【RTA】呪術な世界を駆け抜けるレタス【Any%Glitch】 作:支部の々
▼
惨敗。
『どうかした?』
『いや……、なにか……悪寒が』
いやわかっちゃいましたとも。なんとなく予想できてたよ。私だってね、10時間近く走ってますから。でもさ、うん。あークソ、この世に神なんていない。はっきしわかんだね。
はい、皆さんもうおわかりですね。視聴者さんはこれちょっと期待してたんじゃないの?夏油傑ですよ、プレイアブル。こいつレタスのこと好きすぎか???
ほんとやめてよねー、ラスボスで使ったことないキャラがプレイアブル?レタスは緻密にチャートを練ってその通りに進行することに定評のある走者ですけど?そこにこんなぶっつけ本番とか鬼畜じゃん……。幼女だったら絶対泣いてた。
そもそもこれ、おそらく好感度?が最も高いキャラがプレイアブルになるんです。多分。RTAでは犠牲になりがちな好感度ですから、大体のキャラクターの好感度は底辺でどんぐりの背比べしてます。するといっそ誰がプレイアブルになるか測れないんですよね……。だからってこれはないけど。
はー……がんばろ。これ終わったらレタス、……待ってこれフラグっぽい。黙りまーす。
で、夏油傑に五条悟がいて……あれ、こいつ、お助けキャラ兼中ボスの曜ちゃんのそっくりさん。なんで椅子に縛り付けられてんの?
『うふふ……。これには涙なしには語れない長い長い話があるんだよ……』
あ、じゃあ良いです。
『君がどうやって僕を撒いたかもこれから起きることの説明も、きちんと納得いく形でしてもらいたいんだけど?』
『だからあ、もうそんな時間ないって。あたくしの××××がもうここまで来てンだよ。わかんない?新宿も渋谷も、もう呑まれただろうね。じゃあ、次はここだ。そうだろ、ねえかわいいさん?』
『そのかわいいさんっていうのは私のことかい?もう30近い男に対していうようなことじゃないと思うけど』
『俺にとっちゃあまだまだクソガキもいいとこだ。たかだか30程度で悟ったフリすんなよ。見苦しいぜ』
『……待って、シンジュク、ってなに?渋谷はわかるけど』
『……悟?』
『無駄だよ?どうせすぐに渋谷だってわかんなくなる。……ほら、そろそろかなあ。ね、五条悟。これ終わったら渋谷連れてってくださるでしょ?』
『え?なんで僕がお前なんか……しぶ……や……?』
『そうだ、もうすぐ曜がこっちくるんでしょ。どうするの』
レタスもこのイベント見るのは初めてかもしれません。うっかり飛ばし損ねちゃった。うーん、これ夏油傑と五条悟が共闘してたら起きるイベントとか……?
ていうか怖いな……なんで五条悟は渋谷と新宿がわからなくなってんの。ホラーじゃん。ホラーだったわ。
『さと、』
『無駄だって言ってんじゃん。××××依存の尖兵にとってそれはただの音節以外の意味を持つもんじゃあないんだよ』
『いつ戻る?』
『戻らんよ。これが正常なんだ、彼にとってはね』
『……気持ち悪い』 『マ、んなこたぁどうでも良いんです。ここで議題にすべきはあの子でしょ?……一応、放っておいても平気。どうせ自滅する。……まあ、それまでてめえらが生きてれば、だけど』
『そんな簡単に僕らが死ぬと思う?あの子の戦い方は確かに特殊だけど……別に向こうに決定打があるわけじゃないでしょ?』
『ん、ん?いや、××××がついてないんだ。戦い方、変わるけど?』
『はあ?そんなこと聞いてない』
『言っていないもの。だから、そんなに強いわけじゃあない。良いかい、××××ほどあたしたちを上手に踊らせることができる方なんていないんだよ。あたくしだってね、ここまで動けるようになるまでどれだけかかったと思ってらっしゃる?たかが10にも満たない時間しか生きてないあれにあの動きができるものか』
『ええと……つまり、弱いってこと?』
『だからあの鏡だけは気をつけるんだよ。映っただけで死ぬから気をつけてね?』
『ほら、お越しになった』
▼
「だからあ、今さら縛んなくたって逃げないよぅ。一緒に逃げてきた仲じゃあないの。こんなのっ……酷いわ」
わざとらしい泣き真似は悲壮感がない。いっそふざけているようにも見えた。
「そうは言ってもね、君、怪しすぎるんだよ。いきなり湧いてきて……。術式だってめちゃくちゃだ。正直どうして生きてるのかわからない。僕を撒いた方法だって聞きたいしね」
「でもでも、そんなの今話したってどうしようもないんですよっ。お前ら、今の状況わかってんの?あの子が侵攻中なの。世界が滅びるのが先か君たちが飲まれるのが先かって状況なの。わかってます?そりゃね、ぼかぁ君たちがどうなろうが知ったこっちゃないけどさっ」
「でも君は世界を救うんだろう?滅びるままにしておいていいのかな?」
「知ったふうな口をきかないで欲しいんだよっ!わかるかな?世界を救うってのはね、世界が滅びの危機に瀕してなきゃなんないの。だって喉が渇いたから水を飲むんでしょ?喉渇かないのに水に手を伸ばすようなこと、するかな、するかなっ?しないよね!」
「つまりこの状況は君にとって歓迎すべきことってこと?」
「そんなことは言ってないぜ?だってあたし、忠告したもん。夏油傑。覚えてるだろ?俺言ったよな、鏡を完成させるなって。つまり僕さまちゃん的にはこれは望んだ結果ではないんです、はい」
「要領を得ないな」
「要領なんてね、得るもんじゃないんだよ!この世界じゃあなんの意味もないからさ」
古い教室に古い椅子。座面のすり減ったそれに雑に縛り付けられた男とも女とも知れないそいつは、いかにも不満ですと言わんばかりに足をばたつかせた。足も縛ったほうが良かったかな、なんて夏油はぼんやり考える。
つい先日までその椅子には全く同じ顔をした別の子供が座っていて、けれど吐き出す言葉が全く違うものだから不思議な気持ちになる。強いて言うならば、ただどちらもひたすらに『かみさま』とやらに心酔していた、と思う。けれど、こんな事態になっても助けてくれない『かみさま』と言うのは本当に怠慢だ。存在こそ確信しているようだけれど信仰するには値しないだろう。
弾むような言葉がくるくると回っている。それに伴って表情も変わる。これはあの子供にはなかったものだと、ふと思った。
……いや、
「なーに?そんなに見ちゃ、
「随分、表情がよく動くようになったなぁ、と思ってね」
「……そう?」
こいつは、夏油が見てきた同じ顔の人間の中で、最も表情も音葉も豊かだ。けれど、彼が初めて接触した時はそうでもなかったような気がする。
「……あんたの考えてることは大体わかるから説明したげるけど、理解できるかは知らないよ。おおむね、親しみやすくなったとか、人間らしくなったとか、そんなとこだろ」
面倒くさそうな顔。透明なガラスの目ばかりが人間味がなくて、どうにも目を惹く。人間と無機物の境界に立っているように見えた。
「いわゆる、一般化。あるいは矮小化。ケルトの神々がキリスト教に飲まれる過程で信仰を失い矮小化して妖精になったのと同じさ。サイズも小さくなってね。単純に信仰の綱引きに負けたんだよ。ボクはあの子との綱引きに負けたんだろう。わたしは一応肉の器を持っているから大きさ自体が小さくなるこたぁなかったけれど、まぁ……」
「つまり弱くなったと?」
「存在の格が落ちた、の方が正しい。……なんていうか、そう。ぼかぁね、いまとなっちゃあ君らとさして変わらぬ人間ってことさ。そうでもなきゃこんな風に縛り付けられる理由もない」
「まるで自分が人じゃなかったみたいな言い方だ」
「そう言ってんだよ、バカだね」
▼
かみさまがくるよ、とそいつは言う。夢を見るような瞳は、かみさまとやらのことを思うときばかり光を灯すから、それはそれは美しい景色が写っているのだと思えるほどだ。
そいつはどこか遠くを見ている。目の前で夏油が手を振ったところで、きっとそれは目に映っていない。夏油はもう、この世界に遠くなんてないことくらい、とうに悟っていたからなおさらその視線の先が気になる。そして彼には望めない遠くに焦がれるその姿は、いっそ狂おしいほど嫉ましい。
おまえが、どこにも行けないと突きつけてきたくせに。
無意識に唇を噛む。
知っていることは、不可逆的だ。
この感情に行き場はない。
知っていることは、知らないことより残酷だ。
「ねえ悟、もし私が、
悪寒。
「どうかした?」
「いや……、なにか……悪寒が」
『いやわかっちゃいましたとも。なんとなく予想できてたよ。私だってね、10時間近く走ってますから。でもさ、うん。あークソ、この世に神なんていない。はっきしわかんだね』
軽妙な語り口。知らない声。けれど、何度も聞いた声。
『はい、皆さんもうおわかりですね。×××××はこれちょっと期待してたんじゃないの?夏油傑ですよ、プレイアブル。こいつ×××のこと好きすぎか???』
頭の中で反響する声は、何度も彼の名を呼んだ声だ。反響して輪郭を無くした声では性別だってわからない。ノイズが走ったように聞き取れない言葉だってある。
ただ、プレイアブルという言葉だけが妙に鮮明だった。
『ほんとやめてよねー、××××で使ったことない×××がプレイアブル?×××は緻密に××××を練ってその通りに進行することに定評のある××ですけど?そこにこんなぶっつけ本番とか鬼畜じゃん……。幼女だったら絶対泣いてた』
世界が滅びようとしているはずなのに、それを意にも介さない軽やかな声。あんまりにも軽薄で、まるでこの現実がゲームか何かのようにすら、思えた。
『そもそもこれ、おそらく×××?が最も高い×××がプレイアブルになるんです。多分。×××では犠牲になりがちな×××ですから、大体の××××××?×××は底辺でどんぐりの背比べしてます。するといっそ誰がプレイアブルになるか測れないんですよね……。だからってこれはないけど』
見れば、在らん限りの光を湛えたガラスの瞳が彼を見ている。微笑みの形に固定された口元は今にも讃美の言葉でも吐き出しそうで、ああ、これが、と夏油は思った。
『はー……がんばろ。これ終わったら×××、……待ってこれフラグっぽい。黙りまーす。
で、夏油傑に五条悟がいて……あれ、こいつ、××××××兼×××の曜ちゃんのそっくりさん。なんで椅子に縛り付けられてんの?』
言いようのない気持ちだった。神様というからにはもっと、威厳のようなものがあるかと思っていた。けれどこれはなんだ。ただの学生か、社会人。どこにでもいて、一般的としか表現できなくて、だからいっそ形容する言葉を探すのが難しいほどの、一般人。
ありがたがる気持ちが微塵も湧いてこない。寧ろ、これは。
「うふふ……。これには涙なしには語れない長い長い話があるんだよ……」
『あ、じゃあ良いです』
そしてふと、五条が口を開く。
「君がどうやって僕を撒いたかもこれから起きることの説明も、きちんと納得いく形でしてもらいたいんだけど?」
何も気づいていないように五条は言った。
夏油は耳を疑う。だって、夏油もこのガラスの目の生き物も、どちらも姿のない誰かを意識している。だというのに、術式すら見通す目を持ったこの男がそれを見過ごすものか。
口を開きかけて、脛に響いた痛みが彼を止めた。見れば、縛られたままのそいつが『だまれ』と声を出さずに言うところだった。
そいつはなんでもないように言う。
「だからあ、もうそんな時間ないって。あたくしのかみさまがもうここまで来てンだよ。わかんない?新宿も渋谷も、もう呑まれただろうね。じゃあ、次はここだ。そうだろ、ねえかわいいさん?」
「そ、の、……かわいいさんっていうのは私のことかい?もう三十近い男に対していうようなことじゃないと思うけど」
「俺にとっちゃあまだまだクソガキもいいとこだ。たかだか三十程度で悟ったフリすんなよ。見苦しいぜ」
「……待って、シンジュク、ってなに?渋谷はわかるけど」
これは、見過ごせなかった。
「……悟?」
あーあ、とでも言いたげなガラスの目が彼を見ている。彼の向こうに、何かを見ている。
「無駄だよ?どうせすぐに渋谷だってわかんなくなる。……ほら、そろそろかなあ。ね、五条悟。これ終わったら渋谷連れてってくださるでしょ?」
「え?なんで僕がお前なんか……しぶ……や……?」
ぼんやりと、精彩を描いた表情。虚ろに落ちる言葉にならない音のかけら。そして、音節が意味を結ぶその寸前に、まるで操られるように五条悟は『五条悟』になった。
「そうだ、もうすぐ曜がこっちくるんでしょ。どうするの」
『×××もこのイベント見るのは初めてかもしれません。うっかり飛ばし損ねちゃった。うーん、これ夏油傑と五条悟が共闘してたら起きるイベントとか……?
ていうか怖いな……なんで五条悟は渋谷と新宿がわからなくなってんの。ホラーじゃん。ホラーだったわ』
このときばかりはこの軽薄な声の主と意見が合った。少なくとも、五条をこんな風にしたのがこの声の主でないということだけわかれば、それで良かった。
「さと、
「無駄だって言ってんじゃん。システム依存の尖兵にとってそれはただの音節以外の意味を持つもんじゃあないんだよ」
つまらなそうにそいつは言った。そんなことどうでもいいじゃん。それよりこれ、解いてよ。と。
「いつ戻る?」
「戻らんよ。これが正常なんだ、彼にとってはね」
「……気持ち悪い」
「マ、んなこたぁどうでも良いんです。ここで議題にすべきはあの子でしょ?」目を伏せて、とはいえ、と続けた。「一応、放っておいても平気。どうせ自滅する。……まあ、それまでてめえらが生きてれば、だけど」
「そんな簡単に僕らが死ぬと思う?あの子の戦い方は確かに特殊だけど……別に向こうに決定打があるわけじゃないでしょ?」
「ん、ん?いや、かみさまがついてないんだ。戦い方、変わるけど?」
「はあ?そんなこと聞いてない」
「言っていないもの。だから、そんなに強いわけじゃあない。良いかい、かみさまほどあたしたちを上手に踊らせることができる方なんていないんだよ。あたくしだってね、ここまで動けるようになるまでどれだけかかったと思ってらっしゃる?たかが十にも満たない時間しか生きてないアレにあの動きができるものか」
「ええと……つまり、弱いってこと?」
「だからあの鏡だけは気をつけるんだよ。映っただけで死ぬから気をつけてね?」
そいつはにんまりと笑った。
「ほら、お越しになった」