魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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第8話

 九島光宣の執念は凄まじかった。日が落ちるまでに、おれたちの居場所を特定したのだから。

 そもそも、そう簡単なことではないのだ。魔法師はイデアにアクセスが可能であり、非魔法師と比べても広い範囲から情報を得られるとはいえ。無闇矢鱈に探して、見つかるものでもない。おそらく、彼は「精霊の眼」のような能力を持っている。厄介だ。

 

「……来るぞ! 小屋から出ろ!」

 

 また、おれもパラサイトの接敵にいち早く気づく。

 

「おい、狭いところじゃないと『仮装行列(パレード)』が……」

「正気の九島光宣がノコノコ押し入ってくるか! 気づけバカ!」

 

 一丁前に反論しようとする琢磨を一喝し、深見と共にグイグイ彼の背中を押す。時間がない。予測した通り、数十秒後には小屋が消滅した。

 放出系魔法「晴天霹靂(クラウドレス・サンダー)」によって、プラズマが発生したのだ。この魔法は少し特殊で、二段構えの構成。電子シャワーの奔流で対象に負の電荷を帯びさせ、その後陽子を降らせるというもの。もし、魔法の発動の方が早ければ……逃げられなかったかもしれない。歴とした、対人制圧用魔法。間違いなく、光宣は最初から本気だ。

 

「これで終わってくれれば良かったけど。流石に無理か」

 

 光宣の声がした。既に近くまで来ていたのだ。彼はおれの後ろにいる、深見と琢磨に目を向けた。

 

「……悪いけど、君たちも殺すから」

 

 冷徹な表情から出る柔らかな口調は、あまりにもミスマッチ。だからこそ、不気味な印象を受ける。

 

「そもそもさぁ、おれたちには殺す理由がある訳。お前、パラサイトだから。でも、お前がおれたちを殺す理由なくね?」

「殺されそうになったら反撃するでしょ」

 

 確かに、尤もな主張だった。とはいえ、まずは「師族会議を通して抗議」など方法がある気もする。例えば、おれが将輝を殺害しようとした場合、多分向こうはその手段を最初に取る筈だ。そして、おれがメチャクチャ怒られて終了。この展開が、1番丸い選択肢だと思ったのだが。

 

(パラサイトなことを公表できないからか)

 

 現状、光宣がパラサイトだと把握しているのは……四葉、七草、十文字あたりだろう。七草は完全に面白がりそうだし、十文字はほぼ七草の言いなりみたいなもの。そして、四葉は九島の問題などどうでも良い。だから、咎められていないだけだ。もし、問い合わせが来ても「パラサイトだからじゃないですか? 危険なので殺します」の返答でこちらは済む。そうなれば、九島は引き下がるしかないのだ。

 

(……つまり、コイツは自分1人で何とかしなきゃいけないのか。気の毒な奴)

 

 だからといって、おれたちも手加減は出来ない。生きて帰らねばならないからだ。それぞれ立場は違えど、この場の人間全てが覚悟を決める。

 

(クソッ! あのアンジー・シリウスよりも『仮装行列』が上手い!)

 

 ほぼ戦闘経験の無い高校1年生の筈なのに。座標やエイドスを誤魔化すことが、プロの戦闘魔法師よりも長けている。掠ってはいるだろうが、おれたち3人とも有効な攻撃は与えられていない。

 しかし、光宣が魔法師として未熟なのは事実。どこかに必ず綻びがある。

 

(いや……全然無いな)

 

 息継ぎのセンスが高いのだ。おれも上手い方だが、あまり長時間維持するような魔法を使わない。使い慣れている魔法の差で、そのあたりの得意不得意は如実に現れる。

 

「……仕方ない。──おい! アレやるか!」

「あぁ、このままだとジリ貧だろうしな」

 

 普通に決着が付きそうならば、避けても良かった選択肢。それを選ぶ必要が出てきた。

 

「ほ、本気でやるのか?」

 

 琢磨が震えた声で確認してくる。それくらい、非人道的なアイデアだった。

 深見の「コミングル」から得た着想。おそらく、光宣は「呼吸が上手くできないこと」に深いトラウマがある。病弱だった自分が想起されるからだろう。

 

(だが、このままだと魔法は当たらない)

 

 自分や味方への被害を避けていると、攻撃範囲が限られてくる。光宣はそれを見抜いて、上手く移動しているのだ。

 ならば、フレンドリーファイアを恐れなければ良い。全員で攻撃性の高い大規模広域魔法を行使する。

 

(人間が酸素不足に耐えられる時間は短い……。それまでに九島光宣を追い詰められるかは、ほぼ賭けだ)

 

 そして、アイデアを実現できる魔法の選定には苦労した。

 相克を避けるため、エリアを指定しないタイプでなければならない。そして、酸欠状態を引き起こせる魔法であること。もちろん、誰かの固有魔法ではないもの。それらに合致したのは「窒息乱流(ナイトロゲン・ストーム)」。気絶させることが目的ではない(自分たちが危ない)ので、威力はかなり下げて使うし、琢磨も失敗はしないだろうと決まった。

 一斉にCADを操作する。多少のラグはあれど、ほぼ同時に魔法が発動した。酸素濃度の低い空気塊が迫ってきて息苦しい。視界が霞み、意識が朦朧とするが、魔法の維持に集中する。2分弱は耐える必要があった。

 

(……来た!)

 

 恐怖の「匂い」。それを感じ取り……おれは魔法を切って、第二撃を繰り出そうと走り出す。しかし、そこで目にしたのは。

 

「──考えたね。でも、僕は同じ手を二度食らわない」

 

 地面に倒れ伏しているのは、深見と琢磨。サイキック能力を浴びせられたのだろうか。生きてはいるが、戦闘続行は厳しそうだった。

 

「……さっきはビックリしたけどね。でも、今の僕はちゃんと健康だ。それが分かれば、怖くなんてない」

「何が健康だよ。ずっと『破壊衝動』と戦い続けなければならないのに。人を襲いたい、誰かをパラサイトに変えたい……そう思うことを『異常』だと思わないのか」

 

 パラサイトには自己保存の本能がある。血液中の霊子を吸い取り、人間を自分の棲み家へと作り変える習性。

 誰かを襲え。人外に変えろ。そんな「声」に抗いながら生き続けることを……受け入れるべきではないだろう。

 

「正しくないと思ってるよ。だからこそ……こうして、君を追い詰めたんだ。僕が本当の意味で『健康』になるためにね」

「まさか……!?」

 

 彼が何故わざとらしいくらいに「四葉夜久を絶対殺す」と宣言したのか。おれを先に戦闘不能にしなかったのか──全てはこの時のため。「精神構造干渉」を使わせ、人間に戻ることを狙っていたのだ。

 

「さぁ、二択だね。僕を助けるか、僕に殺されるか……。好きな方を選びなよ」

「おれを殺して、第四次世界大戦が起きるとは思わないのか」

「君、そこまで愛されてないでしょ。似てるから分かるよ」

 

 だいぶ失礼だが、事実だった。今の四葉は、身内の死で立ち上がれるほど……結束していない。

 

「……分かった。やろう」

「違う魔法を使おうとした瞬間……殺す」

「はいはい、分かったよ」

 

 おれは右手をかざす。使い慣れた「精神構造干渉」は、すんなりと効果を表した。光宣の中に巣食うパラサイトが消滅する。

 

「……やった。ぼ、ぼく……やっと『人間』にっ!」

 

 光宣は嬉しそうに立ち上がり、おれには目もくれず……駆け出した。だが、数メートルも進まないうちに彼は転んでしまう。おれはゆっくりと彼の元へと移動し、倒れ込んだ彼の横に座る。聞こえるのは、ヒューヒューという掠れた音。呼吸が上手くできていないのだ。

 

「よぉ、元気か? ──見りゃ分かるな。元気じゃないことくらい」

「お、お前……。……何をした?」

「何も。人間に戻しただけ」

 

 駿に施した時に確認しているが、体内のパラサイトが消滅すると……自己回復能力とサイキック能力を喪失する。つまり、身体機能も元に戻るということ。彼が元々病弱だと知っていたから、素直に受け入れたのだ。そうでなければ、もっと粘っていた。あるいは、リスクを恐れずに精神構造干渉を使うフリをして別の魔法を使うか。

 

「これを分かってたのか……」

「知っていたら治療拒否するだろう? お前がバカで助かったよ」

 

 おれはもう一度、彼に向けて右手を伸ばす。身体が弱いとはいえ、この魔法力は脅威すぎる。今のうちに、こちらが主導権を握れるようにしておく必要があった。殺しても良いが、パラサイトでは無くなった訳で。殺すリスクをわざわざ取る必要もない。また、元老院が庇ってくれるか怪しいのもある。

 光宣自身の魔法力を利用し、演算領域の一部にロックを掛ける。制限下の深雪より少し下回る力を目安に調整。元々パラサイト化の影響で、彼の魔法力が上がっていたこともあり、かなりバランス良く仕上がった。

 

「貴様……!」

 

 何をされたか理解したのだろう。光宣がおれを睨みつける。

 

「今後も楽しい学生生活を送れるといいな」

「……殺す! 絶対殺してやる!」

 

 怒りのあまり、光宣の目は血走っていた。健康を得るためには、魔法力を制限するしかない事実。それは彼にとって、受け入れ難いことだったのだ。

 

「やってみな。──やれるものなら」

 

 おれは颯爽と踵を返す。そろそろ、医者にかかりたかった。

 

 

 

 

 

 

 内臓の調子はだいぶ悪かったらしい。ところどころ破裂しており、医者に治癒魔法を掛けて貰った。だが、この魔法はエイドス情報を固定するための手段でしかない。数十分おきに掛け直す必要があり、一度引いた痛みが何度も何度も戻るのでかなり苦しい。

 

「……災難だったわね。進人類戦線とのトラブルの末、後輩と私闘する羽目になったって言っていたけれど」

 

 愛梨が呆れ顔で、ベッドに横たわるおれを見下ろした。四葉のマンションまで見舞いに来てくれたのだ。

 

「あぁ。片付けるだけのつもりだったんだが……色々あった」

 

 琢磨が進人類戦線と関わっていたことや、九島光宣がパラサイトであったことなど……オフレコで事情を話す。外部の耳が無いので安心して話せた。代わりに、実家には全ての情報が流れていくのだが。

 

「悪い芽を摘んだ……と言えるのかしら」

「そうかもな」

 

 しかし、琢磨は別に元老院を抜けていない……筈だ。また、反魔法運動は日々加速している。社会がおかしな方へ向かっていることは否定できない。実際、反魔法デモの喧騒が風に乗って、今もここまで聞こえてきている。

 急に、扉がノックされた。使用人が入ってきて、花瓶を窓辺に置く。ピンク色をした見事なガーベラがメインで、美しいフラワーギフトだった。

 

「……このお花。栞と沓子と一緒に選んだのよ」

 

 栞のためだったのでしょう? 今後、彼らと接触してしまわないように……愛梨はそういって、おれの目をじっと見た。

 

「愛梨の友達だったから……」

 

 どことなく決まりが悪くなり、小さな声で答える。

 

「いいのよ。……意地悪な聞き方したわね。分かってる、私のためだったって」

 

 人は縁の薄い人間にそこまで必死になれない。当たり前だ。単に、栞は愛梨の友人で、彼女の悲しみはきっと愛梨の悲しみに繋がる……その確信だけがおれを突き動かした。

 

「ありがとう」

 

 彼女の手がおれの髪に触れる。どこか安心して……そのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 一週間ほどで治癒魔法が定着し、学校に戻ってくることが出来た。しかし、まだ食べるものには気を遣わなければならない。

 

「お前、カツカレー食うなよ。可哀想とか思わないのか?」

「何を食べるかは僕の自由だ」

 

 ルーのたっぷりかかったカツにかぶりつく駿の前で、ランチジャーに入った少量のおかゆを食べる。塩分も抑えねばならず、味がほぼしない。本当に悲しい食事だ。

 

「お前が休んでる間、一高も大変だったぞ。反魔法デモ団体が来て、外壁に向けて投石を始めてな」

「危ないな。どうなったんだ? それ」

「九島光宣が平気な顔で石に当たりに行って、デモ隊が『化け物だ!』と恐れ慄いて……帰った」

「アイツ結構役に立つんだな」

 

 おそらく「仮装行列」を使い、付近を歩いていたのだろう。不正魔法使用な気もするが、誰も何も言わなかったのだろうか。結果オーライだったので咎めなかったのかもしれない。あとで五十里かあずさに尋ねてみよう。

 ただ、笑い事だけで済まない部分もある。そもそも、非魔法師が魔法師を羨むのは是非もないこと。だからこそ、羨望からくる負の感情をコントロールすべきだと思うのだが。

 

「──少なくとも、寝腐っていたアンタよりは真面目にやってたよ」

 

 突然、会話に入ってきたのは光宣だった。完全にタメ口になり、先輩への敬意は全く感じられない。別に構わないけれども。

 

「元気そうだな」

「どこが? 今は仕方なく……自分の現状を受け入れているだけ」

 

 彼は顔を歪ませ、そう吐き捨てる。態度こそ悪いが、それがAIっぽさを薄れさせ……人間味を出してもいた。

 

「──九島! お前何してるんだ?」

 

 そこに琢磨がすごい形相をして走ってきた。殺し合いをしたとはいえ、そんな急に距離が縮まるものだろうか。

 おれが疑問を抱いていることに気づいたのだろう。琢磨は肩を竦めてこう言った。

 

「……あぁ。俺、コイツを監視してて」

 

 大方、元老院から言いつけられたに違いない。事情を飲み込んでいない駿は、えらく訝しげな顔をしていた。

 

「勝手に付き纏ってきて迷惑だ、正直」

「友達になって欲しかったんだろう? 入学式の日を忘れたか? ──おい、四葉夜久」

 

 光宣をやりこめていた琢磨が、おれへと向き直る。それにしても、どいつもこいつも後輩らしさがない。

 

「九島と同じように。俺もアンタには思うところがある……。だが、今は力をつける時間だとも理解している。首を洗って待ってろ」

 

 もしかして、元老院を抜けていない理由はそれだろうか。別に悪い場所でもないが、素晴らしく環境が良い訳でもない。少なくとも、四葉は元老院から金銭的援助を受ける代わりに、非合法な仕事を請けているのだから。

 しかし、おれが「やめたほうがいい」と言うのも変な話である。とりあえず、適当に頷いておいた。

 

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