【RTA】呪術な世界を駆け抜けるレタス【Any%Glitch】 作:支部の々
ただ、ふと彼の理解の及ばない出来事ばかりが続いて、性格以外難なんてなかった親友すらおかしくなって、きっと疲れていたのだろう。
自分がおかしいのか、世界がおかしいのかだってわからない。自分が何かを忘れている気がしてならない。確かなものなんて一つもない。だから、ある意味、自分と同じことを知っている人間が特別に見えたって仕方のないことだと彼は思う。
そのくせ、彼はそいつを呼ぶことすらできないのだ。
「……何か言いたいことでも?言っておくけれど、これが終わればお前なんて知らないからな。気になることはさっさと片付けておいで、夏油傑。もう、全部おしまいなんだから」
「世界が終わるって?」
「いいや、救われるの。その後のことなんて知らない。ゲームって、そんなものでしょ。魔王を倒して世界は平和になりました、めでたしめでたし、ってね。その後の世界に勇者は要らないんだ。あとはお若い皆さんで、どうぞ」
「こんな箱庭みたいな世界でどうやって生きていけって?しかも壊れかけだ。君の神様はそのあたり、直していってくれるとでも言うのかい。そうでもなきゃ無責任が過ぎるだろう」
「箱庭!いいねえその言い方」
鼻歌でも歌い出しそうなくらい足取りも軽やかにそいつは夏油の先を行く。どこにも行けない、なんて言ったくせにどこへでも行けそうな足取りだ。
「んふふ、いつだってクライマックスは劇的なもんです。何度見たってドキドキしちゃうよね」
そいつは振り返って、かみさまの真似、ちょっと似てた?なんて言う。
そして歌うように続けた。
「僕たちが意味をなす。生きているって気がする。愛されてるって思える。存在を許される。必要とされる。こんなに幸福なことはない。きっとね、あたくしの神様はお前だって救ってくださるよ?」
なんて、この上なく幸せそうに終わる世界を駆ける姿は、いつかの子供の姿に似ている。最後まで神様と一緒にいさせて、そう言って突き放した透明な瞳を。
「だから、おまえはわたしに意味を与えなくていいよ。呼ばないでおくれ。君の中で、何者でもないままにさよならしようね」
それはまごうことなき、拒絶だ。
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曜ちゃん来ました!ここまでくれば!クリアなんて目前ですよ!ここに来て初見キャラかよ!って思いましたけど、そういえば夏油傑ってスペック自体は高いですよね?汎用性高いし反応もいいしこれ案外いい引きだったのでは?
よっし、気を取り直していきましょう。
ボス仕様の曜ちゃんのスペックは高くないです。だってレタス、調整したもんね。ずっと言ってたでしょ、曜ちゃんのステータスは低いって。1番最初の乱数調整で最低限になるようにしてたんですよ?レタス、できる葉野菜ですもん。……ステータス高いとシナリオ進行自体は楽になりますが最後しんどくなりますからねー……。
カウンターもほとんど打ってきませんし、そもそも術式がカウンターの強化なので術式はなしと思ってもらって大丈夫です。警戒すべきは信仰値を使った物理術式攻撃とー……射程無制限の鏡攻撃ですね。天逆鉾は強いですけどオート戦闘状態の曜ちゃんに使いこなせるものじゃあないんで、問題なし!
対して鏡は全身が映るとその時点でアウト。部位だけでも、その映った部位がごっそりいくので継続戦闘がつらくなります。
……っと、はい、このように夏油傑がプレイアブルだと呪霊を盾にできるので便利ですね。
ていうか初めて使うけどこいつ結構いいじゃん?盾によし、仲間の補助によし、花丸あげちゃう!これは余裕で勝てそうです。
しかも仲間が強いですね。システム的に約束された勝利な五条悟は置いといて、どうしてここにいるのかわかんないこの中ボスちゃんが普通に強い。なんでボススペックのまま味方に持ってきた?バグか??
それにしたって……プレイアブルの素のスペックが高いと楽ですね。一撃くらいもらっても倒れないっていう安心感、反応のよさ、速度、攻撃の威力。どれをとっても考えうる限り最高です。図らずもレタスは縛りプレイしてたんだなーって感じになります。さすが、自称最強。もはや消化試合感すらあります。
とまあこうやってちまちまダメージ与えてても向こうは吸い込んだモロモロですぐ回復するんで埒が明きません。1秒あたりいくつ回復すんだったかなあ……。
突破方法は回復する前に削りきるか回復分も削りきるか……どっちも普通の方法じゃあ無理です。ですから最初に指型の毒を飲ませて、最悪その毒で死ぬまで持ち堪えるっていう保険もね、かけてますけどー……。
けどけど!今回は味方の布陣が豪華ですからね。ちょーっと、欲張っちゃいましょう!さらに一歩踏みこん、で、ね!
んんー、なんかちょっと重いな。でもこのくらいなら誤差の範囲ですよー!さらに1歩踏み込んでステップ回避、そしてそのまま2秒と40くらい停止して……今!んふふ、鏡の投影範囲くらい覚えてますもん、今さらレタスが止まるはずないんですよ!
アルゴリズムだってちゃんと覚えてますよ!この範囲に入ったら鉾で突きがくるから……あー、ナイフ持ってないのか夏油傑……んー、手刀でいけるかな。信仰値は……使えないから呪力で代用、……あ、いけそう、ならチャージして放出/収束コマンド……ヨシ!すぱんと飛んだ曜ちゃんの腕回収して一旦離脱しますよ!
ということで鉾回収しました!勝利は目前だ!ていうか腕切り飛ばして鉾を回収って前の持ち主相手にもした気がしますね。血は争えないってやつですかね?あ、違う?そう……。
しかしだんだん夏油傑くん反応が重くなってません?曜ちゃんのこと殺したくないとか?元のスペックが高いので特に問題にもなりませんが……。
……なんてね。そんなことあるはずないんだよなあ。だって、どうせプログラムですからねー。バグにバグ重ねたってどっかで私がトリガー引いてるだけの可能性の方が高いですし。
なんていうか、多分、バグだとか殺したくないとか、思ってたいだけなんですよね、レタスが。罪悪感っていうのかな。ここまでずっとやってきた元プレイアブルに、それなりに愛着を覚えてるんだと思います。なんていうか、この画面の向こうでキャラクターが本当に生きてたらいいなって、思うようなものですよ。
あー、クソ。だからこの章は嫌なんですよ。なんだってここまで手塩にかけて育ててきたキャラクターを自分で殺さなきゃなんないんだ。こんなんだから最後まで鬱たっぷりとか言われるんですよこのゲーム。後味が悪いったらありゃしない。
とまあ、そんなこと言ってたってこのゲームは終わらないので。
感傷に浸るのはエンディングまで置いといて、サクッと終わらせましょう。それにレタスだって伊達に実況のひとやってませんよ。御涙頂戴系のシナリオだっていっぱい踏破して、そもそもこのRTAのために試走もね……沢山走ってますから。今さらどうこう思うのだってお門違いなんですよね。
ということでー、夏油傑くんもうちょっと頑張ってよね。武器を鉾に持ち替えてー、構え。……あ、そういえばこの鉾で彼の親友ボッコボコにされてましたよね。トラウマになったりしてないといいですけど。
まあ、そんなことレタスの知ったこっちゃないので。
さて、ここで問題です。体の構成すら術式に依存してるこのゲームで、術式を強制的に全部解く鉾で攻撃されたらどうなるでしょう?
つまり、そういうことです。
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冬の風は乾いて冷たい。切り裂くようなそれを伴った子供は銀のボタンを光らせて、ゆっくりと歩いている。折れそうな細い足で踏み出すたびに、地面は黒くひび割れて砕けて散った。後に残るのは虚ろな黒い淵ばかりだ。
「……ねえ、あの黒い淵に飛び込んだら世界の外側に行けるようなバグはないのかい」
「気になるならご自分でお試しよ。まあ、キミじゃあ碌な結果にならないだろうけどね。それこそオブジェクトの隙間に引っかかって身動きが取れなくなって死ぬこともできないで狂うのが関の山だろうよ。どうだい、試してみる?」
「わかってて言ってる?」
「マ、君にはかみさまがついてるんです、少々下手こいたって死ぬこたぁないだろうよ。コツは……そうだな、流れに任せる、とか?」
「それ、逆らったらどうなるんだい」
「さあ?考えたこともなかった。でも、どうにもならないんじゃないかなあ。かみさまに任せときゃ、全部うまく行くんだから」
それに、お前が逆らったってこの世界じゃあどうしようもないんだよ?マせいぜい頑張りたまえ。とか、心の底からどうでも良さそうにそいつは言った。彼に目を向けることもせず、ささくれを探すように自分の爪先を見ている。
そして、それとは対照的な軽やかな声が彼の頭に響く。ここまでくればクリアなんて目前ですよ!なんてまるでゲームでもしているような無責任な言葉に引き摺られるように夏油の足は勝手に動き出した。
踊るみたいな足取りで、軽やかに。
歩く速度よりゆっくり、滑らかに。
彼が知覚するよりずっと早く、自分の体が勝手に動く。それがどうしようもなく気持ち悪い。
その度にどこか遠く、頭の中で歓声が嫌に響く。自分が自分でなくなるような感覚は耐え難い。もしこれがあの子供にとっての当たり前だったのならば、それはあの子供が
何より恐ろしいのは、
「変なこと、考えるもんじゃないよ」
「……口は、開けるんだね」
「そこまで余裕ないんです、かみさまには。あの方は今あの鏡の相手で手一杯なので」
「本当に神様かい、それ」
「もちろん。あの方だけがこの世界で唯一、確かなんですよ」
あんたには、わかんないでしょうね。馬鹿にしたように、憐れむように、優越感すら滲ませて。けれどどこか羨むような声でそいつは吐き捨てた。
そして一度口を閉じて、丁寧に笑って口を開く。甘やかすような声だった。
「どうしても怖いならね、目を閉じていればよろしい。意識を閉じてしまいなさい。次に目を開いたときにはきっと全部終わってますよ、かわいいさん。ご安心なすって、あたくしのかみさまはお前のそんな行為じゃあ、びくともしませんよ。きっと上手に世界を救ってくれます。大丈夫、あんたのお友だちだって、どうせ死にませんよ。全部お前の望むようになりますからね」
「元通りに?」
「あー、ウン、平気。俺も、アイツも、かみさまも。全部終われば遠くに行くからな。そうすりゃお前は全部忘れて元通りってな」
甘い声は失望に似ている。
こっちのことなんて一切気に留めない真剣な声の神様とやらは、こんなふざけた動きを夏油に強いる神様とやらは、きっと彼に期待なんて一つもしていないのだろう。彼を手繰る指先はきっとひどく繊細で、精密で、彼の思考の紛れる余地はない。それこそ、ゲームのキャラクターを操作するみたいな。
「大丈夫だぜ、きっと。あのね、あなたのお友達はね、特別なんです。絶対死なないし、絶対負けない。だから安心なさい。他はどうだか知ったこっちゃないけど、彼はシステム的に保護されてますし乱数は全部調整されてるし、いざとなったら全部殴り飛ばしてしまえる安心仕様ですから」
「君が何を言っているのか全くわからないよ。君の言い方じゃあまるで、」
「おっと、黙った方がいい。舌噛むぜ」
途端、引き摺られるように足が一歩前に出る。楽しそうな声が頭の中で絶えず響いていた。透明なガラスの目をしたアイツはきゃらきゃら笑っている。
さらに一歩踏み込んで、足は彼の意に反してステップを踏む。
停止。
瞬間、止まり損ねた前髪を掠めて、子供の手の中で鏡が昏い光を走らせた。
「男前になったね!」
「全くもって不本意だ!」
自分のものであるはずの呪力が意図せず手に収束する。なんの違和感もなく、滑らかに行われるそれはただただ不気味だ。
そして彼がいつか見た行為をなぞるように手が閃いて、黒閃。
くるくると宙を舞う、骨の浮いた腕を掴んだ。
綺麗な断面を晒すその手はまだ鉾を掴んだままだ。一瞬、彼は頭が真っ白になる。いつかこうして鉾を奪った子供が、居た。
彼の手は、彼の意思などまるでないもののように鉾だけ奪うとその細い腕はそのまま投げ捨てる。
「あら、あら。あの子ったらかわいそー」
鉾を握る。
滑るように、足が進んで、