魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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魔法科3期のキービジュ見ましたが、特に香澄がとても素敵でしたね。放送が楽しみです。


第3話

 華僑やチャイニーズマフィアを牛耳っていた、中華街の実質的リーダーの周公瑾。彼は横浜事変の最中に行方不明となってしまった。未だに、生死は不明だ。

 だが、彼の主である顧傑は、そこまで問題視していなかった。肉体を失うことはあれど、精神までは失っていないだろう……周に掛けられている呪いとも言うべき術式への信頼がそんな楽観的な認識を与えたのだ。

 実際は、夜久によって「自我」を消失させられているために復活は不可能。顧傑の前に弟子が現れることは、もうない。

 

(奴が戻ってくるまで待ってはいられない。そろそろ、日本への工作を再開せねばならないのだ)

 

 周が便りを寄越さないことに痺れを切らした顧傑は、代役の現地エージェントを探すことにした。優秀な術師であることはもちろん、自分の「信条」に合う人間でなければならない。つまり、四葉家に憎しみを抱き、なおかつ「危害を加えてやろう」と本気で思っている、恐れ知らずである必要があった。

 

「──絶対、ヨツバヨルヒサを殺しマース!」

 

 フリズスキャルヴという特殊な情報端末を駆使して探し出した同志は、周と比べるとだいぶ不安になる人物であった。

 エンゾは、南米出身のエクソシスト。年は53。数年前に、日本へと渡ってきた。その後、夜久とちょっとしたトラブルがあったらしい。

 

『……貴様の事情については理解している。しかし「ただ殺す」だけが目的では困る』

「イエスイエス。ヨツバを絶望させるネ」

 

 この調子だから、顧傑は「本当に大丈夫か?」と心配になった。しかし、九島烈の「パラサイドール計画」を教えると、あっさり知人の術師をスパイとして送り込んだ。しかも、中華系の方術士。祖国にいた頃には知り合っていない筈なので、日本に来てから作った人脈に違いない。その手腕は、本物と認めざるを得なかった。

 

「……ダガ、奴はクドーショーグンの策には乗らなかった。残念ダ。ソレナラ、話が早く済みそうだったノニ」

 

 もしパラサイドール計画に関与してくれていれば、エンゾの仕事はかなり楽になっていた。パラサイトをなんとかして暴走させれば、後は九島烈が夜久に咎を擦りつけてくれただろう。

 もちろん、夜久がそれに納得する訳がない。間違いなく、揉めるに違いなかった。九島烈と相討ちになって死んでくれないか……までが、組み立てていたストーリーである。

 

『四葉夜久については、今回ばかりは見送ることだ。──この計画においては、魔法師たちの力を喪失させることこそ重要なこと』

「……単純ナ考え、ッテ気するケドネ。ナンデモ殺す方が安心」

 

 エンゾは、やたらと口答えをしてくる。ここが周とは異なるところだ。

 

『言った通りにするんだ。長いスパンで取り組むべき計画だ、勝手なことをするのは避けろ』

 

 顧傑はうんざりして、言いたいことを伝え……さっさと術を切った。術による通信は電話と違い、死体を媒介に思念を伝えるため、再接続には数日かかる(その分、盗聴が困難というメリットがあるのだが)。しばらくは、エンゾと会話をしなくて済む。

 深いため息をつき、彼はヘッドセット型端末を装着する。フリズスキャルヴを使い、新たな策に使える情報を探さねばならない。そう思ったのだ。新入りに長期計画の全てを委ねるのは、あまりにもリスクが大きすぎるから。

 

 

 

 

 

 

 黒羽の双子は、四葉家が所有するマンションを訪れていた。つまりは、夜久に会いにきたのだ。だが、遊びに来たのではない。別に仲良くなどないのだから当たり前だ。

 

「エンゾ・アランテス・ド・ロドリゲス・ジュニオールという名に心当たりは?」

「長い名前だな。……いきなり訪ねてきて何だよ」

「夜久さん、どうやら狙われてるみたいです。まぁ僕も御当主様から言われただけなんで、詳しいことまでは分かりません。だからこそ、質問してるんですよ」

 

 文弥と亜夜子は、真夜から指令を貰っていた。「面倒なことにならないうちに、夜久を狙う術者を調べておけ」というもの。要は「夜久係」という貧乏くじをまた引いたのだ。

 彼の問いに、夜久は文句を言いつつも……なんとか記憶を引き出そうとする。

 

「50代の男性です。かなり南米特有の顔立ちですわね」

「そんなやついたか……?」

 

 夜久は首を傾げながらも、亜夜子の差し出した画像を見る。

 

「……あぁ、食い逃げ犯だ」

「食い逃げ?」

「そう。駿と飯を食いに行った時にな」

 

 都内で有名なつけ麺屋で食事をしていた時のこと。レジではトラブルが起きていた。断片的に聞こえてくる言葉は「マネーカードの額が足りない」というもの。煩わしくなったのか、店員を無視して客は逃げ出した。それを魔法で止めたのが駿。無系統魔法が見事にヒットし、食い逃げ犯は通報を受けた警察によって連行された。捜査の中で、都内で何度も食い逃げを繰り返してた人物でもあると発覚したらしい。後で聞いた話だが。

 

「だから、恨むなら駿の方だろ。おれ、全く関係無いぞ」

「変に煽ったりとか、しなかったんですか?」

「してない。警察が来る前に食べ終えてしまいたかったからな」

 

 事情聴取を受ける羽目になりそうだったので、食事に集中していた。自分に非はない、と夜久は訴える。

 

「……言い方は悪いですけれど。森崎家の嫡男、ちょっと地味なお顔立ちですものね。印象に残らなかったんじゃないんですか?」

「そんなメチャクチャな……。ですが、夜久さんの方が、ずっと華やかな感じではありますね」

 

 深雪や光宣のような人外の美しさを、夜久は持っている訳ではない。もちろん、端正な顔立ちはしている。しかし、完璧な造形ではない。黒目がちの大きな瞳だが、瞼は少し重めで二重幅は狭い。鼻はスッと高く美しいが、鼻筋はしっかりしていて「忘れ鼻」とは違う。人間の範疇での「美しい顔」に黒髪ウルフカットが相まって……儚げな美少年となっている。

 

「……照れるな。あんまり、褒められたことないし」

 

 そうだろうよ、と双子は思った。人間として駄目な分、見た目の良さが霞んでしまっているのだから。

 

「ただ、まぁ……顔が理由ってのはあり得ないと思う」

「それもそうですね」

「でも、エンゾって人が食い逃げ常習犯だとして……なぜ、その時だけバレたのでしょうか? 少額のマネーカードを用意していたし、一時の気の迷いではなく、明らかに確信犯だと思いますが」

 

 その言葉を受けて、当時のことを思い出していた夜久が「あっ」と声を上げた。

 

「そうか……認知を歪める簡易結界を張っていたんだ」

「どういうことですか?」

「入り口にさ、妙な置物があったんだよな。クリスタル製の、小さいやつ。実際、店の感じが……なんだかキモくて」

 

 それを夜久は蹴り飛ばしたらしい。その瞬間、店から漂っていた奇妙な空気感は消えたという。

 

「なるほど……。置物を媒体に、特殊な結界を構築して食い逃げをしていたと。みみっちいな……。──だけど、魔法的感受性の高い夜久さんと邂逅したことで失敗した」

「恨まれた経緯はそれっぽいですわね……。でも、だいぶ逆恨みではありませんこと?」

「まぁ、よく分かんない人なんか世の中にごまんといるしな……お母様とか」

 

 文弥と亜夜子は曖昧な笑みを浮かべる。同意など出来ないし、したくもない。しかも、ここは四葉のマンション。使用人の耳目があり、迂闊なことは言えなかった。

 

「と、とにかく……大した問題ではなさそうですね。御当主様には、僕から報告を上げておきますよ」

「でも、身辺にはくれぐれもお気をつけてくださいね」

 

 玄関まで双子を見送った夜久は、少しの間そこに留まって……1人静かに考え込んでいた。そして、部屋に戻ってモニターを点けた。

 

『──これはこれは夜久様。お久しぶりですな』

「お母様を出してくれ」

『いきなり仰られても……』

 

 葉山は困った顔で「言付けならしておきますから」と言った。

 

「まぁ、良いか。確認したいだけです。……おれに恨みを抱いている奴のことなんて、どうやって調べてくるのか気になって。おれ自身、忘れていたことを」

 

 このことが、夜久にとって不思議で仕方なかった。

 

『……奥様の持つ情報網が凄まじいことの証左でしょう』

「それなら逆におかしい。黒羽は『恨んでるらしい』しか知らない状態で、おれに会いにきた。 つまり、お母様も人物の細かい背景までは知らなかった。こんな変な話がありますか?」

 

 顔を見ただけで「恨んでそう」とでも分かったというのか。否、真夜は精神干渉魔法に適性がある魔法師では無いのだ。そんなエスパーじみたことが出来る筈もない。

 

『……私が話せる範囲のことは、お話ししておきましょうか。今後も、繰り返し質問されても困ります』

「へぇ、何か秘密が」

『そこまで大したことではありませんがね。……九島烈と七草弘一が組んでいる、例のパラサイドール計画があるでしょう』

 

 ガタン、と音がした。夜久がテーブルの上に置いていた物をうっかり落としてしまったのだ。葉山はそれに気づいているのか、いないのか……そのまま話を続ける。

 

『そこに、四葉を恨む勢力が一枚噛んでいるようです。その調査の途中、夜久様を恨んでいるという人間も浮上してきたのです』

「……そうか。そういうことか。……ありがとうございます」

 

 夜久は話を切り上げ、椅子に深く座り直した。目を瞑っても、思考はぐるぐると回り続ける。四葉も既に探りを入れていたという事実。それを再認識したからだ。よく考えれば、当然のこととはいえ。

 七草の双子たちとの共同作戦が邪魔されないといいが……。珍しく、夜久はそんな弱気なことを思った。

 

 

 

 

 

 

 九島光宣は、リニア列車に乗っていた。奈良に帰るためだ。そして、彼には「あること」について調べるという目的もあった。

 

「……君、別に奈良に用は無いと思うけど」

 

 目の前にいる人間のことを、光宣は鋭く睨みつける。しかし、当の本人は座席で呑気にくつろいで読書に勤しむのみ。傍のドリンクホルダーにはコーヒーまで置いている。向かいからの冷たい視線など、どこ吹く風。

 

「監視が目的だからな。妙な動きをすれば、そりゃあ後を追うに決まっている」

 

 奈良までの同行者(もはやストーカーだと光宣は思っている)は、七宝琢磨である。

 

「校内はもう諦めたよ。でも、休日までは本当に鬱陶しい」

「俺も別にやりたくはない。だが……」

 

 琢磨はCADを操作して、遮音フィールドを構築した。

 

「お前の爺さんが怪しい動きをしていると聞いたからな」

「……耳が早いね。『元老院』ってやつは」

 

 諦めたようにため息を吐き、光宣はポケットを探る。取り出されたのは情報端末。

 

「響子姉さんから来たメールだ」

 

 響子、というのは、光宣の「遺伝上の異父弟」である藤林響子だ。

 

「そうか……『電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)』は、お前の親戚だったな」

 

 文面はシンプルだった。「強制はしない。でも、貴方にその気があるなら……お祖父様を止めて。ヒントはピクシー」という内容。他には何も書かれていない。

 

「ヒントは妖精? 七草家の長女か?」

 

 七草真由美の異名には「エルフィン・スナイパー」や「妖精姫」などがあった。

 

「バカ。……生徒会に最近入った3Hだよ、多分」

「あのメイドロボか」

「あれ、パラサイト入りだよ」

「……ブフッ!」

 

 琢磨が盛大に咽せ、口にしていたブラックコーヒーを吹き出した。シートにシミが広がる。

 

「うわ、汚した……」

「悪かった。ちゃんと戻すから……」

 

 吸収系でタンパク質や色素などを完全に分離、そして水分と共に発散してしまう。瞬く間に、さっきコーヒーを溢したとは思えない状態へと戻る。

 

「……なんで、そんなものが生徒会室に?」

「司波達也先輩の持ち物らしい。所有者を調べたらヒットした」

「あの人も怪しいってことか?」

「いや……。それなら、響子姉さんはその旨も書きそうだし……。一旦、それは置いておこう」

 

 琢磨的には気になって仕方なかったが、今突っ込んだ話をするのはやめた。光宣の機嫌を損ねるのは面倒だ、という判断だ。

 

「……つまり、パラサイト入りロボを量産しようという話なのか」

「恐らくはね。気になったから、一応自分の目で見ておこうかなって。多分、第九研を使っている筈だから」

「そうか、お前なら顔パスだろうし……調べるのは楽そうだ」

 

 その言葉に、光宣は顔を曇らせて……首を横に振った。

 

「違うよ。……忍び込むんだ」

「どうして」

「僕は家族に好かれていないから。パラサイトを入れられる前からね」

 

 窓の向こうを見つめ、光宣は淡々とそう言う。表情ひとつ変えない。

 どう返せば良いのか、琢磨には分からなかった。自分は七宝家の長男で……跡取り。礼儀作法など厳しい躾もあったが、それなりに愛されて育ってきた。その自覚があるからこそ、光宣の気持ちに完全に寄り添えない。

 

「……じゃあ、手伝ってやるよ。1人で怒られるよりは、2人の方がマシだろ」

 

 だから、下手な慰めはやめることにした。気の利いたことを言える気がしなかったから。

 

「……足手纏いにならないでよ」

 

 まだ、光宣は無表情で景色を見ている。でも、ほんの少しだけ……その口角が弛んだように、琢磨には感じられた。

 

「言ってろ」




夜久の「精神構造干渉」のために周公瑾を殺して、一応いつでも復活させられるように微妙な感じにしておいたんです。でも、生き返ってもウザいな……と思い、別のエージェントを用意することにしました。差別化するために、かなりイカれた方向性で肉付けしています。
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