にちかに美琴様だけは絶対に渡さん。   作:バナハロ

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黒幕な彼女。

 さて、まぁ普通に美琴は睡眠の時間……の、予定だったのだが、美琴は欲求不満だった。

 恋も性欲も知らなかった成人女性が、24歳になって初めての彼氏……それも、隣に住む一人暮らしの男子高校生。フィジカルでも自分の方が上であり、はっきり言ってしまえばいかようにも出来るわけだが、それでもしなかったのは彼を大切に思っていたからだ。

 しかし……それにも限度がある。一緒にお風呂に入り、水着でハグをして、失神しているとはいえ海パンからパジャマに着替えさせ、その上ノーパンで一緒の布団……。

 

「…………眠れない……」

 

 悶々としてしまって眠れなかった。隣で無邪気な顔をしている少年に、今すぐにでも襲い掛かりたいが、それは出来ない。

 だから、その悶々としたものだけが美琴の中に居座り続けてしまっていた。今更になって、自分はようやく女性になれたような気がしてしまい、何だか気恥ずかしい。

 どうしよう、と美琴は青葉の寝顔を眺めながら、胸の奥で「ドッドッドッ」と鳴り響く鼓動を必死に抑える。

 

「……」

 

 落ち着け、と何度目か分からない事を自分に言い聞かせる。特に、明日は青葉は学校なのだし、夜更かしはさせられない。

 でも一緒に寝たい。あんまりない機会になるかもしれないし。そう決めた美琴は、とりあえず目を閉じた。

 

 ×××

 

 さて、翌日……学校が始まっても日課は変わらない。青葉は、早起きしてランニングの準備……を、しようと思ったのが、隣を見てビックリした。美琴が寝ていたからだ。

 

「っ、あ……そ、そっか……泊まりか」

 

 そうだった。昨日、一緒にお風呂に入って……それで……と、思ったところで思い出した。気絶してしまったのだ。美琴と水着のままハグをして。

 今思い出しても気絶しそうなものだが、それでも落ち着いて隣の美琴を眺める。相変わらず大きな胸は、下着をつけていないのか、さらに強調されてしまっている。

 それを見ないようにする中、ふと気がついたのは……美琴の顔色だ。なんか……少し赤い気がする。胸を見ていたのがバレたのかと思ったが、寝息を立てているのでまず間違いなく寝ている。

 しかし、とすると何故、顔が赤いのか? 暑いのか、それとも……と、考えている間に、美琴が目を覚ます。

 

「んっ……」

「あ、おはよ」

「……」

 

 少しボーッとしている。昨日、夜更かしでもしたのだろうか? いつもよりぼんやりしている時間が長い。

 

「みっちゃん? 走りに行かないの?」

「んー……今、準備する……」

「……みっちゃん、動かないで」

「え?」

 

 その美琴の額に手を当てた。その後で、自分の額にも手を当てる。

 

「やっぱり……熱い。熱あるでしょ」

「え……そうかな。分からないけど……」

「昨日、ちゃんと寝れたの? 水風呂入った後、体とか拭いた?」

「……あんまり」

「ダメでしょ、寝ないと」

「誰の所為だと思ってるの?」

「え、お、俺なの?」

 

 身に覚えがない。いや、何にしても、だ。熱があるのなら、何とかしてあげないと。

 

「……とにかく、今日はマラソン駄目。ちゃんと寝てて」

「でも……お仕事……」

「俺から連絡するから」

 

 話しながら、青葉はプロデューサーに電話する。前の旅行で連絡先を交換しておいて良かった。

 

『もしもし?』

「あ、プロデューサーさん? 朝早くにすみません」

『大丈夫だけど、どうかした?』

「美琴さん、風邪ひいちゃったみたいで……今日、お仕事なんですよね?」

『え……一宮くんのご飯、毎日食べてて?』

「俺もびっくりですよ……ちゃんと毎日、丹精と栄養を込めて料理してたのに……少しショックです……」

『セクハラかもしれないけど……お腹出して寝てたとか?』

「かもしれないですね」

 

 実際は一緒に寝ていたのでそれはないと言えるが、しれっと肯定していた。

 

「でー……仕事の方は……」

『分かってる。休んでもらうよ。……というか、一宮くんに面倒見てもらうようになってからマシになったとはいえ、まだまだ頑張りすぎる時あるから、たまには休ませてあげて欲しい』

「了解です」

 

 となると……学校とか休んだ方が良いのかもしれない。というか、体調悪い時に美琴から目を離すのは少し怖いまである。

 

「じゃあ、とりあえずよろしくお願いします」

『はいよ、わざわざ連絡ありがとう』

「いえいえ」

 

 それだけ話して、電話を切った。

 

「……ふぅ」

 

 さて、一息つきながら……とりあえず、青葉は伸びをする。今日は学校を休むことにした。

 

「そろそろ、食事用意してやらんと……」

 

 そう呟きながら、台所に入る。とりあえず……卵粥か、と決めて、料理を始めた。

 ネギを軽く刻んで添えて、ミツバを上に乗せて……と、少し見た目にも凝ってから、とりあえず部屋に戻った。

 

「お待たせしまし……は?」

「……あ」

 

 着替え中だった……いや、正確には着替えを終えていた。

 

「何してんの?」

「いや……仕事」

「今のみっちゃんの仕事は寝ることでしょ!」

「や、やだよ……アイドルの仕事だし、少し熱があるくらい……」

「だーめー!」

 

 部屋を出ようとする美琴を止める。

 

「熱あるのに仕事に集中できるわけないでしょ!」

「そ、それはそうかもだけど……でも、今日は久しぶりに丸一日レッスンに費やせる……」

「……その分、元気になるのが遅れて集中してレッスンできる日が来るのが遅くなるけど良いの?」

「っ……口が上手いね……」

「いや事実だから。休ませたい口実だと思ってんの?」

 

 実際、風邪ひいてる時に料理の練習して母親にドチャクソに怒られたものだ。

 とにかく、無理はいけない。無理をするべき場面というのは、あくまで健康な時だ。

 なんて思っていると、いつの間にか手が届く。歩み寄ってきていた美琴は、キュッと袖をつままれた。

 

「……じ、じゃあ……私を休ませたいなら……今日は学校、行かないでよ……」

「え?」

「…………」

 

 ……それはー……どういう意味で言っているのだろうか? いや、そのまんまの意味なのだろうけど……だからこそか。24歳の女性が赤くなった顔で荒げた吐息のまま告げたその台詞が、元々休むつもりだった青葉の精神を全て持っていった。

 

「……や、休んで……看病させていただきます……」

「ありがとう……けほっ、けほっ……」

 

 今日も理性を抑えるのが大変そうだ。

 

 ×××

 

 さてさて、そんなわけで看病してもらう事になった美琴は、朝食だけもらって、またパジャマに着替えた。その間、青葉は洗い物をしてくれている。

 しかし……さっきのは少し子供っぽ過ぎただろうか? ちょっとだけ気恥ずかしいが……でも、本心だ。仕事にも行けない、青葉もいない、では落ち着かないしつまらない。……あとは、まぁ……普通に寂しい。

 寝るだけなので、普通に下着は外しておいた。

 

「……」

 

 熱の所為だろうか? 普段から何も考えていないからか、逆にこう暇な時間が出来てしまうとよくものを考えるようになってきてしまった。

 それは、今後の不安とかではない。トップアイドルになれるのか、とかでナイーブになったりしているわけではない。もちろん、環境問題やら金銭面でどうなるやらとか、元相方と彼氏がギスギスしてるとか、そんなことじゃない。

 

「……私の今の暮らし……もしかして、すごく恥ずかしいのかな……」

 

 今更だった。とってもとっても今更だった。

 美琴の頭の中に浮かんでいるのは、成人女性が男子高校生に、生活面全てフォローしてもらっている事という人としての事から、好きな人の前でパジャマのままノーブラで、寝癖だらけの髪と目ヤニがついた顔のままいるのは恥ずかしい気がする……なんて当たり前なことに思い当たった。

 自分は……もしかして、彼氏の前で全然女の子らしく出来ていないのでは……なんて女の子のようなことを思ってしまっていた。

 そんなタイミングで、青葉が部屋に入ってくる。

 

「みっちゃんー、ちょっと良……」

「っ、あ、青葉……見ないで……!」

「え、まだ着替え中だった?」

 

 言われて思わず青葉も扉の向こうに身を隠した。

 

「い、いや……着替えは終わってるけど……」

「じゃあ……どうしたの?」

「そ、その……寝癖だらけだから……恥ずかしくて……」

「……え、今更何言ってんの?」

 

 今更……や、確かにさっき見られたばかりだけど……でも、そういう事じゃない。今、恥ずかしいと思っているんだから、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

「でも、みっちゃん。タオル持ってきたけど……寝汗とかかいてない? パジャマもそれなら前から着てた奴でしょ? 取り替えた方が良いんじゃないの?」

「うっ……」

 

 流石、面倒見の鬼と家事全般のプロのハイブリッド。正論の一斉掃射を前に、何も返す言葉がない。

 で、でも……ただでさえ恥ずかしいのに……身体を拭いてもらったり、着替えを手伝ってもらうのはちょっと……いや、ある意味ではチャンスでもあるけど……。

 

「わ、分かった……入って……」

 

 言いながら、でも恥ずかしかったので、布団の上で両膝を揃えて曲げて右側に束ね、お尻をつける座り方をしながら、パジャマのボタンを少しずつ外していく。

 

「お邪魔します……」

「じゃあ……お願いします……」

「え、何が……」

 

 言いながら、パサっと肩から寝巻きを外し、床に落とした。

 

「え、な、何してんの⁉︎」

「いや……体、拭いて着替えを手伝ってくれるって言うから……」

「いや持って来るだけのつもりだったんですが⁉︎ 誰もそんな手伝うなんて言ってないでしょ!」

「……え?」

 

 ……あれ、そうだっけ? と、小首をかしげる。というか……そりゃそうでしょ、という感じが今になって思えて来た。確かに、なんか……早とちりしていたかもしれない……。

 その早とちりの内容が内容だけに、顔がさらに真っ赤になっていった。

 

「っ〜〜〜! ば、バカ……!」

「え、それ俺がみっちゃんに言われるの⁉︎ ていうか、服着てよ!」

「っ……え、えっち……!」

「俺がなのそれも⁉︎」

 

 慌てて上のパジャマを着込んだ。死ぬほど恥ずかしい。少し気まずくなったまま、しばらく沈黙……が、やがてすぐに青葉が告げた。

 

「じ、じゃあ……着替えとタオル、ここに置いとくね」

「っ……拭いて、くれないの……?」

「は?」

 

 自分も、言っておいて「は?」と声を漏らす。何を言っているのか……と、頭が熱くなっていく。思考が定まらない。何もかもが分からなくなって来た。

 そんな中、恥ずかしいはずなのに……なんか拭いてもらいたくなってきて、パジャマをまたパサっと落とす。

 

「い、いやいやいや! 拭きませんから!」

 

 断られた事に、少しだけカチンときた。昨日、背中を流してあげたのに……そんなに嫌かこの野郎、と頬を膨らませる。

 

「拭いて」

「えっ……な、なんで」

「背中だけで、良いから……じゃないと、熱があがっちゃうなー」

「……わ、分かったよ……」

 

 ため息をつきながら、青葉はタオルを持ったまま自分の後ろに座る。それと同時に、脱いだばかりのパジャマを持って自分の胸を隠すように被せた。

 

「ち、ちゃんと……隠して下さい……」

「……拭いてくれるの……?」

「今日だけだからね……!」

「……ありがとう……」

 

 本当は向こうだって照れているのに……ほんと、優しい人……と、頬がさらに赤く染まる。

 そのまま、背中を拭いてもらう。本当はボサボサの頭を見られるのも、そもそも汗だくの自分を見られるのも恥ずかしいのだが……でも、拭いてもらうのはちょっと嬉しい……。

 

「んっ……」

 

 背中を、思ったよりゴシゴシと拭かれる。こうして身を預けると、青葉は思ったよりひ弱ではない事が思い知らされる。もちろん、決して全く力強いわけでもないが、やはり男の子という事だろう。

 

「痒いところは?」

「な、ないよ……」

「じゃあ、左腕上げて」

「え? あ、は、はい……ひゃうっ⁉︎」

 

 上げた直後、脇の下まで拭かれた。決してくすぐったいわけではなかったが、ちょっと驚いてしまった。

 

「あ、青葉っ……なにして……!」

「いや、こういうとこに汗も熱も溜まるから」

「そうじゃなくて……!」

 

 ていうか様子がおかしい……と、思ってふと後ろに視線を向けると、その顔は真剣そのもの。どうやら、おかんモードに入ってしまったようだ。

 

「はい、次反対」

「あ……う、うん」

「ちゃんと前は隠すように。女の子が男の人に軽々しく肌を見せちゃいけません」

「拭いてる人が何言ってるの……!」

 

 早く……早く終わって……! と、羞恥心が顔を出す反面、そこそこの力とは言え、基本的には肌を傷つけないように優しく拭いてくれている絶妙な力加減から、少しでも長く拭いてて欲しい……なんていう安堵感が自分の中でせめぎ合っていた。

 しかし、それも長くは続かない。脇から脇腹、そして腰も拭き終えた青葉は「ふぅ……」と一息ついて、タオルを美琴の横に置いた。

 

「終わり。あとは自分で出来るね?」

「っ……う、うん……」

「じゃ、拭き終わったらすぐに持ってきたパジャマに着替えるようにね。30分くらいしたらこの部屋来るから、それまでに終わらせておいて」

「ありがとう……」

 

 この野郎……絶対に熱上がったよ……と、思いつつも、とりあえず従っておいた。

 逆に言えば、あと30分は部屋に訪れない。その間に、下半身も拭いてしまおう。そう決めて、立ち上がってズボンとパンツを脱いで、全身を拭き始めた。

 さて……まぁ、でも……背中を見られる機会はなかったわけではない。ステージ衣装やドレスで背中が開いたものもあったし、いまさら照れるようなことではないかもしれない。

 そう思うことにして、とりあえず今はさっさとやる事を終えた。

 

「……はぁ、頭……クラクラする……」

 

 ぼんやりとするしボーッともする……少なくともこれは青葉の所為だ。

 そのまま着替えを終えて布団の中に入る。……身体を拭くくらい30分もかからないんだから、早く来てくれれば良いのに……と、思わないでもないが、そのまま一人で待機。

 恥ずかしさも少しずつ消えていって、寝た方が早く治るかな……と、思って目を閉ざす。

 

「……」

 

 そういえば……洗濯とかも彼がしてくれるのだろうか? だとしたら……下着も、見られるかもしれない……? 

 ……いや、背中や脇腹を触られたのに今更下着くらい……いや、それとこれとは話が違う……どうしよう、少し恥ずかしいかも……。

 なんて頭の中がまた回り始めてしまった。……ダメだ、一人になるとなんか色々考えてしまう。……いや、青葉がいても色々、考えてしまいそうだが……寝よう、寝てしまおう。

 そう思って目を閉ざした。

 

「……」

 

 ……眠れない。なんか、目が冴えて来ていた。今、何時だろう……青葉はあとどれくらいで戻って来るだろう……。

 なんて思いながら時計を見ると、まだ出て行ってから12分しか経っていなかった。

 

「うそ……」

 

 ダメだ、暇過ぎる。風邪ひいている時に眠れないとこうなるのか、なんて思ってしまった。

 構ってもらおうと思い、声を上げた。

 

「あ……青葉〜……」

 

 聞こえていないのか、返事はない。というか、大きな声が出せない。……少し寂しいかも、なんて思ってしまったり。

 体調を崩すのは初めてではないが、今までは一人が当たり前だったのであまり寂しさを感じたことはなかった。……なんだかんだ、ルカが来てくれたこともあったし。

 だが……青葉がいるのが当たり前になった今、改めて一人の無力感を感じてしまっていた。

 

「……もう無理……」

 

 無理してでも構ってもらおう……そう決めて、美琴は立ち上がってノロノロと歩き始めた。

 少しフラフラする……やっぱり、これ熱上がっているとしか思えない……。それでも、なんとかしてリビングの中に入ると……目を丸くした。布団が敷かれていた。

 その布団の枕元にはストローがついたポカリがコップの中に注がれている。その隣にはタオルが二枚とか、あと冷えピタとかが置いてある。

 

「……え?」

「あ、みっちゃん。眠れないの?」

 

 声をかけてこられたその顔を見て、少しホッとしてしまう。部屋の中にいてくれたんだ……と。

 

「みっちゃんの部屋、窓ないから。清潔感がある部屋の方が治りも早いと思うし、リビングで寝た方が良いと思って」

「……」

 

 まさか、30分というのは……自分のために? ていうか、まだ10分だけどほとんど準備終わってるのは何故……? 

 いや、そんな事どうでも良い。なんていうか……迷惑かけてるのに嬉しくて、ハグしたくなってしまった。フラフラとした足取りで両手を広げた時だ。足元の布団に足をもつれさせて、前のめりに倒れ込んでしまった。

 

「ちょっ、あぶなっ……!」

 

 慌てて青葉が抱きかかえてくれる。前にも似たようなことがあった気がしたが……今回は、受け止めてくれた。

 

「お、重ッ……! な、何やってんの⁉︎」

「失礼」

「た、体重を尚もかけ続けるのはやめてー!」

 

 思いっきり身を預けてやった。もう胸が当たってるとか気にせず、ギューっと力を込めてしまう。

 

「みっ、みっちゃん……! どうしたの?」

「ん……ありがと。嬉しかったから……」

「じゃあ……寝てて? 熱上がるよ」

「……ん、じゃあ……寝かせて?」

「は……はいはい」

 

 言われて、青葉は自分の身体を支えたまま寝かせようとしてくれた。当然、青葉も身を低くする必要があるわけだが……その時、少しだけ両腕に力を込めた。

 

「うおっ……⁉︎」

 

 それにより、バランスを崩した青葉は、美琴の上に寝転がってしまう。風邪で弱っているとはいえ、青葉より力はある。ホールドした。

 

「み……みっちゃん……⁉︎」

「少し、このまま……」

「え? いや……この間にみっちゃんが脱いだパジャマと布団洗っちゃおうと思ってたんだけど……」

「……青葉」

 

 改まったように名前を呼ぶ。ノーブラの胸を押し付け、顔が真横にあり、どう見ても高校生を襲っているようにしか見えない絵面なのに……真上から退こうと思えない。

 

「な……何?」

 

 多分、青葉は顔が真っ赤だ。照れてる時の声を出している。おかんモードは止まってしまっている様子だ。

 

「……私のために、ありがとう」

「いや当たり前のことしてるだけで……」

「でも……青葉とこうしているのが一番の薬になるんだ」

「え……」

「だから……お願い。もう少し、こうさせて欲しいな」

 

 ……なんかもう、甘えたくなってしまった。自分のためにあくせく動いてくれるのはありがたいけど。……でも、一緒にいてくれることが一番の薬なのだ。

 

「……わ、分かったよ……でも、俺が下だと、身動きが……」

「じゃあ……」

 

 そう言いながら、青葉を抱きしめながら横に転がった。

 

「……横」

「っ……あ、あの……まぁ良いか……」

「じゃあ……おやすみなさい」

 

 それだけ話して、二人で目を閉ざした。

 

 ×××

 

 死ぬほど興奮しているのは、男子高校生ならではのことだろう。ダメだ、もうムラムラする(直球)。

 どうしたら良いのだろうか? この場は……切り抜けたい。やらないといけないことがあるから。でも……抜けられない。

 

「はぁ……」

 

 どうしよう、と悩みに悩んでいると、美琴が抱き締めたまま頬に頬擦りして来る。

 ああああああ! と、声が漏れるのを抑えた。起こしてしまうから。でも自分の息子はもう起きている。

 死ぬ、死ぬほど恥ずかしい! でも抵抗出来ない! どうしよう! と、頭が真っ赤になる。

 

「ん〜……」

 

 離してほしい。お願いだから。じゃないと……理性が……なんて思っている時だ。さらに寝ている美琴は告げた。

 

「んっ……あ、おば……ルカとキスしてるの、見た……」

 

 どんな夢見てるの⁉︎ と、思わず真顔になる。興奮も冷めた。この野郎……自分が浮気する男に見えるというのか……。

 ……いや、最近Twitterとかで流れてくるムカつく漫画の広告には、復讐系の胸糞漫画で仕返しのために恋人の前であえてキスをしたりするクソ女……みたいな流れもあったりするし……いや、流石にルカはそんなことしないか。

 何にしても……まぁ、漫画とフィクションは違うよね、と思うことにした時だ。

 スマホが音を上げた。

 

「ピポピポピポー!」

 

 思わず驚いて奇声が漏れてしまった。す、スマホか……と、ほっと胸をなで下ろす。

 とりあえず電話に出ると……にちかからだった。

 

「も……もしもし?」

『美琴さん、風邪引いたの?』

「あー……う、うん」

 

 一応、学校には青葉が風邪を引いたと言っておいた。……が、にちかは勘づいている。長い付き合いだし、

 

「そう。面倒見てる」

『美琴さんと二人で一つ屋根の下とか断罪ものなんですけどー』

「じゃあ、ほったらかして学校行った方がよかったか?」

『は? 死にたいの?』

 

 よし、とほっとした。まぁこうやって誤魔化せると思えたから、何も問題ないわけだ。

 本当は二人きりがよかったわけだけど……まぁ、このまま一日ってなると理性的にやばい気がしたし仕方ない。

 

「にちかも手伝ってくれない? 流石に、身体拭いてあげるとか、そういうの出来ないからさ」

『当たり前じゃん。指一本でも美琴さんに触れたら殺すから』

「はいはい」

 

 後は、にちかが家に来るまでに、この状況を何とかするだけだ。

 

「ん〜……うるさい……目、覚めちゃった……」

「えっ」

『は?』

「青葉……風邪で寝てる女性の横で電話なんて……ダメでしょ、青葉……」

 

 何でこの人は穏便に済みそうなところにリ○ルボーイ落としに来るのほんとー! と、思わず唖然とする。

 

『ねぇ……寝てる女性の横って?』

「み、美琴さん寝てるんだよ。風邪に効く特効薬は睡眠でしょ?」

「まだ話してる……そういうことするわるい口には……」

 

 そう言いかけた時には遅かった。寝惚けている美琴は、自分の口に唇を重ねた。

 

「っ……⁉︎」

「こうしちゃうから……」

『ねぇ……今なんか「ちゅっ」って聞こえんだけど……唇に何があったの?』

「唇切っちゃって、その血を吸ってただけだよ!」

「なに〜……まだ吸って欲し……」

 

 口を塞いだ。手で。ちょっとほんとこの人困るこういうとこ。

 

『……行くから』

「え?」

『午後からそっちにすぐ行くから。覚えてて』

「……」

 

 そのまま電話は切れた。

 やばい……さっきまでとは全く別の意味で心臓がドキドキしている。破裂しそうだ。にちか……包丁とか持って来ないよね……? と、嫌な汗がどっと浮かんだ。

 その真っ青な顔色の自分に、美琴が手を添える。そして、何一つ邪気のない慈愛の笑みを浮かべて告げた。

 

「青葉……もう少し、一緒に寝ようよ……?」

「……」

 

 これは……果たして落ち着かせようとしてくれているが故のセリフなのか、それとも単純に一緒に寝たいだけなのか……いや、考えるまでもない。寝たいだけだ。

 それ故に、青葉はふっと笑みを浮かべた。この野郎、本当に……。

 

「寝ません。やる事を済ませてきます」

「え?」

 

 起き上がり、とりあえず洗濯物から始めた。

 

 

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