魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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活動報告には書きましたが、少し更新ペースが落ちてます。すみません。その代わりと言っては何ですが、普段より少し長めです。


第5話

 真由美が、わざわざ身体を張ってまで行った「アピール」は、それなりに功をなした。駿は絡まれる回数が、目に見えて減ったそうだ──もちろん、今年度が終了するまでの仮初の平和なのだろうが。彼らは「七草」に盾突きたくないだけで、おれたちを好きになった訳でない。

 

「──やっほ〜! 夜久く〜ん!」

 

 食堂に響き渡る大声。最近、真由美は毎回同じテーブルにやってくることは無くなっていた。そもそも、彼女にだって付き合いがある。だから、こうして声をかけてこられるのは久々だった。

 

「……どうも」

「陰気ねぇ。もうちょっと明るくしたほうがいいわよ。──森崎くんもこんにちは」

「お疲れ様です、七草先輩」

 

 正確には、その距離感に適応できていないだけなのだが。おれは人に強気に出ることで、常にイニシアチブを握ろうとする傾向にある。だから、それ以上に馴れ馴れしく接されると、戸惑ってしまうのだ。

 

「2人とも! 一緒にお昼を食べましょう。スペシャルゲストも連れてきたから」

 

 真由美の言葉通り、彼女は人を引き連れていた。噂の留学生と深雪、そして……光井ほのか。

 

「深雪さんと光井さんは、よく見知ってると思うけど。シールズさんとは、まだしっかり話したことないんじゃないかしら。この機会に交流しましょう」

 

 ちなみに、おれが深雪と会話したのは数えるほど。ほのかとは、話したことすらない。それを分かっているからか、真由美たちから上手く見えない角度で、深雪はそっと口元に手を当てる。笑っているのだ。

 

「──私のことは、リーナと呼んで。ステイツでの愛称なの」

 

 続いて、それぞれも簡単な自己紹介をする。幸い、話題の中心になってくれる人──リーナがいるので、話はそこそこ弾む。

 

「自慢のつもりではないけど、通ってるハイスクールじゃ負け知らずだったの。でも、ここは本当にハイレベルだわ」

「私もライバルが出来て嬉しいわ」

 

 口振り的にも、社交辞令だけで言ってるのではないのだろう。深雪は達也の魔法演算領域を一部ロックする関係上、力が制限されている。その状態でも殆どの生徒相手に負け無しだったので、今まで物足りなく感じていても不思議ではなかった。

 

「……ヨルヒサは、ミユキのライバルじゃないの? 実力的には拮抗しているように思うけれど」

 

 その問いかけで、この場のギリギリで保っていた空気感が崩れかける。何も知らない留学生に「この場は真由美がセッティングしただけで、普段は全く関わりがないです」と説明するわけにもいかないからだ。それに、経緯が複雑すぎる。

 

「……四葉くんのライバルは森崎くんよ。私じゃないわ」

 

 しかし、深雪は慌てずに答える。男女の違いがあるから、話を逸らしやすかったのかもしれない。

 

「へぇ……! 確かにシュン、すごかったわね。魔法の展開がとても早かった!」

「いやいや……」

 

 褒められて照れている駿をよそに、おれと深雪の視線が一瞬交差する。言いたいことは同じのようだ。魔法力が伸びない、ということはない。1年生よりも2年生の方が実力があったりすることは、まさにその分かりやすい例。だが、それは経験の差が大きい。一朝一夕で変化するものではないのだ。

 そして、彼は数日前まで魔法展開スピードが……遅かった。おれや深雪に比べると、という言葉が付くが。

 

(そんなこと、あり得るのか?)

 

 だが、数字がそれを示している。実技で使う設置型CADは計測機器の側面を持つ。機械が壊れていない限り、データは真実なのだ。

 

「──ところで深雪って。どこか、四葉くんと通じ合ってるところない? 本当になんとなく、だけど……」

 

 ほのかが、突然そんなことを言い出す。おれは黙ってお茶を飲むことで、内心の動揺を隠した。

 

「どうして? 私もほのかと同じくらい、四葉くんと関わらないでしょう?」

 

 先ほどの誤魔化しも忘れ、深雪がほのかに反論する。顔色一つ変えていないものの、やはり彼女も焦っているのかもしれない。

 

「……でも。ほら、リーナはちょっと分からないだろうけど。九校戦があったでしょう? その時に『夜久くん』と呼んでいた……」

 

 おれがパニックになりながら、達也の助力を借りた時のことだ。あの時、深雪は兄の後押しをしてくれた。

 しかし、今話すべきことでも無いだろう。話題がどんどん脇道に逸れていくだけだ。ホストとしての使命感か、真由美がリーナに詳しい背景を解説し始めた。もちろん、話せる範囲でだろうが。

 

「隣にいたから、何となくだけど会話を覚えている。でも、司波さんは皆に優しいから……。悩んでる人に寄り添おうと、わざと名前で呼んだだけでしょう?」

 

 奇跡的に、駿がおれたちに都合の良い解釈をする。実際、彼はおれが参っていたのを目の前で見ていた。

 

「絶対違う!あの空気感は、他人同士にはきっと出せない……」

 

 しかし、ヒートアップしたほのかは止まらない。普段彼女を宥めることの多い北山雫は、今は海の向こうのUSNA。誰にも、もうどうすることもできない。

 

「ずるい……。他の人を寄せ付けない2人だけの世界を、深雪はたくさん持ってる。それなら、達也さんの世界には……私も入れてよ」

 

 顔を覆って泣き出すほのか。推測するに、痴情の絡れらしい。それにしても、彼女は達也が好きなのか。仮に結婚でもしたら大変苦労をするので、やめた方が良いと思う。黒羽や新発田は、間違いなくいびってくる。

 

「確かに、あの時……四葉くんに強いシンパシーを抱いたわ。」

 

 深雪はほのかの背を優しく撫で、そんなことを言う。

 

「……だって、彼のような徹底した魔法至上主義者が、お兄様の力を認めてくれたのよ? 嬉しくもなるじゃない」

 

 夜久くん、と呼びかけられる。彼女は微笑みをたたえ、こちらを見つめていた。

 

「貴方は少し変わり者かもしれないけれど。お兄様の素晴らしさを正しく評価してくれる限り、私も貴方の理解者でいるつもりよ……。困ったら、いつでも相談してね?」

 

 何とか──どう考えても無理やりだが、深雪は話を着地させた。頼りになる従姉妹だ。

 まだ、ほのかは泣いている。ふと横を見ると、リーナと真由美が物言いたげな目をしていた。せっかくの食事会で痴話喧嘩もどきを見せられれば、そうもなるだろう。

 

「……お前、本当にトラブルメーカーだな」

 

 駿が耳元で小さく囁いてくる。だが、今回ばかりは……おれは大して悪くないはずだ。「バカ言え」の意味を込めて、隣に座る親友を軽くどついた。

 

 

 

 

 

 

 エリカたちに手助けする形で、達也はパラサイトの調査に関わっている。深雪は今のところ無事であり、特に協力する必要などないのだが、予防的に調査を進めていた。

 自分の友人のレオがパラサイトに襲われてしまったとはいえ、達也は強い情動のほとんどを失われている。仲の良い友達が生死の境を彷徨ったところで、彼の心は大して動かない。だが、一般的な常識として「仲間が傷付けば、寄り添おうと心を尽くすもの」と知っていた。

 

(本来、深雪の身の安全が確保できれば問題ない筈だ)

 

 時折、達也は考える。人間社会に馴染もうと尽力する意味を。情動の大部分が失われてなお、人間らしく生きる意義とは何か。いつも、はっきりとした答えは出ない。

 ただ、そんなとき……脳裏に蘇るのは母親の元ガーディアン──穂波の姿だった。使命を全うするのではなく、自分の意思で死に場所を選んだ人。彼は、調整体であった彼女のことを「誰よりも人間らしかった」と思う。だから、その短い一生を肯定し続けてやることが……自分に出来る弔いだ。

 

「──よく来てくれたな。司波」

 

 そんな彼は、十文字克人に呼び出されていた。密談に使われたのは、クロス・フィールド部の部室だ。彼はすでに引退済みだが、勝手知ったるこの部屋を私的にも使用していた。

 

「急に呼び出してゴメンね」

 

 そして、部屋には真由美の姿も。とはいえ、それは意外でもなんでもない。何せ、達也は彼女から伝言を貰う形で、このクロス・フィールド部の部室に来たのだから。

 

「パラサイト絡みのお話ですか」

 

 七草家と十文字家が動いていることは、師族会議の通達を読んで既に知っている。それに、葉山からも気をつけるよう忠告されていた。

 

「む、パラサイト……? 吸血鬼のことか」

「はい。吉田が言うには」

 

 幹比古は最近、達也たちと行動を共にするようになっていた。迎え入れた理由は、夜久に絡まれている姿があまりにも哀れだったからだ。また、夏から秋にかけて余程過酷な体験をしたのだろう。彼は精神的なスランプから抜け出し、一科生の中堅レベルには力が戻っている。それゆえ、レオを襲った犯人のことを達也たちは早期に把握できていた。

 PARANORMALPARASITE、略してパラサイト。人に寄生して、人外へと作り変える魔性のこと。しかし、過去観測された例はごく僅か。今回の吸血鬼事件はその「例外」を引き当てたといえる。

 

「なるほど……。パラサイトという呼称は、妥当かもしれん」

 

 達也から簡単な説明を聞き、克人は納得したように唸る。自分の家で調査していたことと、内容が一致していると感じたようだ。真由美も頷いていた。

 

「──そろそろ、本題に入りましょうか。小細工抜きに率直に言えば、達也くんたちと私たちで協力が出来ないかということなんだけど」

 

 頼みごとを持ちかけるのは、人当たりの良い真由美が担当するようだ。何の気なしに呼び出したように見せ掛けて、それなりに下準備をしていたのかもしれない。

 

「自分は特に異論はありません。ただ、千葉や吉田たちが何というかは」

「それについては仕方ないと思っている。我々はこの事件を捜査するに当たって、リーダー的立ち位置にいる訳だが……そこに強制力は付属して無いからな」

 

 克人がハッキリと明言するのを聞き、達也は「昔、夜久が大暴れした影響がこんなところにも」と感じた。

 

「さて。少なくとも、司波。お前は協力してくれる……ということでいいな?」

「もちろんです」

「ならば、こちらが得ている情報を話させてもらおう」

 

 4つの新たな情報を、達也は得ることができた。被害の規模、単独犯では無い可能性、第三勢力の存在……どれも彼の予測を上回る深刻度だが、残りの1つは本当に大問題だった。

 

「森崎にパラサイトの可能性が……?」

「あくまで可能性だ……」

 

 異常行動は特に見られないが、明らかに一時期に比べて、魔法力の上昇が著しすぎるらしい。

 

「確かめるために、私も声をかけてみたんだけど……受け答えも普通。おかしなところは何もない。だけど、もし『吸血鬼』と思しき異常行動が見られたら……」

「……処分も検討せねばならないだろう」

 

 真由美が口籠ったところで、克人が引き継いだ。

 別に、達也はそれを聞いても動揺はしない。森崎は友達でも何でもないからだ。しかし……彼は夜久の友達だ。間違いなく、夜久も出張ってくる。

 

(また、話がややこしくなりそうだぞ……)

 

 それなりに気にかけている弟分の文弥も、自分も「夜久係」には苦労させられたのだ。今回の夜久係もとい十六夜鳴の運命を思い、達也は「自分ではなくて良かった」と考えていた。

 

 

 

 

 

 

 四葉の一族と明かされた今でも、おれは駿と一緒に下校している。使用人は迎えの車に乗るよう叱ってくるが、いつも無視していた。

 放課後。部活を終えた駿を待つため、遅くまでおれは学校に残っていた。校舎の外に出ると、もう空は真っ黒。冬は日の落ちるのが、とても早い。

 

「……実は、お前にだけは言っておこうと思っていることがある」

 

 雑談でひとしきり盛り上がった後、駿は珍しく真面目な顔で言う。

 

「どうした?」

「……お前は人間って、なんだと思う?」

「いきなり? そうだな……」

 

 人間とは何か。今まで考えたこともなかった。第四研で散々、人をいじくり回していたというのに。しばらく考えて、1つだけ答えを絞り出せた。

 

「自分の意思があるやつじゃないかな……。他の誰でもない、自分自身で進む未来を決められる存在が……人間なのかもしれない」

 

 思い浮かんだのは、愛梨のことだった。誰かに依存せずに生きることを、彼女が教えてくれたのだ。

 

「……そうか。ならば、僕も……未だ『人間』と言えるのかもしれないな」

 

 頭の中から声が聞こえるんだ、と彼は話を続けた。

 

「仲間が欲しい、と声が常に鳴り続ける。そして、声は教えてくれるんだ。今、巷を騒がせている『事件』と同じことをしろって……」

 

 そういえば、最近ニュースになっている事件があった。確か……「吸血鬼」事件。魔法師が血を吸われた状態で衰弱したり、亡くなっていたりするという話だ。なぜ、その話を急に?

 

「……でも、僕は嫌なんだ。自分の『やりたいこと』は、そんなことじゃない。だから、声に抗い続けてる……」

 

 話が見えないながらも、必死で理屈を組み立てる。

 おそらく、何らかの要因で駿は吸血鬼になってしまったのだ。吸血鬼には仲間がいて、その仲間の殆どは人を襲う欲求を持つ。それに、彼は抵抗し続けている……。なんてことだ。

 

「……夜久。僕は、人間だよな? 頼む、そう言ってくれ……!」

 

 彼は辛そうな顔で叫ぶ。おれは胸が痛くなった──人間だ、間違いなく人間だ……お前は。そう伝えようとした時、周囲に異変が起きた。

 

「──!?」

 

 建物の陰から、人が飛び出してきた。それも、複数名。おれたちを狙っているのは、明らかだ。その証拠に、一瞬のうちにこちらを包囲してくる。並の練度ではない。

 

(何だ……? 特に真ん中のアイツ! 只者じゃない!)

 

 真っ赤な髪に、金色に光る目。ヒョロリとした背丈の、仮面をつけた魔法師。手には杖のようなものを手にしている。奇妙な風貌だが、一目見ただけで高い実力が伺えた。

 

「逃げるぞ!」

 

 こんなのと真正面から戦ってられない。おれは戦闘魔法師ではないのだ。駿に声を掛け、CADを操作する。精神干渉系魔法「マンドレイク」は、しっかりと発動し……魔法師たちの動きを僅かに止める。おれたちは、自己加速術式で即座に走り出した。

 

(クソ! もう復帰しやがった!)

 

 どう考えても、敵は素人でない。精神を狂わす想子の音を受けても、すぐ追い縋れるのだから。

 

(ダメ元で「ユーフォリア」を使うか?)

 

 ピンチの状況では、得意な魔法を使うのが1番だ。だが、殺害に至るまでのタイムラグがネック。落ち着いた状態で確実に使いたい。十分距離が取れる広いところに出るまで粘りたいが、それはそれであちらの加勢を引き寄せる可能性があった。

 

「……!」

 

 肌がちり、と灼けるような嫌な予感。自分の命を守るべく、重力操作魔法で上空へと飛び上がる。考えた時間は刹那、本当に咄嗟の判断だった。だから……隣にいる友人のことまで気が回らなかった。

 赤髪の魔法師が持つ杖の先端が光る。瞬間、そこから細く絞り込まれた光条が出て、駿の近くを掠めた。それだけなのに、彼の上半身右半分が焦げ……黒く炭化した。どう考えても致命傷。

 

「待て!」

 

 丸焦げになる様子を見届けた彼らは、踵を返し去っていく。追いかけたかったが、出来やしなかった。親友を置いてはいけない。

 

「しっかりしろ!」

 

 治癒魔法を掛けようとするが、そんなもので治る筈もなく。昏い絶望感だけが、おれの心を黒く染め上げる。

 

(……えっ!?)

 

 せめて、病院には運んでやろう……と諦めの気持ちを抱いた時だった。少しずつ、焦げた部分が減っていっていることに気づく。先ほどまで炭化していた筈の耳の部分が、元の形に戻っている。

 

(なんだ……。「再成」とはまた違う。ゆっくりとしたエイドスの遡及……自己回復能力!?)

 

 信じられない。だが、目の前で起きていることは現実だ。おれはぽかんと口を開け、奇跡を見つめていた。




今回はちゃんとリーナ出しました(本当に?)
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