目を覚ます。どうやら帰ってきてからも作品制作に没頭していたらしく、意識が戻っている頃には木製で三つ足の椅子に座っていた。目の前には鮮明な彼女らの走っている姿が映っている。うめき声を上げながら身体を伸ばし、テレビをつけてみる。
時刻は午前11時30分、画面の向こう側では馬が走っている。
「じゃあ、あれは何だったんだ。あ、あれは現実だったのか?」
目の前の鮮やかなキャンバスを見ると彼女の姿が残っていた。もう一度元気で何かに向かって走っていて、心の火を絶やさない彼女たちに会いたいと思ったがどうすることもできない。どうやって行ったのかどうやって戻ってきたのか。あそこについて何もわからない。
シンクに移動して冷蔵庫に入っている水を口にして、テーブルに置いてあるスマートフォンを手に取る。2件のメッセージが届いているようなので開いてみるとそれは僕と一週間の関係だったがそれ以上に頭に残るあの人からのものであった。
コップが滑り落ちる。「彼女が残っている」その真実が分かればいい。これはチャンスだ、根拠はないが急いで何かしないとウマ娘のように消えてしまうのではないかと焦ってしまう。だから僕は駿川たづなに一枚の写真とメッセージを送った。
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あれから彼の姿を見なくなった。彼のことを話しても首を傾げるだけで誰も覚えていないようなのである。
「理事長!何やってるんですか⁈」
理事長室での雑務で気を紛らわせようと扉を開くとそこでは彼の絵画を外していたのだ。
「撤去‼︎これが飾られてからたづな君の気分がよろしくないと思ったのでな。……どうしてそんな悲しい顔をするんだ。そ、そうだ。今日は休め!そんな気分で仕事をされては困る!」
自分でもわからないが気づいた頃には自宅であの絵画を抱きながら眠ってしまっていた。どうにか天瀬玲凪の痕跡は無いかと携帯を漁る。彼と酔った勢いで撮った写真も写っているのは私だけで自意識過剰な女になってしまっている。
「あった。」見つけたのは彼の連絡先、急いで青と黄色のキャンバスの写真を撮ってメッセージと一緒に彼に飛ばす。
『今までありがとうございました。あなたに勿忘草と紫苑の花束を』
私は怖くて仕方がなかった。
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「『私を忘れないで』『君を忘れない』か。」
僕が送ったのは彼女ら全員が集合した絵と『ゼラニウムのお返し』という一言。
こんなことがあっても僕は生きている。彼女─駿川たづな─のことはわからないが彼女も今を踏み締めているのだ。
〈どうせ変わらない1日〉そんな毎日は僕たちは生きている。悩んで、見つけて、歌って、踊って、怒って、泣いて、笑って。くだらない毎日にどうしようもない感情を刻み込む。
出掛けよう。決意の花を買いに。