緋田美琴は、不思議だった。何故、こういう事になるのか。まさかの展開に、思わず柄にもなく「運命」というものを呪いたくなるほど。
高校生というのは、今にして思えば純粋な生き物だ。それは、ここ最近で関わるようになった二人の現役から強く感じていた。七草にちかも、一宮青葉も、美琴から見れば純粋で可愛い生き物だ。
……その二人が、初めて見る顔で、目の前でいがみ合っている。
「「ガルルルル……!」」
「二人とも知り合いなの?」
唸り声を上げる二人に、思わず美琴は狼狽えてしまった。
何故こんなことに……それは、つい数分前に遡る。
──ー
──
ー
「じゃあ、行こっか。一宮くん」
「は、はい……」
と、少し緊張気味に答えた青葉は、実際、緊張していた。それが正直、美琴には不思議だったが、考えてみれば青葉にとって自分は少なくとも青葉にとっての、理想の女性。
それが浴衣を着ていれば、照れるのも当然なわけで。出会った時の新鮮な彼を少し思い出してしまった。
……ちょっとだけ、たまに強烈な生意気を漏らす彼を揶揄ってやりたいかも、なんて思ってしまったが、また赤い水溜まりを作られても困る。
ここは、歳上として恥ずかしくない行動をとることにした。
「ふふ、大丈夫……一宮くん。待ち合わせ時間までまだあるし……歩きながら、ゆっくり落ち着こう」
そう言いながら、とりあえず子供を落ち着かせる、という事を考えて、手を繋いであげてみることにした。指先を地面に向けて、指と指が絡み合うように繋ぐ……まさか、これを俗に言う「恋人繋ぎ」というものだとは夢にも思わずに。
「コッファアァァッ……!」
「え、なんでさらに喀血するの……?」
ぶっ倒れて痙攣し始めたので、仕方なくおんぶしてあげることにした。
お祭り会場は、わざわざ電車で移動する必要もない場所なので、そのまま徒歩で向かう。
浴衣、というのは歩き慣れないものだが、普段のアイドルのダンスレッスンで培われる体幹が役に立ち、なんとかおんぶしたまま転ばずに歩くことが出来た。
さて、待ち合わせ場所までもう少し……この辺で、そろそろ青葉を起こしておかないといけない。おんぶのまま合流は、少し気が引ける。
「一宮くん、起き……」
そこで、口が止まった。もし、おんぶなんてしている間に目を覚ましたら、彼はまた喀血でもしてしまうんじゃないだろうか? ただでさえ、お祭りに来るだけでも意を決しているというのに。
とりあえず、近くの電柱の前でしゃがみ、もたれ掛からせるように立たせて下ろし、改めて声を掛けた。
「一宮くん、一宮くん」
「……んっ……」
ぬぼーっと目を覚ます。うっすらした瞳を自分に向けた。……こうして見ると、普段のテキパキした家事力とは無縁の子供に見える。普段は割と家事的にも家計簿的にも大人っぽく振る舞っているけど、こういう時はまだまだ若々しい学生みたい……なんて思っていると、青葉は自分の方にもたれかかってきた。
「一宮くん?」
「はっちゃん……どうしたの今日は……またカレー作りに来て欲しいの?」
「違うよ。はっちゃんじゃなくてみっちゃん」
「みっちゃん……? みっちゃん……みっちゃん⁉︎」
不意に覚醒する。ようやく目の前にいる人物が、はっちゃんなる人物ではなく美琴だと理解したようだ。
「み、美琴さん……すみません、寝てました⁉︎」
「うん」
「なんで寝てっ……あっ、そ、そうだ。なんで急に恋人繋ぎなんてしたんですか!」
「恋人繋ぎ?」
「あの手の繋ぎ方ですよ!」
「ああ……あれ恋人繋ぎって言うんだ。なんで?」
「いや知りませんしどうでも良いです!」
恋人っぽい……のだろうか? あ、もしかしたらあの繋ぎ方なら、離せばハートを作れるから? いや離しちゃってるしそれ。
なんて関係ない部分が気になっている中、青葉はお説教を続ける。
「人前でああいうことされると困ります! ただでさえ、今日は美琴さんお祭りに合わせて変装してないのに!」
「ごめん。でも……一宮くんが照れなかったら私も手を繋ごうとは思わなかったよ?」
「っ……そ、それは……すみません。あまりにも綺麗だったんで」
素直な子だ。まぁ、怒ってるわけでもないし、気にしているわけでもないので別に良いのだが。
「でも、分かった。そこまで言うなら、少しは気をつけるね」
「そうして下さい」
どうせ、もうにちかの所へ合流するので、特に問題もないわけだが。……いや、一つだけあった。
「さ、行きましょう。美琴さん」
「……」
みっちゃん呼び……と、少しだけ思ったが……まぁ、後でも良いだろう。正直、どうでも良くなってきちゃったし。
それよりも、さっさとお祭りに行くことにした。
「うん。行こう」
「はい!」
そのまま二人で待ち合わせ場所に向かった。
一応、場所は駅前のコンビニの前。そこで一人、緑色のショートカットをソワソワと揺らしている影が見えた。
「そういえば、美琴さん」
「何?」
「相方の子ってどんな方なんですか?」
「ん、一宮くんと同い年の子だよ。身長もほとんど同じくらいで、可愛くて元気で面白くて……あれ、一宮くんとその辺も同じだね」
「っ、こ、光栄です……」
「? ……ああ、うん」
一緒に褒めてしまったことに後から気が付いたが、まぁ気にしない。というか、そんなんで照れちゃうのがまた少し可愛い。
「でも、仲良くなれると思うよ。趣味も合いそうだし……やっぱり、何処か一宮くんと似てるし」
「そうですか」
「ちなみに、もう目に見える範囲にいるよ」
「えっ、マジですか⁉︎」
言うと、元気にキョロキョロと探し始めた。そんな中、ふと首を止める。
まさか、分かったのだろうか? と、思ったのも束の間、青葉は美琴の背中に隠れてしまった。
「? どうしたの?」
「すみません……ちょっと知り合いが」
「嫌いな人とか?」
「いや、実はそいつにお祭り誘われてたんですよ。ただ、美琴さんからのお誘いの方が早かったので断っちゃったんですけど」
「そうなんだ。それは悪いことしたな」
「い、いえいえ! そいつとは毎年行ってるんで別に気にするようなことでもないですよホント」
「ふーん……」
なんか、最近どこかで聞いたことあるような話だ。まぁ、幼馴染なんて世の中にたくさんいるって事くらいは、もうここ最近で理解しているので何も言わないが。
なんにしても、バレたくない理由は理解したし、そのまま歩く事にした。
「で、見つけた? 私のユニットの子」
「いえ、まだ……ていうか、ちょっとすみません。そいつも美琴さんのファンなので、正直そいつに見つからないようにするのに必死で……」
「おーい、にちかちゃん」
「そうそう、にちかの奴……え?」
「あ、美琴さ……え?」
反射的だったのだろう。自分の背中から、青葉が顔を出した。そして、にちかと目が合った。
「青葉」
「にちか」
「「…………は?」」
急に隕石が落ちてきたような、そんな感覚だった。
ー
──
──ー
で、今に至る。まぁ、今にして思えば、なんか色々と腑に落ちた。にちかと青葉がよく言っていた幼馴染とはお互いのことなのだ。
にちかが友達を誘っても予定が合わないわけだ。何せ、美琴が予定を入れてしまったのだから。
「テメェ、アイドルのユニットって美琴さんのことかよ!」
「あんたこそなんか最近、らしくない料理作るなって思ったら……美琴さんのご飯とか作ってたわけ⁉︎」
「お前と違って家事ができるんでな! お隣さんとして助け合いすんのは当然だボケ!」
「つまり、腱鞘炎の時は美琴さんのお手を煩わせたってことじゃんそれ! ファンとして恥ずかしくないわけ⁉︎」
「お前こそファンの癖にユニット組むとか恥ずかしくねえのか! 故郷滅ぼされても部下であり続けたベジータより情けねえ野郎だな!」
「そっちだって散々、偉そうなこと言って癇癪起こしながら、結局キラに助けられたイザークより情けないし!」
「良いじゃああああん、イザークは! なんだかんだブーステッドマン二人も倒したんだぞ、イザーク!」
「私はディアッカ派だしー!」
段々、話が逸れる……が、正直、美琴は新鮮だった。にちかはともかく、青葉の口調が自分の知らない感じになっている。……いや、何ならこれが素なのかもしれない。普段、たまに漏れる生意気な面の根源を見ている気がした。
……とはいえ、このままというわけにもいかない。人の注目もだいぶ集めてしまったし。
「二人とも、落ち着いて」
「「落ち着きます」」
美琴の言葉を無視出来ない阿呆二人は、パッと黙って美琴の方を見た。
「とりあえず……にちかちゃん。はづきさんは?」
「あ、すみません。お姉ちゃんは途中から合流するそうです」
「そっか……じゃあ、先に回ろっか。二人とも、自己紹介はいらないよね?」
「いえ、回りません」
「えっ」
「俺も」
どういう意味? と、美琴が片眉を上げる中、青葉とにちかは続けた。
「こんなファンの風上にもおけない人と、一緒にお祭りなんて回れません!」
「意見があったなマリモ! 俺もお前とは一緒に回らねえよ!」
「「そういうわけですから、行きましょう美琴さん!」」
話しながら、二人は同時に真逆の方向へ向き、美琴の片腕を引くようにした。お陰で美琴は微動だに出来ず、二人は後ろにずっこけそうになる。
で、ジロリと睨み合った。
「その汚い手を美琴さんから離してくれない?」
「テメェこそその汚い性根で美琴さんに関わるんじゃねえ」
「は? あんたに言われたくないんですけどー。大体、今日は元々、ユニットでお祭りデートするって催しなんだけど?」
「テメェいつも宿題写させて勉強教えてやってんだろ。借りを返す時だぞコラ」
「男の癖に何小さいこと気にしてんの⁉︎ ここは女の子に譲るのが男でしょ!」
「都合の良い時ばっかり男女を主張して来るんじゃねーよ! そういうところが汚ねえっつってんだ!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
「「落ち着きました」」
なんだろう、これは。飼ってる犬がメチャクチャ仲悪い、みたいな?
とりあえず……美琴としては、可能なら三人で回りたい。……いや、はづきも来るから四人か。
なので……まぁ、せっかく好かれていることだし、ここは好かれている者の特権を活用させてもらう。
「私は三人で回りたいんだけど……ダメかな?」
「分かりました。では、にちかを追い出して知り合いの三峰さんって方をお呼びします」
「えっ」
「は? 追い出されんのはあんただから。私も妹誰か呼ぶ」
「三人ってそうじゃなくてね……」
こほん、と咳払いすると、美琴は慈愛の笑みを浮かべる。そして、二人の頭の上に手を置いた。
「にちかちゃんと、一宮くん。二人と一緒に回りたいな?」
「……まぁ」
「……美琴さんがそう仰るなら」
「ふふ、良い子だね」
笑みを浮かべたまま、頭を数回、撫でてあげる。2人とも納得がいかない様子ながらも、大人しく撫でられた。まぁ、決まったようなものだ。
「じゃ、行こっか」
「「はい……」」
美琴を間に挟んで、二人と一緒にお祭りに向かった。
×××
さて、JKとDKに挟まれて、美琴はお祭り会場へ。これが成人女性にとっての「両手に花」という奴なのだろうか?
「美琴さん、あそこの屋台の焼きそば、美味いですよ! 別に安いってわけでもないですけど、他の屋台の焼きそばとはわけが違います!」
「あんたがそう思うのは焼き加減と青のりの微調整が完璧とか、素人には分からない点を評価してるからでしょ。舌自慢はツイスタでして」
「ああ⁉︎」
「それより美琴さん、あそこのお店のたこ焼き、美人が相手だとサービスしてくれますし! 去年、私がいたからサービスしてもらえたんです!」
「去年、サービスしてもらえたのはお前の姉貴がいたからだろバーカ。思い上がってんじゃねーよボケ」
「はぁ⁉︎」
……まぁ、普通に二人とも仲が悪いわけだが。
しかし、このくらいの喧嘩なら美琴にとっても子猫が戯れているようなものだ。微笑ましいので、とりあえず結論を出してあげる。
「じゃあ……二つとも買ってみようか。近い、たこ焼きの方から買って、次に焼きそば屋に行こう」
「「はい!」」
うん、やっぱり素直で可愛いものだ。可能なら仲良くしてもらいたいけど……なんか本人達の問題っぽいし、触れない方が良い。
列に並んでいる間、とりあえず、と言うようににちかに聞いてみた。
「そういえば、にちかちゃん。試験はどうだったの?」
「え? あ、はい。まぁまぁ、ですかね……」
「なーにがまぁまぁだよ。昨日の分は俺にヤマカン張らせた癖に」
「う、うるさいから! 美琴さんの前で余計なこと言わないで!」
「え、大丈夫なのそれ。夏休みに補習でレッスン時間潰れたりしない?」
「だ、大丈夫ですよ! ちゃんと課題とか出してますし」
「俺から写したやつをな」
「っ、だ、だーかーらー!」
「……あ、もしかして、前ににちかちゃんとうちのマンションですれ違った時って……」
「うっ……は、はい。アホ……青葉に勉強教わってました」
「テメェ、誰がアホだコラ! お前の方がアホだろどう考えても!」
ということは、と、美琴は少し意外そうに青葉を見る。
「もしかして、一宮くんって成績良いの?」
それを聞かれて、青葉は心底嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべた。
「はい! こう見えて、評定平均は4.1です!」
「へぇ、すごいね」
「体育は2だけどね。学年が始まる時のスポーツ検査、毎回下から数えた方が早いし」
「そこ! 余計なこと言ってんじゃねーよ!」
「中学の時なんて、球技はぶられてたもんね? いない方がマシって言われて」
「だからうるせーっつーの! こっちだって出ないで済んでラッキーだったわ!」
「そうなんだ。少し意外だな。なんでもできると思ってたのに」
それを聞いて、今度はにちかがニヤリとほくそ笑む。
「なんでも、なんて出来ませんよ。社会と数学は毎回3ですし、芸術も手先が器用ではあるけど感性が終わっててひどい時2ですし、体育は授業態度良いのに毎回2ですし、ちょっと小賢しいくらいですよ、そいつ」
「お前、夏休みの宿題自分でやれよ」
「ほら、ちょっと言い負かされそうになるとそういうことしか言えないし?」
「絶対見せんわ。どんなに仕事忙しくなってもな」
なんていうやり取りを、美琴は微笑みながら眺める。ちょっとだけ、二人が羨ましかった。もうまんま思ったことを口にしているようなやり取りだ。一緒に長くいるからこそ、お互いの事がよく分かっていて、ぽんぽんと情報が出てくるのだ。……まぁ、今の所、弱点しか出てないが。
とにかく、その「喧嘩するほど仲が良い」を地で行っているような二人が、少しだけ羨ましかった。
「次の方いらっしゃい。……おっ、お姉ちゃん美人だなあ。サービスしてやるよ」
「ありがとうございます。たこ焼き8個入り、1パックお願いします」
「はいよ。じゃ、1個サービスな?」
三人でシェアするので、1パック注文。強引におまけを詰め込んでくれた。
そのまま三人で、今度は焼きそばの出店の前へ並ぶ。すると、今度はにちかが美琴に聞いた。
「あの……今、ふと思ったんですけど……」
「何?」
「なんで美琴さんは青……アホ葉にどんなことをお世話になってるんですか?」
「おい、お前なんで言い直した今」
それ気になるか、と美琴は少し狼狽える。これは……どこまで話して良いのだろうか? 一応、料理のことはバレてしまったが、部屋の掃除とかしてもらってる、とか言っても良いのだろうか?
いや、確実にまた喧嘩になる。なんとか誤魔化さないと……と、顎に手を当てて考え、とりあえず一番話しても問題なさそうな上で、一番最初の思い出を話した。
「最初は、酔っ払いに絡まれてたところを助けてくれたんだ」
「え? 嘘ですよー。そいつにそんな度胸ないです」
「……」
それを聞いて、青葉は少し目を逸らす。その反応を見て、にちかは本当のことだと察した。
「え、ほんとに?」
「……なんでそんなの覚えてるんですか……」
「覚えてるよ。大事な思い出だからね」
まぁ、今さっき思い出した話だが。どうやって助けてくれたんだっけ……と思い出す中、にちかが意外そうな声を漏らす。
「……青葉、ホント?」
「ホントだよ」
あ、少し興味持った、と美琴はホッとする。この件に関してなら、今だけでも少しは仲良くできるかもしれない。
「そんなこと、私に一回も言わなかったじゃん。それは隣に住んでるの黙ってたのとはわけが違うから、言ってくれてもよかったのに」
「や、なんかあって言わなかったと思うんだけど……なんだっけか」
そうだ。確か……知り合いの体で入ってきて……思い出した。
「確か、彼氏のふりして助けに来てくれたんだよね」
「は?」
「……あっ」
「え? ……あっ」
後になって「彼氏のふりはヤバそう」なんて思った時には遅かった。もうにちかの表情は真逆になっている。
「何してんの青葉。彼氏のふり? ファンがアイドルの?」
「うるせーな! 声かけた時は美琴さんだって知らなかったんだよ!」
「いや、それにしたって彼氏のフリって……この年齢差で。キモっ!」
「じゃあお前ならどうすんだよ! 見捨てんのか⁉︎」
「彼女のフリ!」
「お前も一緒だろうが!」
なんてまた喧嘩に発展してしまう。もういいや、と美琴は二人のやりとりを聞きながら焼きそばを購入した。
×××
「いけないいけないー、遅くなっちゃった……!」
小走りでそう呟くのは、事務所から慌てて飛び出したはづき。慌てた様子でお祭りの会場に向かう。
一応、にちかには遅れると言っといてもらったが、今からでも大丈夫だろうか?
とりあえず、チェインでやりとりした待ち合わせ場所である、お祭りの会場から少し外れた小さな公園へ大急ぎで向かっていると、やたらと騒がしい声が耳に届いた。
「だから言ったろうが! あそこは右のくじにしとけって! そうすりゃ、リンゴ飴のくじを三回もやらずに済んだんだよ!」
「だからって三回目で三個入りを引いた青葉もおかしいから! 流石にリンゴ飴一晩で二つは女の子的に洒落にならないし!」
「お前は少しは太った方が良いんじゃねえの? その貧相な鳥取砂丘、少しは波つけてやれよ!」
「はーあ⁉︎ そっちこそ、甘いものはやめておいてその二つともお姉ちゃんにあげたら⁉︎ 細身ってだけで筋肉より脂肪のが多いだらしない身体、少しはマシになるんじゃないの!」
「テメェ、人の身体的特徴を口にすんな!」
「あんたが言うな!」
……なんで、青葉がいるのだろうか、と思う前に、まず人前で喧嘩している妹達に少しだけイラっとしつつも、意外にも思った。青葉は、憧れの人の前であんなはしたなく怒鳴るタイプではない。つまり、まず間違いなく憧れの人にもはしたない姿を見せられる、ある程度の仲の良さはあると見て良いだろう。
つまり、知り合い同士……どういう関係か気になるが、そろそろ良いだろう。美琴も困っている。
「はい、二人ともそこまで〜」
「「おぶっ⁉︎」」
とりあえず、その二人の頭にゲンコツした。
「いったいな……あっ、お姉ちゃん」
「美琴さん、お疲れ様です〜。すみません、問題児二人の面倒を見させるような形になってしまって……」
「お疲れさまです。大丈夫ですよ。楽しかったので」
本当にそう思っているのか、いつものクールな笑みを浮かべながら答えてくれた。
実際、二人のバカな喧嘩も見ているだけなら、慣れてくれば楽しく思えてくるものだ。
とはいえ、注意しないわけにはいかない。
「コラー、二人ともー? 美琴さんと一緒にいられて楽しいのは分かるけど、あんまり迷惑かけちゃダメだよー?」
「……うぐっ」
「ご、ごめんなさい……」
素直に謝る二人を見て、美琴は少し驚いたようにはづきを見上げた。
「すごいですね、はづきさん……すぐに二人に言うこと聞かせられるなんて」
「長い付き合いですからねー。……そういえば、アオちゃんと美琴さんはお知り合いだったんですねー」
「はい。いつも、助けてもらっています」
「そうなんですかー。実は、うちもたまにおかずとか分けてもらっちゃったりしてましてー……」
「美味しいですよね。一宮くんの手料理」
「ほんとにー」
「あの……ところで」
そう言いかけた美琴は、ふと青葉を見た。急に見られてキョトンとした青葉だが、すぐにはづきに視線を戻して聞いた。
「アオちゃんって……彼の事ですか?」
「ブフォッ!」
「はいー。昔からそう呼んでいますー」
「……ふーん?」
再び青葉を見る美琴。いやな予感がしたのか、青葉は「っ、な、何ですか……」と警戒した様子で聞いた。
案の定、美琴の表情はいたずらっ子のようにニヤリとほくそ笑む。そして、手元のたこ焼きを箸で摘んで、青葉の口元に運んだ。
「はい、あーん……アオちゃん?」
「っごふぁっ……!」
「んなっ……⁉︎」
吐血する青葉。げほっ、けぼっと咳き込みながら、顔を真っ赤にした涙目で抗議するように美琴を見上げる。
「なっ……何いきなり言って……俺を殺したいんですか⁉︎」
「食べないの? アオちゃん」
「ぐっふぉぁ!」
「冷めちゃうよ、アオちゃん」
「ガッファ!」
「よくそんな新鮮なリアクションを連発できるねー……」
はづきのツッコミは尤もだった。……が、正直、それ以上に意外なのは美琴の方だ。こんな風に、誰かを茶化すこともあるんだ……と、少しだけ変に感心してしまった。
「ほら、アオちゃん。もう、血はいいから。食べて?」
「っ、ど、どうしても……ですか?」
「うん」
「っ……〜〜〜!」
真っ赤になった青葉は、もうほとんどパニック状態で口を開けた。ほとんどヤケクソだ。
「あー……」
「あーん!」
「バフン⁉︎」
直後、真横からタックルの勢いでにちかが滑り込み、青葉を弾き飛ばすと共にたこ焼きを食べた。
「ってぇな! お前殺すぞマジで!」
「おいしいです、美琴さん〜」
「良かった」
「聞いてんのか!」
怒る青葉と、今度は美琴から食べさせてもらっているにちか。まぁ……にちかがアイドルになると言い出した時から、青葉と美琴が知り合ったらこうなるんじゃないか、と何となく思っていた。
あんまりそういう面をユニットメンバーに見せるのは如何なものかと思うが……でも、まぁどの道、青葉とにちかが美琴の前だけ器用に喧嘩しないなんて無理だ。早めに本性を出した方が良い気もする。
「……はいはいー。とにかく、二人ともそこまでー」
「うぐっ……お、お姉ちゃん……」
「美琴さん、二人がまた問題を起こしたら、遠慮なく言って下さいねー」
「ふふっ……はい。そうさせてもらいます」
笑顔でそう答えてくれた。まぁ、流石に今日1日、ずっと二人の喧嘩に挟まれるのも、それはそれでしんどいのだろう。
まぁ、その辺の調整をするのは自分の役割……と、割り切ったはづきに、青葉が立ち上がりながら声をかけた。
「とりあえず、座って。はっちゃん。色々と買ってあるから、まず腹ごしらえしてよ。その後で、またお祭り見て回ろう?」
「ありがとー」
「……はっちゃん?」
そんな中、ふと声を漏らしたのは美琴だった。不思議そうに小首を傾げて、青葉とはづきを見る。
「あ、はいー。もう昔からアオちゃんは私の事、はっちゃんって呼んでくれてるんですー」
「……ふーん?」
「えっ……な、なんですか?」
ジロリと睨まれる青葉と、睨む美琴。なにかあったのだろうか?
「ふーん……はづきさんは良いんだ?」
「え? あ、いや……そんなつもりは」
「みっちゃん」
「え?」
「は?」
にちかの反応を無視して、美琴は青葉に詰め寄る。
「みっちゃん呼びは?」
「え……いや、恥ずかしいんですけど……」
「だ、ダメですよ美琴さん! そんな親しげな呼び方……羨ましい……!」
「アオちゃん。外では他人にバレないようにカモフラージュするんでしょ?」
「いやあの……にちかの前でそれは……ていうかしれっとアオちゃんって呼ぶのやめてくださ」
「みっちゃん」
「脈絡なく『みっちゃん』をねじ込んでくるのやめてくださいよ!」
だが、もう止まりそうにない。今にも頬をつねられそうだ。
「っ……み、みっちゃん……」
「ふふ……よし、アオちゃん」
「青葉ああああああああああ⁉︎」
「うるせーよにちか! どうしろってんだよ!」
「じゃあ、たこ焼きと焼きそば、いただくねー」
中々、美琴と青葉、そしてにちかは面白い関係になりそう……そう思いながら、はづきはたこ焼きをまずはもらった。