魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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魔法科高校入学試験をやったら、数問落として92点でした……(でも一科生)。書く時は毎回原作と照らし合わせているので、設定ミスは無いと思いますが。まだまだ魔法科の理解には精進が必要です。

みんなも入学しよう

https://mahouka.jp/exam/


第2話

 九島光宣を入れたくない(おそらく、これ以上の面倒ごとを抱え込むのはごめんなのだろう)ということで、新入生のスカウトをどうするかについて、簡単に話し合いが行われた。とりあえず、次席の七宝琢磨が適任だろうと決定。彼を生徒会室まで連れてきた。

 

「──こうしてお声がけしていただいたのに、お断りするのは心苦しいのですが。入学前から、部活を頑張ろうと決めていて。ちょっと、そのキャリアデザインをいきなり変えるというのは」

 

 琢磨の顔つきからは、まだ少し幼い印象を受けた。ただ、昔の銀幕スターのような太い眉毛が特徴的で、見る人が見れば「男前」と評価するかもしれない。それを自覚しているのか、少し気取ったような態度を取っている。要は芸能人ぶっていた。大してそんな有名でもないのに。

 

「そうですよね。いきなりお願いしたこちらが悪いですから。正直に言ってくれてありがとう。部活、頑張ってくださいね!」

 

 それでも、年相応の横柄さ。だからか、あずさは笑顔で彼の言葉を受け入れた。

 

「は、はい……」

 

 しかし、彼は少し焦った表情。どうやら、引き留められ待ちだったらしい。唖然とした顔のまま頷く様子は、側から見てだいぶ情けなかった。

 

「──さて、次は七草さんたちに声を掛けましょう。四葉くん、頼み事ばかりで悪いですが……彼女たちを呼んできてもらえますか? おそらく、真由美さんと一緒にいる筈ですから。五十里くんは、来賓の方に捕まっている司波さんを助けてきて下さい。えっと、後は……」

 

 先ほどのショックから立ち直ったあずさは、様々な指示を出していく。おれは言われたとおり、七草の双子を探しに部屋を出た。

 

(……有り得そうな場所は、カフェテリアとかか?)

 

 その推測は当たっていたようだ。カフェスペースを覗くと、目当ての人物はすぐに見つけられた。しかも、意外な人物まで混ざっている。

 

「……司波達也? なんでここに」

 

 七草姉妹と一緒に、何故かコーヒーを飲んでいる達也。結構、良い感じで場に馴染んでいた。

 

「深雪待ちだったんだが……。七草先輩が声をかけてきた」

「人のせいにしないでよね! わざとここに座ってお姉ちゃんに色目を使ってたんでしょ!」

「ええっ! そうなんですか、司波先輩!?」

 

 双子の1人が達也に指を突きつける。そして、もう1人がわざとらしく驚く。見事な連携プレー。遠目からは和気藹々とした会話に見えたが、単なる揉め事だったらしい。おまけに、かなりくだらない内容の。

 とはいえ、あり得なさすぎる。仮に、達也が真由美を誘惑できるほどに感情が復活しているのだとしたら……分家当主らはショックから泡を吹いて倒れるだろう。まぁ、それはそれで少し見てみたいが。

 

「もう! 2人ともいい加減にしてちょうだい! ──ごめんなさい、夜久くん。何か用事があったのでしょう?」

「その……七草さんたちを生徒会室に招待するように、と会長が」

 

 それだけで事情を呑み込んだのだろう。三姉妹は顔を見合わせて、さっと視線を交差させた。彼女たちだって、光宣の答辞は目撃していたに決まっている。

 

「……なるほど。それなら、私が連れて行くわ。あーちゃんとも話しておきたいし。──わざわざありがとう。折角だから、貴方はコーヒーくらい飲んでいって」

 

 真由美はそう言うと、おれの返事を聞く前に端末を操作し始めた。そして、妹たちを「行くわよ!」と急かし、さっさとこの場から去っていってしまう。残されたのは、おれと……達也。

 だが、別に話すこともない。彼を置き去りにして、カウンターへとコーヒーを取りに行く。しかし、戻ってきてもテーブルにはまだ達也がいた。

 

「おい。……遮音シールドを貼れるか?」

 

 そして、いきなりこの要求。無視しようかと思ったが、黙ってCADに手を伸ばす。彼が何の話をしようとしているのか、少し気になったのもある。

 

「お前も見ただろう? 九島の末息子を」

 

 魔法が発動するや否や、本題に入る達也。やはり、例の話題を出したかったようだ。

 

「なかなかだったな。『魔法師は兵器である』とは。現状、そういう現実があることは否定しないが」

 

 戦局を大きく変え得る魔法師を、兵器と呼ぶ人はいくらでもいるだろう。特に目の前にいる男はきっと、今までも多くの人々にそう呼ばれてきた筈だ。

 

「……だからといって、そのまま受け入れるつもりは無い。どこまでいっても、魔法師は人間だ。俺はそれを信じている」

 

 前にも、似た話を聞いた覚えがある。彼にとって、譲れない一線なのだろう。詳しい事情は分からないものの、人を悼む「匂い」がまた感じ取れた。

 

「俺の意見は置いておくとしてもだ。あの、九島光宣……かなり厄介だ。何と言っても」

 

 そこで、達也は一度言葉を切る。数秒置いて、再度口を開く。

 

「……パラサイトなのだから」

 

 パラサイト。新年から2月後半にかけて、日本を騒がせた「吸血鬼事件」の元凶。人を「人ならざるもの」へ変貌させる妖魔。

 

「根拠は?」

 

 達也は黙って自分の目を指す。「精霊の眼」で見たらしい。脳に増設された器官を「視た」のだろう。

 

「彼は数ヶ月前まで病弱だったことは、既に確認している。つまり、都内での調査に参加していない。事故の訳がないんだ」

「いくら不自由な身体から逃れたくても、意図的にパラサイトを取り込もうとするとは……。とんでもないことするな」

 

 最初の時点で除外していた推測。それこそが答えだったのだ。

 

「恐らくだが。お前たちの影響が大きいだろうな」

「おれたち?」

「あぁ。お前と……森崎だ。お前たちは、パラサイト化のメリットを可視化してしまった」

 

 魔法力の上昇や自己回復能力のことを言っているのだろうか。そう尋ねるが、彼は「いや」と首を横に振る。

 

「それだけじゃない。『取り返しがつくかもしれないもの』という、楽観的な視点を与えてしまったことの方が重大だ」

 

 駿はパラサイトに取り憑かれたあと、何とか人間に戻ることができた。正確には、おれが「人間」と定義したのだ。その情報は、一部に伝わってしまっている。しかも、都合の良い形で。

 

「そんな訳ないだろ! あんなの……結果論だ」

 

 奇跡的に、精神体がパラサイトに侵食されていなかったゆえに、何とかなっただけだ。殆どは「人外」に成り果てたケースばかり。精神構造を破壊してしまうと、そのまま廃人になるだけ。

 

「正常性バイアスだ。誰だって『自分だけは大丈夫』と思い込むもので、それは九島だって例外じゃないのさ」

「まぁ、大丈夫そうではあるが……今のところ」

 

 少なくとも、人を襲ったりはしていない。精神的には安定していそうだ。

 

「その通り。今のところ、だ。どうせ……色々と面倒なことが起こるのは目に見えている。お前も警戒くらいはしておくんだな」

 

 カップに残ったコーヒーを一気に飲み干し、達也は席を立つ。どうやら、忠告が目的だったらしい。

 

(……まだ、パラサイト問題は解決していない)

 

 残されたおれは、まず障壁を解除する。遮断されていた喧騒が、再び耳に入ってきた。ゆっくりとコーヒーを飲む。まだ温かい。とりあえず、今だけは現実を忘れたかった。

 

 

 

 

 

 

 式の後、光宣は自身の所属するA組へと足を運んでみた。だが、まだ教室に人はいない。彼は主席ゆえ、先にIDカードは貰っていた。だから、カードのために事務局で並ぶ必要が無かったのである。

 

(早く来過ぎちゃったかな……。みんなと交流したかったんだけど)

 

 以前の彼は、殆どベッドの上で生活していた。学校も休みがちで、友達らしい友達もいない。こうして、イベントに出席できるなんて初めてのこと。楽しみ過ぎて、昨日は眠れなかったほどだ。

 

「──あっ! こんにちは!」

 

 廊下の方から話し声がする。嬉しくなって、部屋から飛び出してゆく。そこには、女子生徒が2人いた。緊張するし、最初は男子がよかったな……と思いつつ、そんな贅沢を言ってはいけないと彼は思い直す。

 

「初めまして! 僕は九島光宣です。今日、挨拶してたから知ってるかな。これから仲良くなりたいな、よろしくね。君たちもA組?」

 

 ここまで一気に話してから、ハッと我に返る。自分だけがたくさん喋ってしまった、と。これでは向こうが話せない。にこりと笑いかけ、内心の焦りを誤魔化す。

 

「……わ、私たちもA組ですけれども。九島家の御曹司と気軽に仲良くするなんて、そんな……! 畏れ多いです!」

「え、えぇ……その通りです! 私たちはこれで失礼させていただきます! ごめんなさいっ!」

「あ、待って……」

 

 引き留めも虚しく、彼女らは足早に立ち去ってしまった。

 

(コミュニケーションって、難しいなぁ……)

 

 光宣はこう思っているが、彼が避けられる理由はもちろん別。「魔法師は兵器」と臆面もなく言い放つ人物と、お近づきになどなりたくなかっただけに過ぎない。

 彼はそれを理解していなかったから、この後も何人もの新入生に話し掛けて……逃げられることを繰り返した。流石に落ち込んでしまい、自分の席でしょんぼりと項垂れる。

 

(みんな「自分なんかが……」って遠慮しちゃう。いくら僕が「九島」の血を引くと言っても……同じ魔法師ではあるのに)

 

 もう帰ろう……そう思い、光宣は端末の電源を落とす。そのとき、教室に1人の男子生徒が入ってきた──七宝琢磨だ。彼は部活見学に行っていたため、被害者らの「九島光宣に気をつけろ」というアドバイスを耳にしていなかった。だから、無防備に教室へと顔を出したのである。

 

(そうだ、彼は……)

 

 光宣は、琢磨が「七宝家の長男」だということを思い出した。彼ならば、家を見ずに自分を見てくれるのでは……と希望を見出す。

 

「やぁ! 僕は九島光宣。同じクラスなんだね。これからよろしく!」

 

 琢磨が光宣の方へ顔を向ける。返事が返ってくるまでの時間すらも、彼にはもどかしく感じられた。やっと、やっと……最初の友達ができる!

 

「よろしくする気はない」

「えっ……」

 

 信じられない答えに、光宣は耳を疑う。

 

「俺は学生生活を楽しむ為に入学などしていない。自分を高めるため、ここにいる。友達ごっこなら、他とやってろ」

「そんな……」

 

 想定外の展開。てっきり「あぁ!よろしく!」といった、爽やかな返事が返ってくると思っていたから。病床で暇つぶしに読んでいた物語では、そういった出会いのシーンをたくさん見た。

 

「他の人じゃダメなんだ! 君じゃないと……」

「な、何だ? 急に……」

「みんな、すごく気を遣ってくるんだ。僕が『九』だからかも」

 

 友達になって欲しい理由を率直に伝える。ここで退く訳にはいかないから。

 

「あぁ。なるほど……」

 

 琢磨は事情を聞き、合点のいったと言わんばかりの表情。あともう少し。期待から光宣の顔も、みるみる喜色を湛える。

 

「どちらにせよ、お前と関わるつもりはない」

「どうして……?」

「それくらい自分で考えろ。──俺も忙しいんだ。帰らせてもらう」

 

 また、教室の中でひとりぼっち。これでは、ベッドの上にいた頃に変わらない。

 

(七宝くんは「自分で考えろ」と言った……。逆に言えば、彼はもう答えを知っているんだ。何だろう?)

 

 逆算して考えてみる。自己研鑽こそ入学した目的だ、と琢磨は話していた。ならば、こちらの意識が低すぎるという指摘なのだろうか……。

 

(確かに。親元を初めて離れて、浮かれすぎてるところがあったのかも)

 

 パラサイトを取り込んだことで、やっと手に入れた健康な身体。少々無茶をしても、反動も来ない。そんな些細なことが、自分にとってはどれだけ嬉しいことか。

 

(お祖父様は、最後までお父様の計画に反対していたけど……)

 

 光宣に健康体にするためのアイデアは、現当主の真言が思いついたものだ。師族会議で共有された「森崎駿のパラサイト化」。強い魔法師を作り出す──そんな九島家の悲願を叶えるために出てきたような情報だった。魔法力の上昇と、自己回復能力。パラサイトという最終パーツがあれば、九島光宣という「作品」の欠陥をこれで補える。

 しかし、孫を溺愛している烈はそれに猛反対。何度も「光宣が不憫だ」と繰り返した。

 

(僕だって、お祖父様が大好き。一番優しいし。でも、あの人はいつだって僕の気持ちを分かってくれないのも……事実)

 

 烈はいつも光宣に言う。「魔法が、人の人生を狭めることなどあってはならない」と。

 

 ──光宣。魔法師は、兵器などではないのだよ。

 

 その言葉は、呪いのように心を蝕んだ。綺麗事を言うのは勝手だ。でも、自分はずっとずっと人生の選択肢を狭められていた。他ならぬ、魔法の才能によって。

 

(自分の力を十全に使える居場所を望んで、何がいけないの? 僕は才能を評価して欲しい。だったら、兵器でも構わないんだ)

 

 とはいえ、その自己犠牲的な考えが少数派なことも理解している。だからこそ「権利」を主張したい。兵器であることからは逃れられないと思いつつ、祖父の言うことも少しは分かるのだ。

 

(魔法師は、魔法に囚われて生き続ける。でも、魔法で不幸になっちゃうのは違う。みんなが幸せになれたらいいのに……)

 

 苦しみばかりの人生なんて、間違っている。きっと素晴らしい生き方があるはずだ。もっと自由で、恵まれていて、楽しい世界が──自分の人生だけでなく、他の誰かの人生だって救いたい。救ってみせる。光宣は、そう決意を新たにした。

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