にちかに美琴様だけは絶対に渡さん。   作:バナハロ

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文面のみでは誤解を生むので、SNSでの喧嘩は不毛。

「えっ、お姉ちゃん無理?」

「当たり前でしょー? 私とにちかが泊まりで出かけちゃったら、誰が他の姉妹の面倒見るのー?」

 

 まさかのお断りを受けてしまった。というか、そんなことを言われたらにちかもちょっと遠慮したくなってしまう。

 自分だけ楽しむ、というのは少し申し訳ない……のだが、それを見越したようにはづきは言った。

 

「私達のことは気にしなくて良いから、楽しんで来なー?」

「え、でも……」

「良いからー」

 

 ……そこまで言うなら仕方ないのかもしれない……せめて、お土産はたくさん買ってこようと心に決めて、改めて考え込んだ。

 

「でも……じゃあ後1人行けるんだけど、どうしよう……」

「プロデューサーさんはー?」

「えー……なんで?」

「アオちゃん、男の子でしょー? 今は何も言ってないけど、女の子三人と男の子一人が続くと、少しいづらさを感じちゃうんじゃないのー?」

 

 その可能性はあるかもしれない……が、逆に「あの青葉だよ?」とも思う。

 

「いやいやー、あの美琴さん以外の異性はみんな女と思ってない男だよ? それはないってー」

「じゃあ……例えば、この事務所でいえば、千雪とか夏葉さんとか……あと、冬優子さんとかに会ったら?」

「……まぁ、上がるかも?」

 

 性癖が小学生と同じなだけある。年上のお姉さんが大好きな青葉らしい。

 

「そういう事。それに、プロデューサーさんも青葉に会いたがってそうでしょー?」

「……まぁ」

 

 たまに聞いてくる。青葉のことについて色々と。その度、適当な返事をしていたが……でも、自分がプライベートな旅行でプロデューサーとお出掛けか〜……と抵抗がないわけでもなかった。

 

「じゃあ……一応、美琴さんと青葉に聞いてみるね」

「もちろん、それは大事だよー?」

 

 話しながら、とりあえずレッスンの時間まで待機した。

 

 ×××

 

「と、いうわけなんですけど……良いですか?」

 

 レッスンが終わり、美琴の部屋。話をするついでに食事を食べて良いとのことなので、みんなで青葉特製お好み焼きを食べていた。

 

「俺は良いけど……みっちゃんは?」

「私も構わないよ」

「えー……まぁ、二人が良いなら?」

 

 ……残念ながら、二人とも断るつもりはないようだ。

 

「俺も、プロデューサーさんには挨拶しておきたいと思ってたんだよね。うちの子がお世話になってるし」

「おかんか、あんたは」

「青葉……あまりプロデューサーに恥ずかしいこと言わないでね?」

「美琴さんも娘ですか?」

 

 なんか二人の関係が自分の知らないうちに遠くへ飛んで行ってしまっている気がする。

 

「じゃあ、プロデューサーさん呼びますね」

「青葉はプロデューサーになんで会いたいの?」

「そりゃ……まぁ、俺がみっちゃんの面倒を見れるのは、家の中だけですから。現場ではよろしくお願いしないといけませんから」

「それが恥ずかしいんだけどな……生活リズムのことは言わないでね?」

「嘘はつけませんから」

「ねぇ、言わないでね?」

「……」

 

 なんだろう、この二人は。夏休みに入ってから、何か加速している気がしてならない。

 

「……」

 

 ……羨ましい。そのやり取り。なんか……腹立つ……美琴とイチャイチャしやがって……。

 

「青葉、ソースかける?」

「ん? ああ、頼むわ」

「はい」

 

 直後、トローリと垂らされた。茶色の山が。

 

「テメェ、かけすぎだろうが⁉︎」

「ごめーん、力入れ過ぎちゃった。雑魚……青葉と違って握力あるから」

「今なんて言い間違えた? なんて言いかけたコラ⁉︎」

「かけてもらって何文句言ってんの?」

「テメェから言い出した事だろうが⁉︎」

 

 ふんがー! と憤慨する馬鹿を捨て置いて、隣の席の美琴に声を掛けた。

 

「美琴さん、マヨネーズいりますか?」

「かけ過ぎない? 大丈夫?」

「大丈夫です。ナメク……青葉にはわざとやったので」

「テメェわざとかよ⁉︎」

 

 話しながら、ちゃんと美琴には程良い量のマヨネーズを掛けた。

 

「はい」

「ありがとう」

「いえいえ! なんでもあのソースくらいで発狂するタコ助より、私を頼って下さい!」

「お前ほんと殺すからな!」

 

 喧しい。バカのくせに。……とにかく、腹が立つ。美琴が青葉に取られそうで。

 なので、ひとまず青葉に嫌がらせしつつ、話を進めることにした。

 

「……で、まぁプロデューサーも一緒で良いというのなら、明日改めて話しておきますね」

「うん。よろしくね、にちかちゃん」

「はい! 任せて下さい!」

「……ちっ、調子乗んなよ。ウンコカス」

「青葉、食事中」

「うっ……す、すみません……」

 

 ……ふっ、ザマーミロとほくそ笑む。食事中にウ○コは普通にない。

 

「まったく……やっぱり青葉もまだまだ子供だね。温泉じゃ、私がちゃんと面倒見ないと」

「いや、みっちゃんこそ旅先だからって変に油断しないでくださいよ」

「しないよ。というか、出かけた時に気が抜けるのは私より青葉の方でしょ? にちかちゃんとセットだと特に」

「うぐっ……ひ、否定出来ねえ……」

 

 と、なんかいつの間にか自分がまた置いてけぼりにされていた。

 これは……もはやプロデューサーの手を借りてでも二人の仲を引き裂くことも考えないといけない……なんて考えていると、青葉が席を立った。

 

「すみません、お手洗い行ってきます」

「うん。廊下出てすぐ……」

「いや、自分の部屋まで戻ります」

「えっ」

 

 どうせ、青葉のことだから美琴が普段使っている所は使えないとかそんなとこだろう。

 まぁ、いなくなる時間が伸びるのはありがたい。いなくなった隙に、にちかは美琴に聞いた。

 

「ところで、美琴さん」

「何?」

「……青葉と、何かありました?」

「えっ……ど、どうして?」

 

 あれ、今狼狽えたように見えたのは気の所為? いつも冷静沈着でクールな美琴が? 

 しかし、気の所為だったのか、すぐにいつもの様子に戻った美琴が小首を傾げた。

 

「何もないよ。どうして?」

「いや……なんか、前より仲良くなってるなーって……」

「まぁ……少しは仲良くなるかもね。毎日、顔合わせてるし」

「……」

 

 それは……まぁその通りなのかもしれないが。……羨まずるい。

 

「そうだ、にちかちゃん。それより、水着買いに行くのは明日で良いの?」

「あ、はい。明日でお願いします」

 

 明日、二人で水着を見に行く。普通に楽しみだ。少なくとも、バカッタレ青葉よりは早く美琴の水着が見られるわけだから。

 

「ふふ……良い奴、選ぼうね」

「は、はい……!」

 

 美琴に水着を見てもらえるのだ。気合を入れないわけがない……のだが、美琴が若干、頬を赤らめているのが気になる。……この人は、誰に見せるために水着を選ぶのだろうか? 

 

 ×××

 

 さて、翌日。二人は待ち合わせ場所に集合し、そのまま水着を買いに行った。

 のんびりと歩いてお店に向かう。お店は美琴が選んだお店だ。仕事関係で良いと思ったお店を知っていたので、そこにしたらしい。

 

「どんなお店なんですか?」

「んー……ちょっと、大人向けかも」

「えっ……そ、それって……アダルトって事ですか⁉︎」

「え、そうだけどなんで英語で言い直したの?」

「……」

 

 そういう意味じゃない、でも大人向けと言われてそっちの意味を想像してしまった自分が憎かった。

 顔を真っ赤にして辱めを噛み締めている間に、サクサクと美琴が進んでしまったため、慌てて後を追う。

 大人向けと言われたので露出度が高いものが多いのかと思ったが、実際はそうでもない。ワンピースタイプのものや、パレオなど布地を増やしているものも多い。

 まぁ、考えてみれば美琴は別に露出度が高いものが好みとか、誘惑したくなる異性がいるわけではないはずなので、そんなに男を挑発するよう且つにちかが心配になるような水着は着ないだろう。

 

「……ふぅ」

 

 なんか……ほっとしたようなため息が漏れてしまった。

 さて、そんな中、美琴がまず見に行ったのは……露出度が高い派手な色のビキニだった。

 

「ちょっ、ま、待った〜〜〜!」

「えっ、な、何?」

「そ、そそそそんな派手な水着を着るおつもりですか⁉︎ ダメダメダメですよ!」

「どうして?」

「どうしてって……それは、まぁ……ちょっと、露出多いですし……派手ですし……」

 

 というか、そんな純粋な目で聞いてきて欲しくなかった。この人、割と隙大きい人なのでは? と、心配になる程。

 いや正直、にちかとしては見てみたいが、それ以上に他の男……というか、バカとプロデューサーにそれを見られるのが嫌だ。

 

「……やっぱりそっか……少し、派手だよね。大人と言っても、別のお店みたいになっちゃう」

「は、はい! とにかく、それはちょっと……」

「じゃあ、こっちかな?」

 

 そう言いながら美琴が手に取ったのは、地味な黒……の代わりに、布地がさっきより少ない。……というか、そもそも水着において黒は地味じゃない。

 

「あの、それも……」

「ダメ?」

「というか、その……ビキニが良いんですか?」

 

 ビキニでも露出度控えめとかはあるが、やはり基本的にはお腹や背中が大きく空くものが多い。……そして、美琴の魅力は胸だけでなく、その曲線美。女性でさえ惚れ惚れする完璧な凹凸を局部だけ布で覆い、自慢できる部位をきっちり出したりなんてしたら……ていうか、単純に青葉は死ぬのでは? 

 それが分かっていないのか、美琴はにちかの質問に少しだけ頬を赤らめる。

 

「……うん。何となくむっつりすけべなのは分かってるから、喜んでもらいたいし……」

「……どっちに?」

「え、どっちって? ……ああ、どっちだろうね?」

「……」

 

 つまり、どっちかということか、とすぐに理解する。……どっちでも罪は重いが、マズイのは青葉の方だ。まぁ、まさか青葉ってことはないだろう。ガキと大人だし。

 ……とはいえ、少し探りを入れてみることにした。

 

「ちなみに、青葉はむっつりじゃありませんよ。美琴さん以外にはオープンですけべです」

「へぇ……そうなんだ。じゃあ……どんな水着でも大丈夫そうだね……」

「……」

 

 ……はい、ギルティ。いっそ暗殺でもした方が身のためかも……なんて思ってしまった時だ。

 

「……いや、でもせっかく見せるなら喜んでもらいたいし……やっぱり、ちゃんと選ぼう」

「……」

 

 ……いや、まぁあの馬鹿と決まったわけじゃないし、何よりこんな風に楽しみにしている美琴の邪魔は出来ない。

 でも……ちょっと青葉なんかのために協力は出来ないので、嫌がらせも兼ねて聞いてみることにした。

 

「……本人に聞いてみたらどうですか?」

「え……本人って、どうやって?」

「私が写真撮りますから、それを送ってです」

「……なるほど」

 

 なんで「アリかも……」みたいな顔をしているのかはわからないが、とにかく写真を送ることになった。

 

 ×××

 

「……うーん、温泉かぁ……ここ、割と色々あんだな」

 

 青葉は本屋から買ってきた旅行雑誌を手に取り、周りにどんなものがあるか調べ始めた。

 スマホで調べれば良くない? というのはアホな意見である。スマホに載っている旅行の記事がダメ、というわけではない。ただ、結局の所、あれは無料で見れるもの。ビジネスとして書いたものに敵うはずがない。

 レビューサイトは論外。サクラとアンチとバカしかいないから。

 つまり、良い情報を得るには、やはり金を払うことが重要だ。

 そんなわけで、パラパラと雑誌をめくっていると、スマホが震えた。美琴からだ。

 

「? みっちゃん?」

 

 なんかもう普通に「みっちゃん」と呼ぶのが当たり前になってきていたが、とにかく中身を見た。

 そこに映っていた美琴は、真っ赤な水着に身を包んだ自分が映った鏡を撮っている姿だった。

 

「ゴッファア……!」

 

 吐血して後ろにひっくり返った。まさかである。急に不意打ち。というか、なんだその派手な水着は。けしからんこの野郎、と頭が真っ赤になる。

 いや、大丈夫。まだ致命傷だ。このくらいなら耐えられる。強引に体に鞭打って、ひっくり返ったのを起こす。

 

 みっちゃん『どう?』

 

 その美琴から、さらに一通のチェインが届いていた。どう? じゃねーよ、まず脈絡を説明しろ、と思わないでもなかったが、青葉は堪えて感想を言う。

 少し派手に見えないわけでもないが……でも、よく似合っている。エロくて。何がエロいって、たまによくTwitterに流れてくる自撮り系エロ画像のようで。なので、とりあえず褒めておくことにした。

 

 一宮千手観音『お似合いだと思います』

 みっちゃん『ありがとう』

 

 お礼を聞きながら、青葉はとりあえずスマホを遠ざける。残念ながら、ちょっと今のは刺激が強過ぎた。というか、今更だけどアイドルのプライベートな水着写真なんて持っていて、自分は大丈夫なのだろうか? 

 何にしても……とりあえず、保存して家を出た。向かう先は写真屋だ。

 

 ×××

 

 一方、その頃。とりあえず、一枚目に選んだ水着を着てもらって写真を撮ってみたが、青葉からは端的に「お似合いだと思います」しか来ていなかった。

 ちなみにもう着替えを終えて、私服のまま別の水着を選んでいる。

 

「……派手だと思われてないのかな。止められると思ったんだけど……」

 

 そう呟きつつチェインの画面を見ていると、少し気恥ずかしくなってきた。何故だろうか? 水着とかの撮影くらい何度もしているのに、青葉に見せるのはちょっとだけ恥ずかしかったり……。

 ……というか、青葉の部屋には似たような写真やポスターが貼られているのだろうか? そう思うと、なんかちょっと……うん。恥ずかしい。

 

「……ま、いいや」

 

 呟きながら、美琴は新たな水着を選ぶ。どんなものが良いだろうか? せっかくなら、バリエーションを揃えたい。

 そう思っていると、水着を選ぶにちかの姿が見えた。そのにちかは、ジーンズっぽい短パンの水着を見ている。

 ……そうか、ボーイッシュ……と、美琴は頷く。

 

「……よし」

 

 とりあえず、それを着てみることにした。

 

 ×××

 

 外は炎天下、従って青葉が外を歩くときは日傘が必須だったが、今年はなくても出歩ける。もしかしたら、早朝ランニングの成果かもしれない。

 ……とはいえ、暑いものは暑いので、帽子をかぶってはいるのだが。本当に引きこもりにはキツい季節である。

 とりあえず、もう少しでカメラのキ○ムラが内設されているスーパーに着く。……という所で、またスマホが震えた。

 また美琴からの写真である。……黒い布面積はさっきより多い胸を隠す水着に、下半身はジーンズ生地の短パンのような水着。その短パンの隙間からも、黒いパンツのような水着が見えている。

 ……つまり、えっちだ。

 

「ごっふぁっ……!」

 

 太ももが露出されている上に、ボーイッシュな水着がよく似合ううっすらと割れた腹筋が、謎のえっちさを醸し出し、終いにはその上の巨乳とクールな顔立ち……思わず鼻血が出そうになった。

 というか、なんなのだろうか? さっきから。もしかして、何か試されてる? 

 保存しながら、それを聞こうとしたが、美琴からまたすぐメッセージが飛んできた。

 

 みっちゃん『どう?』

 

 いや、だからホント「どう?」じゃなくて……なのだが、まぁとりあえず感想は述べておく。

 

 一宮千手観音『お似合いだと思います』

 

 とりあえず、涙が出そうなほど似合っていたので誉めておいた。

 

 ×××

 

「……」

 

 全く同じ文面が送られてきて、美琴は少しだけむすっとする。この子、適当に言っていないだろうか? 

 そんな風に思いながら試着室から出ると、にちかが試着室の列に並んでいるのが見えた。

 

「にちかちゃん、それにするの?」

「あ、はい。これなら私でも似合うかなと思って」

 

 そう言うにちかの手元にある水着は、オレンジ色の水玉のビキニ。年相応の可愛らしい水着をチョイスしていた。

 

「うん。似合うと思うよ」

「ほ、ほんとですか⁉︎」

「もちろん。見てあげるから、着てみたら?」

「は、はい……!」

 

 本当に可愛いユニットメンバーだ。素直だし、元気だし、まだまだアイドルとしては未熟だけど、一生懸命だから。

 そんな事を思いながら、しばらく待機。すると、すぐにカーテンが開かれた。そして、上から薄いパーカーを羽織っている。

 

「ど、どうですか……?」

「うん。なんか、とても似合ってると思うよ。……そのUVカット……かな? のパーカーも良いね」

「は、はい……!」

 

 超嬉しそう。やはり、高校生って可愛い。283事務所の子とか見ていると特に思うが、まだまだみんな純粋なものだ。

 なんて思いながらも、あのパーカーもありかも……なんて思ってみたり。肌の面積は減るが、肌が透けて見えるほど薄い生地のものなら、少しは意識してくれるだろうし……何より、疲れた彼の身体にパーカーを被せてあげられれば、少しは年上っぽく振る舞えるだろう。

 

「……じゃあ、後はパーカーに似合う水着を探さないと……」

「え、へ、変ですか? 私の……」

「あ、ううん。にちかちゃんじゃなくて、私。パーカー良いなぁって思って」

「つ、つまり……ペアルックですか⁉︎」

「え? あーうん」

 

 適当な返事をすると、にちかが「やったー、これにしよーっと!」と元気にカーテンを閉めて元気に着替えを始めたので、美琴は自分の水着を選びに戻った。

 

 ×××

 

 写真の現像のために、青葉はUSBにスマホを繋ぎ、パソコンを操作する。現像したい写真を選ぶのだ。

 その途中だった。その青葉のスマホが再び、震える。言うまでもなく、美琴からだ。

 ちょっと……見るのが怖かったりするのだが……大丈夫だろうか? 店内……それもパソコンの操作中に吐血でも鼻血でもして掛かったら、賠償金がいくらになるか。

 でも、美琴からの連絡を未読無視は出来ないので、すぐに見てみると……。

 

「おぉう、もう……」

 

 純白のビキニの上に、生地が薄く肌が見えるように透けている白のパーカー、そしてその下の下半身に垂らされた、白のパレオ……今までで一番、肌面積が少ないのに、今までで一番、エッチに見えるのは気の所為だろうか? 

 だが、それでも不思議と性的興奮が起こらないのは、美琴という女性の清楚さに拍車をかけている白い水着のおかげだろう。

 まるで真夏なのに雪の妖精とも呼べるそれを見て、青葉は……喀血するのを必死に飲み込んだ。なんだこの美しさは。奇跡か? 

 

 みっちゃん『どう?』

 

 や、ほんと申し訳ないけど「どう?」じゃない。本当に斬新な暗殺方法である。

 なんとなく水着を選んでいる、というのは分かったが、やはり死にそうになって来てしまう。というか、むしろ殺しに来てる? と思うほどだ。

 今の感想を全部伝えたいが……水着を選んでいる時に長文なんて送っても仕方ない。端的に感想を伝えよう。

 

 一宮千手観音『お似合いだと思います』

 

 とりあえず、現像する写真を一枚追加して、送っておいた。

 心を落ち着かせるために、目を閉じて深呼吸。今日だけで、美琴の水着姿のバリエーションが三つ……少し刺激が強すぎるし、なんなら幸福すぎてこのあと、死ぬのでは? なんて変な勘ぐりを入れてしまいそうになる。

 

 みっちゃん『もういい。当日、覚悟してね』

 

 ×××

 

 一宮千手観音『お似合いだと思います』

 

「……」

 

 ……気にいらない。本当に気に入らない。適当というか、淡白というか……一体、誰のために選んでいると思っているのか。もしかして、近くなり過ぎてアイドルの水着とはいえそんな大袈裟に喜ばなくなったのだろうか? 

 ちょっと腹が立ったので、皮肉めいた返事を送って水着を選び始めた。彼のリアクションを見てから決めるのには、当日になって水着の自分を見てまた大量の出血を起こさないように……という狙いもあったのだが、そっちがその気ならもう知らない。

 黙って美琴は水着を選び始めた。

 

「美琴さん、美琴さん!」

 

 何も知らないにちかが、ニコニコした様子で駆け寄ってくる。

 

「美琴さんに似合いそうな水着、ありました!」

 

 本当は協力するつもりなんてなかったはずのにちかだが、自分の水着を褒められたこともあって完全にそれを忘れ、美琴に協力していた。

 

「ありがとう」

「い、いえいえ……」

 

 お礼を言うと、にちかは嬉しそうに頬を赤らめてはにかんだ。可愛い。

 さて、その持ってきてくれた水着だが……上下で色が違うタイプの水着だった。胸を隠すビキニは白で、後ろで結ぶ紐のみ緑、下半身は南国の葉を想起させる黒とグレーの変わった柄で、紐は同じように緑の水着だった。

 地味でもなければ派手でもない、綺麗な水着。そして極め付けは、半透明のグレーのパーカーもセットだったことだ。

 

「……良いかも」

「で、ですよね⁉︎ ……えへへ」

「着てみたい。借りるね」

「どうぞどうぞ。……よっしゃ。美琴さんとペアルック、ザマミロ青葉」

 

 後半、何を言っているのか聞こえなかったが、とにかく試着しに行った。とりあえず、私に塩対応をしたことを後悔しろ、なんて頭の中で思いながら、美琴は試着室に入った。

 

 ×××

 

「はぁ……」

 

 美琴に未読無視されてしまった青葉は、放心気味にスーパーで夕食の食材選びを終えて帰宅していた。

 なんか……もう生きる望みはない。長ったらしい感想を言った方が良かった、ということだろうか? いや、しかし直球で「えっちですね」なんて言えるはずがない……。

 でも……こんな風になるなら、言うだけ言ってみても良かったのかも……と、思いながら時計を見た。もう夕方。美琴は出掛けるから昼いらないと言って出て行ったが、夜はどうするのだろうか? 

 まぁ、一応その時に備えて帰っておこうかな……と、決めて、マンションには戻る。

 エレベーターで上がりながら、青葉はポケットの薄い紙袋を開いた。中には、美琴の写真が三枚入っている。

 

「……」

 

 ……うん、やっぱりファンなら思ったことを全部、言えば良かった。

 そんな風に後悔していると、エレベーターが到着した。そして、その前で美琴が待っていた。

 

「あれ、青葉……」

「っ……!」

 

 慌てて、手に持っていた写真を背中に隠す。大丈夫、ドアが開く前に隠したから見られていないはず。

 

「何処に行ってたの?」

「い、いえ……まぁちょっと散歩に……」

「ふーん……まぁ良いけど」

「……」

 

 少し気まずい……けど、こういうのは自分からだ。エレベーターを降りながら、美琴に声を掛けた。

 

「あ、あのっ……み、水着ほんとにお似合いでした!」

「……ふーん。まぁ、なんでも良いけど」

「うっ……」

 

 今更言っても遅かったようだ……というか、言葉をまとめてから言うべきだったか。こんな言葉、美琴は言われ慣れている。

 

「す……すいません……」

「別に、怒ってない。アイドルが身近にい過ぎて褒め言葉が淡白になられても、気にするほど子供じゃないし」

 

 めっちゃ気にしてるやん、というかやっぱり言うべきだった奴だこれ、と後悔する。

 

「いや、その……実を言うと、別にそんな隠したわけじゃ……」

「ていうか、今何隠したの?」

「……えっ?」

 

 ヤバっ、と青葉は狼狽える。隠したとこ見ていたか……いや、大丈夫。落ち着けば誤魔化せる……なんて思っている間に、美琴はエレベーターに乗り込んで来て、距離を詰めてくる。青葉は後退りし、背中を壁に強打した。

 

「ほ、ほんとに似合ってると思ったんです! 一枚目は少し派手とは思いましたが、みっちゃんの抜群のスタイルが前面に出てて……」

「いや、誤魔化されないから。見せて、それ」

「二枚目は、みっちゃんならではのクールさと活発さを活かしたボーイッシュな新しいイメージは俺の中でみっちゃんの新しい可能性を模索させ……」

「っ……い、良いから。だから誤魔化されないから」

 

 言いながら、美琴に手首を掴まれる。何故、誤魔化されないのか。やはり、アイドルに褒め殺しは無謀か……! 

 

「ちょっ、ほ、ホントこれはダメです! 勘弁して下さい……!」

「やだ」

「分かった、今日の晩御飯、なんでも作るから! 例えそれが人肉ハンバーグだとしても!」

「食べないしそんなの」

「か、カクテルも作ります! 飲めないならノンアルでも!」

「うるさ、い!」

「あぅ……!」

 

 強引に手を上に上げられ、手元から紙袋が舞い、中から写真がヒラヒラと舞い落ちる。

 

「? 何これ、写真?」

「……」

 

 拾った美琴が写真を見た直後、青葉は凍りついた。……流石にキモがられるかも、と……。

 

「い、いやあの……それは、違くて……」

「……」

「そ、そう! ファンとして、誰も持っていないみっちゃんグッズが欲しかったと言うか……決してストーカー的なアレではなくてですね……」

「……」

「そ、そう! 本当に似合ってたからつい形あるものにしておきたくて! だから、コレクションです、コレクション!」

「……」

 

 美琴はプルプルと肩を震わせている。流石にドン引きされたか……と、人生を諦めながらため息をついたときだ。

 

「…………目は?」

「え?」

「……三着目は?」

「……」

 

 写真を持ったままそう尋ねてくる美琴の顔は、真っ赤だった。意外にも。何故か青葉にとっては分かっていなかったが、美琴にしてみれば、さっきまでの誤魔化すようにほざいていた言い訳が全て本音である事、そしてそれだけの長文をあの短文にこめていた、という風に理解してしまった。実際、本音だし。

 流石の青葉も「あれ? これもしかして照れてる?」と思ってしまった。だが、許される……というか、そもそも勘違いだった事を解くチャンスだ。

 

「みっちゃんの清楚さ、清潔さ、そして清さの全てを色気と共にプレゼンした超時空シンデレラ。まるで天使がたまの休みに下界の海でバカンスを楽しむかのような装いでした」

「……そ、そっか……ちょっと表現が気持ち悪いな……」

 

 あ、今度は引かれた、と軽く死にたくなる中、美琴は少し頬が赤くなったまま青葉に顔を向けた。

 

「ごめんね。青葉、ちょっと態度、悪かったね」

「い、いえ……別に、気にしていませんよ。あの、それより……引いてませんか?」

「え、ああ……あのポエム?」

「褒め言葉のつもりだったんですが⁉︎」

「ふふ、冗談。……引いてなんかないよ。嬉しかった。……流石、私のこと大好きなだけあるね?」

「ぴょえっ⁉︎」

 

 なんでダメ元で恋してるの知ってんのー⁉︎ と思ったのも束の間、すぐに美琴はキョトンと小首を傾げて言う。

 

「あれ、違った? それとも、ファン辞めちゃった?」

「あ、あ〜……そ、そんな事は、東京ドームがある日突然、巨大メロンパンになるのと同じくらいありえないので……」

「くすっ……何それ?」

 

 そういう意味か、とほっと胸を撫で下ろす。バレてたら困る。

 その青葉の前で、美琴は写真を青葉に手渡して返した。

 

「はい」

「あ、ありがとうございます……」

「……でも、当日の水着はこれよりもっとすごいから……気をつけてね?」

「っ……は、はひ……」

 

 この天然タラシ……と、思っていると、美琴はエレベーターのボタンを押し、一階を選んだ。

 

「あ、そういえば何処行くんですか?」

「部屋ににちかちゃんがいるから、お菓子買ってこようと思って」

「じゃあ、うちにあるの食べます?」

「……良いの?」

「はい」

「じゃあ……みんなで食べよっか」

 

 そんなわけでお菓子パーティーが始まり、写真の現像がにちかにもばれて揉めた。

 

 

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