彼女らと会ってから一週間が経った。ある程度仲良くなり、所属しているチーム以外のウマ娘とも話せる様になった。とは言っても他のチームとの合同練習の中で生まれたもの+αなのでほんの数名なのである。
しかし僕と言う人間は人の名前を覚えることが苦手だ。実際この学園の中の知り合いでフルネームを覚えているのは理事長、理事長秘書、スピカのメンバーとトレーナーだ。だが、これは僕のせいではない。皆が名前を単略化した所謂ニックネームで呼び合っているからだ。
しかも彼女らは僕にフルネームで呼ばせようとしないのだ。スペだのテイオーだのだのエルだの…。お陰でエルという覆面を付けた少女のフルネームを思い出すことができない。何処かに鳥の名前が入っていた気がするがどうもピンとくる答えが出てこないのだ。悩んでいてもどうにもならないので、この問題は後に回し、一度身体を伸ばす。
「天瀬さん、ここで何をしてるんですか?もうトレーニングの時間ですよ。」
名前を呼ばれたので振り返るとそこには駿川たづなさんがいた。ここで呑気に背伸びをしているのを見てほっとけないのだ。なんて清純な人なのだろうか。
「ああ、駿川さん。今日は休みなんですよ。ここに居るのもあと数日なので少しはここを満喫しようと思いましてね」
駿川たづなさんとの会話もこのところ、わだかまりが無くなったと感じる。小話を続けているうちにお互いの警戒心も薄れていった。出会えば話し相手となり、一度外食にも行った。もはや友人と言っても過言ではない
だろう。
「とは言っても、案内はハルウララさんにしてもらっていましたよね。何するんですか」
「そう、それが問題なんですよ。トレーニングの時に案内されなかった場所も大体回ってしまいましたし…。何かお手伝い出来ることはありませんか」
「それならば、私の仕事を手伝ってもらいましょう」
労働は避けたいが退屈であるよりマシだろうと思い、適当な返事をして駿川さんについていくことにする。
作業といっても書類整理であってたづなさんの確認したものに印を押すだけだった。それでも紙は山積みだったので終わる頃には日が沈み、生徒の門限の少し前になってしまった。
「ありがとうございます、お陰様でいつもより早い時間帯に終わることができました。お礼とは言っては何ですが、少し飲んでいきませんか?」
彼女のクイっとグラスを傾けるジェスチャーに肯定すると理事長に一言伝えるといつもより遠い居酒屋に向かう。
「たづなさんはよく過酷な労働に耐えられますよね。これもやっぱりウマ娘への愛って奴ですか」
「いえ、このぐらいの愛は誰だって持ってますよ。逆に貴方に愛が無いんですよ」
酒を飲んでいると畏まる様な仲でも包みの無い会話ができる。
「そう言えば貴方と会った時、妙なこと言ってませんでした?」
そうだったか?自分でも覚えていない。無意識だったのだろうか。自分は隠し事をする主義ではないので別に何でもいいのだが。試しに何と言っていたか訊くと、
「ああ、それは流石に覚えてていませんが…でも違和感があったんです。まるで”ウマ娘の存在をついさっき知った”みたいなそんな感じでした」
「っぐ、」
「え、本当に知らなかったんですか‼︎…まあ、今言及するのはやめておきましょう。ですが、貴方にはこれからウマ娘の良さについてしっかり知ってもらいます」
たづなさんのウマ娘レクチャーは夜遅くまで続き、結果として終電に間に合わない様な時間になってしまった。