SCP財団の報告書的な物を書いてたら英霊になったんだが??? 作:我等の優雅なりし様を見るや?
燃え盛る大剣が空間を薙ぎ、四方八方へと炎の塊を撒き散らす。
夢遊病患者を思わせる重心が定まらない様子で歩き回っていた『其れ等』は、突如として現れた神聖なる炎に焼き尽くされ、
その醜悪なる肉体がこの世に存在していたという証拠は地面へと残る僅かな灰のみとなった。
思考する余地が有るとは思えぬ『其れ等』も自らの先鋒が焼き尽くされたのを感知し、
先程までの動きがまるでウソであったかの様に獣の様な素早さでルーラーを包囲する。
たが、それは明らかに早計な判断であった。ライトブラウンのコートの裾を翻し再度振るわれたその剣は周囲をまるでカーテンの様に包み込み、
再度炎が晴れた時には醜悪なる肉の犠牲者達は遺されていなかった。
手に握られた炎の大剣は自らの獲物が全て消えた事に不満げに再度、炎を大きく燃え上がらせたがルーラーが其れを手放すと、背中に背負っていた二対の炎の羽根と共に消え失せた。
一瞬にして死の危険から救われたその砦を奇妙な静けさが包み込んでいた。
誰からとも知れずに一人一人と膝をつきながら手を組み。鎧同士が擦れる金属音が響く。
敬虔なるキリスト教徒が多くを占めるフランス兵達が今の光景を前に其れ以外の行動を起こせる筈もなかった。
肉の悪魔達に襲われ、死の淵にて目の前に降り立った男はその身より四枚の炎の羽根を生やし、手にした煉獄の炎で悪魔達を退散させた。
此れを主の遣わした使いと思わずしてなんと言うべきか。
我等が聖女と担ぎ上げ、そして火に巻かれた少女は魔女として悪しき復活を遂げたが、神は未だ我等を見捨ててなど居なかった。
一方、彼に間一髪救われた盾の少女はその目を憧れと一抹の自責の思いに染め、彼の背中を見つめる。
本当に彼は凄まじいサーヴァントだ。自分より後に召喚されたが、サーヴァントとしてのその余りの異質さと前所長の良心の呵責によって、カルデアの記録より抹消された
番外のサーヴァント。
かつて世界を救い、その存在が歴史の膨大な地層に埋没させながらも尚、未だ各地にその存在を神格視する者の絶えない『財団』の創設者、『管理者』。
自分よりも強大な力を持ち、そして間違いなく───自分よりも多くを知っている。
それに比べて、自分は何という体たらくなのだろう。
無計画に突貫し、彼に迷惑をかけてしまっている。こんな事では先輩にも申し訳が───
「ごめん、マシュ!もっと考えてから指示を出すべきだった!ほんとにごめん!」
「そんな!私こそもっとしっかりと現場の状況を判断すべきでした……」
その琥珀色の目に慚愧の念を込め彼女のマスターが此方へと頭を下げるが、マシュは其れを手を振って否定する。
だが、その口元が僅かに緩んだのも事実だ。
本当に彼女───先輩は、自分を元気付けてくれるのが上手い人だ。
何時だって全力で、悩んでいる此方の手を引っ掴んで前へと駆け出してくれる。
「もっと、ルーラーさんにばっかり頼ってばかりのマスターから脱却しないと……!」
手を握り締め、城壁の下で負傷者の運搬や追撃への警戒の指揮を執っている
ルーラーの様子を見ながら呟く、少女の気丈さにつられてマシュもその身の丈に合わぬ盾を持つ手に力を込め、気合を入れる。
《二人とも、気合を入れている途中に申し訳ないんだが───》
『マスター!マシュ嬢!歓談中に済まないがワイバーンだ!』
《そんな!ワイバーンの警告は僕の仕事なのに……お役柄を取られた気分だ……》
響くカルデアからの通信を遮り、ルーラーの特徴的な声が砦の下から発せられる。
それに合わせ、二人が上空を見上げると其処には悠々と天を舞う飛竜が数十体、
その目に明らかな敵意と野生の残忍さを滲ませながら此方へと猛然と空を駆けているところであった。
ルーラーが直ぐに其方へと向き直り、駆け出そうとする。だがその瞬間砦の正門前から発せられた声が彼の行動を押し留めた。
「聞けい!この砦に集いし勇猛果敢なる兵士諸君よ!
我等は国王陛下よりこの地を守護せよとの命を受け、此処を凡ゆる外敵から守り抜く事が使命である!
先程此処に押し寄せし醜悪なるサーカイトの悪魔の眷属共は、我等の献身を聞きつけた主が遣わされた御使いがその清浄なる炎によって滅敵された!
だが、我等は本当にそれで良いのか!我等は天の恵みに身を委ね、主の加護が無ければ何も出来ぬ貧弱な者か!」
次々と砦の中より、剣を抜き放ち矢をつがえる音と共に大音量で声が発せられる。
「「「否!否!」」」
「ならば剣を取れ、勇士諸君!かつて神聖なる財団を神の啓示の元に創りし、聖アドミニストレータはこう仰られた!
『敬虔なる信徒よ、我等は恐怖から逃げ隠れていた暗黒の時代に退行する事は許されぬ。いと高き主は我等を常に見ておられる。故に、信仰を示すべく我々自身が立ち上がらなければならないのだ。』と!」
『いや、そんな事は言ってないんだが……』
「そうなのですか?ルーラーさん。」
砦全体が熱気に包まれ戦士達の雄叫びが響く中、ルーラーは顔は相変わらず伺い知れぬものの、何処と無く困惑した様な雰囲気を纏っていた。
マシュの疑問の声に、カルデアの通信を通してロマニが答える。
《えっと、当時───つまり14世紀ヨーロッパはかつて『財団』が収容していたとされる物を聖遺物と見做し、財団伝説とキリスト教を融合させた独特の宗教観が発生していたんだ。
例えば無限にジャガイモが中から取り出せる【無尽の豊穣なる袋】と名付けられた袋が今も聖堂教会の管理下にあるんだけど、
其れ等の『異常存在』が当時のフランスでは多く見られていた。この百年戦争のイギリス側の目的の一つとして、そうした物品をフランスから奪い取るというのも有ったんだ。》
ルーラーが何処と無く困惑したかの様な雰囲気を見せているが、其れもそうだろう。
彼は神すらをも収容し、敬虔からは程遠い組織の長だったのだ。しかも、己が収容した物品を巡り後世にて戦争が起こったなど、彼にとっては許し難い事に違いない。
だが、そうこうしている間にもワイバーンとフランス兵は衝突している。
彼等は血気盛んに弓を射かけ、攻撃せんと降りて来たワイバーンを槍で迎撃しようとしているが、下級も下級とは言えワイバーンは竜。
神秘も持たぬ兵士に太刀打ちできる相手では無い。次々とワイバーンの吐く炎に巻かれ、地面へと倒れ伏す者達の断末魔で戦場は溢れかえっていた。
「マシュ!」
「はい、マシュ・キリエライト。突貫します!」
盾を構え、サーヴァントの脚力に身を任せ上空から振り下ろす一撃にてワイバーンを仕留め、
その炎を盾で防ぎ、背後のフランス兵達へとその業火が届かぬ様にする。
だがいくらデミ・サーヴァントの彼女が頑強な肉体を持ち、人間離れした筋力を誇ろうとも
彼女が増えるわけではない。既に砦はワイバーンの群れに覆われ、兵士達の動きにも疲労の色が見え隠れしていた。
ルーラーが天へと再度、炎の大剣を振るうも明らかにその勢いは衰えている。
辛うじて砦の上空のワイバーンを全て焼き尽くしたものの、その直後にルーラーは膝を地面についた。
『すまない、マスター。此れはしばらく打ち止めだ。随分と魔力を喰う……』
この場のサーヴァントを指揮するマスターたる彼女は己の不甲斐なさに顔を歪めるも、すぐに気丈な表情を見せる。
「ありがとう、ルーラーさん!暫く下がっていて下さい!」
戦況は良くない。ワイバーンは未だに空を駆け、我が物顔で兵士を貪らんとしている。
だが、その地獄へと響き渡る気高き声があった。
「兵士達よ、水を被りなさい!それで少しはマシになるはずです!
『聖スクラントンよ、その偉大なる御技の一端を私にお貸し下さい……!』」
美しき金髪を戦場の風に靡かせ、凛とした顔で立つ彼女。
その手には複雑な紋様が施され、先端には何処か機械的な気配すら見せる物体を取り付けた旗が握られている。
彼女が何かを唱えその旗を振るうと、不可視の波動が周囲へと伝播していった。
その波動の範囲に入っていたワイバーンは突如としてもがき出し、まるで飛び方を忘れてしまったかの様に地面へとフラフラと滑落していく。
《何だこれは……⁈周囲のワイバーンが纏う魔力が霧散していく……まさか、この宝具!
ジャンヌ・ダルクか!》
地面へと滑落したワイバーン達に兵士が群がり、その鱗の隙間へと剣や槍を突き刺していく。
未だに天を舞うワイバーン達も、マシュが掃討するだろう。絶望的な状況から一転し、勝利を目前とした騒がしい空気の中でルーラーが何かを呟いていたのは誰の耳にも届かなかったのだった。
『え、あれスクラントン現実錨じゃん……怖』
『教会の博士』カノンの世界を中世ベースに落とし込んだ感じです。
主人公は財団の発明品も頑張って再現しており、地下迷宮に配備していましたが実験用に作り出した一部のアイテムを回収し忘れていた様です
SCP-1689 http://scp-jp.wikidot.com/scp-1689 執筆者:llama66613