魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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第3話

 おれも魔法師だから、たまに考えることがある。魔法師であることは、価値があることなのだろうかということ。

 多分、価値はあるのだろう。能力があるからこそ、好き勝手できている事実。それを自覚していない訳ではない。どれだけ癇癪を起こして暴れても見捨てられなかったのは、やはり「精神構造干渉」の使い手だったゆえ。その魔法抜きにしても、退学から普通に復帰できた。実家のネームバリューで。そういう点では、優秀な魔法師というものは「自由で楽な人生」を送っているように……見えるのかもしれない。

 

(とはいえ、おれの人生も大して良いものではない。……それでも、魔法師に生まれて良かった)

 

 この世界に生きる人々は、誰だって自分だけの苦しみを実感しながら前へと進む。魔法師も非魔法師も。だけど、魔法師はきっと……社会の中でも「運が良い人たち」だ。そういう側面は、どうしてもある。

 だからといって、全てを楽に手にしてきた訳じゃない。友達も、生き方も。悩みながら、自分の意思で掴んだもの。迫り来る苦難を幾度も乗り越えてきた。美しくない人生を歩んでいる。でも、魔法の才能は、何事も簡単そうに見せてしまう。白鳥が水面下で脚をばたつかせていることを、よく忘れられがちなように。

 仮に魔法師が兵器として生きることでより良い特権を得られるとしても、それを幸福だと認識するべきではない。努力が必要だとしても、自分の人生は自分で選びたい。

 

(だって、お膳立てされた未来を自由とは呼びたくないから)

 

 そう思いつつ、おれは目の前の少年を見遣る──九島光宣、現在の第一高校における台風の目だ。彼は、唐突におれの教室に押しかけて来ていた。

 

「──僕、まだちゃんとした友達が出来ていなくって。四葉先輩に学生生活のコツとか、貰えれば良いなぁと思ってるんですけど」

 

 妙なところで豪胆さを発揮している。ある意味、大物なのかもしれない。

 

「へぇ。何でおれに?」

「退学処分を受けてから復帰するという特殊な経歴でも、生徒会役員として活躍されてますし……」

 

 やりたくてやってる訳ではない。脅されただけだ。具体的に何をすべきか思いつかないが、十文字克人に脅迫されるようなことをしてみたら良いのではないだろうか。

 

「とりあえず、デカい声で『魔法師は兵器だ』と言うのは辞めたらどうだ?」

「なんでですか?」

「自分の意見を表明することが、必ずしも良い方向に転ぶとは限らない。おれはそれを知っている」

 

 魔法師社会は差別的ですよ!と大騒ぎしたことだけが理由という訳ではないが、人にも避けられがちだ。余計なことというのは、基本しない方が良い。デメリットを呑める度胸が無い限りは。友達が出来ないことがそんなに嫌なら、態度を改めた方が早いだろう。

 

「でも、事実ですよ! その上で……僕は皆が幸せになれる未来を探したい。分かってくれる人は絶対います」

 

 魔法師を兵器呼ばわりすることで、気を悪くする人は少なくともいる。達也ですら、そうなのだから。

 

「いるといいな。まぁ、頑張って探せよ」

 

 話は終わりと伝えるべく、手を振って追い返そうとする。

 

「──夜久、購買でサンドイッチ買ってきたぞ。昼飯もたまには簡単で良いだろう。4月の食堂は混むしな」

 

 間の悪いことに、駿が教室に戻ってきた。「好き勝手やらない方が良い」というアドバイスの反例。迷走していた入学時からの大親友。

 

「じゃあ、四葉先輩には何で友達いるんですか?」

「ブフッ!」

 

 たまらず、駿が噴き出した。笑っている場合ではない。

 

「……運が良かったから」

 

 ただ、これに尽きる。魔法至上主義という考えに、奇跡的にも共鳴する人間が現れただけ。愛梨だってそうだ。おれが一色傍系の血を引いていたから、関わる理由が知らぬうちに生まれていた。そこから、関係性を深めたことだけが努力だ。

 

「それなら、僕もチャンスを掴めるまで粘ります。自分のことを理解してくれる友人を見つけるためにも」

 

 好きにしたら良いのではないだろうか。案外、どこかで見つかるかもしれない。しかし、その純粋さは「本当に悪い大人」の餌食になる気もした。とはいえ、おれには彼を止めることなど出来ない。何を言っても、説得力には欠けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 4月最初の授業は、オリエンテーションばかりで面白くも何ともない。休んでも良かったなと思いつつ、帰りの用意をしていると2年A組の教室にまた後輩が訪れた。でも、光宣ではない。七草の双子の片割れ……泉美だ。

 

「あら、泉美ちゃん?」

「深雪お姉様!」

 

 泉美は嬉しそうに深雪の元へと駆け寄った。詳しい経緯は知らない(その時、コーヒーを飲んでいた)が、何故か彼女は深雪を「姉」と呼び慕い始めた。元より姉がいるというのに。もしかすると、疑似家族のような特殊な関係性を構築したかったのかもしれない。深雪はどう思っているのだろう。

 

「まぁ、どうかしたの? 一緒に生徒会室に行きたかった?」

「それもあるんですが……。あっ、良かった!──四葉先輩、お疲れ様です」

 

 彼女は何故かおれの席までやってきた。今日は来客が多い日だ。

 

「あぁ、お疲れ。書記になったんだって? これからよろしく」

「えぇ、よろしくお願い致します。せっかく、お近づきになれたということで……今度、姉や妹たちと一緒にちょっとしたティーパーティを開くのですが、先輩もいかがですか。森崎先輩もよろしければ」

 

 七草家はイベントごとが好きだ。完全に鎖国状態の四葉と違って、社交的な家風なのである。ゆえに、子供たちだけでパーティーの幹事をすることも多いと聞いたことがあった。

 

「他にも、一緒に参加したいご友人がいらっしゃるのであれば……もちろん、大歓迎ですわ」

 

 三姉妹主催のイベントに、おれをわざわざ招く意味。真由美から継承した「対四葉夜久融和路線」のアピールなことは明らか。教室という目立つところで声をかけ、噂になることまで計算に入れた行動だ。

 

「ありがとう。都合を確認して、また連絡させてもらう」

 

 端末を取り出し、お互いの連絡先を交換。少し迷ったが、深雪たちと一緒に生徒会室へ向かうことに。このくらいのパフォーマンスで、今年度の平和が確約されるのならば安いものだ。

 

 

 

 

 

 

 4月も半ば。泉美が生徒会の仕事をぼちぼち覚えつつある中、双子の姉の香澄はある人物に絡まれていた。彼女は風紀委員なので、担当がない日は比較的暇だった。

 

「こっちはアンタと話すことなんか無いんだけど。……七宝」

 

 初めての高校生活。何もかもが新鮮に思えて、あちこち校内を歩き回っていたのが仇になった。泉美を待たずに早く帰ればよかった……香澄は歯噛みする。

 

「お前に無くても、俺にはあるんだな。──上手く取り入ったものだな、七草も」

「は?」

「四葉夜久だよ。退学させたのは七草家なのに、彼が四葉だと分かった途端に擦り寄るなんて無様過ぎるな」

「何それ」

 

 直接目にした訳ではないから、退学処分に至った経緯までは知らない。ただ、お互いに良くないところがあったという認識が落とし所な気もする。大人の話では「面子」なり何なりが絡んで面倒になっているが、子供側の視点ではそこまで遺恨の残るようなことではない。だからこそ、真由美も非公式に謝罪をしたのだ。「退学にするまでのことでは無かった」と思って。

 

「別に仲良くするつもりはないよ。ただ、同じ十師族直系だからこそ……最低限の交流は必要だろうってだけ」

 

 本音を言えば、夜久はそこまで関わりたくないタイプだ。今でこそまだ大人しいが……退学前は本当に言動が凄まじかったという。とにかく、問題行動の連発。

 

 入試の点数は、前代未聞の筆記0点。

 異例の指導教員入れ替え騒ぎ。

 不適切な魔法行使(CADなしで無系統魔法を発動した)によって、複数人のクラスメイトが失神。

 

 これだけでも酷いのに、新入生勧誘期間のエピソードは悪質さがダントツ。実技1位の実力を買われ、夜久は複数のクラブからスカウトされた。その際に、彼は「1番高い値段を出したところに入部する」と言い放ち、合計で20万近くのマネーカードを受け取っていたのだ。発覚したのは、部員の中から密告者が現れたから。

 この事件は、風紀委員会や懲罰委員会どころか、職員室まで駆り出される大騒ぎになった。その時点で、退学処分という話も上がってはいたようだ。新入生かつ実技1位という、将来有望な魔法師の卵である点を加味されて許された。類稀なる魔法の才というのは、いくらでも無理を通してしまうものなのだ。

 

(もしかしたら……次の四葉家当主かもしれないしなぁ。ボクとしても、揉め事は避けたいところだよ)

 

 秘密主義の四葉が、わざわざ外部に公開したのだ。ほぼ、彼が次期当主で確定なのではないか。界隈ではそう予測されている。

 父の弘一は良いだろう。このまま、四葉に対する強硬路線を貫いても。でも、それで損をするのは自分たち下の世代だ。子供の喧嘩ではもう済まない状態で、短絡的な人間から恨まれたりなどするのは怖い。

 もちろん、森崎駿や一色愛梨、一条将輝など……夜久に好感を持っている人物はいる。全く話が通じない訳ではないのだろう。とはいえ、駿は夜久が「四葉直系」と発覚する前からの仲。愛梨と将輝は、横浜事変における戦友の間柄。交友関係が維持できているのは、割と特殊なケースだ。

 

「……それは嫌味か?」

 

 香澄の脳内で広がっていた思考を断ち切ったのは、琢磨の不機嫌そうな声。

 

「どういうことよ?」

「わざわざ、これ見よがしに『十師族直系』を強調するとは。師補十八家を見下す態度が滲み出ていないか?」

「意味わかんない。ヒス? 病院行った方がいいよ」

 

 揚げ足を取られてばかりで疲れる。香澄はうんざりして、ため息をついた。

 

「俺は至って健康だ。心配してもらう必要はない。まぁ、残念ながら。今は立場に差があることも……ちゃんと理解しているよ、俺も。──だからこそ」

 

 お前たちは九島光宣とも関わるべきなんじゃないか? 十師族直系は最低限の交流をした方が良いんだろう?

 意地の悪い表情を浮かべ、琢磨はそう言う。もちろん、この意見は単なる嫌がらせである。しかし、一応筋は通っていた。だから、香澄も言葉に詰まる。

 

「……そうかもね。アンタみたいな人間に比べれば、光宣くんの方が100倍マシかも。──もういい? こんなくだらない話、いつまでもしたくないから」

 

 だが、ここで言い負かされたくなどない。見え透いた挑発と分かっていたものの、香澄も負けじと言い返す。今でこそ暴走しているが、昔の光宣はおとなしい少年だった。彼女の中では、未だそのイメージが強い。

 

「あぁ、構わない。呼び止めて悪かったな」

 

 それに対し、鷹揚に頷く琢磨。いきなり態度が軟化したので、香澄は内心で疑問を抱く。だが、そこを突いて会話が長引くのも嫌だ。さっさと撤退するに限る。彼女は足早にこの場を去った。

 

(七草は……うん、いなくなったな)

 

 琢磨はそっと周囲を確認する。そして、スラックスのポケットを探る。小さな機械が2つ。録音装置とワイヤレスイヤホンだ。イヤホンを耳に刺し、彼は録っていた香澄との会話を聴き直す。

 

 ──ヒス? 病院行った方がいいよ。

 ──アンタみたいな人間に比べれば、光宣くんの方が100倍マシかも。

 

 この発言がしっかり記録されていることを確認し、彼はほくそ笑む。

 

(これを上手く使えば、七草の評判を下げられる……! ざまぁみやがれ!)

 

 彼は現在「ある人物」の協力者になっていた。こうした魔法とは別アプローチの工作方法も、そこでアドバイスされたこと。中学までは魔法力の研鑽ばかりに固執していたため、それらは目から鱗の学びであった。

 

(ただ、その対価として「あのお方」の期待に応えなければ。まずは……ちゃんと力をつけないと。九島光宣を始末するために)

 

 あのお方というのは、元老院四大老が一角──樫和主鷹である。十六夜調と、その弟の鳴が死亡で離脱したため、樫和派は早急な戦力補充を必要としていた。そこで目をつけられたのが、琢磨なのである。「ミリオン・エッジ」という遅延術式を使う彼は、古式魔法特有のルールにもまだ馴染みやすい。スカウトされたのには、そうした理由もあった。

 

「……頑張るぞ」

 

 都内を騒がせていた吸血鬼事件。その元凶である「パラサイト」が、九島光宣に取り憑いているらしい。この国の安寧のためにも、対処する必要がある。ただ、まだ自分の実力は足りない。血の滲むような努力が必要だ──機械をポケットにしまい直し、自分に喝を入れた。

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