トレーナー♂×ルドルフ短編集(雑)   作:えいじあ

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今日はルドルフの誕生日!

 「今日は私の誕生日……だが、生徒会の業務もトレーニングも、全てにおいて気を抜くわけにはいかない」

 

 いつも通りの朝、天気は曇り。弥生(さんがつ)の中旬ともなると流石に暖かくなってきて、冬場の白く冷たい早朝の雰囲気は消えている。

 「今年もルドルフは変わんないなぁ」「おや、それはどういう意味なのかな?」と微笑みを交わしあい、彼からプレゼントの箱を受け取る……。

 

 「これは……新しいドライヤーか」

 「うん、最近なんか髪気にしてるって言ってたよな。一番ルドルフの髪質に合いそうなの買ったから、具合が良ければ使ってくれ」

 「恩に着るよトレーナー君。……ふふ、こんな自作自演もあるのだな」

 「……?」

 

 髪を気にしているのは、元はと言えば彼の気を引くためだ。それから少しヘアアレンジに興味が湧いて、髪を触る機会が増えたのは事実だが……とにかくこのプレゼントは実用的だった。ドライヤーは自分の物ではなく寮に設置されている物を常用していたし、高級品というだけでやはり性能は違うだろう。

 それにしても……“人間用”か。近頃のウマ娘たちのトレンドらしい人間用ドライヤーを押さえているとは、わからないなりに色々調べて買ってくれたのかな。それともウマ娘の毛並みについてはトレーナー養成学校で教わるのだろうか……なんにせよ上手い事私のニーズを捉えている。流石に愛おしいな君は。

 最近の私の悪い癖なのだが、何か嬉しい事を彼にされると、途端にトレーナー君に意地悪したくなってしまう。お返しに、というか正直に感謝するだけでは物足りないような気がしてしまうのだ。幼少より鍛えてきた理性の壁が薄くなるというか、たまに彼はその腕で壁を破壊してくるのだけれども……。

 

 「そういえば、私の髪の毛については君にも話した事が余りなかったような。やはりトレーナー職というのは、見ただけでもウマ娘の髪質がわかってしまうのかな?」

 

 思わず、挑発するような行為に走りがちである。長髪だけに、ふっ……。

 

 「か、からかわないでくれよっ……なんとなく、綺麗だなぁなんて思ってただけで……」

 「いや何、ヒトとウマ娘では違うと思ったのでね。たまには眺めるより、直接触ってみるかい? ……皇帝の髪の毛」  

 

 困り眉であたふたするトレーナー君が可愛い。大丈夫、朝練までは多少時間が余っているからね。この甘え方は初めてやってみたが、我ながら中々巧妙だったな。

 

 「うぅ、こういう時は頑固になるんだよなぁ……」

 「まあまあ、誕生日だから。さあほら、ここに座っているから存分に触ってくれ!」

 「やっぱり去年と同じじゃないかも……」

 

 背後にトレーナー君が立って、恐る恐る後ろ髪に触れ始めたのがわかる。まずは指先で毛先を摘まんでいるみたいだった。……女性の髪に触るのは初めてらしいとすぐに判明して、私も少しづつ心がときめいたりする。

 

 「どうだい、手入れはきちんと出来ているかな……?」

 「うん、ふわふわしてて凄く柔らかいよ。……見た目は癖があるからもっとゴワゴワしてるかと思ったけど、触ってて落ち着く感じだ。布団みたい」

 「布団か……流石に作るには毛量が足りないだろうな」

 「はは、ぐっすり眠れそうだけど——」

 

 トレーナー君が後ろ髪を手に掬ってなで始めると、何だか私も穏やかな心持ちになってくる。彼も同じ気持ちなんだろうか、指先から穏やかな雰囲気が髪を伝って、直接流れてくるような……大袈裟かもしれないが、心が一つになったかと錯覚する程だった。流石に髪の毛まで神経は繋がっていないのだが、凄く近くにいるような。

 待てよ、冗談のつもりで言ったのだが、私の毛で作った布団……それならば、私の匂いがする筈である。それでぐっすり熟睡すると言うのは、何ともまあ……少し、破廉恥な気も……。

 後ろを盗み見たら、彼の顔が真っ赤に染め上がっていた。……私の顔もバレてしまっただろうか。耳と尻尾が言う事を聞いていない気がする。

 

 「……すまない、続けてくれ」

 「……うん。いや、まぁ……誕生日だしな」

 

 それはまるで魔法の言葉だった。特に近頃の燻ってばかりの私からしたら、全ての行いの言い訳として使えるから最高だった。無論、私にとっての祝日は今日だけではなく、家族の誕生日、トレーナー君の誕生日と今日だけが特別と言う訳でもない。正しき行いであればどんな日時、状態であっても関係ないとすら思っている。別にそれ専用の日でなくとも、トレーナー君を心の中でどれだけ、何度、愛おしく思おうが構わないだろう。しかし、彼自身の口で‘‘誕生日だから’’を言われたのなら、何もかもが許されるのではとさえ思ってしまうというもの……。接吻とか、抱擁とか……夢幻の中では幾度となく繰り返した行為が脳裏によぎる。いや、まさか今日する事はないだろう。うん、今日初めてする事ではないな……。

 

 「何だか、練習した事ないし、種類もさほどわからないけど……色んな結び方が出来そうな髪だ」

 「そうなのか。では、君はどんなスタイルが似合うと思う?」

 「うー…………ん。ポニーテールとかいいんじゃないかな、ほらトウカイテイオーみたいに。きっと似合うぞ」

 「ああ、確か駿大祭の時分はその髪型だったな。私も気に入っているんだ」

 「え、あ、そうだったか……。ごめん、しばらく見てないと記憶から抜け落ちちゃって」

 「ふふっ……いや良いよ。だって君、それなら髪型を変えるたびに叫んでくれるだろう?」

 「うっ、お恥ずかしい……」

 

 取り留めのない会話、しかして幸福。最初は恥ずかしがっていたトレーナー君の手つきも段々と勢いを増してきて、後ろ髪をまとめて撫でる程に調子付いてきている。うなじに手の甲が擦れるとくすぐったくて、んっ……と生娘風の声まで出てしまって……しっかり聞かれていたら中々恥ずかしいな。後ろを向いていて救われた。

 窓の外は明るい。雲が横にずれて、強めの黄色い日差しが射し込んできたのだろうか。小鳥のさえずる声も聞こえる。チロチロと忙しなく春の訪れを伝えるのは、やはりいつものメジロだろうか。

 

 『トレーナー君、好きだ』

 

 ドッ……っと、大量の汗が出た。数秒後に頭の中で恋のノートを読み上げただけだと気付くまで、胸の鼓動が鳴り止まなかった。顔も手も額も、多分全部燃えるように熱い。熱くないのは髪の先だけだから、今日も恋心は偶然バレていないのだ。

 それがいつもの日常。昨年度から寸分たりとも変わることのない、私と君の関係性。……しかし君の言う通り、少々私の方が感情が肥大化しているやもしれないと思う。だって、毎日君への大きな感情を抑え込むので、結構な体力を使っているからね。

 今日はシンボリルドルフの誕生日。『皇帝』の誕生日でもある。ただの恋愛下手なウマ娘の誕生日でも。

 誰かがこんな情けない私を見たら、普段の強気とのギャップで確実に笑われてしまうだろうな。別にそれ自体は克服したから問題ではないのだが、結局の所私はこの関係が進展しない事には成長する事はない。でも成長しないと進まなそうなのが、鈍感なトレーナー君の一番ずるい所なのだ。

 

 「なぁ、ルドルフ。こっち向いてくれないか?」

 「えっ……?」

 「……誕生日だからさ」

 

 突然(だしぬけ)に、トレーナー君がそう言った。私は最初にひどく驚いて、同時に彼の度胸に感嘆しかけて。膝を横に傾けて、何度か戻し、悟られないように小さく震えながらも、遂に——振り返った。座ったまま、同じくいつの間にか座っていた彼の顔が目の前にあるとも知らずに。

 お互いに、お互いの事を好いていると知っているだろうトレーナーとウマ娘。そんな二人が、至近距離で向かい合った。

 

 「…………前髪も、綺麗だな。この辺りは黒くて、その中に白い流星だ」

 「……あ、ぁぁ。と、とれーなーくん。その……そこまで見つめられると、はずか、しい……」

 「うん、俺も恥ずかしいよこれっ。……でも、誕生日だからプレゼントがないと」

 

 私の癖のある前髪を、流星の先っちょを指先で優しくつねるトレーナー君。穏やかな顔が目と鼻の先に鎮座して、かと思ったらゆらゆら揺れて。私の心は、火になって燃え上がる。

 今年の誕生日は、‘‘いつも’’とは違ったと言えるだろう。だってこんなに真っ赤になった顔を近付けながら、前髪を触らせるなんてどうかしている。キスよりもハグよりも、ずっと濃い匂いが漂っている。

 久しぶりにトレーニングのスケジュールが予定通りに行われなかった。生徒会室にいる間、エアグルーヴとブライアンに髪が乱れていると伝えられた。

 

 

 

 

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