魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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第6話

 九校戦の会場は「富士演習場南東エリア」。第一高校は比較的近いので、開会式当日の朝にバスで会場に向かうのが通例。今年も例外ではなかった。

 バスに乗り込み、後方へと進む。光宣は既に席についており、ぼんやり前のシートを眺めていた。隣の窓際席には、黙って端末を弄っている琢磨。……どう見ても、険悪そうな空気だ。

 

「あっ、四葉夜久。──ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」

 

 それなのに。何故か、彼の方から話しかけてきた。騙し討ちして以来、あまり会話していないので珍しい。気になったので、通路を挟んで隣のシートに腰掛けた。

 

「……響子姉さんに変なこと吹き込んだの、お前?」

「は?」

 

 全く意味が分からず、おれは眉を顰める。謂れのない言いがかりだ。

 

「なんだ、違うのか。急に探り入れるみたいに『調子どう?』って聞いてきたから……。お前の入れ知恵かと」

「何でも、おれのせいにするなよ」

 

 そもそも、自分はそこまで社交的でもない。四葉家内で比較すれば、外との関わりが多い方なだけである。「電子の魔女」と、一体どこで知り合う機会があるのだ。

 

「てか、探り入れるって何だよ。何か、後ろ暗いことでもしてるのか?」

「別に。──そういうことは、そっちのお家芸なんじゃない」

「まぁ」

 

 おれは肩をすくめることで、それに答えた。第四研の非人道性は今に始まった事ではない。

 

「──おっ、夜久」

 

 駿がバス車内に入ってきた。当然のように、彼は隣に座る。おれとしても否はない。

 

「九校戦……楽しみだな。今年はお前もいるし。学校、戻ってこれて良かったな」

「まぁ、勝利を持ち帰るくらいの仕事はするつもりだ」

「つれないな。折角のイベントごとだぞ? もっと楽しそうにしろ」

 

 ほぼ勝てる試合なのである。逆に将輝はかなり気合が入っていて、わざわざ「お前を絶対に驚かせる!」と宣戦布告してきたが。運営本部絡みのゴタゴタを彼も知っている筈だろうに、少しも嫌な態度を見せなかった。良い奴である。

 

「ピラーズは歴史も長いからな。攻略法も色々ある。お前の出る試合の方が大変じゃないか?」

 

 駿は「ロアー・アンド・ガンナー」のソロを担当することになっていた。

 

「最初は慣れなかった。けど、本番は上手くやれそうだ」

「ルールを見る限り……スピードが重要そうだが。でも、的に正確に当てないと点数は伸びないだろ?」

「あぁ。その辺は対策してる。期待しててくれ」

 

 自信ありげな顔の駿。事実、魔法力も上がっている訳で……優勝もあり得る。気合いが入っているのも頷けた。

 

「──あっ、四葉先輩。後ろに座っていらしたのですね」

 

 前の席から、泉美が顔を覗かせた。しかし、その隣は香澄ではない。

 

「あぁ。ところで、泉美ちゃんだけ? 香澄ちゃんは?」

「イヤですね〜先輩。私たち、いつもセットって訳ではありませんよ。なんなら、別々のことが多いです」

 

 飴食べます?と差し出してくる。ありがたく頂くことに。彼女に促され、駿もそれに倣った。

 

「七草さん、珍しいね。夜久と積極的に関わるなんて」

「泉美で良いですよ。──でも、普通に気になりません?」

「物好きだな」

 

 多分、駿の感覚の方が正しいだろう。そう思ったのだが。

 

「綺麗なものって好きなんですよ。深雪お姉様然り。ずっと見ていたくなるでしょう?」

「じゃあ、九島とかも見るのか?」

 

 おれが光宣を指差すと、窓の外を見たままの彼は僅かに身じろぎした。聞こえているのだ。

 

「……確かに。──お2人も、飴どうぞ」

 

 泉美が立ち上がり、彼らに袋を差し出す。琢磨は案の定、無視。光宣は目を見開いて固まっている。

 

「いりませんか?」

「い、いえ! 必要です! ……ありがとう」

 

 光宣はおずおずと飴玉を受け取る。手の中で何度か転がし……初めて笑顔を見せた。こうやって見ると、彼も年相応の少年だ。以前、凄まじい死闘を繰り広げたことを忘れてしまいそうになる。

 

「七宝くんは?」

「俺は施しなど受けない」

 

 端末に目を落としたまま、琢磨はすげない返事をするのみ。

 

「仕方ないですね。九島くん、もう1個あげますよ」

「えっ! いいの……?」

「もちろん」

 

 2つ目の飴玉を光宣は大切そうに鞄に仕舞った。一部始終を見たおれは「良かったな」と思う。傍迷惑なやつだが、別に憎い訳でもない。

 そのうちに、点呼が始まる。人数確認が終わり、バスが走りだした。

 

(去年に比べれば、おれも色んなことを考えるようになった気がする……)

 

 元々、人間なんてどうでも良かった。でも、今はそうじゃない。人の中で生きていたいと思う。それが、どれだけ困難な道であっても。

 包みを開け、口の中に飴を放り込む。舌で転がす。やけに甘ったるい味だった。

 

 

 

 

 

 

 夜。ホテルのロビー付近で、おれたちは集合することなっていた。全員が集まるのは、今日が初めてだ。動きやすいジャージに着替えて、待ち合わせ場所へ急ぐ。既に双子たちは来ており、ソファで寛いでいた。

 

「お疲れさまです」

「七宝は?」

「あぁ。アイツなら、そこにいますよ」

 

 香澄が指差した先には、柱に凭れ掛かる琢磨がいた。夜なのに、サングラスを装着している。通りかかる人は異様なものを見る目をして、彼の前を足早に進んでゆく。

 

「なんだあれ?」

「ウザいよね、なんか」

「ウザいかはともかくとして。私たちと一緒にいると思われたくないみたいですね」

 

 彼なりに何とか折り合いを付けたのかもしれなかった。逆に目立っているが、本人が良いのなら良いのだろう。

 

「夜久くん!」

 

 振り向くと、愛梨がこちらへやってきていた。その後ろには将輝も。おれは軽く手を挙げた。

 

「愛梨さん! お久しぶりです!」

「この前、会ったぶりですね」

「えぇ、お久しぶり。元気にしていた?」

 

 双子が愛梨に駆け寄る。彼女も嬉しそうだ。

 愛梨はどちらかといえば、アスリートタイプの魔法師。それゆえ、2人とは気が合うのかもしれない。真由美もクレー射撃(魔法を使うタイプだ)の業界では世界でも指折りの名手だった筈だ。

 

「……森崎はいないんだな。てっきり呼ぶと思っていた」

 

 女性陣の会話を横目に、将輝がそんなことを尋ねてきた。

 

「一応誘ったんだけどな。試合に集中したいんだと。前例のない競技に出場するし、無理言うのは悪いだろ」

「確かに。俺も同じ理由でジョージを呼んでない。それに、今回は……だいぶ面倒な話だからな。下手を打たないように、関わるのは二十八家で固めておくべきだ」

 

 ぞろぞろと外へ出る。離れていた琢磨も、黙ってこちらへ混ざってきた。向かうのは「スティープルチェース・クロスカントリー」用の野外演習場。メイン会場からは少し距離がある。

 

「……だいぶ、警戒レベルが上がってるな。これを掻い潜って忍び込むのは無茶だろ。おれたちも、相手も」

 

 防犯システムが異常なほどに敷き詰められていた。センサーの数が凄まじい。今まで見たことのないレベルだ。

 

「去年の事件があったからかもしれんな」

「そもそも、元からそれぐらいしておいてくれないと困るわよ。私、手足が一回無くなったんだから」

 

 前からやっておけという当事者である愛梨の意見は尤もだった。

 

「はい。ですので……今日は外周を歩いて、納入出来そうなルートを確認しましょう。本命は、12日後の競技本番前ですから」

 

 発起人の泉美が言う。6人という大人数なら逆に「交流目的の散歩」で監視カメラも誤魔化せる。そういう目算もあるようだ。

 

「一応、家で計画書は盗み見てきたんですけどね。ダミーの可能性もありますし」

 

 香澄が端末をこちらに見せながら言う。画面にはパソコンの画面を直撮りした写真が映っていた。

 

「……くだらない。これだけの人数が揃ってダラダラ散歩か? リスクを恐れずに侵入くらい考えろよ。七草の名が聞いて呆れるぜ」

 

 琢磨が場の空気を悪くすることを言い出した。

 

「じゃあ、お前だけ行けば」

 

 すぐさま、香澄が言い返す。彼女は特に、何でも突っかかってくる琢磨のことが嫌いらしい。まぁ、普通に考えても……ことあるごとに「七草家が〜」と因縁をつけられれば嫌にもなるだろう。

 

「あぁ、やってやるよ」

 

 駆け出そうとした琢磨が、前のめりのまま静止する。愛梨に首根っこを掴まれたのだ。

 

「やめてくれる?」

「おいっ! 離せよっ!」

 

 琢磨はじたばた暴れるが、逃れることは出来ていなかった。その様子はどこか間抜けだ。

 

「……無茶というものは。その無茶の責任を取れる力がある人だけがやるものよ。貴方にその力がある?」

「……うるさいな。同じ師補十八家なのに。偉そうに指図できる立場か?」

「出来るわ。強いもの、私。貴方よりはね」

 

 睨み合う2人。止めようと一歩踏み出したおれを、将輝がさっと手で押し留めた。おれの行動を先読みしたのだろう。

 

「ここで騒いで、怪しまれてもまずい。侵入するにしろ、しないにしろ……揉めない方が良いだろう」

 

 愛梨が手を離し、おれの横へと寄ってきた。なので、慰めるようにその背を軽く叩く。

 

「とりあえず……行きますか。あまり時間もありませんし」

 

 下見(散歩)を再開しようとした時。突如として聞こえたのは、微かな悲鳴。少し掠れたような……少年の声。

 

「行くぞ!」

 

 真っ先に飛び出したのは将輝。おれたちもそれに続く。琢磨は帰るかと思ったが、将輝に次ぐスピードで走っていた。何故?と思ったが、理由はすぐに分かることとなる。

 

(なんでここに、九島光宣が!?)

 

 蒼い顔をした光宣が地面にへたり込んでいた。その横には、人間が転がっている。間違いなく何らかのトラブルが起きた後。

 そして、何よりも異様なのは……戦闘スーツに身を包んだ黒づくめの男の存在。まだ距離があるのに、妙にオーラを感じる。彼が襲撃犯なのか。

 

「大丈夫か!」

 

 琢磨の声に反応してか、光宣が「助けて!」と大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 懇親会終了後。宿泊するホテル近くの物陰で、光宣はある人物と落ち合っていた。

 

「パラサイドールは持ってきた?」

「は、はい……。光宣様の仰る通りに。──大丈夫なんですか? 閣下とは別口で実験するなんて」

 

 心配そうな顔をする男は、比較的光宣に同情的な立場を表明している使用人。それゆえ、渋々ながらも要望を聞き入れたのだ。故に、スペアのパラサイドールを1体……彼のために持ち出した。もちろん、起動した状態である。

 

「うるさい。僕がやる、と言ったらやるんだよ。──どうやら、四葉夜久には計画を勘づかれているらしいからね。もしかしたら、お祖父様の思う通りには……テストも進まないかもしれないよ」

 

 もちろん、真実と嘘が半分ずつ混ざった意見。

 元より、エンゾから話は聞いていた。それによると「夜久たちのパラサイドール運用阻止計画はだいぶガバガバ」ということ。納入するところを狙って襲おうくらいの粗雑さ。そもそも、彼らは急拵えのチームなのである。

 

(……でも、怖いのは。それでも、向こうが勝ってしまう可能性があることだ)

 

 烈によると、パラサイドールは「A級ライセンス魔法師レベル」をコンセプトに制作したらしい。大多数の魔法師よりは強いと言えるが……二十八家直系を相手にして、確実に勝利できるかは怪しいだろう。

 しかも、夜久がいる。彼の持つ精神構造干渉は、パラサイトを封印出来てしまう。

 

「……僕が彼に『勝てる』としたら。これしかないんだよ」

 

 そう言い、彼は部下を魔法で気絶させる。同時に素早く、ポケットから呪符を取り出した。パラサイドールの忠誠術式を解除する、鍵のような役割を果たすそれ。方術士にも弘一にも渡さなかった「鍵」を、烈は大切な孫にだけ預けていた。

 それは純粋な愛情。でも、光宣の心には届かない。彼は愛を選り好みしているから。

 

(……頭の中に『自分じゃないもの』が入り込むのは今だって怖い。でも、弱い自分の方が……もっと嫌だ!)

 

 呪符をパラサイドールに叩きつけようとした、その瞬間。光宣は手応えを感じないことに驚く。しっかり握り込んでいた筈の呪符が、無くなっていた。まるで、元から「存在しなかった」みたいに。

 

「……!」

 

 光宣が視認したのは、フルフェイスのヘルメットを被った黒ずくめの人物。体型から男だと分かる。

 

「だ、誰っ!」

 

 想像だにしなかった事態。彼は思わず悲鳴を上げる。

 

「──大丈夫か!」

 

 遠くから複数人がこちらへと走ってくる物音がした。パニックになった彼は、思わず大声で「助けて!」と叫んだ。

 

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