魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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次はリーナ出します(予告しておかないと引き伸ばしそうなので……)


第3話

 何事も敵を知る必要がある。そういう時、今までのおれは直接押しかけて喧嘩を売っていた。話が早く纏まるからだ。しかし、多分そうすべきではないとそろそろ理解し始めていた。要は、1年D組の教室に突撃するのはやめようということである。

 

(しかし、情報は手に入れないといけない)

 

 十六夜家といえば、現代魔法を取り入れた古式魔法師集団として知られている。そういうタイプの人間は、ちゃんと身近にいるではないか。餅は餅屋、詳しいやつに聞くべきだ。休み時間、おれはE組の教室へと急いだ。

 

「──おい、吉田幹比古はいるか?」

 

 廊下側の窓から顔を覗かせると、騒がしかった室内が水を打ったように静まり返った。目を合わせないようにか、あらぬ方向を見つめたまま静止する生徒たち。その中には、もちろん達也もいる。関わりたくないです、というオーラが分かりやすく出ていた。

 

「あっ、いるじゃないか。元気?」

 

 おれは気にせず、教室の中に入り込む。目的の人物が座っているのを見つけたからだ。

 

「ど、どどど……どうも。こんにちは」

 

 幹比古の顔色は青白いを通り越して、死人レベルの土気色。口調も含め、平常心でないのが明らか。後ろめたさと「四葉」への恐怖が混ざっているのだろう。

 

「そう固くなるなよな。おれとお前の仲だろ? 一緒に『水遊び』や『土掘り』もしたし」

 

 咽せ返る幹比古。唾を飲み込むのに失敗したのだ。

 

「──人を虐めに来たの?」

 

 会話を続けようとした時、話に入ってきた人物がいた。赤みがかったショートカットの少女だ。彼女は幹比古を庇うように、おれと机の間に身体を滑り込ませた。

 

「お前、誰?」

「人に名前を聞くときは、先に名乗るのが礼儀じゃない? 何、それとも『自分のことなんて、みんな知ってて当たり前』と思ってる?」

「割と」

 

 一高生で、おれを知らないやつはモグリなのではないか。それくらいの自負はある。

 

「はぁ……。ま、いいわ。アタシは千葉エリカ。クソ兄貴経由で、ミキとアンタの経緯は聞いている。まさか、アンタから掘り返すとは思わなかったけど」

「少し質問をしたかっただけだ」

「なんでもいいわ、さっさと帰って頂戴。……どう考えても、体調悪そうじゃない。こんな時に押しかけないで」

 

 体調というより、精神的なものな気がする。だが、おれも帰るわけにはいかないのだ。十六夜家について、教えて貰わないといけない。

 

「……確か、A組の次の授業は体育じゃなかったか?」

 

 おれとエリカが睨み合う中、唐突に掛けられる声。気づけば、先程まで素知らぬ振りだった筈の達也がこちらを見つめていた。

 

「休憩はまだあるが、着替える時間を考えると戻るべきだと思う」

 

 わざわざ深雪のために、他クラスの時間割まで覚えているのか。記憶しておく必要があるのか極めて疑問だったが、その助言はありがたかった。

 

「あっ、まずい。ありがとう! ──それじゃ、また!」

 

 E組の教室をそそくさと去り、更衣室へと向かう。無事、授業には間に合った。達也には感謝である。

 放課後、もう一度E組に足を運ぼうとした。しかし、その必要はなかったようだ。

 

「直接来てくだされば良かったのに」

 

 階段の下から声がした。声のする方へ進むと、そこには1人の少年が。見覚えがかなりある。十六夜鳴だ。

 写真でも感じていたが、実物はもっと胡散臭い見た目だ。バランスの良い顔立ちをしているが、何か怪しい。切れ長の一重瞼も、長い髪を後ろで結っているところも。さながら「ガラクタをマジックアイテムとして売っている露店」の店員のような。言われなければ、百家の人間とは思わないかもしれない。

 

「こそこそ探っていたようで。てっきり、D組に殴り込むと思っていましたよ」

「おれも成長するんだよ」

「退学、というのは良い薬だったんですかね。君にとって」

 

 彼は苦笑した。何が面白いのか、全く分からない。

 

「……それにしても、十六夜家といえば『調整体嫌い』で有名だろ? 十師族も多かれ少なかれ、どこかしら弄られてる。よく七草閥に入ろうと思ったな」

「大きな声で言わないで貰えます? それは家の思想で、僕自身が持つ考えじゃない」

 

 慌てて周囲を確認する鳴。本当に思っているのかは知らないが、少なくとも「自分はまともである」というアピールはしているらしい。

 

「中学の同級生の親が、七草家で働いている魔法師だったんです。その縁でね」

「あぁ、そういう……」

 

 友人に恵まれたタイプらしい。自分のものでもない権力を笠に着る人間と友達になることを、良いことと捉えるならばの話だが。

 

「で、やりたいんですか? 殺し合い。──僕を調べていたのは、そういうことでしょう。愛梨さんに言われましたからね。『四葉夜久に勝てる?』と」

「気安く愛梨の名前を呼ぶな。それに、CAD持ってないだろ」

「隠し持ってるんじゃないですか。……お互いにね」

 

 視線と視線が交差する。しかし、何も起こらなかった。おれも鳴も、CADを取り出さなかったから。

 

「……決着が簡単に付くのもな。おれが勝つだろうし」

「おや。僕こそ、勝てると思っていましたが。怖気付きました?」

「なんとでも言え。ここで殺したら勿体無い……それだけだ」

 

 鳴を押し除け、昇降口の方へ歩いてゆく。

 しかし、啖呵を切ったものの……勝利条件がまるで分からない。何が彼を絶望させる方法なのか。会話からは全く掴めなかった。急所を探さねばならない。

 

 

 

 

 

 

 危なかった──夜久と別れたあと、鳴は空き教室で心臓を押さえていた。未だに鼓動はどくどくと打っている。平常心を保ってこそいたが、内心は混乱でメチャクチャだ。まさか、こんなにも早く……四葉夜久が司波達也と接触するなんて。

 

(元老院のクソども……! 調査ファイルに適当書いて寄越したんじゃないか?)

 

 思わず、悪態を吐く。元老院の面々は何故、夜久の一高復帰を止めなかったのか。せめて、日本ーUSNA間の交換留学生プロジェクト終了までは引き延ばすべきだったろう。「灼熱のハロウィン」を起こした戦略級魔法師を探しているのだから。

 この間の横浜事変の一件は、彼が「誓約」を緩めていたために、達也の魔法を知る国防軍が独断で戦略級魔法を使用したことに原因がある。対応が後手になってしまい、情報統制も間に合わない状況に。そのせいで、USNA側は既に容疑者を「司波達也」と「司波深雪」の2人に絞り込んでしまった。この状況で暴発のトリガーとなる男を表に出す必要がどこにあるのか。

 

(恐らく、ペナルティを課すことを優先しやがったな……)

 

 夜久の公開は、四葉家に責任を取らせる意味もあった。四葉の姓を名乗る以上、以後知らん顔は出来ないからだ。しっかりと魔法科高校に通わせ、社会の中で「十師族としての責任」を果たす人間に矯正する責務が発生する。可能かどうかはともかくとして。

 しかし、その皺寄せが自分に来ていることを思うと、何とも頭が痛くなってくる。

 

(本当にコイツ、本家に襲撃を仕掛けて……くれるのか?)

 

 元老院の分析では、夜久は「四葉特有の依存体質」を持っているので「自分を見てくれる人間のためなら何でもやる」とされている。大漢崩壊の真似事として、報復を仕掛けようとするのではないかと見られていた。そうなれば、夜久をしばらく「十六夜家との争い」で拘束できる。変に火の粉を被りたくないUSNAも、そこに首は突っ込まないだろう。

 現在、十六夜家は二つに割れている。本家を継いでいるのは、一番上の兄。しかし、鳴の一つ上である2番目の兄──調は、当主である長兄を酷く嫌っていた。そのため、元老院の目的を利用して当主になろうとしている。夜久が予定通り動くならば、調が間に入って調整することで、現当主一派を排斥出来る可能性があった。

 

(信じるしかないか。四葉夜久を)

 

 自分がやるべきなのは、ヘイトを集めることだけだ。物心ついたときから、自分は元老院の手足だった。言われた通りに、仕事を進める以外の選択肢は無いのである。

 

 

 

 

 

 

 昼休みのこと。普段通りに、おれと駿は2人きりで食事をする。しかし、意外な人物が同席を求めてきた。なんと、七草真由美である。予想外の展開。駿は驚きのまま固まっていた。現状が認識できないのだろう。

 

「……何の用で」

 

 カレーを掬うスプーンを握りしめたまま、おれは真由美を見遣る。彼女は隣に丼の載ったトレイを置き、にっこりと笑う。

 

「まず、自分が行動することで示そうと思って。相互理解の姿勢を」

 

 これは、エガリテの問題を解決に導いた真由美が、ここ最近大切にしていることらしかった。まず対話を試みることで、相手と自分の考えの差異を可視化し、良い方向に向けて擦り合わせる。それを「四葉」の直系にも適用したいようだ。

 

「好きにしたらどうですか。別に場を盛り上げる気もないですけど。それでも良いなら、どうぞ」

 

 空いている左手で椅子を引いて、彼女に座るよう勧める。

 

「おい! 夜久……もうちょっと言い方ってものが」

「構わないわ。最初から歓迎されるとは思ってない、こちらもね」

 

 その言葉と共に席についた彼女は、手を合わせて「いただきます」と言ったのだった。その隙に、素早くおれは駿とアイコンタクトを取る。彼女の行動が、自分たちにどう影響を及ぼすのか分からなかったからだ。ただ、嫌がらせ含め暴走しつつあった七草閥の動きは鈍くなるだろう、と思った。

 

「──ところで、数日後に一高にUSNAからの交換留学生が来ること……知ってる? しかも、貴方たちのいるA組にね」

 

 3人の食事も数日続き、気まずさも少しずつ取れてきた頃。真由美がそんな話題を出した。

 

「初耳です。その、海外から……ですよね? あり得るんですか?」

 

 駿の言う通り、国外から魔法師が訪れるなんてことは非常に珍しい。どの国であっても、魔法師の海外渡航を厳しく制限している。血を繋げることは、新たな兵器を生み出すことと同意だからだ。それだけ、魔法というものは現代戦において重要な立ち位置である。

 

「あり得たみたい。私も初めて聞いたときは驚いたわ。何か政治的なやりとりがあったのは、間違いないのだろうけど」

「来るのは男ですか? それとも女?」

「女の子よ。それに、USNAに行く方も北山さんだし」

 

 そこは遺伝子流出対策が為されているのだな、と思った。男性と女性では、生殖細胞の採取に要する時間が違いすぎる。第四研で部下にやらせていたから、それは理解していた。

 

「でも、ここにいる間は同じ一高の仲間になる訳だから。私も積極的に声を掛けるつもりだけど、同じクラスの貴方たちはもっと関わる機会があるだろうし」

「おれの名前で逃げるでしょう」

 

 四葉の悪名は、世界にも広がっている。留学生が滞在先で、面倒ごとを被るリスクを取るだろうか。

 

「もぉ、最初からそんな弱気じゃダメよ!」

 

 真由美がおれの背中を軽く叩いた。だんだんと彼女はこちらに遠慮が無くなってきているし、それを受け入れつつある自分もいる。元々、生徒会長になれるだけの器は持ち合わせていたのだろう。

 

「相手がどう思ってるかなんて、ちゃんと面と向かって、顔を見て話してみないと分からないんだから。……こうやってね」

 

 おれたちにしっかりと目を合わせ、彼女はそう言った。

 

「そして、それが出来るように私も力添えしたつもりよ。──誇示する訳ではないけれど、自分には影響力があるということを改めて理解してる。その上で、正しく使いたいの」

 

 ありがとう、というのも違う気がした。別に頼んだことでもないから。真由美もきっと……間違いの延長線で、正解を取り戻そうとしているだけだ。それは、おれだって変わらない。

 

「……なんだか、羨ましいです」

 

 答えあぐねていると、駿がぽつりと呟いた。

 

「僕には不可能なことでした。ちょっとした行動一つで、人の心を動かすことは。それはきっと、力があるから出来ることです」

「駿……」

 

 何者でもないことは、素晴らしい筈だ。一挙一動が常に観測されることも、責任を負わせられてしまうことも……何一つない。自分だけを信じ、自分の「やりたいこと」を選択できる。その自由は、他の何よりも価値がある。

 けれど、それを伝えられなかった。今の自分が言うには……あまりにも説得力がない。もう「四葉」の名前を貰ってしまったから。

 

「七草先輩。力とは何でしょう。貴女のように。そして、夜久のように……。僕がそうなるためには何が足りないのでしょう」

「エ、エェ!? ちょ、ちょっと待ってね……。私、考えるから」

 

 腕を組み、ウンウンと唸る真由美。表情もどこかコミカルで、漫画みたいだった。

 

「月並みだけど……魔法のテクニックを磨くことかしら。その、貴方も風紀委員だから分かると思うけど。魔法力の高さで……コミュニティ内の発言力ある立場を手に入れられる事実は、存在している気がするわ」

「なるほど。──……そうですよね。ありがとうございます」

 

 頼られたことが嬉しかったのだろう、真由美は「何でも聞いてちょうだい!」と胸を張る。

 

「それにしても……。貴方たちってとても仲良しよね。まるで『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』みたい。一高の名コンビになる日も近いかもね」

 

 何だか、その形容はズレている気がした。ただ、彼女的には、褒めているつもりなのだろう。

 おれは苦笑いし、駿の方を見る。彼はすぐ笑い返してきたが、ほんの一瞬……真顔だったのを見逃さなかった。そして、何故かその顔がずっと脳裏に焼き付いて離れない。

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