魔法至上主義は「劣等生補正」に打ち勝てるのか?   作:どぐう

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久しぶりに感想をもらえて嬉しかったので初投稿です




九校戦編
第1話


 九島烈は、新秩序を作り上げた人物だ。

 十師族という序列を確立し、そのシステムは今も運用されている。また、魔法師としての力量も一流で、その強さから「最高にして最巧」と謳われた。

 しかし、最近は「耄碌している」というのがもっぱらの評判である。

 

「──老師の主張は、ある時期から急転換してるもの。そう言われるのも無理はないわ」

 

 愛梨との定期的な顔合わせの際のこと。彼女はそう教えてくれた。最初こそ「護衛」という名目での呼び出しだったが、今や「来い」の一言で済まされている。

 だから、こうして密閉されたキャビネットの中に2人でいても、浮ついた空気になることはない。愛梨も何を目的でそういう態度なのだか。

 

「ある時期?」

「えぇ、末の孫が生まれた後くらいからね」

 

 九島家の家族構成は流石に把握していた。確かおれの一つ下の代であったはずだ。

 

「その孫と『魔法師の職業選択は自由だ』の論、どう繋がるんだ?」

 

 近年、九島烈は「魔法師自由権論」を提唱している。そして、それこそがボケたと言われる所以だ。

 実質的な休戦中であるとはいえ、未だに大亜連合との戦端は開かれたまま。戦時体制に「魔法師は魔法師でなくても良い」訳がないのである。

 

「体が弱いのよ。だから、老師はかなり溺愛しているという話。いずれ戦争が起きた時……戦場へ引き出されることを心配してるんじゃないかしら」

「へぇ……」

 

 私情に塗れた、なんとも言えない話だ。

 

「じゃあ、九校戦の挨拶なんかじゃ……やっぱメチャクチャなこと言ってるのか? スポンサー、国防軍なのに」

「えぇ、2年くらいそんな感じよ。それで今年はとうとう……軍側が案内役兼護衛を用意しない、と言ってきたらしいわ」

 

 遠回しの出禁に対して、九島烈は「自前で用意する」と返したようだ。結局、回り回って森崎の家に護衛依頼がやってきた。

 

「十中八九、目的はおれだろうな」

「えぇ」

 

 もしかしたら遺伝データも入手してるのかも、と愛梨は嘆息した。本来、そんなホイホイ手に入るものでもないのだが。

 

「でも…… そもそも貴方を護衛チームに入れる気はないから安心して。御当主の方も、手伝いをしてもらってるだけの人を面倒ごとに関わらせるのは悪いと言ってるし」

 

 御当主、は文脈的に駿の父親のことだろう。

 

「別に変なジジイに会うだけだろ? 気にしないけどな」

「貴方が良くても、こちらが困るのよ。前に自分が何したか覚えてる?」

 

 すっかり忘れていたが、確かにそうだ。

 おれとしては、もうやるつもりもない。だが「お母様に怒られたから、次はしない」と、どう説明したものか。

 

「大人しくしておくことね」

 

 九校戦にそこまで執着もないから、首を突っ込む気は元々なかった。しかし、勝手にこちらの行動を制限されることは、やはり気に食わない。

 

「頼み方ってものがあるだろう」

「あら。私はお願いをしているんじゃないわ。決定事項をお伝えしてるの。『関わるな』とね」

「おれが一色家の意向を聞き入れる必要があるのか?」

「実質的には私達が援助している立場だわ。話を聞くべきだと思わない?」

 

 そうだろうか。別に一色家に恩はそこまでない。

 確かに、路頭に迷っていたときに声を掛けてくれた駿は、だいぶ良いやつだと思う。森崎家のコミュニティの中にも、彼がいたから馴染めたのだ。おれの魔法の才だけでは、偏見を持たれたままだったかもしれない。だから、彼のアドバイスなら聞き入れても良いだろう。

 

「なるほど」

 

 だが、一色愛梨──おれを御すことができると思ったら大間違いだ。

 

「おれを一族扱いする予定があるってことだろう? 早ければ、十師族選定会議の頃にお披露目でもする気か。今は証拠集めの最中で、面倒ごとを起こされては困る……と」

 

 もしかしたら、愛梨は婚活も指示されてるのかもしれない。おれを確実に取り込むために。それは少し可哀想だと思った。

 

「それは」

「実のところ、おれも自分探しの途中でね。思惑に乗るわけには行かない」

「……自分探し? 貴方、まさか」

 

 何かに思い至ったようだ。彼女も馬鹿という訳ではないということであろう。

 

「そのまさか」

 

 彼女の右手の親指が折り曲げられる。形作られたのは「四」を意味する形。それを見て、おれは黙って頷く。

 

「確証はあるの?」

「おれの魔法。それだけが証拠だ」

「えぇ……」

 

 呆れ顔の愛梨。どうやら、妄言を言ってると思っているようだ。失礼なやつである。

 

「──いいわ、協力する。お父様にも黙っておく。もしも、当たりだったら……私にも得があるもの」

「得?」

「貴方と結婚しなくて済む」

 

 やはり、ハニートラップを命じられていたらしい。今まで、随分雑だった気もするが。

 

「十師族昇格対策も大変だな」

「立場ある者にはそれなりの苦労もあるの。──それでも、そうなりたい?」

 

 強く首を縦に振る。当たり前だった。

 どんな面倒ごとがあったとしても「四葉真夜の息子」という肩書きは魅力的だ。繋がりを証明したい。

 

「分かったわ。……何か必要なものはある?」

「大漢崩壊ごろにこちらへ移ってきた華僑集団のデータが欲しい。一応、可能そうなら潜入もするつもりだ」

 

 司波達也に指摘されたこと。「『他者の感情を理解すること』は、そう簡単なことではない」とは、どういうことなのか。

 それを知るためにも、確かめなければならない。お母様の過去はどういうものだったのか。本当の意味で寄り添うために、やらなくちゃいけないことがある。自分はどうして生まれてきたのかを知らないと、何も始まらない。

 

「……なんとかしてみる」

「了解。じゃあ、九校戦には関わらないから」

 

 上手く話がまとまった。愛梨はホッとした顔をしている。少しだけ、納得がいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 司波深雪は不機嫌だった。なぜなら、せっかくの休みにも関わらず……大好きな兄と2人きりの時間を邪魔されたからである。

 

「達也兄さん! 久しぶり! ──あっ、すみません……深雪さんもこんにちは」

「達也さん、深雪姉様。お久しぶりですわ」

 

 客は、黒羽の双子であった。近々、東京で任務があるということで、こちらに顔を出してきたのである。ただ、親戚とはいえ、この2人のことを深雪はあまり好きではなかった。達也を慕っているだけの文弥はともかく、亜夜子は歳が近いため厄介なのだ。いつも何かとライバル意識を向けてくるので、気疲れしてしまう。

 夜久の方がずっとマシなのではないだろうか、と深雪は思っている。使用人達は、彼の悪口をかなり言っているが。

 

(わざわざ挨拶なんか来なくていいのに……)

 

 貼り付けた笑顔の裏で煮えたぎる激情に気付いているのか、いないのか。客人は呑気に手土産を渡してきた。チラリと中身をチェックする。そこそこ良いものであったので、少しだけ機嫌を直す。

 

「これは名古屋限定のお菓子なんです。東京では売っていないので、是非と思って」

「ありがとう」

 

 リビングへと2人を招き入れる。HALを操作して、4人分の紅茶を淹れようとした──普段は自分の手で用意するが、まぁこの2人相手なら良いかと考えたのである。

 

「あ、お待ちになって……姉様。わたくしもお手伝いいたしますので、深雪姉様の淹れたお茶が飲みたいわ。香り高くて美味しい、と以前達也さんが仰っていたんですもの」

「深雪、頼めるか?」

 

 歯軋りしたくなるのを何とか堪える。

 敬愛する兄が言うのだから、紅茶を淹れること自体に否はない。そもそも、大した手間でもないのだ。腹が立つのは亜夜子にである。言外に「客に半端なものを出すのか」と指摘されたような気がした。もちろん、本当にそういう意図があったのかは分からない。単に、自分の性格が良く無いだけの可能性もある。

 

(本当に……亜夜子ちゃんとは合わないわ)

 

 性格の不一致。それが、黒羽と関わることを煩わしく感じさせるのだった。

 気を取り直して、紅茶を淹れる。柔らかなハーブの香りが広がると、少しホッとした。テーブルまで運び、ささやかなお茶会が始まる。

 

「東京近郊で任務なんだな。どのあたり、とかは聞いてもいいのか?」

 

 ストレートの紅茶を一口飲んで、達也はそんなことを姉弟に尋ねた。

 

「中華街辺りです。大漢崩壊のときに日本へ脱出した華僑達が根城にしている地区ですね」

 

 食い気味に文弥が答える。元より、説明したくて仕方がなかったのだろう。

 

「そこで何か厄介なことが起きているの?」

「まぁ、厄介といいますか──この前、反魔法主義団体が絡むゴタゴタがありましたよね?」

「やはり、四葉が関わっていたのか」

 

 達也は納得したような顔をしている。だが、深雪にはいまいち繋がりが見えなかった。

 

「流石は達也さん。お見通しでしたのね」

 

 深雪はイラッとした。けれども、自分の持つ情報が足りないから仕方がない……と気持ちを落ち着ける。

 

「一応、話を整理しておきましょう。実は──」

 

 文弥が説明してくれた内容はこのようなものだ。

 反魔法主義団体の暴走を止めるため、魔法技能が劣る者たちへ「夢」を見せなくてはならなかった。そのため、新ソ連旧ベラルーシ領のニュークリア・マジック研究所を破壊したという。そして、非魔法師から作製された人造魔法師による「魔法事故」を意図的に起こすことで、非魔法師と魔法師に大きな隔たりなど存在しないのではないか……と社会に疑念を与えた。

 

「元々、その研究所には四葉が魔法演算領域についての先行研究を一部提供していました。つまり、関わりがあったわけです。だから、師族会議辺りは、本当に非魔法師が魔法師になったなんて信じていません」

 

 人造魔法師実験は、四葉の中でも極秘中の極秘プロジェクトだ。だから、非魔法師が魔法師になる事象を目の当たりにしているのは、当たり前だが四葉家内にしかいないわけである。

 師族会議の理解は「偶然起きた魔法事故を奇貨として、四葉家がなんらかのトリックで世論を上手く変えた」というものだ。研究所と結びつきがあった四葉ならば、実験体の名簿を書き換えられたかもしれない……ということである。実際は、四葉が一から十まで工作している訳なのだが。

 

「非公式にですが、各家から四葉に感謝状も届いています。ただ……その『感謝された』という情報が外に漏れたみたいで」

「四葉が感謝されているなんて珍しいからな」

 

 反魔法主義団体の勢いを削いだのが四葉かもしれない、という推測が一部に出回った。そして、反魔法主義団体のスポンサーはだいたいが中華系。そのため、今の四葉家はチャイニーズマフィアに探りを入れられている状態なのである。

 

「しばらくすれば落ち着くと思います。だけど、こんな時に……夜久さんが華僑に接触し始めたという情報が入りまして」

「えっ、どうして?」

「分かりません。けど、夜久さんの考えていることが分かった試しなんてありませんから……」

 

 つまり、黒羽の双子に課された使命は「夜久を穏便に連れ戻すこと」という訳だ。

 

「僕の『ダイレクト・ペイン』で気絶させて、連れ帰ろうと思っているんですが……上手く行くのかどうかは、賭けです」

 

 穏便という割には、だいぶ暴力的な手段ではないか。深雪は内心で思う。ただ、2人も苦労しているのだなと思い、心からの「がんばってね」が素直に口から出たのであった。

 





久々に読み返して「こんな話だったんだ」と思いました。
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