にちかに美琴様だけは絶対に渡さん。   作:バナハロ

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夜道で不審者っぽい人が背後からついた来た時は「SM判定○ォーラム」を歌いながら歩けば撃退出来る。

 あの野郎ぶっ飛ばす、そうにちかが心に決めたのは、電話が終わったそのあとすぐだった。

 何があったのか知らないが、確実にやましいことがあったのは明白だ。最悪の想定では……キスをしてやがる……! 

 

「アイドルとキスとか……許されないから悪いけど……!」

 

 そう言いながら校舎を出た時だ。校門前で出待ちしているサングラスに帽子の女が異様に目についた。誰か、なんてすぐにわかった。美琴と仕事する上で少し知り合った女性だ。

 

「何してるんですか」

「うおっ⁉︎ な、七草にちか……⁉︎」

 

 斑鳩ルカ……元美琴の同僚の女性が、そこに立っていた。

 

 ×××

 

 さて、青葉はそろそろ美琴の服を変えないといけない……が、着替えシーンを見るわけにもいかないので、用意したものを持って美琴に届ける。

 

「みっちゃん、着替えて」

「ありがと……」

「それと、汗すごいから拭きな」

「……着替え手伝ってくれないの?」

「ば、バカなこと言ってないで早く着替えて。風邪、治したいんでしょ」

 

 まったく……そういう思春期の男の子を揶揄うようなことを、風邪引いている時まで言うのはやめていただきたい。

 さて、それはともかく、そろそろ始業式が終わる頃。……つまり、にちかが来るまで時間がない。

 美琴は今はリビングで眠ってもらっているし、後は清潔感を保つと同時に、何とかして青葉の身の潔白を示さなければ……まぁ、実際潔白なわけだが。

 大丈夫、にちかには付き合っていることはバレていないし、誤魔化しようはいくらでもある。

 洗濯機を回し終えてから、そろそろ着替え終わったかな? と、思い、リビングをノックする。

 

「どうぞー」

「みっちゃん、そろそろまた寝て」

「あ、うん……」

 

 着替え終えた美琴が布団の中に入る。

 

「青葉、喉乾いた」

「はいはい……ポカリ?」

「うん……」

 

 ストローをつけたコップを口元に運ぶ。はぷっ、とストローを咥えた。……女性が何かを咥えてる絵って、どう足掻いてもあどけなくなってなんか可愛い……と、狼狽えている間に、飲み終えた美琴は枕に頭を置く。

 

「じゃ、おやすみ。起きたらいつでも声かけて。何でもするから」

「じゃあ……手、繋いで?」

「え、なんで?」

 

 いや、にちかが来るまでに誤魔化しにくくなるから、手を繋ぐのはちょっと……と狼狽えるが、美琴は少し拗ねた様子で、布団に半分だけ顔を埋めて答えた。

 

「だって……青葉、あくせく働いてくれてるけど……私と一緒には、いてくれないから……」

「……」

 

 そ、そりゃ確かに洗濯したり、飲み物や食べ物を用意したり、濡らしたタオルを周回したりはしてたけど……。

 ……でも、美琴は弱々しい瞳ながらも、自分をじーっと眺めている。

 

「……」

「……だ、だめ……?」

「っ……」

 

 ダメなんて言えるわけがなかった。項垂れつつも、笑顔を浮かべながら美琴の隣に腰を下ろした。

 

「寝るまでだかんね」

「ふふ……ありがと」

 

 頼むから、まだにちかは来るなよ……と、願いながら美琴の横で手を握った。

 

「……ふふ、青葉がいてくれれば、すぐに治りそう……」

「勿論。早く元気になって」

「えー……でも、もう少し体調崩したままでも、甘えられそうなのに……?」

「普段から甘えん坊でしょ」

「むぅ……成人女性に言う言葉じゃない……」

「成人女性らしくなってから言ってください」

 

 ……まぁ、青葉的にも甘えてもらえなくなるのは困るので、このまま大人しい大人の子供なままでも何一つ問題ないが。

 そんなことを思いながら、握っていない方の手で頭を撫でてあげる。すると、美琴は少し気持ちよさそうに目を閉ざした。

 ……このまま眠ってくれると嬉しいな……なんて思いながら、撫でてあげることしばらく、ようやく寝息を漏らし始めた。

 

「……綺麗な寝顔」

 

 ……まぁ、起きてる時にこんな事言えないよなぁ……なんて、自分のチキンさにほとほと嫌気が差す。

 なんだかんだ、自分と美琴の関係を引っ張ってくれているのは、美琴だ。男として情けない。

 だから……まぁ、なんだ。寝てる時くらい、自分も勇気を振り絞りたい。

 そう思い……寝ている美琴の額にキスをした……ところでインターホンが鳴り響いた。

 

「っ! も、もうきたか……!」

 

 仕方ない……とりあえず、応対しなくては。美琴は眠ってくれたし、とりあえず手を離してそのまま応答しに行った。

 

 ×××

 

「……」

 

 美琴は、ぼんやりと薄目を開ける。頬が赤く染まる……青葉から、キスをされた……たったそれだけで、なんかやたらと嬉しくて恥ずかしくなってしまった。

 いや、キスなんて初めてじゃないのに……こうして自分が寝ていると思ってくれている時にそういう事をされると、改めて愛されている、という実感が湧いてしまう。

 

「……ふふっ」

 

 来客らしいが……まぁ、にちかちゃんだろう。もう来たか、とか言ってたし。まぁ、でも青葉は誤魔化すのが上手だから、多分平気……なんて思っている時だった。

 

「……えっ、な、なんで斑鳩さんまでいるの……?」

「いちゃ悪ィのかよ」

「ていうか、は? 青葉、美琴さんと付き合ってるってマジ?」

「い、いや付き合って無……」

「ウソついてんじゃねェぞ。この前、水風船持ってたろォが」

「や、それは……」

「え……てことは、まさかもう美琴さんと……!」

「や、違……!」

 

 なんの話かいまいち聞こえないが、声音から察するに青葉が攻められているのは確かなようだ。

 ならば、自分がなんとかしないと……そう思い、ヨロヨロと立ち上がって扉を開けた。

 

「ま、待って……にちかちゃん……と、ルカ?」

「み、美琴さん……⁉︎」

「……美琴……!」

「あーもう、みっ……ことさん、寝てないとダメだって……」

 

 慌てて青葉が美琴に駆け寄ってくれ……ようとしたが、その肩にルカとにちかが手を置き、そして強引に力を込めて後ろに引き倒し、代わりに二人が駆け寄ってくれた。

 

「だ、大丈夫ですか美琴さん⁉︎ ポカリ買って来ました!」

「あのゲス男に何かされたか? こんなボロボロになるまで……」

「いや、違っ……」

「とにかく、寝てないとダメです!」

「運んでやる。おい、七草、足持て」

「わ、分かってます……!」

「ちょっと待って……!」

 

 玄関に背中を強打し、動けなくなっている青葉を置いて、そのまま二人に運ばれてしまった。

 さて、布団の中。リビングの天井を眺める。青葉、大丈夫かな……と、心配になるが、わざわざお見舞いに来てくれた二人に気を遣ってしまい、少し困ってしまう。

 ……というか、何故二人は青葉にそんな冷たく当たるんだろう? 

 

「ふ、二人とも……青葉は……」

「帰りました。私達に託して」

「だから、美琴。して欲しいことがあれば言え」

「じゃあ……青葉を呼んで」

「「……」」

 

 当然だ。二人が嫌なわけではない。でも、青葉の方が良い。

 

「……それはダメです。青葉はしばらく出禁なので」

「あのチャラチャラした奴のことはもう忘れろ」

「……そっか。青葉なら、私の要望は叶えてくれたんだけどな……」

「「……」」

 

 言うと、二人とも黙り込む。そして、顔を見合わせた後、ルカが廊下へ出て行った。

 

「……チッ、あの野郎かよ……」

 

 残ったのは、にちか。少し複雑な表情を浮かべたまま、にちかは美琴に尋ねた。

 

「あの……美琴さん」

「何?」

「……青葉と、付き合ってるんですか?」

 

 ……これは、どう答えれば良いのだろうか? 多分、青葉は自分と付き合っていることを周りに隠したがっているはず。

 でも……仮にもユニットメンバーに嘘をつくのは、ちょっと違う気がする。にちかもにちかで、自分のことをすごく慕ってくれているのは分かるから。

 

「……ねぇ、にちかちゃん」

「な、なんですか……?」

「私と青葉が付き合ってたら……そんなに嫌?」

「そ、そりゃ嫌ですよー! あーんな意地悪でひ弱ですけべな奴! 美琴さんの身が心配……というか、さっき水風船あったって言ってましたけど……だ、誰かとご経験が……?」

「水風船?」

「っ……い、いえ、ですから……」

 

 そんなの買ったっけ? と、小首を傾げたのも束の間、すぐににちかは頬を赤らめたままポツリと呟く。

 

「そ、その……ゴム……」

「……ああ、コンドーム?」

「は、ハッキリ言わないでくださいよー!」

「あれまだ使ってないよ。青葉、逃げちゃうから」

「え……てことは、やっぱり青葉と使うために……」

「……あっ」

 

 しまった、と唖然とする。まぁ、青葉なら上手く誤魔化せるでしょ、と思って、開き直ってしまった。

 

「うん。ぶっちゃけ、付き合ってる」

「……8歳も差があるのに?」

「? 関係ある? それ」

 

 多少はあるかもしれないが……でも、そんなに気にしない。青葉が相手だから。

 

「な、なんで青葉なんですか⁉︎ よりにもよって……!」

「え、にちかちゃん青葉のこと好きなの?」

「え? 全然?」

「え? じゃあなんで?」

「だ、だって……み、美琴さんのファンとして……同じファンのバカに取られてると思うと……」

 

 アイドルのファンになったことないから分からないけど……そんな複雑な思いをするところなのだろうか? 

 しかし、何にしても、その認識は少し困る。

 

「にちかちゃんは、もう私のファンじゃなくてユニットでしょ?」

「あ……」

「だから、青葉もにちかちゃんのこと羨んでると思うよ」

 

 多分、と心の中で付け加えながら、美琴は真っ直ぐとにちかを見る。すると、にちかは少し垂れたように頬を赤くしたあと、渋々ながら頷いてくれた。

 

「し、仕方ないですね……」

「それにしても、青葉とルカ遅いね」

「あ、そ、そうですね……あ、もしかして逢引してたりとかー?」

「は?」

「ひっ……⁉︎」

「探しに行こう」

「ちょっ……ね、寝てないとダメですって!」

 

 進撃した。

 

 ×××

 

「オイ」

「は、はい……?」

 

 廊下に叩き出されていたら、声を掛けられて顔を上げた。ルカが自分を見ている。なんだろう、殺されちゃうのかな、なんて思っていると、そのまま襟首を掴まれて玄関から外に引っ張り出された。

 

「ちょーっ、靴、靴!」

「うるせェ」

 

 そのまま、さらに外の手すりに追いやられ、上半身だけ外側に押し出される。やばい、本当に殺されるかも……と、思っている間に、ルカは自分に声を掛けた。

 

「なんか言うことあんだろ」

「え……あ、じゃあ殺すならここじゃなくて山奥にしてください。殺人現場が美琴さんのマンションになっちゃうんで」

「そうじゃねェよ!」

「え……まさか、遺書書かせてくれるんです?」

「それも違ェ! てかなんで殺す前提⁉︎」

「いや今、殺されそうなので」

「……チッ」

 

 舌打ちしながら手を離される。

 

「そういうんじゃなくて、人として言うことあンじゃねェのか?」

 

 改まって聞かれて、ハッとする。そうだ、命を諦める前に言うべきことがある。

 

「……すみませんでした。騙すつもりはなかっ……いや、あったけど、バレるつもりはなかったんです」

「テメェそれ謝ってるつもりか?」

「いや、もう嘘はつきたくないので」

「っ……」

 

 それは本当。まぁ信じてもらえるかはさておきだが。

 

「……でも、実際の所、俺と美琴さんはアレを使うような行為は何一つしていません」

「信用できるか」

「じゃあ逆に聞きますけど、斑鳩さんは目の前で美琴さんが全裸で寝てたら襲えますか?」

「アア⁉︎ ……いや、割と襲えないかもしれない……」

「そういうことですよ」

 

 相手を大事にしている時こそ、その辺慎重になるのだ。チキンとかではない。

 そこで、ハッとするルカ。どうしたんだろう? と、小首を傾げたのも束の間、ルカが真っ赤な顔で自分を睨み始めた。

 

「えっ、な、何? なんでまた怒る?」

「なんで私が美琴のこと好きみたいに言ってんだテメェはああああ!」

「ち、違うんすか⁉︎」

「チッッッゲェェェェよ‼︎ マジぶっ殺すぞ! ホントにそこから風を感じさせて風にすンぞテメェ⁉︎」

「あ、殺すなら山奥でおなしゃす!」

「殺しづれェンだよそのキャラ!」

 

 しまった、怒らせるつもりじゃなかったのに! と、頭を抱える。そのまま、ルカは青葉から離れ、のっしのっしと階段の方へ向かってしまう。

 

「あれ、どこに行かれるんですか?」

「帰るんだよ!」

「あ、ま、待って下さい」

「まだなんか用あんのか?」

「いや押しかけてきたのはそっちですけど」

「テメェほんとに殺したくなる性格してやがんな!」

「や、ですから殺すなら」

「山奥には行かねえ!」

 

 よし、足は止めたな、と把握し、すぐに言うべきことを言った。

 

「俺の事は嫌っても結構です。……でも、俺は斑鳩さんに恩があります。……だから、美琴さんと俺のことで仲悪くして欲しくないです」

「……チッ、この野郎」

 

 まぁ、別に自分なんかの所為で険悪になっているとは限らないわけだが。でも、だとしたら申し訳ないから。

 特に、この前のは結局、最悪の形でバレてしまったわけだし、その辺はやはり考えないといけない……なんて思っている時だった。玄関が勢いよく開かれた。

 

「あ、青葉……!」

「っ、み、みっ……ことさん⁉︎ なんで外出て……!」

「逢引してるの?」

「してねーよ! なんだいきなり⁉︎」

「……だって、にちかちゃんが逢引とか言うから……」

「にちかテメェ!」

「テメェ……美琴だけじゃなく私にもそのつもりだったのか?」

「そんなわけがねえでしょうに!」

 

 と、ツッコミを入れつつも……少し、冗談っぽい言い方。多分、少しはマシな関係になったと思う……と、ほっと胸を撫で下ろしているときだ。風邪ひいているとは思えない力強さで、ぐいっと美琴に引っ張られた。

 

「うえっ? み、みっちゃ……」

「ルカ、この子は私のだから……何が起きたって渡さないからね」

「……ア?」

 

 ……良くない、その返しは良くない、と強く思ってしまった。そんな事を言ったら、またルカは怒るんじゃ……と、恐る恐る顔を上げると、ルカは不愉快そうに舌打ちをするだけだった。

 

「いらねーよ、そんなの」

「あ、そう?」

「そォだよ。帰るわ、なんか元気そうだし」

 

 ……いや、元気ではない。身体はさっき握手してた時より熱いし、多分熱が上がっている。

 でも……美琴が何か言いたそうにしているのを察し、敢えて黙った。

 

「ルカ」

「あんだよ」

「来てくれて、ありがと」

「……チッ」

 

 返事はせず、代わりに片手だけあげて、ルカは立ち去っていった。

 

「ベジータっぽいな」

「お前はいつかゼッテー殺す!」

「山奥?」

「じゃねえっての!」

「なんか仲良くなった?」

「なってねーよ!」

 

 そのままルカは帰宅して行った。

 

 ×××

 

 さて、ルカとにちかが帰宅した後、美琴はまた目を覚ました。外はもう暗く、部屋の中には青葉しかいない。

 布団の横で、ずっと本を読んでいる。……本というか、自分の写真集。

 

「……なんで横でそれ読むの?」

「っ、あ、ご、ごめん……起こした?」

「いや、起きたら見えた」

 

 ……なんか思ったより恥ずかしい。水着とか割と際どい格好させられているし……自分が「見られる」と思っている時はまだしも、警戒していなかった時に見られると頬が赤く染まる。

 

「……体調は平気?」

「うん。大丈夫……」

「お腹空いた? なんか作るよ。てか食べなさい」

「ありがとう……」

 

 と、いうわけで、青葉は台所に向かう。……やはり、起きると動き始めてしまう……それが、少し困る。なんか……ちょっと寂しくて。

 ……よし、決めた。今晩も泊まってもらおう。そして……全力で構ってもらおう。

 そう決めて、とりあえず待機した。……さて、戻って来てくれた。

 

「とりあえず、お粥にしてみたよ」

「ありがと……食べさせて」

「はい……え?」

「あー……」

 

 口を開いて、青葉の方に向ける。青葉は、頬を赤らめて少し目を逸らした。何を照れる理由があるのだろうか? と、美琴が好きな人の無防備な口内を見て、なんかちょっと興奮して気恥ずかしさを覚えるのは、まだ先の話だ。

 

「あーん……」

「あむっ……あふっ」

「あ、ごめん。熱いよ」

「はふっ、はふっ……!」

 

 火傷するほどじゃないけど、熱いものは熱い。何とか飲み込んでから……良いことを思いついたので、言ってみた。

 

「次は、ふーふーしてよ」

「ふーふーって……い、息を吹きかけて冷ますやつ?」

「そうそれ」

「っ……い、良いけど……嫌じゃないの? 俺なんかの息が……」

「? なんで?」

 

 嫌になる理由がないどころか、青葉と一緒にいられない仕事中はビニール袋に息を溜め込んで定期的に吸引したいくらいだ。

 

「じゃあ……ふーっ、ふーっ……」

「……」

「ふっ……な、何?」

「いや……ふーふーしてる青葉、可愛いなって」

「は、恥ずかしくなるからあんま見ないでよ……!」

「大丈夫、キスしたくなってるだけだから」

「そ、それ全然大丈夫じゃないんだけど……」

「お腹すいたー」

「は、はいはい……あーん」

「あー……んっ、美味しい」

「ど、どうも……」

 

 美味しい……甘えられる時に甘えるの、割と最高かもしれない。目を閉ざして、また食べさせてもらっていると……青葉が自分の顔を見て「あっ」と声を漏らした。

 

「? 何?」

「動かないで」

 

 何……? と、胸の奥でドキッとしてしまう。え、まさか……キスされるのだろうか? ちょっ、う、嬉しいけどそんなちょっと熱があがっちゃうから……なんて思っていると、頬に手を当てられ……そして引っ込めた。

 

「ご飯粒」

「……あ、ありがと……」

「24歳児って、みっちゃんみたいな人のことを言うんだろうな」

「……」

 

 青葉が言う? と、少しむすっとしたので、されると思ったことをしてやることにした。頬に手を当てて、唇を押しつける。

 

「んっ……⁉︎」

「っ……」

 

 すぐに口を離したが……青葉は真っ赤である。相変わらず、照れやすい子だ。

 

「……キスで照れる子に、子供とか言われたくない」

「っ……すぐやり返したがるそう言うとこも含めて言ってるんだけど……」

「もう一口いく?」

「キスの単位を口にするのはやめましょうや!」

 

 でも口を使うから良い気がしないでもない……なんて思いながら、とりあえずのんびりと食事を終える。

 食べ終えてから、美琴は少し体を起こしたままソファーにもたれ掛かった。この後は……どうしようかな、と少し悩む。この後ももっと甘えたいけれど、青葉の事だし「早く寝ないと治らないよ」って言われそう……いや、風邪を逆手に取ろう。

 今の甘えん坊モードの美琴なら、行ける……! 

 

「ふぅ〜……洗い物終わり。みっちゃん、そろそろ俺……」

「青葉、歯磨きしたい」

「あ、取って来るよ」

「うん。……で、青葉がして」

「ん?」

 

 どういう意味? と、分かっているくせにそんなことを聞きたがるような顔。笑顔でもちろん、告げた。

 

「私の歯磨き、青葉がして」

「どんなプレイ⁉︎」

「あーうー、具合悪いー。両手が動かないー」

「あっ、そ、そういうこと……!」

 

 せっかくの機会なのだ。甘えないと勿体無い。美琴は目を閉ざすと、アーン、と口を開いて青葉に向ける。

 

「……」

「?」

「仕方ない……」

 

 覚悟を決めているのだろうか? 何故か、少しだけ黙ったまま青葉から返事はなくなる……が、やがて、自分の口の中に毛先が少しだけ硬い集合体が入って来る。

 

「ふわっ……?」

「……どうした?」

「ほ、ほへん……ひょっほ、変な感じがひへ……」

 

 なんだろう、くすぐったいと言うか、こそばゆいというか……幼稚園の時に母親に磨いてもらっていた時は、こんなのなかった……。

 

「ところでさぁ、みっちゃん……」

「っ、な、何……?」

「阿良々木くんが言うにはね」

「誰?」

「口内を他人にいじられる……それはつまり、体内という普段、いじられない場所をブラシで触られることもあって、快楽が生じるらしいよ」

「……へっ?」

「……一体、どんな快楽なんだろうね?」

 

 ……なんだろう、急に……。と、身構えていると、急にハッとした青葉は、なんか少し頬を赤らめる。そして、声音の雰囲気をガラリと変え、続けて言った。

 

「と、いうわけで、お仕置きです」

「はへ……?」

「歯磨きが終わるまで動いたら、今日は寝るまでみっちゃんの写真集を横で読むから」

「えっ……そ、それは恥ふかひ……」

「知りません」

 

 そのまま、口内を磨かれる。正面から自分を見据えている青葉が、口内を覗き込んでいいようにしてくる……しかも、くすぐられるような快感とセット……あ、ヤバい。ちょっと恥ずかしい。

 

「ひゃううっ……ふぁっ、ひやっ……!」

「変な声出さない。……にしても、綺麗な歯並びですね」

「っ、は、はふはひ……!」

「病人の立場を利用して人をからかった罰です。甘んじて受け入れて下さい」

「ほ、ほんな……!」

 

 というか……ちょっと、身悶えが止まらない。両足の指先がピンと伸びて、両手は布団をぎゅっと握り締める。胸が過去にない踊り方をし、正直に言うと……ちょっと悪くないカモ……。青葉にいじられている24歳、と思うと尚のこと。

 

「っ……ふぁっ」

「もうちょい上向いて……あ、うん。オッケー。まぁ、食べた量が多くないから、あんまり食べかす多くないね」

「う、うるふぁい……!」

「はい、次いーってして」

「っ……ぃ、ぃ〜……」

 

 ……そのまま、シャコシャコと歯を磨かれる。歯茎に毛が当たったり当たらなかったりして……ちょっと、やっぱりくすぐったい……でも、嫌じゃなくなってきてるのが困る。

 やはり……甘えさせてもらえるのは、ちょっと良いかも……なんて思っている時だった。

 

「……よし、終わり。よく動かなかったね」

「へ……ほ、ほう……?」

「うん? お口、ゆすいできて」

「……」

 

 も、もう終わり……と、少し名残惜しくなる……どうしよう、恥ずかしいのに、お世話されるのは悪くない……。

 そのまま青葉と一緒に立って洗面所に向かい、口をゆすいだ。

 さて、あとは体を洗うだけ。まぁお風呂には入らないので、体を拭くわけだが……残念ながら流石にそれは引き受けてくれず、拭き終えてから改めて布団に入った。

 あとは眠るだけだ。

 

「青葉」

「んー?」

「寝るまで……隣にいてくれる?」

「うん」

 

 そのまま美琴は目を閉ざした。今日……ずっと面倒を見てもらってしまったが……意外と悪くない。いつか自分も家事できるようになりたい、とは思っていたが、なんかもう青葉に全部、面倒見てもらうのも悪くない気がしてきた。

 明日は仕事に行かないと……今日の遅れは取り戻す。それに……頑張ってくれば、それだけ青葉のご飯は美味しくなる。

 

「青葉」

「寝てよ、早く。治らないよ」

「明日、風邪が治って仕事行って帰ってきたら、美味しいもの食べたい」

「あーごめん。明日はバイトだから遅くなる」

「……は?」

「え?」

 

 ……てことは……病み上がりで頑張って帰ってきても……晩御飯が食べられない……? 

 

「カレー作り置きしておくから、あっためて食べてよ」

「……カレーなら良いか」

 

 うん、カレーなら問題ない。そんなことを思いながら、今度こそ目を閉ざした。

 

 

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