にちかに美琴様だけは絶対に渡さん。   作:バナハロ

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思春期二人。

 一言で言う。美琴とお風呂に入っています。

 

「??????????」

 

 な、なんでェ────ー? という感覚が拭えないのだ。現在、すでに体も頭も流し終えた美琴が同じ湯船で後ろから抱えるように青葉の背側に座っているが……緊張で口から内臓的なものが漏れ出そうだ。

 一応、美琴は浴槽にもたれかかっているし、青葉の背中は丸くしているので何も当たってはいない……が、それでも死にそうなほど心臓バックバクだ。

 

「あ、あの……みっちゃん、何かあったんですか……?」

「うん」

「あ、あったの?」

「ついさっきね」

「え……そ、そんな最近?」

 

 ついさっきって……例えば、なんだろうか? あ……まさか……。

 

「こ、こっそりエロ本買っちゃった、とか……?」

「絞めるね」

「う、嘘嘘! ジョークです!」

 

 何がまずいって、どんな技であれ絞めるという事は身体が近付く。……もし、背中に胸が当たるようなことがあれば……もう、弾け飛ぶ自信がある。

 

「じ、じゃあ……何が……」

「だって青葉……アイドルとばっか知り合いになるから」

「え? そ、それは偶然で……」

 

 不安にさせてしまった、のだろうか? いや……まぁ、青葉でも不安になる。美琴は芸能人だから、イケメン俳優との絡みも多いだろうし……逆に青葉なんて見た目はチンチクリンのクソガキだ。いつ飽きられてもおかしくない。

 なんて謝ろうかな……なんて考えているうちに、後ろから耳元で囁かれた。

 

「だから、私のモノにしておきたいんだ。……色々な手段で」

「え……」

 

 そう呟きながら、美琴は後ろから両手を回し……そして、青葉の首元にキスをした。唇の柔らかい熱が首を中心に全身へと広がっていく。

 

「えっ……」

 

 キス、というより少し噛まれ、吸われている感じだ。柔らかい唇の奥から、固い歯が甘噛みするように立てられる。痛いのに……痛くない。割と、悪くない……。

 いや、悪くないとかではない。いったい、何をされているのか? 

 

「な、何して……」

「マーキング」

「ま、マーキングって……」

 

 こ、これはまさか……たまにツイスタの漫画で見掛ける「キスマークをつける」というやつだろうか……? それも、あえて他人に見える位置に。なんか、自覚すると死ぬほど恥ずかしくなってしまうが……。

 そんな風にドギマギしている間に、後ろの美琴はさらに囁く。

 

「……一つじゃ足りないよね」

「い、いや足り……んっ」

 

 噛まれるたびに嗚咽が漏れる。なんか、こう……何故だろう。変な気持ち良さを感じてしまうのだ。

 お湯に浸かっているのに鳥肌を立てている間に、美琴の攻撃はさらに続いていく。

 

「あと……五箇所は欲しいな……」

「ちょっ、やめっ……」

「ふふ、可愛い……」

 

 マズい、と青葉は冷や汗を浮かべるしかない。食われるどころの騒ぎではない。襲われる、と確信を持って言えた。

 いや……別に嫌というわけではない。むしろ、その……めっちゃヤりたい(直球)。

 何せ、自分の憧れの女性なのだ。その人が彼女になっているだけでも奇跡なのに、その上でその上の行為を出来るとか……男なら誰でも夢見るシチュエーションだ。

 けど……でも、普通に心の準備は必要である。特に、自分は童貞だし、可能な限り美琴とは清純なおつきあいをさせていただきたいと思っていた。

 でも……このままだとそうはいかない。多分……食われる。

 

「あ、あの……みっちゃん、やっぱりこんなこと……」

「……青葉は嫌? 私とそういうの」

「い、嫌とかじゃなくて、良くないんじゃないかな、と思うんだけど……」

「どうして?」

「どうしてって……そ、それは……!」

 

 ……倫理的に、とか、そもそもアイドルでしょ、とか浮かぶのに、何故か何を言っても言い訳臭くなる気がしてしかたなかった。

 何か言わないと……と、頭の中で考えるが、その間にも後ろから美琴が首や肩にキスマークをつけて来て思考に集中なんて出来ない。

 

「……ふふ、もう7つ目……もしかして、嫌って口で言ってるだけ?」

「っ、ち、違っ……!」

「ふふ、むっつり」

 

 こ、こいつ〜……! と、顔が熱くなる。悔しくて歯痒い思いをしているのに、言い返せない。だって、実際ヤりたいしむっつりだから。

 何か言い返さないと、と考えるのだが……ダメだ、脳が溶ける。思考が出来なくなる。本当にこのまま身を美琴に委ねてしまおうか……なんて思い、瞳を閉じたときだ。

 そんな中、胸の奥底で見えたのは、数日後のありえるかもしれない未来。新聞に大々的に載った美琴の顔だ。

 

『人類最強に可愛いアイドル緋田美琴、未成年の男子高校生に手を出し、逮捕。本人曰く「私達は真剣に付き合っている」』

 

 その未来が見えた直後、目を見開いた。アイドル活動の妨げに……自分がなって良いはずがないから。

 

「そんな事……させてたまるかあああああああ‼︎‼︎」

「えっ、急に何……」

「ダークネスフィンガアアアアアア‼︎‼︎」

「青葉⁉︎」

 

 真横から自分で自分のこめかみを掴み、風呂の壁に叩きつけて気絶させた。

 

 ×××

 

「……そんなに嫌だったのかな」

 

 まさか、自分の頭を掴んで壁に叩きつけてまで気絶を取るとは思わなかった。もしかして……ファンだ何だ言っていたけど、異性としての魅力を感じていたわけではないのかも? なんて思ってしまう。

 さて……残念だけど、このままでは風邪を引いてしまう。怪我している青葉の足にも良くないだろうし。

 

「仕方ないなぁ……」

 

 ため息をついてから、美琴は青葉の身体を持ち上げた……のだが。自分の胸に青葉の背中……‥いわば生肌同士が付着したことによって、美琴の頬が少し赤く染まる。

 なんか……思ったより恥ずかしい。胸、という異性間であまりにも違う部分が当たっているからだろうか? これは、青葉がヒヨってしまうのも分かる……。

 

「……先に私だけ着替えよう」

 

 そうしよう。もちろん、濡れても良い服に。青葉を脚だけは濡れないように放置して風呂場を出た。

 まずは自分だけ着替えを済ませてから、裸の青葉を回収した。湯船から引き上げ、おんぶしてあげた時だ。

 

「……?」

 

 なんか、腰と背中の狭間に硬いけど柔らかくて熱い不思議な感触。……なんだろうか、これは? 

 まぁ、後で確認するとして……で、湯船から出たのでそのまま体を拭いてあげる。まずは頭から。で、首回り、肩に脇の下、背中……それから胸と拭いていく。全く筋肉がないが、脂肪もない落書きみたいな体を拭いていく中……ふと気が付いた。

 

「……男の子の乳首って、小さいんだな……」

 

 もし、青葉が起きていたらツッコミが飛んできそうな呟きだった。

 でも、この人母乳とか出ないのに、何故乳首なんてついているんだろう? と、少し不思議に思ってしまったり。

 まぁ、それよりも早く拭いて風邪引かないように服を着せてあげないと。そう決めて、美琴は青葉の体を引き続き拭き……始めたところで、目に入った。入ってしまった。そり返った陰部が。

 

「っ……こ、これ……!」

 

 もしかして、さっきまで背中に当たっていたのって……と、すぐに察してしまった。男の子のこれってこんなに腫れ上がるんだ……と、変に感心さえしてしまうくらい。

 よくよく考えれば、自分がこれからしようとしていた行為は、これを美琴の一番恥ずかしい場所に当てる行為だ。そう思うと、尚更青葉がビビっていた理由が分かってしまう。

 それと同時に……自身の痴女っぷりに少し羞恥心を覚えてしまったり……。確かに、青葉がやたらと敏感になるのも分かる。

 

「……でも」

 

 青葉を自分のものにするには、やはりその行為はしないといけない。そうだ、これは予行演習だと思おう。青葉は寝ているのだから、恥ずかしくない……そう自分に暗示をかけながら、下半身もタオルで拭いてあげ、パンツを履かせてあげた。

 さて、そのまま洋服を着せてあげて、おんぶして部屋に連れて行った。

 

「まったく……私の誕生日なのに……」

 

 まぁ、ほとんど自分の所為だけど。……でも、今後はいつかまたその手の行為をするかもしれないわけだし、いつかは慣れて欲しい。

 でも……それはまた今度だ。自分もちょっと改めて青葉の裸を見てヒヨってしまったから。

 

「……はぁ」

 

 ため息をつきながら青葉と一緒に眠る事にして、そのままベッドに持ち帰った。

 寝かせて自分も隣に寝転がってから、寝顔を眺める。……こうして見ると、はだけた胸元から自分がつけたキスマークが見えていてちょっとえっちだ。いや、えっちなのは自分であったが。

 何にしても……今更になってまたものすごいムラムラが頭の中を支配し始めた。なんか、こう……もう少し自分の性欲を満たせるものが欲しい。

 

「……私って、もしかしたら性欲強かったのかも……」

 

 というか……他の成人女性は一体どうやって性欲を晴らしているのだろうか? 

 

「……聞いてみようかな」

 

 桑山千雪とか激しそうだし、アリかもしれない。

 なんて失礼なことを考えつつも、だ。今日のはどうしよう、なんて考えている時だった。

 

「みっちゃん……?」

「っ、あ、青葉……?」

 

 ぬぼーっとした顔のまま目を覚ました。思ったより起きるのが早い……が、かなり寝ぼけているのか、目が半開きである。

 

「青葉、起きちゃっ……んっ……!」

「んっ……」

 

 キスされた。唇を通して舌を入れられる奴。青葉らしくない濃厚なそれを、青葉らしくなく青葉からして来た。

 不意打ちのあまり、思わず頬をあからめてしまう。

 

「ぅ、ど、どうしたの急に……?」

「なんか……可愛いなっ、って……ぐぅ」

「……」

 

 この野郎、寝惚けながら人のムラムラを刺激してくれやがって……と、美琴は容赦することをやめた。睡眠中のバカの上で、四つん這いになった。

 

 ×××

 

 翌朝、青葉が目を覚ますと、なんか肌寒かった。というか……服を着ていない? 自分の身体を見下ろすと……思わずゾッとした。胸や肩、腕に大量のキスマークがある。

 

「……えっ」

「どうしたの?」

「ひえっ?」

 

 なんか横から声が聞こえ、隣を見ると……美琴が寝ていた。裸で。

 

「っ、な、何て格好で寝てるんですか⁉︎」

「どうして?」

「どうしてって……か、風邪引くよ! ちょっと待ってて、今上着を……!」

 

 慌てて青葉は布団から出た……が、肌寒さが増した。下半身がパンツ一枚だった。

 

「きゃああああ!」

「ふふ、相変わらず女の子みたいな反応だね」

「ち、ちょっとまって! おかしいおかしい! 何があったの⁉︎」

「……覚えてないの? 昨日の夜のこと」

 

 全く覚えていない……と、頭を押さえた時だ。ズキっと痛みが走る。これは……おそらく、自分の記憶を消すために行なった一撃。つまり、それだけの事が美琴との間にあったということ。

 何があったのか……この全裸の状態、そして上半身裸の美琴……ま、まさか……自分はついに……。

 い、いや流石にそれはない。ならば記憶を失う理由がない。自分の美琴への愛は確実に……せめて自分が18を過ぎてからじゃないと、手を出したりはしない。

 ……つまり。

 

「みっちゃん! 俺に何したの⁉︎」

「……何したと思う?」

「……ま、まさか……!」

 

 ぎ、逆……と、何をされたのか理解してしまった時には遅かった。両手を自分の首に当てた。

 

「うおおおおお!」

「ちょっと待って何してんの⁉︎」

「死ねええええ俺ええええ‼︎」

「な、何もしてないから! ちょっとイタズラのつもりで、裸にして一緒に寝てただけだから!」

「そんな慰めは結構です! 殺します!」

「しまった、とんでもないことしちゃったな……!」

 

 許されない。歳の差カップル……それもアイドルが、万が一周りにもそれがバレた時には、どれだけ清廉潔白な付き合いをしていたか、が大事だ。ただでさえ危ない綱渡りをしているのに、本当に普通のカップルと同じことをしてしまったら、それはもう終わりだ。

 

「本当に嘘だから落ち着いて」

「そう思うなら上を着てくれる⁉︎ みっちゃんのおっぱいを見てるだけでも、俺は万死に値するから!」

「あ、ごめん……でもほら、何かしてたら、私の胸にも青葉のキスマークとかついてるでしょ?」

「むっ……そ、それは……」

 

 見ないようにしてはいたが、それはそうだ。あの爆乳を前に自身の性欲をフル開放すれば、確実にしゃぶりつく。

 それは、眠っていても同じことだろう。寝ていようが何だろうが、外部から幸せな感触をもらえれば、きっと覚醒するだろう。自分なら。

 

「じゃあ……ほんとに何もしてないのね?」

「してないよ。いや、強いて言うなら脱がしたけど」

「……えっち」

「それも男の子のセリフじゃないよね」

 

 喧しい、と沸々と怒りが込み上げてくる。この野郎……という事は、何があったか知らんけど変な仕返しのために人をいじって来たということか。それも……かなりデリケートな話題を使って。

 

「……みっちゃん」

「ん?」

「分かってる? 俺とみっちゃんが付き合うの、実はどれだけリスキーなことなのか」

「え……リスキーなの?」

「そうだよ。みっちゃん、自分のこと分かってる? 未成年と付き合ってんだよ?」

「……あの、もしかして怒ってる?」

「当たり前でしょ」

 

 この人は本当にアイドル活動以外の全てを舐めている。頭が悪いからか、考えが足りない……と言うより、考えられないのだろう。

 

「とにかく、怒られるじゃ済まないことはやめて。このキスマークだって……もし他の人に見られたら、どうなるか分かる?」

「……青葉のファンが悲しむ?」

「いないよ! あんたほんとのバカか⁉︎」

「え、酷い」

「もしかしたら、みっちゃんの彼氏が俺だって勘繰られるかもしれないでしょ! ただでさえ同じマンションに住んでるんだから!」

「……なんで?」

「人は妄想するのが好きだから! 有る事無い事、刺激的なら何でも言いふらすんだよ!」

 

 ただでさえ、割と根も葉もある話だ。勘繰られる=命取りになるという事は理解していただきたい。

 

「せめて、俺が成人するまで待って。……もしくは、みっちゃんに恋人がいてもおかしくないと思われる年まで待って」

 

 女性アイドルと言っても、流石に20代後半になれば恋人がいても叩かれたりしないだろう。むしろいない方が心配されるまである。

 何とか力説すると、ようやく美琴はしょぼんと肩を落として謝った。

 

「ごめんね」

「っ……わ、分かれば良いけど……」

 

 ……なんていうか、素直に謝られるとこっちが申し訳なくなるのはおかしいのに、この人にはそんな魔力がある。元々、子供がそのまま大きくなったような性格だからだろう。普通に羨ましい。

 まぁ、何にしても、これで話は終わりだ。

 

「じゃあ、早く服着ておいで。朝ごはん作るから」

「う、うん……」

 

 それだけ話して、自分もとりあえず寝癖だらけの頭を治すために、洗面所に向かった。

 鏡を見ると、映っているのは自分の顔と裸の上半身。ケンシロウのようにかっこよく北斗七星になっているわけではなく、淫らの証のようにキスマークがいくつもある。

 ……よくよく考えたら、ここに美琴が口をつけたんだよな……と、ちょっとだけ頬が赤く染まる。

 

「……」

 

 胸にキスされた……のなら、ここに口をつければ間接キスになるのでは……? なんて、今更童貞臭いことを思った。

 とりあえず……腕にもついているので、まずはそこから……と、思い口を近づけるが、ピタッと動きを止める。

 ……美琴のキスマークに自分の口を重ねるとか、それは勿体無いことしていないか? なんて思ってしまった。

 おかげで半端なところで動きを止めた直後だった。

 

「髪、梳かさないと……ん?」

「げっ」

 

 美琴が入って来た。一番、恥ずかしいタイミングで。当然のことながら、美琴はニヤリとほくそ笑む。

 

「……なんだ、ホントは青葉もキスして欲しいんじゃん」

「い、いや……こ、これは……!」

「さっきまでお説教してたのに……キスマークに間接キスしたがるほど」

「ち、違っ……いや、仮にそうだとしても、しちゃいけない事だから!」

「分かってるよ。……でも、嫌なことしたわけじゃなくてホッとしたかな」

「っ……〜〜〜!」

 

 全力で顔が赤くなる。偉そうに年上に向かって説教していたくせに、自分は隠れてそれを晴らそうとしている……なんだろう、その赤っ恥。

 

「っ、う、うるさいな! 俺はみっちゃんと違って思春期なの! 普通、高校生の体にキスマークなんてつかないから!」

「ふふ、ごめんごめん」

「も、もう朝ごはん作るから!」

「あ、待って。まだ寝癖治ってないよ」

「うぐっ……そ、そうだった……」

 

 そうだ、もともとそれをしに来ていたのだ。ほとんど同棲になっているからこそ、生活感はあまり出さずに身嗜みを整えることが大事だと思うから。

 

「せっかくだし……私が整えようか?」

「え、な、なんで?」

「全部、家事とかお願いしちゃってるし」

「……じゃあ、お願いします……」

 

 そのまま美琴に髪を整えてもらった。

 

 ×××

 

 朝ご飯を食べ終え、着替えも終えて、とりあえずのんびりと伸びをする。どちらかというと美琴の部屋で過ごすことの方が多いから、もう青葉の服がたまに部屋に置いてあったりするのはセーフなのだろうか? 

 まぁ、それよりも、今は今日をどう過ごすかだが。

 

「みっちゃん、今日はどうするの?」

「にちかちゃんに誕生日祝ってもらうよ。昨日、帰って来ちゃったから」

「あそう。じゃあ……俺は部屋に戻るから」

「えっ、一緒に祝ってくれないの?」

「いやにちかが嫌がるでしょ……」

 

 殺されかねないレベルだ。一緒に斑鳩ルカがいるかは知らないが……ただでさえ割と微妙な関係になっているのに、キスマークがついた今は……と、焦っているときだ。

 ピンポーン、とインターホンの音が鳴り響いた。何かと思って顔を向けると……モニターの奥には、にちかの顔。

 

「にちか⁉︎」

「あ、来た」

「こんなに早く来るの⁉︎ とにかく、俺もう部屋に戻るから!」

「えー……まぁ、確かに朝ご飯は食べ終わったばかりだけど……」

「……」

 

 ……その目をやめて欲しい。ていうか、そもそも人くるなら先に言って欲しい。

 

「じ、じゃあせめて着替えて来るから! 先ににちかのことお願い!」

「うん、分かった」

 

 それだけ話して、慌てて走って部屋を飛び出て隣に移った。

 ……とはいえ、だ。どうしたものか。胸元と首周りのキスマーク……どう考えたって夏が終わった直後に隠し切れるものじゃない。

 とりあえず……首回りを隠すようにマフラーを巻いて、あと長袖長ズボンに着替えて、手袋も装備した。

 

「…………暑い」

 

 こんなの溶けちゃう。というか、死んじゃう。汗が流れるなんてものではないだろうが……こんな状態で料理なんて作ったら不衛生かもしれない。

 

「よし……行くのは控えよう」

 

 その日は、部屋で引きこもった。

 

 ×××

 

 なんだかんだ骨折している身なので、家で安静にしているのは間違ったことではないだろう。

 夕方までぼんやりしつつ、とりあえずそろそろ晩飯作ろうかな、と思って立ち上がった時だ。ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。誰だろ、と思って外に出ると、待っていたのは美琴だった。

 

「みっちゃん……にちかは?」

「帰ったよ。ルカと一緒に来てたから」

「そうですか……良かった」

「いや、良くないよ」

「え?」

 

 ……あれ、もしかして怒っているのだろうか? なんか心なしかむすっとしているような……。

 

「……青葉、どうして部屋に来てくれなかったの?」

「え? あ、あー……いや、その……首元のキスマークとか隠し切れなくて……」

 

 一応、マフラーとか手は尽くしたがダメだったのだ。メールで「やっぱ行けません。ごめんね」と送ってはおいたのだが……。

 

「待ってたのに……まぁ、結局食べに行ったりしたから良いけど」

「ご、ごめんって……ほ、ほら、一応骨折してる身だし……」

「それは、そうだけど……でも、待ってたのに」

「ち、チェイン見た?」

「見てないよ。にちかちゃんと一緒だったし」

「……」

 

 仕方ない。とりあえず、今夜は美琴の好きなものを作ろう。

 

「ごめんね。みっちゃんが食べたいもの作るから怒んないで。……何食べたい?」

「ていうか、それもだめ」

「え?」

「朝ご飯も作られちゃったけど、本当なら私が用意するつもりだったんだから」

「……」

 

 そっちも思い出してしまったか……と、もう諦めるしかなかった。

 

「分かったよ……じゃあ俺、横で見てるから。何作るの?」

「青葉の好きなもの」

「じゃあ……今日は、生姜焼きとか?」

「分かった」

 

 そのまま美琴を横で見ながら二人で晩ごはんにした。

 

 

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