魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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第8話

 パラサイト化した人間をおれは何人か目にしてきている。例えば、駿や光宣が良い例だ。だが、彼らの共通点は「強い意志をもって精神領域の侵食を拒んだ」ところ。だからこそ、パラサイト特有の「別個体との意識共有」について、そこまで気にしていなかった。

 しかし、パラサイトの厄介な点はこの共有にあったのだ。今になって、おれはテレパシーの有用性を理解する。

 

(判断が速い! 連携度も明らかにあちらが上回っている!)

 

 戦況の把握とそのフィードバックがスピーディーなパラサイドールたちに対して、おれたちはどこまでも寄せ集めである。個々の能力で誤魔化しているが、戦闘となるとかなり厳しいものとなっていた。

 いつの間にか分断させられ、連携がとても困難だ。矢継ぎ早に飛んでくる魔法の対処に精一杯で、攻撃に転ずることが難しい。たとえば、将輝なんかも「爆裂」で冷却液部分に干渉できるだろうが、現状はなかなか厳しそうだ。

 

「……おい! 電子頭脳部分に事象改変できないのか!?」

 

 琢磨がデカい声で叫ぶ。パラサイトの憑依位置を見つけ、干渉しろということだ。彼はさっき達也に「ミリオン・エッジ」を行使したせいで、有効な攻撃手段を持っていない。

 人任せにするなと思い、おれも負けじと怒鳴り返す。

 

「無理だ! こちらが視認したことに気付きやがる!」

 

 先程の一件で「学習」したものを、他個体に送っていたらしい。OSを書き換え、こちらの指定した変数と合わないようにしてしまう。しかも、人間の反応速度では間に合わない。

 

(愛梨も直接電流を流し込もうとしているみたいだが……多分、無理だ)

 

 彼女の「疾風迅雷」が人間の思考速度を加速させるものとはいえ、対応できていない状況であった。何より、達也の「フラッシュキャスト」ですら、パラサイドールには防がれる。

 

(九島烈、結構なものを開発したな……)

 

 魔法師の代替というより、トンデモ能力者の代わりという方が近い。おれはそんなことを思った。とはいえ、それでも戦闘を肩代わりしてくれる戦闘機械は有用だろう。それを実現するために使っているのが、パラサイトでなければ……おれだって支持したいくらいには評価している。

 

(でも。おれは、おれだけは……パラサイトの存在を許してはならない)

 

 これは、元老院という老人会が「人ならざる者だから」という理由で嫌っているのとはまた違った。

 パラサイトの「人の精神を作り変える」特性は、精神構造干渉魔法に近い。だからこそ、世に放ってはいけないと思う。散々行使してきたのだ、外部から勝手に他人を作り変えることの悍ましさを……心から理解していた。

 

(伯母様はこの魔法を持って生まれてきたという、罪の意識と共に生きた。おれだってそう)

 

 四葉深夜という魔法師は、精神構造干渉魔法の多用によって身体を壊した。幼い頃に犯した自分の罪を薄めようとした結果だ。その先にあったのは、死。絶え間ない自己証明を余儀なくされた人生を思うと、少し悲しくなる。

 

(パラサイト如きに……同じことをされたら! おれたちが、何のために苦しんでいるのか分からなくなる!)

 

 だから、絶対にパラサイトを魔法技術進化の礎になどさせない。「人を作り変える」力を持つのは、おれと伯母様だけで良い筈だ。

 どれだけ罪深いことであっても。この魔法を愛している。お母様の心の奥深く、そこにナイフを突き立てられるのは……自分たちのみでないといけない。誰もここに入れたくなかった。

 

「……!」

 

 達也と目が合う。彼は「そのまま魔法を使え!」と言った。端的な要求。だが、何を言いたいのか分かった。

 

(そういうことか!)

 

 右手を宙へ伸ばす。20数体のパラサイドール全てを認識し、OSに刻まれたパラサイトのパターンを探し当てる。もちろん、すぐに座標が書き換えられるが……それは無視で良い。エイドス情報が「戻る」から。従兄弟を信じて、そのまま魔法を行使する。

 

「止まったぞ!」

 

 電子頭脳が不調を起こし、パラサイドールの動きが怪しくなる。ほんの一瞬のこと。でも、全員それを見逃さなかった。

 

 愛梨の「エレクトロ・キューション」。将輝の「爆裂」……様々な攻撃魔法が、それぞれの目の前にいたパラサイドールを破壊した。

 

(あとは封印するだけか)

 

 呪符を取り出したところで、面倒な問題が起きた。パラサイドールから遊離したパラサイトが集合し、1つに融合し始めたのだ。これでは、呪符に押し込んだところで……また出てくるのがオチ。どうしようもない。

 途轍もない波動が伝わってくる。パラサイトが集合したことで、魔法力が増大しているのだ。飛ばされる魔法を必死に避け続ける。気を抜けば、やられてしまう。

 

(……どうする?)

 

 そのとき、目に入ったのは……少し離れた場所で呆然と立ち尽くす、光宣の姿だった。おれは「あること」を思いつき、あちらへと走る。彼の腕を無理矢理掴みつつ、パラサイトに向けて右腕を伸ばした。

 

(コイツの中にパラサイトを入れた方が100倍マシだ!)

 

 アイデアというのは、光宣を封印用呪符の代わりにするというもの。あれだけ「パラサイトをもう一度入れたい」と言っていたのだ。願いが叶えば、まぁ嬉しいだろう。それに、これだけの数なら……体内に全て入れば、間違いなく暴走は免れない。そこから全員で袋叩きにすれば、光宣ごと処分できる可能性があった。

 息を止め、魔法に集中する。AIみたいな顔が恐怖のせいでメチャクチャに歪んでいた。自分の未来が分かったのかもしれない。おれを殺そうとしていたのに勝手なやつである。

 

「──……!」

 

 目の前に、謎の白い粒が出現する。ベクトル反転しようとしたが、嫌な予感がして……一定エリアの密度操作に切り替える。その瞬間、粒が一気に気化して、宙に溶けていった。勘は当たったらしい。

 霧の向こうに厳しい顔をした真由美がいた。なぜ、と思ったが……視界の端に深雪がいるのを視認したことで、おれは納得する。そして、光宣の腕を掴んだ手を離した。

 

 

 

 

 

 

 ロボットの残骸を道に残して、おれたちはやっと解散した。しかも、事情聴取も無しで。人が来なかったのは……呪物の影響もあるが、そもそも真由美が職員を差し止めていたらしい。その流れで、達也と合流したがっていた深雪と遭遇し、現場へと連れてきたという。何とも有能かつ、運が良い人である。

 とはいえ、何も解決していない。だが、明日からは九校戦本番であり……あまり長いこと外で滞留する訳にも行かなかった。不完全燃焼のまま……部屋に戻る──

 

「──で。なんで、九島光宣をそのまま解放した?」

 

 そんな筈もなく。達也と深雪の部屋(五十里・千代田カップルと部屋を交換したらしい)に押しかけ、文句を付けていた。

 なんと、達也が光宣を無罪放免すると言い出したからである。おれは「世の中の平和のためにも、コイツを絶対しょっ引くべきだ」と声高らかに主張したのだが。あの場で「光宣がおれを殺したがっている」と知っているのは、愛梨のみ。なし崩しに話が決まった。

 

「現時点では、パラサイドールに違法性はない。ただ、危険だというだけだ。個人的な感情で対処したに過ぎない。何より……彼がいないと一高の勝率が下がる。絶対勝てる人間は、しっかりと確保しておくべきだ」

「……そこまで九校戦に思い入れがあるのか?」

 

 正直、おれは出ようとも思わなかった。実力的に出場しなくてはならなかっただけだ。

 

「思い入れというよりは。俺たちはここでしか社会的にアピールする場がないから、やっている。必要に迫られて、が近い」

「お兄様の言う通りよ。外部から『一高優勝の立役者』と評価されれば、私たちの運命も……何か変わるかもしれない」

 

 舌打ちしたくなった。それと同時に……なぜ、今まで気づかなかったのだろう?と思う。「四葉」という共同体を厭う気持ちを、おれよりもっと強くこの兄妹は抱いている筈だというのに。

 でも、彼らには自由をあげられない。おれはおれのために、四葉を出ていきたいから。

 

「……そうか」

 

 視線と視線がぶつかり合う。無言が続く中、先に口を開いたのはおれだった。

 

「きっと、お母様は深雪ちゃんを選ぶ。黒羽でも新発田でも、姉貴でもなく。その未来は変わらない」

 

 立ち上がり、ドアの方へと向かう。廊下に足を踏み出す前に、一度後ろを振り向く。

 

「そろそろだろうな。1月ってところか。覚悟を決めておくとどうだ?」

 

 そう言い残して、部屋を去る。自室に戻ると、既に部屋は暗くなっていた。起こさないように静かに移動し、そっと布団に入った。

 

(……眠れない)

 

 再び起き上がり、音を立てないように外へ出る。途中でコーヒーを買い、屋上への階段を上がっていく。外でも良かったが、施設内から出たい訳でもなかった。

 外の風は少し冷たい。富士山に近いからなのか。特殊な気が流れているような感覚がする。ベンチに座り、コーヒーを飲む。苦味が今はちょうど良かった。

 

「──もしもし」

 

 遮音シールドを展開し、おれは端末を操作する。

 

『なぁに? こんな時間に……。大学生は夏も暇じゃないのよ。ゼミ合宿の準備とか、色々とね』

 

 何だかんだ言いながらも、夕歌は電話に出てくれた。

 

『急ぎの用事かしら? 確か、貴方は九校戦期間中だったと思うけど。──出てるわよね?』

 

 ま、昔の私は出なかったけどね。夕歌はお茶目な口調で、そう付け足した。彼女は「四」を名乗らなかったから、実力をちゃんと隠していたのだ。

 

「なぁ、姉貴」

『だから、何よ』

 

 厳密には、おれたちは姉弟ではない。だが、間違いなく……おれにとっては姉だった。

 

「もし、おれがさ……姉貴に当主になってくれ、って言ったら。なってくれる?」

 

 ありもしない想定。そもそも、津久葉家は当主の返上を予定していた。今も夕歌が当主候補の地位を保持しているのは、他の分家たちを牽制するためだけに過ぎない。

 

『……馬鹿ね。なる訳ないじゃない。私の性格、知っているでしょう?』

 

 彼女はおれよりも研究者としての傾向が強い。とりあえず、落ち着いて好きな研究が出来れば何でも良い……というタイプ。どう考えても、当主向きではなかった。

 

「そうだよな……。ごめん、今のおれ……なんかおかしいみたいで」

『おかしいのは元からだと思うけど。──ふふ、冗談よ』

 

 おかしそうに、夕歌はケラケラと笑う。彼女は昔から、こうしてさりげなく人を刺すことがあった。過去のおれは、そのたびに「馬鹿にしてるのか」とキレていた訳だが。

 不完全な形でも、コミュニケーションを取っていた。案外、それは正しかったのかもしれない。姉弟の在り方として。

 

『……意外と、貴方は向いていると思うけどね。当主業』

「どういう風の吹き回しだ?」

『そのまま。言葉の通りよ。──だからかしら。黒羽と新発田が心変わりしている。気をつけなさい』

「……忠告ありがとう。助かる」

 

 礼を言って、通話を切る。急にぶるり、と体が震えた。夜風に当たりすぎたか。

 いずれ、自分の運命と正しく向き合う必要がありそうだ。だが、少なくとも今ではない。今やるべきことは……パラサイドール問題を収束させることだ。そう決意し、一気にコーヒーを飲み干す。身体をグッと伸ばし、ベンチから立ち上がった。

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