魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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第2話

 東雲という家は、それなりに歴史を持つ古式魔法師家系。そして、四葉家に血をかなり提供している。つまり、大漢復讐戦後の四葉を建て直した陰の功労者ともいえた。

 だが、四葉という共同体は。どこまでも魔法至上主義な論理によって成立している。「優れた魔法師」であることが大前提であり、それ抜きには話が進まない。

 

(そういう点に不満があった……という可能性は高い、のか?)

 

 生活するマンションに戻ったおれは、夕歌や双子たちとの会話を反芻していた。とにかく、腑に落ちない。言っちゃ悪いが、どちらかと言えば「優れた魔法師」なのが四葉夜久──つまりは、おれのこと──だ。仮に、おれが当主になったとて、東雲を重用などしない。他人だから。

 要は、次期当主決めを白紙に戻すことが重要なのだ。どうせ、おれが当主に乗り気でないことについても知っているに違いないのだから。

 

(それに。黒羽貢だってトンデモなバカじゃないことくらい、東雲側も理解してる筈だが)

 

 達也を厭う分家連中を巻き込んで、濃い血を持つ直系血族を排除しても。他の関係者だって、強い者が発言力を持つという論理で動く。四葉らしくない魔法師を当主に推すとは思えない。新発田勝成などになるのではないか。

 

「……そうか。この企みに勝算があるとすれば。お母様が分家を処分した時だ」

 

 そもそも、達也の足止めなんて無茶すぎるのだ。認識阻害の結界があるから、本家へ向かうルートが固定されるといえど……最悪は「分解」での無理な突破が可能。

 結界を破壊されれば、流石に四葉家への不利益が大きい。人手不足だろうが、何らかの制裁があってもおかしくはなかった。東雲家の狙いは間違いなくここだ。お母様が彼らの思い通りに動くのか、はっきりと分からないとはいえ。

 

(おれ……この話に関係あるか?)

 

 一番問題なのは、東雲の血を引いている亜夜子や文弥だろう。分家粛清が起きた場合、後で間違いなく担ぎ上げられる。その際、立場があやふやになってる双子たちは、東雲の言いなりにならざるを得ない可能性があった。

 正直なところ、おれはいざこざの理由に使われてるだけ。見方を変えれば、部外者とも言えた。2人も厄介ごとの構造にはそろそろ気付いているだろうし、あっちはあっちで勝手に父親の説得などはするだろう。おれが切れるカードはせいぜい「達也の魔法力制御を今後もする」という念書を作成するくらいしかない。とはいえ、これも双子たちの助けにはなるだろう。

 

(まだ、学校があるからな。そんなホイホイと豊橋まで行けない)

 

 魔法科高校は、過密なカリキュラムの関係で年末ぎりぎりまで授業をする。まだまだ、おれは登校せねばならない。四葉家内の問題とはいえ、こちらも面倒ごとばかりに掛かっている訳にはいかなかった……のだが。

 事が起こったのは、実技の授業中。吸収系魔法によって発生する有毒ガスの対処法について習っていた。簡単に言えば「ノックス・アウト」対策である。大して難しくもない内容なので、昼休み明けの気怠さがA組内に漂っていた。

 

『日本の皆様。突然のメッセージ、失礼する。私は七賢人の1人。第一賢人とでも言うべきか。私は真理を啓示する者だ』

 

 コンピュータで合成されたような、人格の感じられないボイスが校内に響き渡る。おれは急いで、駿の方を見た。パラサイト騒動のことを忘れた訳ではない。

 この奇妙な声の正体。以前は堂々と顔を出していた、あのレイモンドなる人物の可能性が高い。ミドルネームに「セイジ」を名乗り、場をややこしい方面に引っ掻き回す謎の男。今回は何が目的なのだろうか。アイコンタクトもそこそこに放送室に走る。既に服部やあずさなど……校内主要メンバーが到着していた。放送室の扉も開いており、誰かが必死に操作盤を叩いている。

 

『日本という国に住まう勤勉なる者たちに、新たな知識を開示したい』

 

 しかし、放送は止まらない。外部からのシステム操作を受け付けていないのだ。

 

「クソッ! 学内ネットワークを落としますか!?」

「だ、ダメですよ! 職員室の許可も降りてませんから!」

 

 風紀委員の誰かがそう提案する。それに否を唱えたのは、あずさであった。

 

「このままだとクラッカーに好き放題される! 早くシャットダウンすべきです!」

「全ての扉がロックされて、照明も落ちてしまうんですよ! 簡単に言えることじゃありません! パニックによる二次被害が起きます!」

 

 学校側に対する忖度ではなく、れっきとした根拠をもとに反対していた。あずさはシステム周りにそこそこ詳しいのだ。

 

「中条先輩の言う通りです。おまけに、相手が自動立ち上げシステムを入れていれば、それこそお手上げですよ」

「だが……このままでは」

 

 そうした問答は、いつまでも続かなかった。

 この「賢人」と名乗る人物が、驚くべきことを口にしたからだ。

 

『国立魔法大学付属第一高校2年生、司波達也氏。彼こそが、あの「トーラス・シルバー」だ』

 

 おれは思わず、達也の方へと振り返ってしまう。だが、彼は無表情のまま。激情が失われている、の意味を改めて理解した。

 

『特化型CAD「シルバー・ホーン」シリーズ、飛行魔法デバイス……魔工技術を数世代進化させた天才技術者。そんな才能が、隠されたままであっていいのか』

 

 確かにその通りだった。だが、達也を取り巻く運命の全てが、正当な評価を妨げてしまう。

 

『彼の才能が正しく使われることを祈っている。少なくとも……狭苦しいマジックハイスクールに押し込められるものではない。世界中から正しい称賛をもらって然るべきなのだ。──以上だ』

 

 ぶつん、と放送が切れた。遮断されたのではない。「賢人」が話し終えたのだ。

 

「……」

 

 誰もが、呆然と立ち尽くす。おれもその1人だった。

 この奇妙な介入が、どういった意味を持つのか。現時点では分からなかった。ただ、正攻法が1つ増えたのは事実。「世論」を使って、四葉家から達也を引き離す。非常に人道的かつ、分家に傷のつかない奇跡の一手。

 

(分家連中は、この後間違いなく東雲を切る)

 

 上手くやれば、深雪を当主にしたまま……達也を社会に送り出せる。多少彼が目立ってしまう問題があるものの、四葉の中枢に関わるよりはマシ。彼らはそう思うに違いない。何より、精神的に余裕ができれば。彼らは子供の説得にも耳を貸し、本家──つまりは、お母様との対立も避けようとする筈だ。

 

(騒動も何とかなりそうだな)

 

 達也は今後大変だろうが、おれはさして関係ないし……。そんな風にタカを括っていた。けれども、それは甘い見通しだったと後に痛感することとなる。

 

 

 

 

 

 

 レイモンド・クラークという少年は、少しだけ魔法の才があること以外は平凡だった。ただ、それは本人に由来するパーソナリティに限る。

 何故なら、彼の父親は特別だったから。父であるエドワードは、大規模情報システムの専門家でUSNA国家科学局(NSA)に勤務している。そのためか、人よりも高い視座から物事を見つめたいという欲求を持っていた。それを叶えるため、彼が個人的に開発したのが「フリズスキャルヴ」だ。

 

(ダッドのおかげで、僕もアニメーションの登場人物みたいに特別になれた)

 

 端末に触れ、レイモンドはひとりごちる。情報傍受システムの拡張機能である「フリズスキャルヴ」は、世界中の情報を「覗き見る」ことが可能。全知全能の真似事をさせてくれる驚くべき機能は、夢見がちな少年の心を充足させた。

 

「……どう? キミの願いを叶えるための第1段階をスタートさせてみたけどさ」

 

 画面に映るのは、50代の黒人男性。少年であるレイモンドの友人、というには珍しい。もちろん、一般論としてではあるものの。

 

『サンキュー! お前は話が分かるヤツデース!』

 

 男性の正体はエンゾであった。現在、レイモンドの手足として動いている。

 エドワードに「息子を助けてくれないか」とスカウトされたことがキッカケだ。要は転職である。

 

『アイツ、全然ダメ。「ヨツバを滅ぼす」とか言いながら、弱体化ばかり狙ってダサいヨ』

 

 東雲家による四葉の切り崩し計画。これは顧傑が裏で糸を引いていた。フリズスキャルヴによる調査でも、細かい四葉の内情は分からない。しかし、それでも黒羽などが「夜久が当主の方がマシ」と発言していることは確認できた。ならば、付け入る隙はいくらでもある。

 だが、その作戦を聞いたエンゾは呆れ返った。故に、さっさと裏切ったのである。

 

『ムカつく奴は全部コロス。そんなことも分からないなんて困るヨ』

 

 これは、エンゾと顧傑の価値観が異なることが原因だ。命が奪われることと、能力を含む財産が失われること。どちらが怖いかの話。

 権力も手駒も失った四葉は、アンタッチャブルたり得るのか。顧傑は、それを知りたいという気持ちが強い。しかし、エンゾはそうしたセンチメンタルな詩情を解さなかった。

 

「うん、君の言う通りだと思うよ」

 

 そして、レイモンドもどちらかといえば、エンゾに近い思考を持つ。湿度のあるヒューマンドラマより、分かりやすいエンターテイメントを好むから。

 

『ダガ、この「トーラス・シルバー」の公開ニ何の意味がアル?』

「意味は……あんまりないね」

「ナイノ!?」

「いや、これはヨツバへのジャブだよ。警告を兼ねた、ね。──トーラス・シルバーが社会に受け入れられるまでに、そこそこ紆余曲折はあるだろう。でも、優れた才能はきっと評価される。そうされて然るべきだ」

『フーン。ヨクワカンナイネ』

 

 熱く夢を語るレイモンドに、エンゾはあっさりした返答を返す。

 

「そうなったら、僕は再び人々に啓示を与える。『司波達也の本質は、破壊と再生。人々に夢を与えると同時に、絶望へ叩き落とす大魔王なのだ』とね」

 

 偶然にも、レイモンドは達也のことを上手く表現した。破壊と再生のワードは、ぴったり「分解」と「再成」という魔法に合致する。

 

「灼熱のハロウィンを引き起こした恐怖の魔法師。その事実が明らかになれば、ヨツバも『ザ・デストロイ』の強さを隠し続けられない」

 

 レイモンドは、いくつかの勘違いをしていた。それは、データ上だけで物事を推測している故のミス。

 

 ──四葉家は一族最強の魔法師が当主となる、という不文律。

 これは、レイモンドに「達也は秘密兵器ゆえに表に出されていないだけ」と誤解を与えてしまう。

 

 ──黒羽や新発田といった四葉分家が「四葉夜久を当主に据えようと裏で工作を開始した」ことを示す通信データ。

 そこから、夜久には当主になる意思があると判断した。顧傑は「なる気はない」と結論つけたようだが、レイモンドは違う。だって、自分の常識の中では「手に入りそうな力は絶対欲しくなる」から。

 

「強さを証明する為には、1番強い奴を殺すしかないよね」

『そのタイミングでジャマしてやればって、コトか。戦略級魔法を喰ラエバ……マァ死ぬだろうネ』

 

 エンゾは、うんうんと納得したように頷く。自分の呪術発動プロセスを見抜いた夜久を、彼は絶対に殺しておきたいと思っている。ただ、殺害の手段にはそこまで拘っていなかった。こうした柔軟な思考こそが、このエクソシストを50代半ばまで生かしているのだ。

 

『デモ。乗ってくるカ、アイツ?』

「きっと、やってくれるよ。彼は目立ちたがり屋みたいだし」

 

 その点も、レイモンドは読み違えている。過去の行動だけを辿っているため、性格面まで正確に理解できていないのだ。夜久は、繊細な感性の持ち主だ。複雑な経緯のもとに、特殊な形で外部に感情が発露する。つまり、プロファイリングに向かない人格だ。

 

「その後、起こるのは一族内の同士討ち。『アンタッチャブル』の再来だ。凄まじい魔法大戦になるだろうね……想像するだけでゾクゾクするよ。──ヨツバは、愛の一族なんだ。自らの摩耗を恐れず、愛ゆえに一国を滅ぼしてしまう。そんなロマンチックな物語……僕だって直接目にしたい」

 

 大漢崩壊を引き起こした過去の四葉は、既に大陸の土地で眠っている。亡霊たちは二度と目覚めない。

 以前、九島光宣は現在の四葉が持つ歪さを言い当てた。それは、彼が愛に飢えていたから。寂しがりの少年にしか見えない真実。レイモンドのような、孤独を感じない人間には持てない視点だった。

 

『マ、頑張ッテ』

「ありがとう。僕、絶対に見届けるからね!」

 

 多くの前提が間違ったまま、酷い出来の脚本は展開されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 最近、黒羽の双子のどちらかと顔を合わせてばかりな気がする。テーブルを挟んで向こうのソファに腰掛けた亜夜子に、そう思わないかと同意を求めた。

 

「私も思っていましたわ。正直、今も会話が成立するのは不思議ですもの」

「それ、文弥も言っていたぞ」

「双子ですからね。考えも似てくるのでしょう」

 

 今日の目的は、現在の分家事情を教えてもらうこと。自宅マンションで話す訳にもいかないので、第四高校の応接室で落ち合っている。遮音フィールドを張っていれば、盗み聞きされることもない。

 

「FLTが弁明のために記者会見を開いたことは、夜久さんもご存知のことかと」

「あれ、二人三脚のチームだったんだな。1人でやってるものだと思ってた」

 

 牛山と司波で、トーラス・シルバー。単なる名前の捩りだったのだ。

 

「──悪い、話が逸れたな」

「もちろん、御当主様がゴーサインを出したからこその会見です。それを踏まえて、流れが大きく変わりましたわね」

「達也を研究の道に進ませて、何とか穏便に済ませようって?」

「えぇ。夜久さんの予測通りでした」

 

 亜夜子がネットニュースを見せてくれた。FLTに対する好意的な記事が多い。分家当主たちがマスコミ工作によって、達也に寄り添った世論を醸成しているということだろう。今までの所業を考えると、かなり面白いことになっていると言えた。

 

「それと、東雲を焚き付けていた人物について。これは私が調べました」

 

 おれは思わず手を叩く。あまりに優秀な仕事ぶりに感動したのだ。

 

「やっぱ、そうだよな。単独で持ちかけてくるとは思えない」

「名は顧傑。彼は……その、崑崙法院の生き残りです」

「……」

「とはいえ、大漢復讐戦の前には国外追放されていたようですが。元研究員、というだけです。──それで、何か意味が変わる訳ではないかもしれませんが」

 

 亜夜子の顔色は悪い。多分、おれも同じだった。

 

「……意味を見出す必要はないよ」

 

 彼が何者なのか。何を目的としているのか。どうだって良かった。帰る家を失った野良犬であっても、処分しなければならない。ただでさえ、厄介な面倒ごとを起こしてくれたのだ。

 

「結局、殺すから」




満を辞して、達也メインの章です。というより、今まで50話くらい書いて、原作主人公がチョイ役だった方が異常カモ。
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