にちかに美琴様だけは絶対に渡さん。   作:バナハロ

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メテオストライク。

 さて、そんなわけで早速、プレゼント選びを開始した。三人でショッピングモールの中をのんびりと見て回る。

 

「うーん……何にしようかな」

「実用性って面は私も良いと思うし、好きなのにしたら?」

「好きなのが一番、迷うんですよね……」

「まぁ、そのために私たちがいるから。好きなお店入ってみなよ」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言いながら、お店の中を見て回った。まずはにちかの買い物から。確か、ハンカチだっただろうか? 

 

「にちか、お前どこで布買うの?」

「ハンカチを安っぽい言い方するのやめてくれる? というかそれ、全国のハンカチ職人に殺されると思うけど。二階の」

「ああ、あそこ。俺もそこで買おうかなぁ」

「は? 真似しないでくれない?」

「ハンカチ買わなきゃパクリじゃねーだろ」

 

 なんて話をしていると、美琴が二人の会話に混ざる。

 

「なんか……二人ともすごいね」

「「何がですか?」」

「いや、今声そろったとこもだし……あと、二階のって言っただけでどのお店かわかっちゃうのとか」

 

 そんなことを羨ましがられても困る。正直、自慢できることでもない。何せ、要するにこれまで子供の頃からずっと一緒にいたのがにちかと言う事だ。人間関係に進歩がない、という風にも取れる。

 

「私はできる事なら美琴さんと阿吽の呼吸になりたいです!」

「それはこっちのセリフだ! お前とそんな関係になったって、マジギレはっちゃんから逃げる時くらいしか使えねえよ!」

「でもそれ一番、役に立つよね。私と青葉の間では」

「……確かに」

「やっぱり良いなぁ……」

「「やめて下さい!」」

 

 正直、困る。本当にそんなんじゃないから。昔からよく「お前ら本当は付き合ってんだろ?」みたいなことは言われて来たが、本当にそんなんじゃない。友達としてはアリだが……お互い、本当にタイプじゃない。

 代わりと言ってはなんだが、青葉には一つだけ最近、特技が増えた。

 

「でも俺、みっちゃんが最近、何を欲してるかは察せるようになりましたよ」

「は? 何そのけしからん関係。殺すよ」

「なんでそれだけで殺されんだよ……」

「だって、私は察せないもん」

「お前は調子こいて地雷踏み抜きまくってるだけだろどうせ」

「そ、そんなことないから!」

 

 心当たりあんのかよ、とにちかの反応を見ながら思っていると、その青葉の手首が引かれる。

 顔を上げると、美琴が少しソワソワした様子でこっちを見ていた。

 

「え……青葉、ほんとに私が何考えてるのか分かるの?」

「いやそんな精密には分かりませんよ。真顔で『椎茸栽培したい』とか思われてたら絶対わかりませんし」

「じゃあ……今、私がして欲しいことは?」

「えー……」

 

 そんなの分かるわけない……というか、して欲しいことなんてあるのだろうか? どちらかと言うとこちらが付き合ってもらっている立場なのに。

 まぁでも、美琴が当てろと言うのなら、青葉はそれに従うだけだ。顎に手を当てて真剣に考え、とりあえず言ってみた。

 

「……ご飯作って欲しい、とか……?」

「……」

 

 あれ、怒った? と、青葉は冷や汗をかく。なんか、思ったより冷たい顔に……と、思ったら、ニヤニヤと底意地悪い笑みを浮かべたにちかが口を挟んだ。

 

「違うでしょー、青葉さぁん。本当に美琴さんのこと分かってるんですかぁ〜?」

「うるせーよ! 分かってねえわけがねえだろ⁉︎」

「模範解答はズバリ……トレーニングしたい、ですね⁉︎」

「……そっちか」

「そっちでしょー。ですよね、美琴さん?」

「……帰るよ?」

「違うんですか⁉︎」

 

 あわわわ、と焦るにちかだが、美琴の視線の先にいるのは青葉。すごく睨まれている。

 え……そんなに自分、悪いことした? と、思わず青葉は冷や汗をかいてしまう。

 そんな話をしていると、にちかの目的のお店に到着した。もう買うものは決まっているので手早くにちかは漁りはじめた……のだが。

 

「あれっ、ない」

「ハンカチあるじゃん。ほら、この幾何学的な奴とか良くない?」

「センス皆無男は黙ってて。……どうしよ」

 

 予想外だったのか、他のものを見る……が、どれもピンと来ないらしい。青葉にとってはどれも似たようなものにしか見えないのだが……まぁ、金出すのはにちかだし黙っておく事にした。

 すると、後ろにいた美琴が口を挟んだ。

 

「じゃあ……二手に分かれたら?」

「「え?」」

「それで、二人が大好きな勝負。どちらがプレゼントに適しているか、私が判定するから。勝った方は……そうだな。飲み物奢ってあげる」

「「マジですか⁉︎」」

 

 美琴が奢ってくれる飲み物……つまり、飲めない。永久保存版だ。買うものを探しながら、飲み物を腐らせないで保存する方法も考えないといけない。

 

「じゃあ、スタート」

「「よし、行くか!」」

 

 さっきまで話していた内容を何もかも忘れて、二人はそのままお店を飛び出した。

 

 ×××

 

 さて、青葉は一人でお店を見て回る。そもそも、自分がプレゼントを選べない理由がない。何故なら、姉の事を一番詳しいのは自分だから。

 何せ、自分の姉の上に、あの姉は割と分かりやすいから必要なものとかの実用性に絞れば簡単に割り出せるはずなのだ。

 そんなわけで、そのショッピングモールに内設されているAE○Nに来た。ここなら何かしらあるはずだから。

 ……そういえば、美琴の誕生日ももうすぐなんだよな、とふと思い出す。あと2〜3週間くらい。何か買ってあげたいわけだが……困った事に何も思いつかない。いや、あの部屋に必要なものはいくらでも思いつくが、あんまり高すぎでも気を使わせてしまうーとか考えるとキリがないのだ。

 ……さっきの、美琴がして欲しいこと、にヒントがあったのかもな……なんて、もっと深く考えりゃ良かったと少しだけ反省していると、後ろから声をかけられた。

 

「青葉」

「? あ、美琴さん。どうしたんですか?」

「いや、勢いで審査員なんて引き受けちゃったから、少し時間を持て余しちゃって。青葉を探してたんだ」

「俺?」

「そう」

 

 にちかじゃなくて? いや光栄だが、百歩譲っても二人を探していて、片方見つけた……じゃないのだろうか? もしかしたら、リップサービスを効かせてくれたのかも……なんて思っている間に、いつの間にか商品棚を適当に見ている青葉の隣に美琴は立っていた。なんか……ちょっと怖い。

 その感じた畏怖は当たっているのか、スッと手を繋がれてしまった。

 

「さっきの問題の答え、分かった?」

「問題……ああ、してほしい事ですか?」

「そう。……なんだと思う?」

「な、何と聞かれても……」

 

 なんだろうか。して欲しい事……というか、少しずつ美琴は頭をかがめ始めている。

 それを見て、なんとなく察してしまった……のだが、それはダメだ。自分は美琴に好かれずとも嫌われない立ち位置にいなくてはならない。それをしたら、好感度が上がってしまう気がする。

 

「わ、分かりませんなー……あの、ところで俺、プレゼント選ばないといけないので……」

「ふふ……察しが悪いな。それとも、わざと意地悪をしているのかな? 大人に対して」

 

 いや大人が子供に対して撫で撫でをせがまないで下さいよ、と思っても口にしない。それは多分、嫌われる。

 

「ていうか、ここ外ですよ? まずいでしょ、部屋じゃないと……」

「あんまり関係ないかな。ステージの上に立つかスキャンダルを起こさないと、人は基本的に他人に興味を示さないし」

「芸能界特有の価値観はやめてください。と言うか、まさにこれはスキャンダルの種だと思うのですが……」

「……でも昨日、部屋の中でも撫でてくれなかったよね?」

「……」

 

 それはその通りだ。と言うかどんだけ撫でてほしいんだよ、と少し狼狽える。

 

「……さ、どうぞ?」

「いやどうぞじゃなくて……ていうか帽子あるし」

「取れば良いでしょ」

「そうですけど……」

「一撫で、一撫でで良いから」

「わ、分かりましたよ……!」

 

 おのれスーパークリーク……! と、逆恨みをしながら、美琴の帽子を外して手を伸ばした時だ。

 

「冬優子ちゃーん! 美琴さんが男の人と手を繋いでるっすー!」

「「‼︎」」

 

 脱兎の如く……ついでなので、美琴と真逆の方向に逃げ出した。

 

 ×××

 

「いないじゃない。あの緋田美琴が男子高校生となんてあり得ないでしょ」

「ホントにいたっすよ〜」

「バカ幻覚見てないで、さっさと買い物終わらすわよまったく……」

「む〜……」

 

 ……と、いう会話を青葉は近くの布団コーナーから聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。おそらく……283事務所のアイドル、だろうか? なんにしても、今はもう少し動かないほうが良い。

 ホッとしたと同時に、少しだけ胸の奥が痛んだ。あの冬優子と呼ばれた人のセリフが反復する。

 

『男子高校生となんてあり得ないでしょ』

 

 やはり、あり得ないのだ。自分と美琴がそういう関係になる、なんて事は。そんなことはわかっていたはずなのに……なんでこう、胸が痛むのか。

 その上、なんかこう……所望されて仕方なさそうに撫でようとした時、思わず変にすんなり撫でようとしてしまった。もしかして……自分も美琴を撫でたがっているのかもしれない。昨日もなんか、ちょっと惜しい事した気になってしまっていたし……。

 

「っ……」

 

 まさか、姉の言う通り、本当に身の程も知らず美琴に恋をしたと言うのだろうか? そんなの……絶対に認めたくない。

 やはり、好かれずとも嫌われない距離感を保つしかない……と、思っている時だ。ふと手元が目に入った。……美琴の帽子が握られた手元が。

 

「ーっ……!」

 

 これは、美琴の帽子……つまり、美琴の頭についていたもの……と思うと、少し匂いを嗅ぎたくなる。

 だが、だめだ。抑えないと。そういう目で見ると、好きが加速してしまう。なんとか抑え、帽子を鞄にしまっ……。

 

「……ちょっとだけ」

 

 良い香りした、と思いながら鞄にしまい、またプレゼントを探しに行った。

 にしても、美琴には困ったものである。まさか、あそこまで撫でて欲しい欲望が高まっているとは……ほんとうに大人だろうか? ……いやむしろ大人になるまで親にあまり甘えて来なかったが故なのかもしれない。

 ……とはいえ、でもやはり自分が身の程知らずに思われるのは百歩譲って良いとしても、美琴が自分に撫でられる事で男子高校生をたぶらかしていると思われるのは我慢ならない。

 そう思う事にして、青葉はとりあえず無○良品の店に向かった。ここもマルチに色んなものが置いてある為、プレゼントを選ぶには良いかもしれない。

 

「よし……!」

 

 気合を入れて、再び商品を探しに行った。

 

 ×××

 

「あれ、にちかちゃんっす!」

「え?」

 

 店内を見て回っていたにちかは、ふと後ろから声をかけられた。顔を向けると、そこにいたのは芹沢あさひと黛冬優子。

 

「あ、あさひちゃんと……冬優子さん?」

「お疲れ様、にちかちゃん♡ どうしてここに?」

「ちょっと買い物に来てて。冬優子さんは?」

「私も似たようなものです」

「ねぇねぇ、にちかちゃん!」

 

 挨拶もない自由なあさひは、相変わらず好奇心旺盛な瞳で聞いて来た。

 

「美琴さんって、高校生くらいの人と恋人なんすか⁉︎」

「えっ?」

 

 何そのダイレクトアタックな質問。LP8000ワンパンで削られるまである。

 その横で、冬優子がやんわりした口調で告げた。

 

「ごめんね、にちかちゃん。変なこと聞いて。聞き流して良いからね?」

「どうして冬優子ちゃんは信じてくれないんすか⁉︎ 私は本当に見たっすよ!」

「えーっと……何を?」

 

 ニコニコしたまま聞いてみると、あさひはそのまま続けた。

 

「美琴さんが男子高校生くらいの男の子と手を繋いでたっす!」

「……どこで?」

「ちょうどその辺っす!」

「……」

 

 あのクソ野郎……と、にちかは額に青筋が浮かぶ。抜け駆けのつもりか、それとも……まさか、身の程知らずにそんな恋情を抱いていやがるのか。

 どちらにしても、許されない。

 

「ありがとう、あさひちゃん」

「何がっすか?」

「ちょっと金属バット買ってくる」

「え?」

 

 光の粒子となって消え去った。

 

 ×××

 

 さて、青葉は目的のお店に到着した。なんか、こう……手持ち無沙汰感がやばい。暇なのではなく、手元が。なんだろう、この感じ。さっき、撫でるのをお預けされたからだろうか? 

 いかん……なんか、自分も自分でかなり美琴の頭を撫でるのが楽しかった可能性出て来た。

 だめだダメだ。今は買い物中だ。それも、姉のために。

 そう。そんなことより、何にするか、だが……やはり実用面で考えるしかない。

 ここで一つ、思ったのは……飛行機に持って行けるもの、と言う事だ。つまり、金属は軒並みアウト。あの飽きっぽい姉のことだし、むしろ飛行機の中で時間を潰せるものが良いかもしれない。

 そんなわけで……。

 

「なんかのパズルとか良いかも……」

 

 こいつマジでバカである。

 これなら、頭の弱い姉なら解くのに時間掛かるだろうとか、暇つぶしにもなるとか、色々と利点を考えてしまった。

 でもこのお店にあるかな? ありそうではあるけど……なんて思いながら、青葉は店内を見ていると、普通に置いてあったし、なんならいくつかサンプルが置いてあり、それに夢中になっている子がいるのが見えた。

 

「おい、まだ解けねーのか?」

「う、うるさいな……! もう少し待ってよ」

「や、もういいだろ……さっさと買い物済ませねーと夏葉がダイエットの量倍にしちまうぞ」

「でも解きたいの! チョコアイドルがチョコのパズル解けないとか……!」

 

 背が低い女の子と、金髪の女子高生っぽい子が二人で板チョコのパズルを解いていた。ブロック状になっている板チョコの形状を利用して、いくつかの形に分けてピースにして、テトリスのようにピッタリ当てはめる奴。

 そんなに難しいパズルじゃないと思うんだけど……と、思いながら、後ろからその様子を覗き込む。

 

「あれ〜……な、なんで?」

「や、知らんけど。次のトライで出来なかったら置いていくからな」

「ええ〜……うう、樹里ちゃんが冷たい……」

「いいから早くしろよ!」

 

 ……厳しいお姉さんだな、ヒントくらいあげれば良いのに、と思ったので、しれっと後ろから声をかけてみた。

 

「それ、角から埋めると解きやすいよ」

「え?」

「ほら、真ん中とかと違って形決まってるから。そこに当てはまりそうな形を選んで入れて、そこから埋めてみ」

 

 言われるがまま、その女の子は角から埋める。少し小首を捻りながらもサクサクと埋めていき、そして……。

 

「あ、で、できた!」

「おお……やったじゃねえかチョコ!」

「あ、ありがとうございます!」

「気にしなくて良いよ。完成させたのは君だから」

 

 そう言いながら、ふと少女を見下ろす。そして、なんかちょうど良い位置にある頭と、あの人と同じ茶髪を重ねてしまい、思わず手が出た。

 

「よく頑張ったね」

「え……」

 

 つい、知らない子の頭を撫でてしまった。ポカンとする茶髪の子と金髪の人。遅れて、青葉も思わず「あっ」と声を漏らす。

 

「あっ、ご、ごめん! つい、いつも頭撫でてるもんだから手が……!」

「あ、いや気にしなくて良いけど……」

「なんだ、妹でもいんのか?」

「いや成人女性を……」

「「えっ」」

「だから、決してロリコンじゃないから通報しないで!」

 

 本気の弁明のつもりだった。しかし、むしろ弁明の方がイラつかせたようで。プハッと吹き出した金髪を捨て置いて、茶髪の方が憤慨した。

 

「だぁれがロリだー!」

「え?」

「私、17歳! ピチピチのJKだよ!」

「いやいや、その身長でそれは無理でしょ。そもそも17歳がサンプルのパズルに夢中になるかよ」

「ぐうの音も出ねえな、チョコ……ぷふっ」

「う、うううるさーい!」

 

 金髪にも怒る少女は、立ち上がると自身の胸を両手で掬い上げる。……ていうか、大きい。

 

「こんなに大きい小学生がいる⁉︎ こっちの子より大きいよ!」

「え、あ、ほ、ほんとだ……?」

「おいこら、不要な比較してんじゃねーよ!」

「じゃあ……え、ほんとに歳上だったの……?」

「「お前は年下かよ!」」

 

 ヤバいことをした。ただでさえ、この年頃の女の子は事あるごとにセクハラと言いたがる男女不平等主義者。ソースはにちか。

 そんな人の頭を撫でるなんて……事案になりかねない。

 

「すみませんでした訴えないで!」

「いや、まぁ訴えはしないけど……勘違いされてたみたいだし……」

「けど、気を付けろよな」

「はい! ……あの、ところで……逆にあなたは本当に高二なんですか?」

「ブッ殺すぞ!」

「し、失礼しました……!」

 

 怒られたので、お店から出た。なんかあのお店で買いづらくなってしまった。他のものにするか……と、すごすごと歩いていると、トントンと後ろから肩とたたかれる。

 ヤバい、怒るために追いかけて来たのかも……と、恐る恐る振り返ると、美琴が立っていた。真顔で。

 

「げっ」

「ふーん……私以外の子の頭は撫でてあげるんだ」

「あ……いや、今のは違……」

「……ふーん」

 

 まずい、と冷や汗が大量に流れた。そんなつもりじゃなかったのだが、まさかこんな事に……というか、自分で自分を理解した。なんだかんだ言って、自分も美琴の頭を撫でるのが嫌じゃなかったということなのは間違いない。

 だが、だからって……これ以上、美琴の可愛いところを感じたら、好きになってしまう……! 

 

「あの、みっちゃん……こ、ここじゃちょっと……ほら、さっきみたいに周りの視線とかあるし……」

「じゃあ来て」

「え?」

「ていうか、連れて行くけど」

「……えっ?」

 

 直後、グイッと肘を掴まれる。その握力はにちかと昔やった握力勝負など比にならない。メキッ☆ と、漫画のギャグパートなら確実に骨を折られている威力のものだった。

 それだけでは終わらない。美琴は、自分の方に青葉を引き寄せると、そのまま腰に手を当てて担ぎ上げた。

 

「ちょおっ、み、みっちゃん⁉︎」

「今度は逃さない」

「いやさっきの逃げたわけでもないし、人見てるし!」

「すぐ人目がつかない所に行くから」

「人目がつかないところで何する気⁉︎」

 

 本当にすぐそこへ行く。丸太のように担がれている上に美琴の背中側に上半身が来ているため、どこに向かっているのかはわからない。

 しかし……怖いのが、この通路……確か、トイレに行く通路じゃ……と、思っていると、何処かの扉の中に入った。

 その中の、一部……「開」と「閉」の文字が刻まれた赤と緑の押しボタン。つまり……多目的用トイレ。それを理解すると同時に、扉が閉められた。

 

「何する気ですかホントに⁉︎」

「他人の視界から消える」

「はっ……?」

 

 ポスっ、と降ろされた。確かにこれなら誰にも見られないが……いや、そもそもここはその為に使うものじゃない。

 

「はい、撫でて」

「いやいやいや……」

「……だめなの?」

「そもそもなんでそんな撫でられたがるんですか……?」

 

 ちょっとやりづらくてそんなことを聞くと、美琴は少し頬を赤らめたまま言った。

 

「……だって、昨日もさっきも結局、お預けされたし……それに、他の人は撫でられるし……」

「や、そうじゃなくて、一体何がみっちゃんをそうさせるんですか?」

「……」

 

 無言で黙り込む美琴。……が、やがて何かを思ったのか、ポツリポツリと言葉を漏らしはじめた。

 

「……癒されたかったの」

「え?」

「今まで……それこそ成人するまで、頑張って来たけど……たまにしんどくなる時があって……でも、青葉がいるだけで、とても頑張れるんだ」

「な、なんで俺?」

「…………お、お母さんみたい……だから……」

「……え、誰が?」

 

 思わずタメ口で聞いてしまった。この人、男子高校生を相手に何を言っているのか。

 聞くと、案の定な答えが真っ赤な顔と一緒に返ってくる。

 

「…………青葉が……」

「え、どの辺が?」

「温かい手料理も、撫で撫でが気持ち良いとこも、ダイエットでたまに必死になるところも、全部が……」

「最後の貶してますよねそれ」

「あ、でもにちかちゃんと喧嘩してる所は子供っぽいから……90%かな」

「いや細かい数値まで求めてないので」

 

 というか、なんだろう、そのとっても恥ずかしいカミングアウト。何を言われてるのかさっぱり分からない……反面、自分を癒しにしている、と言う気持ちは伝わって来た。

 まぁ、この様子だと手料理やら撫で撫でやら受けたのは最後に実家に帰った時なのだろうし、自分の名前を売るために騙し騙されることも多いのだろう。

 ……確かに、自分も多少、役得と思う事はあるものの、基本的には美琴の体調を心配していろいろ世話を焼いて来た。

 なのに……自分は、その美琴の支えとなっていた立場を自ら放棄しようとしていた。

 

「……はぁ」

 

 少しため息をついて呼吸を整える。そうだ、好きになるとかそんなもんは全部、自分の事情。報われないと分かっていながら片想いすれば良いだけのことだ。好きになったとしても、その気持ちを押し殺す……! 

 その上で、彼女の完璧なパフォーマンスのために全力で美琴を支えてやる……そのためには、なんでもする。

 そう強く決めて、美琴の頭に手を置いた。

 

「すみません、みっちゃん。なんか俺、ファンとしてどうあるべき、みたいな変なのに、必要以上に躍起になっていたみたいです」

「……うん」

「明日からは、またみっちゃんの為に何でもしますから。犯罪以外。……なので」

 

 そこで言葉を切ると同時に手を離す。少しだけ美琴が「え、もう終わり?」と言うように顔を上げた。

 その耳元に顔を近づけ、囁くように続けた。

 

「……続きはまた帰ってからで」

「っ……な、なんで……?」

「多目的トイレの独占はダメ」

「……ほ、本当に意地悪だな……」

「え、撫でてあげるのに……?」

 

 そのまま二人でトイレを出ると、にちかが扉の前を通った。

 

「う〜……バカ殺す前にトイレ……は?」

「あ」

「おおう、もう……」

 

 今日何なの? と、青葉の中で「厄日」という言葉の意味をしみじみと実感させられた。

 

 ×××

 

「冬優子ちゃーん、まだ信じてくれないっすかー?」

「まだ言ってるわけ? しつこいのよ」

 

 黛冬優子と芹沢あさひは、二人で列に並んでいた。買い物を終えた時点でなんか抽選券をもらったので、回してから帰る所だ。

 

「本当に美琴さんがいたっすよー。しかも、男子高校生くらいの人と手を繋いで」

「だいたい、ふゆくらいの年齢ならともかく、24歳の女性が男子高校生なんてナンパしてたら、それもう犯罪よ? そんなリスキーな行為、事務所では一番、新入りでも芸歴は一番長い人がするわけがないでしょ」

「ナンパ……って感じじゃなかったと思うっすけど……」

 

 少なくとも、あさひの目には仲良い……というより、何かお願いしてるように見えた。

 あの高校生とどんな関係なのか気になる所だが……まぁ、後で聞けば良いだろう。

 そんな風に思っていると、いよいよ二人が福引を回す番。一等は、泊まりの温泉旅行、二等でさえレジャー施設の無料券だ。

 冬優子としては、温泉旅行でたまにはゆっくりお湯に浸かりたいくらいだが……まぁ、あさひが一緒だとそうも行かないのだろう。というか、そもそもあげるつもりだし、どっちでも良い。

 

「あさひ、引いて良いわよ」

「良いんすか?」

「どうぞ」

 

 まぁ、そもそも当たるなんて思っていない。なんなら、スポーツドリンク二本とかで分け合うんでも全然……なんて思いながらスマホをいじっている時だった。

 やたらと耳に響く、カランカランというベルの音が耳に響いた。

 

「大当たり〜! しかも、一等と二等同時! ……勘弁してよ。おめでとう、お嬢ちゃん!」

「どうもっすー!」

「……どんだけよ、あんた……」

 

 ホントわけわからない子だった。なんなら少し怖いまである。

 そのまま列を外れて、とりあえずチケットを見てみる。両方とも人数は1〜4人まで利用可能。期限は両方とも9月中旬まで。温泉は一泊二日らしい。

 ……ただ、既に八月中旬。両方ともスケジュールに捩じ込むのは無理だ。

 

「いやー、あるんすね。こんな事」

「全くね。……で、どっちにするの?」

「え?」

「両方は無理よ。あんたが家族と行くのか友達と行くのか知らないけど、スケジュール的に……」

「? 冬優子ちゃんと当てたんだから、冬優子ちゃんと行くっすよ?」

「っ……」

 

 こいつはホントいつの時代の無自覚イケメン系主人公になったのか。耐性がなかったらどんな女の子でも落とせそうだ。

 

「……勝手に決めないでくれる?」

「そうっすね! 愛依ちゃんも誘わないとっすから!」

「……」

 

 誰と一緒に当てたか、とかは関係ないようだ。それはそれで恥ずかしいが。

 

「……ていうか、ふゆ達と行くなら、なおさら無理よ。両方は」

「えー、じゃあ冬優子ちゃん決めて下さいっす」

「え……なんでよ」

「私が引いたからっす!」

 

 よく分からないが……どうしたものか、と冬優子は悩む。……どちらの方が自分の負担が少なくて済むか、だが……一見、プールの方が大変そうではあるが、一泊二日の温泉の方が……。

 ……それに、まぁ……あさひと愛依なら温泉でゆっくりするよりプールではしゃぐ方が楽しめるんじゃないか? と、いうのも10%くらいあって。

 

「じゃ、プールで」

「良いんすか⁉︎」

「ん」

 

 さて、これから休める日はとことん休もうと決めつつ、問題は余りのチケットだ。

 

「じゃあ、こっちどうする?」

「うーん……あっ、じゃあ私もらって良いっすか⁉︎」

「良いけど……何に使うのよ」

「これで美琴さんから男子高校生の正体を教えてもらうっす!」

「……ま、勝手にしたら?」

 

 正直、まだ信じられていない冬優子は、スルーしておいた。後日、謝り倒したのは別の話。

 

 

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