

 

「任せな!」

 

 ベーコンとアスパラガスを一緒くたに箸で摘んで口へと運ぶ──のは俺じゃなくて隣の席に座ってるヤツだ。だからそれは俺のだって何度言えば分かるんすかねぇ。

 

「それで、真面目にどうするつもりなんだ」

 

「まあ、実家のあるサルゴンに帰るか、最悪リュドミラの世話になるしかないのかもしれねぇ」

 

「それはダメだ」

 

「どゆこと?」

 

 俺が悪いのかな、全然分かんねえや。

 今俺が戸惑ってる理由の候補として挙げられるのは三つだ。

 俺が持ってるのがクソみたいな理解力だからなのか、コイツが難解なことを言ってるのか、それともコイツの返事がイカれてんのか。

 

「今なんて?」

 

「ダメだと言った。特に後者は許されない」

 

「それはそうか」

 

 でもそこまで断言するか?

 

「なあ、ローン。私の家に住まないか?」

 

「どゆこと?」

 

 よーしわかった3択の答えは3番です!

 えっ、なに俺が悪い訳じゃないよね?俺ってもしかして失業のショックでイカれちゃった系の人だった?

 ンな訳ねぇだろふざけんな。

 

「最近龍門に家を買ったんだが、全く利用してなくてな。このまま腐らせるにはかなり惜しい」

 

「なるほどお前が神か」

 

「そう褒めるな」

 

「マジで神だよお前。お前のこと実は厄介な依頼人だと思ってたけど撤回するぜ!」

 

「殴られたいのか?」

 

「いいや、全然──ぐぼぉ!?」

 

 な、ん、で殴ったんだよ……!チキショウ、俺のどこに非があるってんだ、精々が厄介だって言っただけじゃねえか!

 いやここで怒れば気難しいコイツのことだ、『ならいい、また他を当たろう』とでも言って救いの手をすぐに引っ込めやがるはずだ!さりげなく、乗り気な風に装っていくしかねえ!コイツに頭は下げたくねえ!

 

「2LDKの、良い物件だったんだがな。40階建ての36階にある日当たりのいい角部屋なんだが」

 

「なんでもするんで住まわせてください!」

 

 もう頭下げたくねえとか抵抗があるとかそんなんどうでもいいから住みたい!すげぇ良い物件じゃん!

 

「龍門の中心地にあり、交通の便もいい。近衛局が近くにある影響で治安もかなり良い」

 

「数々の無礼申し訳ありませんでした!」

 

 もう、俺はコイツに居る企業で働きたいんだけどなぁ!俺も龍門のいいとこ買いたいぜコンチクショウが!

 

「あいよ、ビール2杯!……どうした、兄ちゃん」

 

「職を失くしたそうでな、私の家に住まわせてやろうかと提案しただけだ」

 

「ほお。そうだな……そんなら、俺の──」

 

「注文していいか」

 

「お、おい?」

 

「黙ってろ。バター炒めのお代わりを頼めるか」

 

「おう、分かった」

 

 なんだよコイツ、どうしておっちゃんを威圧してんだ馬鹿か!でも怒れない!何故なら俺の立場が圧倒的に下だから!

 

「それで、お前はもう飲まないのか」

 

「……お前、悪酔いしてねえか?」

 

「なんだ、私の酒が飲めないのか」

 

「飲みます飲ませてください」

 

「早く飲め、ほら」

 

 くっ、ビールは美味いなクソが。

 それにしても、なんか変だな。コイツが自分から人に喧嘩を売る訳がねえし、おっちゃんがなんか変なことでも言おうとしたか?そんな風には、俺には見えなかったがな。

 それに、今の酒も強引だったしよ。別に俺は構わねえけど、喉に引っかかった魚の小骨みてえに気にはなる。

 

「へいよ!おっかねえな、嬢ちゃん!」

 

「失せろ」

 

「おい何言ってんだお前!?」

 

「あーあー、良いっての。俺は理解あるおっちゃんだから。それに常連に春が来たとなりゃあ尚更な!」

 

「春?」

 

「よし飲めさあ飲めグイッと飲め」

 

「おぼぼぼぼぼっ!?」

 

「はっはっはっはっ!」

 

 おっちゃんの笑い声が頭の中で変に響く。

 コイツ前に医療用語の話とかしてなかったか!?アルコール一気の危険性わかってんのかお前!てかなんで今そんな強引に俺の口にジョッキをあてがってんの!?力強くない!?

 

「ごほっ、ごほっ!……殺す気かよ!?」

 

「そんなわけがないだろう」

 

 ツン、と前を向く様だけ見れば、ちゃんと理知的なんだけどなぁ。あぁクソ、服洗わねえと。あともし殺意無しに俺を殺しかけたってんなら俺はもうお前に近づかねえからなバッキャロー。

 

「……それで、その、どうするんだ」

 

「あん?何の話だよ」

 

「わ、私の家に住むかという話だ」

 

「……なんで吃ってんの?」

 

「さっさと答えろ!」

 

「なんで大声出すんだよ怖えよ!?」

 

 おっちゃんも驚いて──ないな!なんで腕組んで悠々と頷いてんだよ!この状況で落ち着いてられることある!?

 

「だから、答えろと、言っているだろう……!」

 

 襟首引っ掴まれて顔が近い。よくよく見れば、酒が入ってる証拠に顔が赤い。こんなに酒に弱いとは思わなかったが、これこのまま進めて大丈夫か?冷静な時に話した方が、後々出て行けなんて言われても良くねえし。

 

「酒の勢いで答える訳にはいかねえだろ?」

 

「飲め」

 

「がぼぼぼばっぼぼぼ!?」

 

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!この体勢で尚且つ口塞がれたら俺は死ぬから!いや俺じゃなくても人なら大体死ぬから!

 どうすりゃいいの!?俺はどうすりゃいいの!?軽はずみに判断しちゃいけねえってのは常識だよ!?

 

「住みたいのなら、そういえばいいだろう……?何故そんな常識に囚われているんだ」

 

「常識の範疇で生きてんだよこちとらァ!」

 

「ふむ、まだ足りないようだな。ビールを一杯」

 

「おう!任しとけ!」

 

「おっちゃんは拒否してくれよ!?」

 

 あっ、ちょっ、揺らすなって。出ちゃうから。俺は判断力失わずに酔えるタイプだから、割と今のマトモな状態でも飲んでるっちゃ飲んでるから。

 

「分かったって。返せって言われても、働き口が見つかるまでは返さねえからな」

 

「ああ、勿論だ──良かった

 

「何がだ?」

 

「あいよ!」

 

「完璧なタイミングだな。さあ飲め」

 

「えっ、ちょっ、おぼぼぼぼっぼばば」

 

 死ぬからやめろ!?

 

 

 

 

 

 頭が、ガンガンする。

 歩くために前に出した足が空振って、肩を組んでるケルシーがより強く引き寄せた。クソ、結局こんなになるまで飲ませやがって。アルハラだぞお前、分かってんのか。

 

「もう廊下まで来た。後は少し歩くだけだ」

 

「おう、分かった……頭痛え」

 

「そうか」

 

 お前なぁ、「そうか」って……お前なぁ。

 

「なあ、ケルシーよぉ」

 

「なんだ?」

 

「俺、仕事失くしちまったよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

「元の会社には流石に戻れねぇよ」

 

「ああ、分かっている」

 

「……一年先の未来が見えなくなっちまったよ」

 

「そう、だな。靴は脱げるか?」

 

「おぅ」

 

 鬱陶しい。靴を脱いだ。ついでに靴下も脱いだ。酒臭えジャケットは……なんだ、脱がしてくれんのかよ。ありがてぇ。

 

「殺風景だな、おい。俺の人生みてえだ」

 

「私は、そうは思わないがな」

 

「俺がそう思えなきゃ意味ねぇよ」

 

 ああ、マジで体が熱い。お、ケルシー気が効くじゃねえか。あん?でも俺がこの家借りんだから煩わせていいモンなのかこれ。

 あー、頭が痛い。酒なんて飲むんじゃなかった。ヤケになっちまったらそれこそ終わりだってのに。

 

「ケルシー、すまねえがちょっと脱いで良いか」

 

「熱いのなら私が脱がせてやるが」

 

「いや、そりゃ悪いだろ」

 

「そんなにフラフラで、何を言っている」

 

 ああ、すまねえな。

 本当に、申し訳が立たねえよ。

 

「リュドミラを育て始めてからは、俺もちゃんとするって、決めたはずなんだけどな……どこでしくったのか、俺自身にすら分かんなかった」

 

「……」

 

「常識って、何だろうな……もう分かんねえや」

 

 ケルシーの手が俺を押して、俺の体はベッドに転がった。天井の模様が捻れて、それが小さい頃のリュドミラの顔になった。いつもは笑顔で俺と話すリュドミラの、憎悪に染まった顔。

 チェルノボーグから連れ出した俺は、リュドミラの思い込みを解すとこから始めた。一時は超絶反抗期になって何度か殺されかけたが、今ではそんなことは一切なくなった。

 

 それでも思い出す。親の仇を憎悪するリュドミラのことを、俺は今でも思い出している。

 そうあっちゃならねえって思ったんだ。リュドミラはもっと笑っているべきだって、あの頃の俺はそう思ったんだ。

 

 だから努力した。実力のない、依頼達成率もそこそこ低いトランスポーターを止めた。俺はそれから自分を鍛えて、会社にも入って、真面目に生きてきた。

 

 何故だか、寒い。

 さっきまでは熱かったのに。

 

 ……暖かい何かが、俺に触れた。

 

「ローン、お前は良くやった。本来なら、お前はロドスに入っていたはずだった」

 

「何だよ、それ」

 

 ほんと、笑っちまうよ。

 

「慰めんの下手だな、お前」

 

「ああ、そうだな」

 

 だからお前、返事がおざなり過ぎんだろ。

 

「今だけは、忘れさせてやる」

 

「……あぁ?」

 

「今だけは私を見ていろ、ローン」

 

「……ケル、シー?お前、何言って……」

 

 何かに口を塞がれた。

 そんで、何かが流し込まれた。

 体が熱くなってきた。さっきまで寒かったのが嘘みてえに、俺の全身が茹だるように熱い。

 

「今だけは、何もかも忘れていい」

 

 ケルシー……?

 

「だから、今だけは」

 

 さっきから、何をして……

 

 

「私にお前を刻ませてくれ」

 

ハーレムは?

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