感動した。まさか、こんなに便利なものがあるとは。なんて、青葉は感激していた。
目の前にあるのは、ゴムの花の形をした半透明のもの。それを使えば、小皿の蓋にすることができる。ゴム製だから、それなりに伸縮自在なのだ。
従って、漬物とかの取り置きに便利だ。……まぁ、一人暮らしの青葉にはあまり関係ないが。それでも、隣のはづきには大いに関係あるものだろう。
「はっちゃん、これ良いんじゃない?」
「そうだねー。これなら少なくとも、小さいタッパーはいちいち買う事ないかもねー」
「こういう珍しいもの買ったら、下の子達は興味持ってお手伝いもしてくれるようになるかもだし、買っちゃえば?」
「でもー……うち家族多いから、このサイズ程度だとあんまり意味ないかなー」
「あー……そっかぁ」
そうだ、少量ずつ盛るおかずでも、そのお椀の数が増えれば結局多くなる。そしておかずを取り分ける際、やはり大きなタッパーに入れておいて、そこから小分けしていくだろう。
そうなると、蓋の出番はあまりないかもしれない。
「じゃあ、いらないのかもなぁ……」
なんて少し残念そうに呟きながら、何となく身体を捻っているときだ。ふと視界に入ったのは、こちらを見ている美琴だった。
「!」
マズイ、とすぐに青葉は冷や汗をかく。見られたか? はづきが。だとしたら非常にマズイ。いや、はづきを見られる分には構わない。
しかし、はづきが美琴に気付く可能性が高いことがかなりマズイ。冷や汗をかきながら、慌てて対処しなければならない……が、二人できた相手に目が合ったのに何もしないわけにはいかない。
とりあえず、はづきに声を掛けることにした。
「ごめん、はっちゃん」
「んー?」
「俺、ちょっと知り合いと一緒に来てるから、挨拶だけしてくる」
「そうだったんだー。じゃあ、ここで別れる?」
「え、いやいいよ。ちょうど別で探すもの探そうって話だったから。けど、今目があっちゃったから、挨拶くらいしたほうが良いかなって」
「まぁ、任せるよー」
ポケモントレーナーが「目と目があったら戦闘開始」と言うように、知り合い同士も目と目があったら挨拶した方が良い気がする。
そう決めると、もう一度挨拶だけしようと目を向けた……が、もうそこに美琴の姿は無かった。
「あれ……」
いなくなっちゃっていた。まぁ、いないものは仕方ない。
とりあえず、後回しにしてはづきと一緒に店内を見て回ることにした。
「ごめん、いなくなっちゃった」
「そっかー。じゃあ、もう少し一緒に見て回ろうねー」
話しながら、二人で調理グッズを探す。はづきはそれなりの大きさのタッパーを手に取った。
「うん……やっぱり、これかなー」
「いつも使ってる奴?」
「そー。安くて長持ちするからねー」
「俺も一つ買おうかな……」
「? アオちゃんも使うことあるのー?」
「あー……」
言えない。もしかしたら家をあけることがあった時、お隣さんのアイドルにタッパーを渡すハメになるかもしれない、なんて口が裂けても。
この関係がいつまで続くか知らないが、夏休みに入れば林間学校がある。二泊三日で、外に泊まりで旅行。その時に使えるかもしれない。
「うん。たまにお隣とかにカレーのお裾分けとかするから」
「ふふ、ホントご近所と仲良くできるんだねー」
「ギスっても良い事ないから。こっちは高校生のガキ一人だし、何かあった時に助け合い出来るようにしときたいから」
それは正直、嘘である。残念ながら、ご近所トラブル的な意味では、自分が美琴に助けられる事はほぼ無いだろう。タッパー購入の都合が良い言い訳を並べてみたに過ぎない。
「ふふ、しっかりしてるねー。にちかにも見習って欲しいなー」
「まったくだよ」
「宿題の件は写させたアオちゃんも悪いからね?」
「う、うん……だから顔の影濃くするのやめて……」
怒ると本当に怖いのだ。この幼馴染の姉は。……いや、というか幼馴染はこの姉だってそうか、と思い直す。昔からの付き合いだ。
「じゃ、次はアオちゃんの探し物だねー」
「いや、俺のはいいよ。特定の何かがあるわけでもないし、一緒に探しに来てる人いるし。……はっちゃんも、買い物早めに切り上げて、たまの休みくらいゆっくりしたいでしょ?」
「そっかー……じゃあ、ごめんね。ありがとう、一緒に見て回ってくれて」
それだけ話して、別れた。お互いに真逆の方向へ歩き出し、なんか別の道を行くライバルのようだなーなんて思いながら、顔を上げた時だ。
視界に入ったのは、商品棚を眺めている美琴の姿。横に誰かいるが、美琴の影になって見えないが、まぁたまたま知らない人と一緒に同じ商品を見ているだと思うのでスルー。
それより……もし美琴がこちらを見て、自分だけでなく後ろのはづきにも気付いてしまったら……。
はづきと美琴は同じ職場。283という芸能事務所なのだから。知り合いに会えば、挨拶の一つくらいするだろう。そして、そうなればはづきに自分と美琴が知り合いということがバレる。
もしバレれば、さらにそこからにちかへ……。
すぐに青葉はその場で旋回し、はづきの後を追って片腕にしがみついた。
「っ、あ、アオちゃんー? どうしたの?」
「や、やっぱりもう少し一緒に回りたいなって。こんな機会、中々ないし!」
「ふふ……もう、ホント甘えん坊なんだからー」
「にちかよりマシでしょ」
「はいはいー」
そのまま二人揃って回り始めた。
×××
にちかは、幸せだった。まさか、偶然出会った憧れの人と一緒に、I○EAデートできるなんて。
正直、嬉しいの一言に尽きる。これも運命なのかもしれない。自分と美琴は、切っても切れない縁の中にある……そう強く確信してしまう程度には、幸福の渦の中にいた。
なので、気が付かなかった。時折、美琴が何かに気付いたかのように方向転換している事に。
「にちかちゃん、そういえば私……ちょっと、しゃもじ見たい」
「しゃもじ⁉︎ なんでそんなピンポイントなものを……⁉︎」
なんか言い訳臭く見たいものを提案しているのも気の所為なのだろう、と少し曇りメガネのままついて歩く。
本当にしゃもじを置いてある場所に到着し、眺め始めた。
「さすがに、しゃもじに工夫も何もなさそうだね」
「はい。カラフルではありますけど……わっ、見て下さいよ。青のしゃもじとかあるんですねー」
「うん……やっばり、しゃもじは白が良いかな」
「そうですね。しかも、白って普通に炊飯器とセットですし、ぶっちゃけ何売ったんだここ? って感じですよねー!」
「あ、黄色もアリかも……」
「で、ですよね! 何も白だけが正解ではないですからねー!」
慌てて肯定した。なんで自分はいちいち、一言多いのか、と焦りながらも笑顔で受け答えする。
そんなにちかが少し焦りながらも会話する中、何一つ気付いている様子のない美琴は「あっ」と声を漏らした。
手に取ったのは、持つ所がやたらと太いしゃもじだ。
「すごいね。これ……取手がスタンドになってて、机の上に立つんだ……」
「へぇ〜……自立するしゃもじってことですか? それは面白いですね」
「買っちゃう? これ」
「えっ⁉︎ いや、流石にしゃもじだけ買ってもうちにあるし使わなさそうな感じは……」
「そっか……残念だな。せっかくお揃いにできると思ったんだけど……」
「と思ったけど、家で歌の練習する時、マイクの代わりになるので買っちゃいましょう!」
「マイクの、代わり?」
思い付きで肯定してみたものの、我ながら意味不明だ。そんなアイドルごっこする子供みたいな真似、遅くとも小学生で卒業しなければならないだろうに……。
恥ずかしくなってなんて言い訳しようか考え始めている時だ。目の前の美琴が、しゃもじを握って口元に運び、控えめに「あー」と声を漏らす。
「ふふ……確かに、マイクっぽいかも。面白いね、にちかちゃん」
「っ、い、いえいえ! ……え、今面白かったですか私⁉︎」
「じゃあ、二人で買って、これで自主練しよっか」
「は、はい!」
なんかよく分からないけど、褒められた上に各々で同じ特殊な自主練を約束してしまった。
小学生の時、星○飛行でランカちゃんごっこをしてた時、マイクの代わりにしゃもじを握らせてくれたバカ幼馴染に感謝である。
さて、そのしゃもじもカゴに入れて、さらに見て回り始めた……その時だった。自分の肩に、美琴が手を回す。
「にちかちゃん、お手洗い行きたいな」
「あ、は、はい! 行きましょう!」
また急に行き先が変わった気がしたが、気にせずににちかは後に続いた。
近くのトイレまできた。さて、ここで問題がひとつ。カゴをどうするか、だ。トイレの中に持ち込むわけにはいかない……かと言って、トイレの外に放置も良くない。別に買ったわけでもないので盗られても大きな支障はないが、一々、取りに戻る必要がある。
そのため、別にそもそもトイレに行きたかったわけでもないにちかは、見張り役を買って出ることにした。
「美琴さん、私ここで待ってますので、先に行ってきてください!」
「ありがとう」
にこりと微笑んで、傍にカゴを置いてトイレに入っていった。
さて、しばらく待機。ちょうど良いリラクゼーションタイムである。ちょっと心臓がもたない。
……少し前まで、幼馴染と一緒に追いかけていたアイドルと、今ではこんなに近い距離で買い物デートしてるなんて……と、未だに信じられない心地でいた。
ハッキリ言って幸せだ。だが、それを強く感じるほど、その幼馴染へ申し訳なさが強く出て来てしまう。
自分だけ良い思いしているようで、なんだか悪い。本当なら紹介してあげたいが、青葉のことだ。どうせ「ファンにユニットメンバー紹介するとかバカなの? 死ぬの?」と怒られる。
何より、そもそもユニットメンバーになってしまったことさえ、可能な限り隠さないと消されてしまうのだ。いつかは打ち明けるにしても、タイミングを測らねばならない。……なんだかんだ、悪い奴ではないので嫌われたくないし……。
そう思っている時だった。
「あれ、にちかじゃん」
「キラッ⁉︎」
「え、なんで急にランカちゃん?」
「えっ……な、なんであんたここに……⁉︎」
「にちかー、こんな所で何サボってるのー?」
「お、お姉ちゃんも⁉︎」
今、一番会っちゃいけないアホタレと出会してしまった。姉はともかく、なんで青葉がここにいるのか。
「買い物だよ。手がこんなんなっちゃったから、まともに料理も出来ないし」
「あー、お姉ちゃんに怒られたのに料理まだする気なんだー。いっけないんだー?」
「残念でしたー。もう許可もらってまーす」
「ちぇーっ」
「アオちゃん、お手洗い良いの?」
「あ、そ、そうだった。待ってて」
言われるがまま、青葉ははづきの代わりに持っていたカゴを置いて、トイレに引っ込んだ。
にちかの隣で待機するはづき。姉妹揃って荷物番である。
「お姉ちゃん、なんで青葉いるの?」
「さっき言ってたでしょー?」
「いやそうじゃなくて……マズイって。美琴さんもここにいるし、もし鉢合わせしたら……!」
「え、み、美琴さんもいるのー?」
流石にはづきもマズイと理解する。単純に、あの緋田美琴と青葉が出会うだけでも問題だ。おそらく青葉は、興奮のあまり絶叫して絶命するかもしれない。
「その美琴さんは、今どこなのー?」
聞かれたにちかは、無言でトイレを指差した。つまり、にちかはサボりではなく、美琴の付き添いでトイレの前に来ている。
「にちか、私の荷物見ててー」
「あ、うん。お姉ちゃんは?」
「中に入るー。美琴さんの足止めするから、アオちゃんが出てきたらにちかが連れ出してくれるー?」
「えー……せっかく美琴さんとデートだったのに……」
「そのカゴの中のしゃもじ買ってあげるからー」
「っ……し、仕方ないなぁ」
「ていうかなんでしゃもじー?」
「し、しゃもじじゃなくてマイク!」
なんのこっちゃ? みたいな顔をされるが、自分と美琴だけの秘密である。
「じゃ、よろしくねー」
「うん」
言われるがまま従うことにした。
さて、姉も中に入り、一人でしばらくのんびりする。すると、先に出て来たのはやはり青葉だった。
「ふぃ〜……あれっ、まだいたんだ。はっちゃんは?」
「うん。トイレ」
「てか、お前誰まってんの?」
「たまたま会った友達」
友達、なんて気やすい呼び方をしてしまって申し訳ないが、それくらいしか思いつかない。
「長いな。ウンコとかじゃねえの?」
「殺すよ。というか、自殺したくなるよ」
「え、ドユコト……?」
美琴がいることをバラせない理由、追加である。この男なら自殺とか言いかねない。
まぁそんな事よりも、だ。今は青葉と店内を見回る必要がある。
「ね、青葉。どっか見に行かない?」
「いや、いい」
「は?」
「荷物番してないといけないから」
「……」
仮にも幼馴染でアイドルやっているJKが誘っているというのに……なんなのか、この男は。
だが、今はそんな場合ではない。グッと堪えて話を進める。
「いいから行こうよー。どうせすぐお姉ちゃんも出てくるしー」
「いや、はっちゃん出て来てもにちかの友達は困るでしょ。お腹下してたら、長いこと荷物放置することになっちゃうし」
「いや大丈夫だから。多分、ついでにメイクとかしてるんだと思う」
「てか、すぐ出てくるなら待ってりゃ良いじゃん」
この男、割とごねてくれやがる……と、思わず焦りが顔に出る。そんな中、にちかイヤーがとらえた姉の声。一人で喋るわけがないので、おそらくもう既に美琴と一緒にいるのだろう。
つまり、少なくとも美琴は個室から出ている。その時点でピンチ……!
そう強く判断したにちかは、強引な手に出ることにした。
「青葉」
「何?」
直後、正面からハグをした。
ハグ……それは、二人が思春期の中でも特に思春期だった、中学二年の夏の話。
二家族で海に行った時、ハンパに知識があった二人は、まだ見ぬ成長期をお互いになじり合った末「じゃあどっちのが成長したか、ハグで確かめようじゃねえか!」と謎の解決策を提案。
ハグをした結果、水着姿であった事と、確かな柔らかさと硬さを実感し、妙な空気に。
その場に現れたはづきにちょっと斜め上な勘違いでこっぴどく叱られ「もう二度と間違いは起こさない」と約束し、その場は治った。
つまり……はづきが現れ、これを見られたら終わりなわけで。
「バッ……何して……!」
「じゃあ、早く二人で店内見て回って」
「なんでそこまで……え、俺のこと好きなの?」
「いいから早く!」
とりあえず、見られないためにもその場を移動した。
ギリギリ、トイレから出て来た大人組を避けるような形で、なんとか見られることなくその場を後にできた。
×××
さて、それからも、まるで見えない何かと闘うように買い物を続けた四人は、しばらくして七草姉妹が帰宅の時間となり、解散。
従って、青葉はそろそろ美琴と合流しないといけない……のだが。
「連絡先交換してねえじゃんよ……」
普通に失敗した。そもそも、一緒に出かけること自体、想定していなかったし、急な用事は玄関から出てインターホンを押せば伝えられる距離に済んでいるし、必要とすることがなかった。
というか、自分は全然、自分が欲しい商品について見れていない。いや、それはこの際、後回しだ。まずはせっかく付き合ってくれている人に合流しないと……と、思っていると、ピーンポーンパーンポーン、と店内アナウンスが流れた。
『○○市よりお越しの、一宮青葉くん、一宮青葉くん。お姉さんがお待ちです。至急、迷子センターまでお越し下さい』
……は? と、声音が漏れた。
×××
「ああいう呼び方やめて下さいよ!」
「だって、一番早いかなって」
「恥ずかしさも一番でした!」
と、思わず声を荒立ててしまう。
現在、迷子センターで合流してから、小腹が空いたので二人でホットドッグを食べている。
こうしている絵はデート感あるのだが、やはりどこまで行っても歳と身長差的に姉弟に見えてしまうが、それは好都合。
……それ故に、迷子センターという手段が使えたのは納得いかないわけだが。
「もー……死ぬほど恥ずかしかったんですけど……」
「どうして?」
「……俺が迷子になった、みたいになってたからじゃないですかね?」
「なんで疑問系?」
いや、まぁぶっちゃけ実際、多分周りにとっては「しっかり者の弟とポンコツな姉」に見えたのではないだろうか? まぁ、恥ずかしかったのは「周りの人にめっちゃ注目されたから」なのでどっちでも良いが。
「それより……美味しいね。ここのホットドッグ。パンカリカリで……マスタードも濃いし」
「はい。コ○トコのホットドッグもこんな感じですよ」
「コ○トコ?」
「え、知らないんですか? 海外の冷食とか食品とか売ってる大型のお店です。賞味期限超短いけど、50個入りのパンの袋とか売ってますよ」
「50。つまり、それ一袋で」
「50日分の朝食は賄えません。賞味期限短いって言いましたよね?」
というか……その発想、少し納得がいかない。自分が毎朝作ってあげてるのに、結局は楽な方が良いのだろうか?
少しむすっとしていると、それに気付いた美琴が不思議そうな表情で聞いてきた。
「どうしたの?」
「いえ、別に。……ただ、俺が作った飯より、やっぱりパンのが良いのかなーと思って」
「……」
少し、我ながら面倒臭いことを言った自覚はあった。実際、時間がない時とかはパンだけの方が良い事もあるのだろう。
しかし……それでも、やはりちょっとだけ納得出来なかったりした。
すると、美琴は少しだけ目を丸くする。心なしか、ほんのり頬が赤い。やがて、何を思ったのか、その驚いている表情のまま聞いてきた。
「君……もしかして、よく『可愛い』って言われない?」
「言われないですよ!」
「……ほんとに?」
「ほんとに! てか、男が言われるセリフじゃないでしょそれ!」
「……まぁね」
「……え、てかそれ……俺が今、可愛かったってことですか?」
「うん」
「……や、やめて下さいよ……別に嬉しくないですし」
「わ、嬉しそう」
「嬉しくないですってば!」
正直、可愛いという言葉自体は嬉しくない。美琴に褒められたことが嬉しいだけだ。
「まぁ、照れないで」
「照れさせた人が何言ってるんですか……はぁ、とりあえず、食べ終わったら買い物、再開しましょう。まだ何も進んでませんし……」
「それなら、いくつかメモしておいたよ」
「へ?」
「いや、元々そういう予定だったでしょ」
「……」
そういえばその通りだ。完全に忘れていたが。
「え……でも、美琴さんが覚えてて下さったんですか?」
「え……失礼の極み?」
「あ、いえそういうつもりじゃ……」
「一宮くんは忘れてたの?」
「え……あ、あー……は、はい……」
恥ずかしい……と、頬を赤らめて俯く。自分のものを買いに来たのに、自分はそれを忘れてにちかやはづきと楽しんでしまっていた。
「くすっ……一宮くんも、そういうとこあるんだね」
「わ、笑わないで下さいよ……!」
「ううん。ただ、私も忘れずに買い物は出来るからね」
なんか含みがある言い方だったが、とりあえず間違ったことは言われていないので、笑顔で受け流した。
「じゃあ、どんなのがあったのか、聞いても良いですか?」
「うん。感謝して聞いてね」
「あ、あはは……」
苦笑いを浮かべてしまった。
さて、一つ目のプレゼンが始まる。
「最初に見つけたのは、底が編み状になってるおたまかな」
「ああ……油切るためとかですか?」
「すごい……すぐ分かるんだ」
「分かりますよ。……うちだと、チラシの上に菜箸で移して使ってますね」
「……そんなので代用になるの?」
「なりますよ。鍋とかに溜まった古くなった油を片付けるのもチラシとかで拭き取れます」
「ふーん……そうなんだ」
「でも……俺、今片腕使えないですし……揚げ物には確かに使えるかも……」
片手に紙を用意し、片手に菜箸を握って食べ物を乗せるのは腱鞘炎では無理だが、おたまで掬うのならいける。
アリだ。買ってしまおうか。まぁ、実物を見てみないと何とも言えないが……まぁ、見てみるしかない。
「それ、後で見に行きましょう」
「うん」
「他に何かあります?」
「勿論。……あとはね……」
と、いろいろ話を聞いて、買いものを早めに片付けた。
×××
さて、買い物を終えて、いよいよ二人は帰宅。部屋に到着し、二人で青葉の部屋に入る。
「ありがとうございます。タクシー代まで出していただいて……」
「気にしないで良いよ。元々、私の為だから」
そう言われても、やはり気にする。まぁ確かに自分だけのためなら、完治するまでの間は料理なんてしないで本当に買い食いで済ませていただろう。
確かにそう言われると、7〜8割は美琴のため感は否めない。
「お礼に、晩御飯ご馳走しますよ。何か食べたいものありませんか?」
「ホント? ……じゃあ、やっぱり揚げ物かな。それこそ、天ぷら蕎麦とか」
「分かりました。暑いですし、冷たいの?」
「うん」
とはいえ、包丁が使えない以上、かき揚げは無理。というか、野菜全般厳しい。
まぁ野菜に関しては、ミニトマトで誤魔化すとして、問題は天ぷらの中身である。アジ、舞茸は確定として、他にもう一種類欲しい……。
なんて思いながら、とりあえず食材の確認をする。晩飯にはまだ早い。
「うーん……ししとうとかなかったかな……」
そんな呟きをしながら、青葉は冷蔵庫の中を漁りつつ、チラリと美琴を見る。今日は本当にお世話になった。荷物も持ってもらってしまっていたし、今日は助けられた日、という感覚がすごい。とてもお世話になってしまった。
ちょっとだけ不思議だったりする。美琴がここまで自分に世話を焼いてくれるのは珍しい。急にどうしたのだろうか?
「一宮くん」
「なんですか?」
「何か手伝おうか?」
「え、いやいいです」
断ってしまったが、やはりちょっとやたらと気に掛けられている。いつもなら「手伝おうか?」なんて言葉は出てこない。
……もしかして、腱鞘炎を気にしているのだろうか? なんかそんな気がしてきた。
「あの、美琴さん」
「……何?」
あれ、なんか少し不機嫌……なんて思いつつも、構わず続けた。
「腱鞘炎は、ホント自滅だと思ってるので、そんな気になさらなくて良いですよ? 美琴さん、普段ならこの時間トレーニングとかしてますし……行ってきてください。俺のことなんてホント気にせず……」
「この時間、一宮くんも普段は掃除してるでしょ?」
「……まぁ、それは」
もしくはバイト。だが、まぁ確かに少なくともこの時間に晩飯の準備をすることなんかないが。
「たまには、年上らしい所見せておきたいって思ったから、少しはお手伝いしてるだけだよ。別に私、家事全く出来ないわけじゃないから」
なんか……急に家事出来る、みたいなこと言い出された。そんな中、思わずハッとする。もしかして、この人……「え、家事何も出来ない人に何を……や、はい。お気持ちだけいただきます」というセリフを気にしているのでは……。
そんな風に思えてしまったので、とりあえず青葉は言ってみることにした。
「じゃあ……掃除機だけ適当で良いのでかけてもらっても良いですか?」
「分かった。家事、出来るからよく見てて」
「アッハイ」
そう返しつつも、今後は口に気をつけよう、と思った。そもそも、自分は基本的に口が悪い。それは、にちかの前の自分が素だからだ。
だから、油断するとつい憎まれ口がぽろっと落ちてしまう。仮にも憧れの人にそれはマズイだろう。
そう強く決心し、とりあえず「あの小言を気にして家事出来るアピールする美琴」の可愛さにしばらく悶えた。