【RTA】呪術な世界を駆け抜けるレタス【Any%Glitch】   作:支部の々

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斯く有れかし
 時系列:最終話直後
 語り手:レタス
 彼らが地平線を追うはなし



レタスと愉快な仲間たちの後日談①

さて、ついに五条悟とかいう最終兵器を躱して自由の身(逃亡中)になった私たち。パーティメンバーは断定今朝まで一般人だったモグリの呪詛師(わたし)受肉した人型外付け自立思考型術式(曜ちゃん)最悪の呪詛師の同名同人(夏油傑)の三人。え、どこをどう見てもお尋ね者集団。特に最後がまずい。こんなのただの犯罪者集団じゃん。生きてるのバレた瞬間捕まるどころか殺される。多分問答無用で殺される。拾ったの間違いだったかなあ。

 私も私でクリスマスプレゼントに呪力もらった代わりに今までの生活は捨ててねって?サンタさんにお手紙出した記憶ないんだけどな。サンタさんはプレゼントに対価を求めないで。

 

 ということで賢い葉野菜たる私はここらで徒歩に切り替えることを提案した。飛んでると目立つし。あと何より『じゅじゅつ』をつかうと『ざんえ』が残って跡を辿られるってじゅじゅつゼミでやった。普通の術師でも頑張ればわかるのに、六眼とかいうハイスペック追跡装置まで使われたら私たちに勝ち目はない。なら一切呪力を使わないで公共交通機関で移動する方が絶対いい。

 

「アタシ、呪力が剥き身で歩いてるようなものなんだけどその辺どうお考え?」

「あっ」

「もー!レタスちゃんたら抜けてンなあ!!」

「……ひらめいた!」

「ロクでもないひらめきな気がする」

「口を慎め夏油傑!かみさまの御前だぞ!」

「はいはい」

 

伏黒甚爾(ゴリラ)になればいいんだよ!」

 

「は?」

 

 そんな目で見ないで。

 

「何回目だか忘れたけど天与呪縛の呪力0チャート組んだことあってさ。カウンターもジャスガもワープも使えなくて天逆鉾チャートは詰んだけどglitchlessなら結構いい線いったと思うんだよね」

「あーなるほど。じゃレタスちょっと手ェ貸して。スイッチするから」

「術式の入れ換えできるってほんと曜ちゃん強いよねえ」

「同時に別の術式展開できねぇからそこだけなんとかしてぇンだけどよぉ」

「その辺はこれから術式の拡張?認識領域の拡大?で、なんとかなるんじゃない?」

「夢が広がるわね!」

「待って???」

「なになに、どうしたの夏油傑くん?」

「どうしたの、術式が一つしか使えない夏油傑くん?」

「やぁね、曜ちゃんたら、それ、普通だから」

「あらやだ、そういえばアタクシも基本は一つの術式なのよね」

「そうよ、曜ちゃんたらうっかりさん!」

「あらあらうふふふふふ」

「いや、今そんな状況じゃないけど、茶番やってる場合じゃないんだけど、え?なに?これ私がおかしいの?」

 

 いや、それが普通。でも今この場では私たちが正しい。多数決っていうの。いやあ民主主義(かずのぼうりょく)は偉大だなあ。一緒に行くなら慣れてもらわないと困るんだよね。イニシエーションイニシエーション。

 

「ということで曜ちゃんの呪力問題は解決したのでー、行き先決めよっか」

「はーい!はいはい!」

「曜ちゃん早かった!」

「オレさま北海道行きたい!ジンギスカン!メロン!ラーメン!」

「ハムでメロン巻く?」

「ごめんかみさま、かみさまといえど料理に果物使う人はちょっと……」

「なんで私が振られた風になってんのウケる」

 

 やっぱ国内がいいよねー、日本語通じるし。あとこいつら外国語どのくらい話せるか全くの未知数。少なくとも私は無理。パスポートも持ってないし、持ってたとしてもどういう処理になってるのかわかんないし。ほら、レタス死んでることにされたし。死者のパスポートって使えるのかなー。あ、戸籍も不安になってきた。死んで失効したやつが一人ともともとない奴が二人、やべー、無戸籍三人組じゃん。一発アウトだわ。海外はなしだな。

 

「夏油傑は?」

「え?」

「夏油傑はどこ行きたい?」

「私は……」

 

「私はどこでもいいよ」

 

 涼しげな笑顔で彼は言った。でもなー、ちょっとそれは、困る。だっておまえはもうNPCじゃないし、私だってプレイヤーじゃないんだし。対等なんて言うつもりだってないけどさ。今だって見下してNPCって思ったことは確かだし。でも、ずっとそのままでいたいわけじゃない。ポーズでも、良いじゃないか。いつかきっと本当になる。そう願っていたい。

 

「あのさー、勢いで連れてきちゃったから夏油傑の意見聞かずにここまで来たじゃん?でもこっちとしてもね、もう別におまえが来たくなければ一緒に来なくってもいいんですよ。おまえはね、どこに行くにも自由なんです。誰にも咎められることはないんですよ」

「……それは、私はいらないってことかい」

「そんなこと言ってないです。ただ、自由意志のある存在として尊重してるだけですよ。それに、一緒に来てくれたら私は嬉しいですし、曜ちゃんも嬉しい……よね?」

「いや、ボカァどっちでもいいね。一緒に来るってンなら、面倒見てやっても良いですけれど。けれどね、別に、それが一緒に来なきゃいけない理由にはなりゃしません。好きになされば、よろしい。アンタもね、ひとに判断を任せっきりにしなさんな。だってね、よく考えてご覧なさい。今別れたって、それは決して今生の別れにはなりゃしませんよ。おわかり?会いたくなったらまた会えば良い。それは強いられることじゃありません」

「やだ、曜ちゃん……そこは一緒に来てくれたら嬉しいって言うとこでしょ……」

「ごめんレタス……曜ちゃんかみさまに嘘、つけない……」

「嘘つけ」

「嘘です」

 

 彼は少し困ったような顔をした。そうして、口に出すのを躊躇うように口をの中でなにやら言葉を転がしたようだった。

 こういうとき、私も私でどんな顔をすれば良いのかわからない。別に有名なアニメキャラクターを気取って言うわけじゃない。ただ、そう、新しいモーションだ、なんて思ってしまうくらい私自身()()()()()、同時に彼との距離を計りかねているだけだ。軽薄な口調も、適当な言葉も、ほんの少しの本心も、全部そう。こういうのなんて言ったかな、そう、ハリネズミのジレンマ。もう戻れない世界に置いてきたあれこれと、新しく手に入れた諸々は全く釣り合っちゃいない。人間誰しも未来より過去に重きを置く。サンクコスト。でも、いつか手に入れたこれらがずっと大切になるよう願っていたいのは本当だ。

 

「私は、そうだな、」

「うん」

「北海道、良いと思う」

「それは一緒に来てくれるってこと?」

「うん。あと、できるなら電車も乗りたい。でも車で北海道まで行くのも良いかもしれないなあ。あ、新幹線はやめてくれよ。路線がいい」

「レンタカー借りよ、岩手か福島くらいで!そこから北海道まで行くの!チェーン履いてさ、レタスは雪道の運転したことある?ほら、かみさま免許持ってるでしょ。夏油傑は()()()()()なんて運転したことないだろうし僕は無免許だけど、でも交代しながら行こう。きっと楽しいよ!」

「それならレタスは最後がいいだろうね、呪霊が見えるようになったばかりなんだって?道路に飛び出してきたヤツらに慌ててハンドル切られちゃ困るからね。雪道だとなおさら。呪術師がスリップ事故で死亡なんて笑われるから」

「いや、無免許運転やめて。夏油傑も頷かないで。飛び出る呪霊とか怖すぎるから」

「それと、北海道なら見たいものがあるんだ」

「まって?流した?流したよね、今」

「なに?洞爺湖?知床?ラベンダー?」

 

「地平線」

 

 地平線。水平線ではなく。そりゃ日本じゃ北海道くらい広いとこじゃないと見れないか。しかしなぜ地平線。曜ちゃんはなんでもない顔でふぅん、と言った。いやおまえその反応は何か知ってる反応だな。

 

「まずは地平線が見たい。その後のことはその時考える。だから一緒にいて、くれるかい」

 

 それなりに吹っ切れた顔で彼は言う。

 まあ、別に行く当てがあるわけでもないので?あと、明日のことは明日考える感じ、嫌いじゃないし。

 

 

「呪霊!まじでやばいな!!なんであいつら車に突っ込んでくるの!?」

「だって呪霊だもん。車に恨みなんていっぱいあるでしょ。轢かれたとか煽り運転とか道路建設とか騒音とか」

「車に楽しいと書いて轢くなのマジでこの世の地獄って感じ」

「文字って時々この世のを(しんり)を暴くよね」

「待って曜ちゃん今の絶対ルビおかしかったって。ね、夏油傑。お前もそう……おーい、お?なんかトランスしてる?そっとしといた方が良さげ?」

 

 茫、と遠くを見る男がいた。袈裟を脱いで、一番外には普通にダウンジャケットを着込んでいた。少し前に削がれた前髪は未だ帰ってこなかったようで、形のいいおでこがつるりと白い。当然だけどそこに傷はない。ガタイのいい男が無言かつ無表情で遠くを見てるのって結構怖いな。ただでさえ着膨れしてるのに。呪霊もいないようなひたすら白い地平は平坦で、そこにポツンと立つ夏油傑は確かになかなか絵になる。

 

「雪、なんてはじめて見たかもしれない」

 

 ぽつり、彼は言った。

 

「ねえ、"曜"」

「なぁに」

「地平線は、遠いね」

「そうだね」

 

 私にはわからない何かを見て、彼らは言葉を交わしていた。疎外感は覚えなかった。私にはわからないなにか、約束のようなものがあるのだと思った。

 

 きっと、彼らには必要な会話なのだろう。

 

 曜ちゃんは私だけど、私は曜ちゃんじゃない。だから彼らがどんな関係だったかなんて知らない。それが私に還元されることもない。けれどそれでいい。彼らが全てアルゴリズムで定められたNPCなら、そりゃ解析もするし、全ての挙動は私が知って然るべきものだけど、彼らはもうその枠組みに囚われないと理解しているからいいのだ。まだ完全に納得したわけじゃないけど、それも含めて少しずつ、染み渡るように()()()()ようになるのだろう。それがきっと、私に必要なことならば。

 

「……今さら分かったんだけど、地平線まで歩くって無理だよね」

「そりゃそうだ。だって地球は丸いもの。端があるわけじゃないんです。だから、今のかわいいさんならどこにだって、行ける」

「でも、あのときは本当に絶望したんだよ。どこにも行けない、行ったことがない、私ってなんなんだろうって」

「そりゃ悪ぅございました。あたし的には事実を伝えただけのつもりだったんだけど」

「ほんと、君はその辺優しくない。共有できる人もいないし、唯一共有できそうな"曜"はバグってるし君ははなから会話する気がない。どうしろと」

「ごーめんねっ!」

 

 けらけらと笑う曜ちゃんと静かに笑う夏油傑。平和だ。どっちも少し吹っ切れたみたいで、話しかけちゃいけない雰囲気も薄れてきた。すると話に入れない私も少し寂しくなる。

 

「まーぜてっ!」

「いーいーよっ!」

 

 きゃあ、と楽しげな細い肩と、仕方ないなぁみたいな顔で笑う分厚く着膨れした男の間に飛び込む。すごい、どっちもびくともしない。安定感すごい。とりあえずこれからは曜ちゃんがもうちょっと分厚く太くなるようにいろいろ食べさせなきゃな。今のまんまじゃ細すぎる。風が吹いただけで折れそうだ。

 

「ほんと、私たちも遠くまで来ちゃったね」

 

 私がそう言うと二人はちょっと目を丸くして顔を見合わせた。そして同時に破顔した。

 

「そうだよ!ボクたち、すっごく遠くまで来ちゃったの!」

「こんなところまで逃げるなんて悟も驚くだろうね、術式も使わないで!」

 

 

「だから、幸せになれるよ!」

 

 

 曜ちゃんはそう言って私ごと夏油傑に抱きついた。強い衝撃を着込んだ上着が吸い込んで、身長に対して軽すぎる重みが何より確かだ。温度は伝わらないけど、ああ、生きてるんだ。

 

 幸せになれるよって言葉がしん、と沈む。冷たい空気が肺腑を満たす。重力。いきているひとの、においがした。

 

 なるほどようやく。私は今、ようやくこの世界で息ができるようになったのか。

 

「幸せ、んふふ。しあわせね」

「なあに、かみさまはいまさらか?わたしはかみさまのみもとを願った瞬間から幸せだったというのに」

「曜ちゃんはいいこだね」

「私は?」

「夏油傑は……そうだなあ。バグはそろそろ時効だよね」

「かみさまったら太っ腹!」

「ということで今から勝負です!チキチキ夏油傑の呼び方選手権!優勝者には天逆鉾に両面宿儺の指つけちゃう!」

「きゃあ!いくら?時価総額いくら?」

「ほら、いつまでも夏油傑ってフルネームで呼ぶのもなんか、違うじゃん?」

「別に、私はなんでもいいんだけどね」

 

 困ったように笑う夏油傑がいて、どこまでも一緒に生きてくれると言った曜ちゃんがいて、つまり私たちが斯く有るならば、私たちが世界からはじかれたもの同士だろうが、私たちこそいっとう正しいに決まっている。

 

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