にちかに美琴様だけは絶対に渡さん。   作:バナハロ

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オカン系でも男の子。

 夏休みも残り僅か。その上、美琴の休日はもっと僅か。なので、空いている日は可能な限り一緒にいたいという美琴の案で、今日明日の休日は遊びに行く上になるべくなら一緒にいることにした。

 ……で、睡眠中は、なんか当たり前のように同じ部屋で寝ていた。いや、同じ部屋で寝るならまだしも……。

 

「すぅ、すぅ……」

「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。……」

 

 せっかく別の布団で寝ているのに、美琴は転がって自分の背中にしがみつき、抱き枕にして来ている。お陰で煩悩を打ち払うのに平家物語を詠唱しないといけないレベルだ。

 

「んみゅっ……あお、ば……」

 

 本当にやばい。何がやばいって、感触と吐息である。もう、憧れのアイドルの全身を全身で感じさせられている。

 ……いや、アイドルではない。もう彼女なのだ。八つも上の。だから、別に少しエッチな目で見るのも悪くな……! 

 

「や、ダメダメダメダメ!」

 

 ダメだ、おっぱいガン見は! と、自身を律する。ちょっと気になって触って揉んで堪能したいと思うのは自由だが、それを行動でしてしまうのは違……。

 

「あおば……朝ご飯、巨大マシュマロ二個で……」

「ああああああ!」

 

 押し付けられる。この人わざとやってるんじゃないだろうな、という感じだ。ダメだ、揉みたい。ちょっと……ちょっとだけ……なんて思いながら、青葉は身体をモゾモゾと動かす……が、身体をガッチリとホールドされていて動けない。

 

「……あ、ていうか、おしっこしたい……」

 

 ヤバい、トイレどうしよう、と冷や汗をかく。何せ、腕力では勝てないから抜けられない。

 

「み、みっちゃん起きて! トイレ行きたい!」

「ん〜……」

「あれ、すんなり……」

 

 この人、もしかして……と、少しジト目になったが、漏れてしまう。後回しにして用を済ませた。

 さて、改めて寝室に戻り、扉の隙間から中を覗くと、やはり美琴は起きていた。しかも、さっきまで青葉が寝ていた場所に身体を移している。

 

「んん……青葉の、残り香……」

「……」

 

 ……もしかして、あれが素の美琴なのだろうか? いや、と言うよりも……なんか、自分が彼女を壊してしまったような気がしないでも無いが……。

 何にしても……この野郎、起きて人のことからかってやがった、というのはすぐに分かった。

 

「……」

 

 あれが、自分の初彼女……と、普通の人にとっては歴史的快挙のはずなのに、なんだろう……なんか、自分も美琴も普通のカップルにはなれない気がしてきた。

 けど、まぁもうそれでも良い。とりあえず、声をかけることにした。

 

「何してんの?」

「っ」

「いや分かるけど。起きてたんでしょ」

「……っ」

 

 あ、顔赤くなった、と青葉は少しほっこりする。

 

「逆セクハラだよそれ。別に良いけど」

「うっ……わ、わざわざ言わなくても……」

「じゃ、着替えて来るから。マラソンの準備しててね」

「う、うん……」

 

 照れた様子で頷く美琴。……まぁ、やられた分はやり返してやらんと。なんて思いながら、マラソンの準備を始めた。

 

 ×××

 

 しかし、と青葉は困ったようなため息を漏らす。恋人関係になってからと言うものの、本格的に緋田美琴という女性の方がわかってきた気がする……と、

 マラソンを終えて、自分の部屋でシャワーを浴びながらつくづく思った。

 まあ、別に悪い人じゃないし、何なら良い人だ。だから自分は好きになった。憧れ、と言う点を抜きにしても、可愛いとこあるし、ダメなとこがあっても年上っぽくないわけでもない。

 ……だが、やはりダラシない所の中には男として困るところも多くあるわけで。

 とりあえず朝食の準備のために、シャワーと着替えを終えてから美琴の部屋に向かって扉を開けると……目に飛び込んできたのは、頭をタオルで拭きながら、下半身パンイチ、上半身は肩を治す紐の部分が腕のほうに落ちているキャミソール姿の美琴だった。

 

「あ、青葉。早いね」

「みっちゃん! 下履いて!」

 

 慌てて顔を背けながら声をかける。……が、当の美琴はキョトンと小首を傾げた。

 

「何慌ててんの?」

「下! ズボン!」

「別に良いでしょ。夏だし、もう付き合ってるんだし」

「そ、そういう問題じゃないよ! 付き合ってるからこそ、エチケットというものを……!」

「えー、自宅にいるのに?」

「自宅にいてもシャワー浴びてる時に玄関の鍵を開けっぱなしにするな!」

「あー……それはごめん」

 

 言いながら、美琴はスタスタと裸足のまま寝室の扉を開ける。

 

「私、着替えるから。朝ご飯よろしくね」

「も、もう……!」

 

 ホント、そういうとこだらしないと言うかズボラというか……でも、家でくらいキチッとしたくないと言う理由もわかるので、これ以上は言えない。

 次からは、やはり一応インターホンを押そう、と思いながら、台所に立つ。冷蔵庫の食材を引っ張り出して、美琴の朝食を作る。

 炒飯で良いか、と思って、ハムとネギと卵を用意する。

 ハムを切っていると、美琴が出て来た。キチッとしたキャミソールにボディラインを強調するようなスキニー……その隙間から、おへそが出ている。

 

「っ……お、お似合いですね……」

「ありがとう」

 

 まぁ、出かける時は上に何か羽織るだろうし、今は良いか、暑いし、と思っておく。

 とりあえず調理に集中して手を動かしていると、何やら背後に気配。珍しく、美琴が手元を覗き込んでいた。

 

「……どしたの? 毒とか入れないよ?」

「そんな心配してないよ。何かな、と思って。朝ごはん」

 

 せめて手伝いに来たーとか言って欲しかったー……なんて一瞬だけ思ってしまったが、まぁその辺は自分の役割だし気にしない。それに……このまま生活力皆無なら……一生一緒にいてくれるかもしれないし……なんて、割と鬼のようなことを思いながら、続いてネギを切り始める。

 高速で包丁を切り落とし、2秒で一本を刻むと、後ろから「おお〜……」と声を漏らした。

 

「テクニカル」

「このくらい、慣れてる人なら犬でも出来るよ」

「人なのに……イヌ?」

「なんでもないです」

 

 自分でも何言ってるかわからなかった。……というか、今日は熱心に手元を見てくるが……どうしたんだろう。

 卵をボウルに片手で割って溶きながら声をかけた。

 

「あの、ほんとどうかした? そんなにお腹減った?」

「うーん……ごめんごめん。そうじゃない」

「包丁使ってる場で遊ぶの危ないから。大人しくテレビでも見て待っていなさい。我慢出来ないなら、りんご剥いてあげるからそれを摘んでいるように」

「……ほんとにお母さんみたい。じゃあ、それで」

 

 言われて、青葉は野菜室に入ってるりんごを取り出し、手早く包丁で六等分に切り、ウサギを作ってお皿に並べた。

 

「はい、どうぞ」

「……かわいい。ありがとう。ママ」

「はいはい」

 

 これでようやく……と、思っていると、自分の隣でりんごを咀嚼し始めた。

 

「なんでここで食べるの」

「んー、だって……おいしっ。私、青葉に構って欲しかっただけだから」

「……そ、そう」

 

 その、とってもかまちょな所も可愛くて困る。

 

「でも、気が散るので席についてください」

「けちー」

「唯一の取り柄なんだから、集中してやらせてよ」

 

 料理人の息子として不味いものは出せない……と言うのもあるが、何より自分なんかが美琴の役に立てる事なんて無い。生活力になってやるくらいなのだから……なんて思っていると、後ろから肩を叩かれた。

 

「? 何?」

「手止めて。一瞬」

「はいは……んっ」

「んっ……」

 

 振り返った直後、唇に、唇を重ねられた。

 

「っ……な、何急に……!」

「唯一の取り柄じゃなくて、たくさんある取り柄のうちの一つだよ」

「〜〜〜っ!」

 

 顔が赤くなる。カッコ良くて、綺麗で、素敵な慈愛に満ちた笑みと同時に、頬に手が当てられる。

 

「っ……ば、バカ……」

「じゃあ、先で待ってるから。美味しいのお願いね」

「は、はい……」

 

 打ちのめされたような声音を返しながら、そのまま調理を続けた。

 とにかく、こう言うところだ。この人の困るところは。生活力がなくてデリカシーもほとんどなくて自分に対しては恥じらいもほとんどないのに……こうやって、人をたらし込ませる天才の所だ。

 ……はぁ、とため息をつく。この人を前に、自分は男らしくいられる自信がない。

 

 ×××

 

 朝ご飯も食べ終えた。食後のコーヒーを青葉が用意し、二人はのんびりと過ごす。

 

「今日はどうしよっか」

「プールは?」

「いや、変装できないしそれはちょっと……」

「でも、この前の海じゃ、にちかちゃんとばかり泳いで、あんまり青葉と泳げなかったから」

「泳ぎ教えてくれたので大丈夫です」

「私の水着、見たくない?」

「っ……ず、狡いですよ……」

「見たいんだ。えっち」

 

 こ、こいつ〜……! と、奥歯を噛む。

 

「寝たふりして逆セクハラしてくる人に言われたくないです」

「うっ……だ、だって……青葉とくっついていたかったし……」

「暑くないんですか?」

「暑かったけど、それが何?」

「……」

 

 ダメだ。この人にレスバで勝てることはない。何を言われても照れる自信がある。

 そこまでして自分にくっついていたいってなんでよ……と、頬が赤くなる。

 

「じゃあ、プールで良いの?」

「え、いやそれは良くないです。やっぱり周りにバレるのは良く無いから、顔を隠せる場所じゃないと」

「むー……じゃあ、二人で水風呂入る?」

「な、なんでですか! そ、そんなえっちな真似は……」

「え? いや水着で」

「……」

「えっち」

「うっ……うるせ〜……」

 

 もう嫌だこの人……と、涙目になった時だ。美琴はコーヒーを飲み干し、椅子を立った。

 

「じゃ、着替えてくるね」

「え?」

「水着」

「い、いやいやいや! 入らないから!」

「えー、でも私が青葉の水着見たいし……」

「無理無理無理! ……あ、そ、そうだ。出掛けましょう!」

 

 そうだ、出掛ければ良いのだ。そうすれば肌を露出させる事はない。

 

「何処に?」

「え、えーっと……とりあえず、散歩とか! 俺、着替えてくるから!」

「あ、うん」

 

 それだけ話して、自室に戻った。もうシャワーを浴び終えて着替えは済んでいるのだが、とりあえず間を置くためだ。じゃないとなんか色々とマズい。

 そもそも、美琴の今の格好もアレだし、どちらにせよ落ち着く時間が欲しかったりする。

 こんな調子で生活してたら、理性がいくつあっても足りない。

 

「……ふぅ」

 

 とりあえず、今日出掛けるところをこの時間稼ぎの間に考えなくては。あまり肌の露出をしないで済む服装で……なんて思っている時だ。そうだ、夏の風物詩にひとつだけ肌を隠したくなる奴があった。

 

「……これだ」

 

 呟きながら、準備をした。そのまま本当に着替えも始めて小学生の時に使ってた道具も用意して、ようやく準備が出来たので美琴を呼びに行った。

 

「みっちゃん、準備出来た!」

『ん。上がって』

 

 今度はちゃんとインターホンを押す。中に入ると、美琴が目を丸くしてしまった。何故なら……青葉の服装が上下ジャージの上に、虫取り網と虫籠を持っていたから。

 

「昆虫採集に行こう!」

「虫苦手じゃなかった?」

「……」

「て言うか、絶対に嫌だ」

 

 すぐにダメ出しをされてしまった。というか、そうだった。虫苦手だった自分。モスキート対策に厚着をせざるを得ないと思ったのだが……と、部屋に引き返していく。

 

「着替えてきます……」

「いってらっしゃい。じゃあ、行くのはプールね」

「ええっ、け、結局ですか……⁉︎」

「行きたいもん。暑いし」

「……」

 

 仕方なさそうに、青葉はため息をついた。本当、虫取りなんてなんで言い出したのか自分でもわからない。

 でも、自分の案がダメ出しされた以上、反論もしづらいし……と、ため息をつくしかなかった。

 

「分かりましたよ……」

「ふふ、行こっか」

「うん」

 

 そんな話をしながら、青葉はまた部屋に戻った。

 こうなった以上、プールでもなるべく。男らしく威厳を保ちつつ、理性を保てるようにしなければ。

 

 ×××

 

 この時期のプールは基本的に混んでいる……それも、子供が多く騒がしい。

 青葉は、一人で更衣室から少し離れた場所で待機していた。スマホとかの貴重品は置いてきたが、その他はバッチリ持ってきた。クーラーボックスと、中のお弁当に飲み物。塩分チャージのラムネも入れて、栄養面での準備だけは万端である。

 後は……そう、メンタル面での準備なのだが、今のうちに他の客の大人の水着姿をめっちゃ見ていた。今のうちに見ておけば、美琴の水着姿が飛び込んできても大きく狼狽えることはないだろう……と、思っての事だ。

 あの人、胸大きい。あの人、腰細い。あの人、水着の隙間から毛がはみ出て……あ、見たらダメな奴……なんて思いながら見回している時だった。

 

「いふぁふぁふぁふぁっ⁉︎」

「何女の人ばっか追ってんの?」

「っ……ふぃ、ふぃっひゃん……!」

 

 むすーっと、頬を膨らませて立っている目の前の女性は……ビキニの上に、薄いUVカットのパーカーを着て、サングラスを頭上にかけて立っていた。

 

「すけべ。露出が多いから嫌だとか言っておきながら、他の女の子の水着は見るんだ」

「ち、ちがっ……くはないへほ……!」

「バカ、えっち、浮気男」

「ほ、ほへんふぁふぁい!」

 

 びんっ、とつままれた頬を離される。

 そうだった。普通に考えれば、どう考えても周りから見たら薄着の女を目で追ってるヤバい奴だった。

 さて、改めて美琴の水着姿を見るわけだが……まーオーバーキルである。他の女性客なんて比較にもならないレベルの。

 

「……お、お似合いですね……やっぱり」

「もう遅いし」

「いや、本当だよ。さっきのは……!」

「じゃあ、口だけじゃなくて行動に移してよ」

 

 拗ねている、子供みたいに。そうなったら、もう言うことを聞いてあげたほうが早いのだが……しかし、行動に表すとはどうしたら良いのだろうか? 水着が似合っていると褒めるのに行動を表すと言うのは……もう勃○を見せるしか……いや、ダメだ。捕まるし、引かれる。

 美琴を見ると、目を閉じて少しだけ唇を尖らせている。怒っています、という仕草なのだろうか? 

 何にしても水着を褒めるための仕草……と、そこで理解した。そうだ、せっかくの水着なのに、パーカーを羽織ってしまっている。

 そういうことか、と理解した青葉は、美琴の上着に後ろから手をかけ、少しずつ脱がせてあげた。

 

「……は?」

「せっかくの水着なんだし、隠さないで見……へぶっ⁉︎」

「な、何してんの⁉︎」

 

 ビンタされた。後ろにひっくり返ってぶっ倒れる中、美琴は慌ててパーカーを羽織り直す。

 

「ほんとすけべなんだから……!」

「何故、ホワーイ……?」

「それより、早く泳ごう」

「あ、結局脱ぐんじゃん」

「……」

 

 カチンときた様子の美琴は、赤くなった顔のまま真顔になった。そして、持参した鞄の中から取り出したのは、日焼け止めクリームだった。

 

「うん。脱ぐ。これ塗らないといけないから」

「あー、じゃあとりあえず俺達も座れる場所を……」

「塗って」

「は?」

「塗って。背中届かないから」

「…………ハ?」

 

 ……塗る? 日焼け止めクリームを? 自分が……美琴の背中に? 

 と、頭がショートする。なんだろう、塗るって……というか、日焼け止めクリームってなんだっけ……? 

 日焼けとは、太陽が放つ紫外線が肌に直撃し、黒く焦がすこと。肌の色を変えるくらいならみんなやるかもしれないが問題は人によって皮が剥けたり、炎症を引き起こしたりすること。

 故に、それに対し対策するために、身体にクリームを塗ることでそれらを防ぐ……ものによっては、肌が黒くなるものを止めずに被害を止めるクリームもあるらしい。

 当然のことながら、肌への悪影響を防ぐ為のものなので、肌は直接塗る必要がある。そして、塗るためにはまさかクリームを浴槽に溜め込んで全身浸かるわけにはいかないので、手の上に垂らしたクリームを肌の上に引き伸ばすようにして塗る必要がある。

 ……つまり、クリームを塗ると言うことは、肌に触れると言うことである。

 

「無理でしょ!」

「じゃあ、他の女の人見てたこと許してあげない」

「ええっ⁉︎」

「ていうか、にちかちゃんとかはづきさんに全部言っちゃう」

「なんて的確な脅迫を!」

 

 ダメだ、そんな事になったら、殺されるじゃ済まない。行方不明にされる。

 で……でも、自分が……美琴の生肌に触れる……抜群のスタイル、美しいくびれと、すらっとした背中……そこに、自分が……。

 

「はい」

「っ……」

 

 しかし、美琴は考える暇を与えない。日焼け止めのボトルを強引に手渡してきた。

 し、仕方ない……元々、男らしくあろうとも思っていた。これからもしかしたら、マッサージとかすることもあるかもしれないし、こんなところでヒヨってはいられない。

 

「あ、あの……せめてもう少し人気のない所に移動してから……」

「……分かった」

 

 それは了承してくれて良かった。更衣室の前だし。

 まぁ、そのままとりあえず二人で移動。そんなに大きなプールでもないし、客も家族客かカップルしかいないので、すぐに取れた。

 今は日陰が狭い場所だが、日焼け止めを塗ったらすぐに泳ぎに行く。また休む、となった時にはここは日陰になっていることだろう、と青葉が読んでのことだ。

 今のうちに持ってきたクーラーボックスは狭い日陰の中に入れておいた。

 ……さて、そんな事よりも、だ。塗らないといけない。

 

「……はい、よろしく」

 

 美琴は背中にかかってる分の髪をかき上げた。

 仕方ない……と、青葉は覚悟を決めて、日焼け止めクリームを手に垂らし、馴染ませた。

 震える手をなんとか抑えながら、背中に手を当てた。固くて……柔らかくて……張りがある背中……これが、緋田美琴の背中……と、変に興奮してしまう。

 

「……んっ、冷たっ……」

「も、もういいですか……?」

「肩と腰がまだ」

「えっ……そ、そこは届くでしょ」

「じゃあ言う」

「……ず、狡い……!」

 

 しかし、仕方ない……と、ため息をついた。仕方なく、肩にクリームを塗り始める。力がある、とわかる肩の筋肉……それと、ツヤツヤの腰……手の感触を伝って、緋田美琴という人間の身体を覚えてしまう……。

 柔らかくて、硬くて……「ああ、鍛えている女性の体ってこんな感じなんだな」なんて実感してしまう。

 

「……」

 

 いつの間にか夢中になって美琴の身体を塗っていると、美琴が声を漏らした。

 

「あの青葉……お腹は、自分で濡れるから……」

「え? ……あっ」

 

 いつの間にか、頼まれていないところにも手を当ててしまっていて。慌ててさらに真っ赤になって手を離した。

 

「ご、ごめっ……!」

「いや、いいけど」

「……うう」

 

 しまった……と、青葉は俯く。やってしまった。やはり憧れの人の前で正気を保つのは難しい……と、反省。次からやばいと思ったら自分の顔面を殴らないと。

 少し肩を落としていると、その自分の頬に唇が当てられた。

 

「っ……!」

「気にしないで。ほら、泳ぎに行こう?」

「は、はい……」

 

 ……ダメだ。やはりこの人の前では男らしく、なんていられないのかもしれない。美琴は他に取り柄がある、と言ってくれたが、大人しく家事に徹することにしよう、と決めた。

 

 ×××

 

 さて、まぁ問題はあったが、二人でそのままプールの中で泳ぎ始めれば、青葉もさっきまでの事なんて忘れられるわけで。

 

「青葉、泳げるようになったじゃん」

「は、はい……少しずつだけど……」

 

 ダサいゴーグルをつけているが、まだ水中で目を開けるのは怖いので仕方ない。

 

「ふふ、すごいじゃん」

「ありがとう……親切に教えてくれた、みっちゃんのおかげだよ」

「ふふ、そっか」

 

 話しながら、二人で一度プールから上がった。そろそろお昼の時間だ。

 狙い通りに日陰になっていた場所に腰を下ろし、お弁当を開けた。

 

「今日のお弁当何?」

「時間なかったから酢飯には出来なかったけど……はい。海鮮丼」

 

 言いながらお弁当箱を開けると……米の上にサーモン、ノリ、ネギ、マグロ、ほたて、ネギトロ、イカなどが細かく刻まれて乗っている。

 

「おお……美味しそう。ちゃんと冷えてるし……」

「醤油も持ってきたから。使って」

「ありがとう」

 

 話しながら食べ始めた。一応、泳がない時はサングラスをしてもらっているので、顔は隠れていると思うが……大丈夫かな、と周囲を見回しつつ、会話を途切れさせないために聞いた。

 

「美味い?」

「うん。美味しい」

「良かった。ちゃんと食べないと死んじゃうから。こう言う炎天下の日は。あとこれ、塩分チャージにスポーツドリンク……あと、糖分のためにブドウも持ってきた」

「……ほんとにお母さんみたい」

 

 喧しい、と青葉は思いつつも口にはしない。しかし……やはり青葉は困ってしまう。美琴を前に、男らしくあろうとするのは簡単じゃない……。

 ま、そもそも年齢差があるのだから、その辺は焦っても仕方ない……と、思いながら、一度弁当箱を置いた。

 

「ごめん、トイレ行ってくる」

「あ、うん」

 

 そのまま一度、その場を後にした。

 少し肌寒い。今日はよくお風呂に入らないと、明日は風邪を引いてしまうかも……と、思いながら、トイレに入る。

 ふと……自分の股間が目に入る。考えてみれば……もし、エッチなことをすることになったら……何も、自分が裸を見るだけでなく自分の裸を見られることになるわけで……え、いや死ぬほど恥ずかしいこれ。

 しばらくはやめておこう……と思いながら、青葉はトイレから出て下の場所に向かうと……美琴が、海パンの男二人に囲まれていた。

 

「ねぇ、良いでしょ?」

「俺らと遊びに行こうよ」

「悪いけど、人を待ってるから」

 

 ……ナンパかよ、と青葉はため息を漏らした。勘弁して欲しいものだ。まぁ……美琴の美しさはサングラスからも漏れてるわけだから分かるが。

 それと同時に、ちょっとだけキッパリと断ってくれたことが嬉しかったりする。

 何にしても、間に入らないといけない。

 

「ちょーっ、待った待った待った!」

「あ? なんだガキ」

「今、お兄さんこの人と話してるんだけどな」

「俺だから、連れは。だからここは引いて」

「え、連れって……彼氏かと思ったら、弟?」

「確かに似てるかも。でもこの歳で姉弟でプールに来るとか」

「それな。シスコンか?」

 

 二人揃って笑われる。青葉は面倒臭そうにため息をついた。何かいたら、全然人と話をするつもりはなさそうだ。

 

「……みっ……姉ちゃん行こう」

「え、あ、うん」

「いや行くなや」

「殺すぞシスコン」

 

 ……しつこい、と青葉はカチンときた。

 

「人呼ぶぞコノヤロー」

 

 そう言った直後、男が胸ぐらを掴んできた。

 

「ちょーっ、ま、まってまって! 殴るのはやめて! いや、殴っても良いけど、手を殴るのはやめて」

「手を殴る奴がどこにいんだよ⁉︎」

「いや料理人にとって手は命だから。顔も口の周りはやめてね。舌が狂う」

「じゃあ何処なら良いんだよ!」

「脳天、ボディ、足、背中、おでこ?」

「広いのか狭いのか分かんね……!」

「は? どこもダメだから」

 

 すると、唐突に美琴が間に入った。

 

「この人、殴ったら私が許さないけど」

「えっ、いやそれは……」

「黙ってて」

 

 騙され、美琴はキッと男達を睨む。二人は少し威圧された様子で、その場を立ち去った。

 

「ふぅ……危なかったぁ」

「……ふふ」

 

 え、何で笑っているのか、と少し青葉は困る。相変わらず最低な助け方……出会った時から何も変わっていない。殴られる前提で、殴られる側が殴る箇所を指名する始末……笑われてもおかしくない……と、思っていると、美琴はサングラスを頭上に上げて、青葉の頬にキスをした。

 

「っ……⁉︎」

「そういうところもあるから、私はあなたのことが好きなんだよ」

「……」

「さ、引き続きご飯食べよう」

 

 話しながら、二人で食事をした。

 

 

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